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この心臓に愛を  作者: 竜花
循環の海 -城下町-
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第18話 帰還

 盗賊長の頭を蹴りつけ、タキはふんと鼻を鳴らす。


「レベリオに喧嘩売ろうなんて百年早いわ!」


 全く、厄介な仕事を増やさないでほしい。自警団長のカンだけならともかく、うちの総長にまで手間を掛けさせるなんて良い度胸だ。

 ナイフを敵の首に押し付けると、地面に伏せる盗賊長がひっと小さく悲鳴を上げた。


「白状しなさい、なんでわざわざレベリオを名乗ったの?」


 喧嘩を売りたかったのなら上等だ。喜んで買ってやる。というかもう勝った。だがもしそうではなくて――


「国の権力をものともしないレベリオに憧れて、少しでもお役に立てればなと……」


 そう、これ。一番の厄介案件。しかし対処の仕方は迷うまでもない。


「俺たち、降伏します! レベリオに入れてくだされば馬のように働きますから……」

「無理。興味ない。アンタらにできるのは、もう二度と同じことをしないと誓ってさっさと盗賊なんかやめることね」

「そんなぁ」

「そもそも解釈違いなのよ。私たちは悪行がやりたいわけでも、それで日銭を稼いでいるわけでもないの。レベリオの力になりたければ、せめて善悪の分別をつける目くらいは養いなさい!」


 仲間が、アジトの奥から若い女性を連れてきた。任務完了。タキはほっと息をつく。そして、項垂れる盗賊たちを尻目に、引き揚げたのだった。

 

 ***

 

「こんにちはー、ハピさんお届けでーす」


 レベリオの動きは早かった。昼過ぎには再び明るい鐘の音が店内に響き、二人の女性が入ってきた。片方は、我が自警団員の一人、タキだ。もう片方は――。

 ぱっとウィルが側へ駆けて行き、その女性――自身の妻、ハピを強く抱き締めた。夫婦が互いを慰め合う中、タキがそろそろとラードたちの元へ寄ってきた。


「お疲れ、タキ」

「ありがと。アンミくんこそ、よく働くよね」

「好きでやってるんじゃねーよ。半分はウィルに利用されただけ」

「利用? ああそっか、海の民相手じゃ出会ったが最後だもんね」

「まあ、良心的な人で助かったけど」


 ラードは、黙々とパエリアを頬張りながら、二人の会話を聞いていた。タキもレベリオの魔人だ。海の民が魔人の気配を察知できるように、魔人側からもかつての同胞の気配はわかるものなのだろう。


「ところでラード、何食べてるの?」

「パエリアです。空腹に耐えられなくて作ってもらいました」

「美味しそう。一口ちょーだい?」

「仕方ないなぁ」


 今日の功労者を労わなければ。ラードは匙にふかふかの米とプリプリの海老を乗せ、タキの口に運ぶ。大きな一口を受け取ったタキは、咀嚼をして目を輝かせた。その表情に思わずこちらまで笑みを零す。


「もう一人分ならすぐに用意できますよ」


 すると、心底嬉しそうなウィルが近付いてきた。その傍らにはハピも微笑んでいる。


「ありがとう、でも遠慮しておくわ。早いとこ帰らなきゃ。その分はお疲れの奥さんに食べさせてあげて」


 そう言ってタキはするりと脇を抜け、「またね」と手を振り、柔らかな鐘と共に出ていった。その余韻が残る間、ウィルとハピは彼女の去った扉に深く頭を下げていた。やがて頭を上げ、神妙な面持ちで振り返った先には、アンミとラードがいる。


「それで……私たちはお礼に何を差し上げれば?」

「別に、この一食分無償提供してくれればそれ以上のものはいらないよ」

「それでは私たちの気が済みません」


 アンミはしばし困ったように唸っていたが、やがて適切な返答を見つけ出したのか、「じゃあ」と言葉を繋いだ。


「今後、城の情勢とか噂とかを定期的に教えてほしい。連絡方法は後々伝えるから」

「え、それって……」


 アンミの要求に思わず口を挟んでしまい、慌ててラードは己の口を手で塞ぐ。自分の出る幕じゃない。組織運営についてはアンミの方がよほど詳しい。だがアンミはすかさず「何?」とこちらを向いた。


「えーと……それって、デックスくんの仕事じゃないんですか?」

「基本はね。ただ、これから間違いなく忙しくなるからアイツの負担を軽くしてやりたいのと、アイツの情報収集も限度があるから。伝手は多い方がいい」


 その説明に、少しだけ身が引き締まる思いがした。

 忙しくなる。理由は明白、魔王復活が近付いているから。彼が既に色々と手を講じていることは知っている。どんどん未来を見て進むアンミに、ラードは追いつかねばならない。隣で彼を支えたいのならば。


「お任せください。実はこの店、騎士や官僚の方にもしばしば利用されているんです。耳寄りな情報をお届けしますよ」


 ウィルが拳でぽんと自身の胸を叩く。誠実で聡い彼ならば信頼できるだろう。

 そして、これを踏み台にさらに先を行くアンミを見失わないように。彼の横顔を見つめながら、ラードは胸の中でそう唱えた。

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