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この心臓に愛を  作者: 竜花
循環の海 -城下町-
17/30

第17話 反国家組織

 沈黙が落ちた部屋で、人質を取られた夫はラードに、自分の名前はウィルだと告げた。しかしその後に、あなたは無理に名乗らなくていい、と付け足した。

 その言葉を受けて、ラードは聞かずにはいられなかった。


「どうして、僕らがレベリオの人だってわかったんですか?」


 こちらがレベリオだと知っていても、怯えることも通報することもなく冷静に交渉するその据わった心。レベリオと名乗る盗賊が偽物であると気付く聡さも、街中で見かけた本物のレベリオを利用しようと考える賢さも、容易く名乗れないこちらの立場を理解して許す寛容さも、ラードからするともはや恐ろしい。


「私の出身である海の民は、人の気配に敏いのです。特に、同族には。レベリオの魔人は元々海の民から分化した人種ですので、あの方に混じった海の民の気配と、魔力を纏う気配で、レベリオの魔人だと察知しました」


 初耳の情報に思わず「へぇ!」と大声を出してしまった。レベリオの魔人は元々海の民だったなんて。魔人も元々はただの人だったのか。超人的に感じていた魔人の仲間たちが、少しだけ身近に感じられた気がした。

 海の民さえ知っているのに、レベリオの組員であるラードはこんなことも知らない。自分の無知さに呆れさせられるが、ここで知られて良かったとでも思っておこう。


「レベリオの魔人だってわかって、怖くなかったんですか?」

「怖い? どうして?」

「だって、レベリオは反国家組織だし、魔族ですよ?」


 無論、全員が魔人なわけではないが。それなりに武力を誇る組織なのは確かだし、名を聞くだけで畏怖を抱く人も多い。

 ところがウィルは、心底不思議そうに首を傾げて、当然のように言った。


「でも、レベリオは悪の組織ではないでしょう?」


 その言葉に、ラードは自分の中で好感が湧いてくるのを感じた。彼の思慮深さに。彼の価値観に。


「どうして、悪じゃないと思うんですか? 王の暗殺だってしたことあるのに」

「どうしても何も、あれは先王の魔獣討伐政策を止めるためですよね? 城下町でも、一部の者はあなた方の勇気ある行動を高く評価していますよ」


 あの件に関して、実はラードはそこまで詳しくない。当時は今よりもっと無知で政などにも疎かったため、混乱と不安でごった返す組織を、ただ茫然と眺める事しかできなかった。ざっくりと把握している話では、当時の王が魔獣討伐令を出したが、魔界にも世界にも悪影響を及ぼすため、暗殺するに至ったとか。

 正直、あの政策の危険性は魔族にしかわからない問題だと思う。実際、レベリオ内でも意見が大きく割れていたらしく、タスカの決断には組織内からも多くの批判が押し寄せたようだ。まして、魔族なんていない国のど真ん中で、誰があの行動の善悪を判断できる?

 多数派が王家の肩を持つ中、孤独だと思っていたレベリオに思わぬところで味方がいたことが、ラードは嬉しかった。


「そう、実は、そうなんですよ」


 微笑んで、そう告げる。

 暗殺の良し悪しはラードにはわからない。戦争を起こして多くの人を死なせたのも事実。でも、我らがレベリオは、全くもって悪の組織などではないのだ。


「ただ国に沿わないってだけで、レベリオの存在に救われた人間はきっとたくさんいる。僕もその一人です」


 警戒心を解くのも、自分語りも、立場上良くないことはわかっていた。わかっていたけれどどうしても、愛が溢れて仕方がなかった。

 ラードは、アンミに助けられ、レベリオに拾われ、今や愛すべき居場所を手に入れた。多くの人に多くの大切なものを貰った。だからラードも、少しずつでも返せるようになりたいのだ。そのための苦労など惜しまない。


「ええ、きっと私も、その一人になると思います」


 ウィルもそう言って軽く微笑む。

 そうだろう。アンミの指示の下、レベリオは必ずウィルの妻をここへ連れ帰るだろう。尚且つ、高い報酬など望まずにここを去るだろう。

 王国の陰の存在感は、それくらいでちょうど良い。


 その後、ウィルの身の上話などを聞いていると、カランと再び優しい鐘の音が店内に響く。振り返れば、連絡が済んだらしいアンミが立っていた。心なしか不満そうな顔で、口を開く。


「すぐに隊を組んで今日中には片付けるって」

「早いですね」

「偽レベリオの噂自体はもう既に小耳に挟んでたらしい。情報伝達が早いのは流石だよな」

「でも不満そうですね。何か小言でも言われたんですか?」

「せっかく気分転換も兼ねて旅に出てるのに、旅先でも仕事してるんじゃないってさ」


 推測するに、アンミが連絡していた相手はカンだろう。自警団のリーダーは彼だし、アンミの留守中はカンが総長代理を任されたと聞く。

 アンミはウィルの方に顔を向け、僅かに表情を緩めて見せた。


「そういうわけだから、安心していいよ」


 その一言に、ウィルはほっと息をついて、「わかりました」と穏やかに頷いた。

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