第1話 悪夢
――バケモノの握る長剣が、胸の真ん中を貫通する。ゴプッと苦しげな音を立てて喉に血生臭い液体が満ち、食道を逆流し、口内を飛び出し、地面に叩きつけられる。
魔獣やら人間やらの喧騒に混ざって、名を呼ぶ声が耳に触れた。しかしそれを認識できる余裕など、この脳にはもはやなかった。
「しね」とバケモノが吐き捨てる声だけが妙に鼓膜を響かせる。混沌の中で微かに湧いた殺意は、原動力には足りなかった。もう、空白を握りしめる力もなかった。
「アンミ!」と、再び名を呼ばれた。
上も下もわからぬまま、天を仰いで地に崩れ、頭に鳴り響く耳鳴りの中に、父の声を拾った。
「アンミ、死ぬな!」
自分が未だ死んでいないことが不思議でならなかった。肉体はとっくに限界を迎えている。魂がよほど頑強だったのだろうか。
傍に父の気配を感じる。
駄目だ、立ち止まるな。
バケモノがすぐそこに。
――ガバッ、と飛び起きる。アンミはベッドの上にいた。
心臓がどくどくと脈打つ。息が苦しい。腕の感覚が無い。刺された胸の辺りが痛い。意識が遠のいてグラリと身体が前に傾く。ふ、ふ、と息を継ぐ間にも鮮明な記憶が流れ込んできて、心臓の奥が渦巻くような、腹の底が疼くような、不快感の塊が内側から部位という部位を締め付ける。
気持ち悪い。
寝台を転がり落ちて、這いずるように手探りで流し台まで漕ぎ着け、アンミは嘔吐いた。
胃の中には何も入っていなかった。酸っぱい胃液が喉を痛めつけるばかりだった。




