表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
主探しの旅行談  作者: あおにぎり
第二章 小さな村から大都市へ
6/22

2-2 村との別れ、そして大都市へ

病が落ち着き始めてから三日後。

村の広場には色とりどりの布が飾られ、住民たちがせわしなく動き回っていた。

子どもたちの笑い声と、大人たちの呼びかけが響く。


「メイドさんも来てくださいね!今日は、あなたのためのお祭りなんです!」


突然の呼びかけにリリエラは一瞬、戸惑いを見せた。

「……私は、ただできることをしただけです」


けれど薬師の青年が、軽く笑って言った。

「その“できること”のおかげで、俺たちには命を救われました。今日は、俺たちに感謝させてください」


夕暮れ、村人たちは中央の広場に集まり、灯籠に火を灯した。

村ではこのような祝いの夜を「祝灯」と呼び、感謝と希望を込めて行う風習があった。


木で作られた簡素な舞台に、笛や太鼓の音が響く。

料理の香りが漂い、子どもたちが持ってきた花冠がリリエラの膝にそっと置かれる。


「これはまた……貰ってよいのですか?」


「うん、村のみんなから!」


リリエラは静かにそれを受け取り、黒い髪の上にのせた。

宴の輪の中に入ることはなかったが、火のそばに腰を下ろし、温かい風景を目に焼き付けていた。


そのとき、ふと遠くの灯の揺らめきが、ある記憶を呼び起こした。


――静かな夜、屋敷の庭で、灯籠を並べながら、主と並んでいた。

紅茶を片手に、主がこんなことを言っていた気がする。


「灯りというのはいいな。人の気持ちが、火に似ている気がする」


思い出そうとした瞬間、脳裏がわずかに空白になる。

それ以上は浮かんでこない。


リリエラは目を閉じ、またゆっくりと開いた。


(主……私が見ているこの光景も、あなたは好きだったでしょうか)


やがて、祭りの終わりを告げる鐘の音が鳴った。

村人たちは一人ひとり、リリエラに礼を告げながら、帰路についていく。


その背中を見送りながら、リリエラは心の奥に、ぽつりと灯った灯火をそっと守るように手を添えた。



ルカノス村を出て三日。

リリエラは次なる目的地――セレストラの大都市「ガレアノス」へ向かっていた。


道のりは山を越え、谷を渡り、川沿いの森を抜ける長い道。

三日前、村人たちは名残惜しそうに、旅立ちの朝に食料を分けてくれた。


「干し肉と乾燥豆、あと、これ。焼いた蜂蜜パンです。少し固いけど、日持ちはしますから」

「それから、これ。山の実を干したもの……甘いのと、すっぱいの、混ざってますけど……」


リリエラは深く一礼し、それらを手提げに丁寧に詰めた。

「……心に留めておきます。皆さまの善意、確かにいただきました」

なので次の街まで食料への心配は少なそうだ。


夜、丘の上で野営をしていたリリエラは、岩陰に簡易テントを張った。

残っていた干し肉を煮て、香草を加える。

その香草は道中で見つけた“煙葉”という、疲労回復効果のある草だ。

火にあぶると、わずかに甘い香りを立てる。


「少し焦げましたが……許容範囲です」


彼女は鍋の縁をふう、と冷ましてから、小さく一口。

手を止めて、口の中で噛みしめる。


「……味は、悪くありません」


月が高く昇り、草の間を小さな野兎がぴょこりと顔を出した。

リリエラは目を細めたが、捕らえることはしなかった。


「今夜は、あなたを必要とするほどではありません。村の方々がくださった、食料のおかげです。」



次の朝、川沿いに小さな清流を見つけた。リリエラは自分の衣の汚れを見て、軽く息をついた。

「このあたりで、洗濯をしておくのが良さそうです」


メイド服の構造は複雑だったが、彼女は手際よく衣をほどき、川で布を丁寧にすすいだ。

淡い泡草を潰して作った自然の石鹸は、ほんのり柑橘の香りがした。


衣を木の枝に干す間、彼女は湿った手を拭いて、焚き火の傍に腰を下ろす。

背後からは、川のせせらぎと、風の葉擦れが優しく響いていた。


「この静けさ……屋敷の裏庭にあった、小さな池に似ていますね」


またしても、記憶はそこでふっと切れる。

けれど、苦しげな感覚ではなかった。ただ、遠いものに手が届かないような、淡い残響。

「今は考えても仕方ありません。次の街へ進むべきですね。」


 すると、小さな道端の広場でリリエラは荷馬車を止めて休む男と出会った。

商人風のその男は、木の箱を開いて干し果実や瓶詰を並べていた。


「ほう……一人旅かい? こんなところにメイドとは、また珍しいな」

村の人たちからの食糧は残っているが、買い物することでこれからの道や街の情報を聞き出せるかもしれない。

「少しだけ補給を。乾燥野菜と、できれば保存塩を」


「きっちりしてるな。手練れか、あるいは貴族の付き人上がりってとこか?」


リリエラは微笑みを返す。

「……どちらとも言えるかもしれません。適正な代価はお支払いします」


行商人は肩をすくめて、商品を渡しながらこう言った。


「ガレアノスへ行くなら、ちょうどいい。あそこの街道沿い、最近“灰鹿”ってのが群れててな。道の安全には注意しといた方がいい」


「……貴重な情報、感謝いたします。塩の追加で、おまけをいただけると嬉しいのですが」


男は笑い声を上げた。

「いいねえ!交渉ってのは、そうでなくっちゃな」


道中には魔物の気配もあったが、必要以上の戦闘は避けて進む。


そして旅の十日目、ついに遠くに石の城壁と高塔が見えてくる。

大都市「ガレアノス」。

その風に、どこか懐かしい香りが混じっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ