番外編 ルカノスへの道のり
そんなに量ないです
港町ヴェルナールを出たリリエラは、石畳の道を西へ向かう。
次の目的地は、かつて主と訪れたという記録の残る「ルカノス村」。
海辺の湿った空気が抜け、代わりに草と土の匂いが馬車の窓から流れ込んできた。
昼過ぎ、小さな林のそばで一息つくことにした。馬車を林のそばに止めてもらい、昼食をとる。
リリエラは包みから干し肉とハーブ入りの黒パンを取り出す。
一口かじってから、少しだけ首を傾げた。
「この地方の黒パンは、塩気が強い……けれど、意外と嫌いではありません」
馬車の御者は彼女に笑みを向ける。
「この辺りじゃ“森鹿の塩肉”ってのが名物でね。あんた、見かけによらずよく食べるな」
「よく動きますから、燃料は必要です」
リリエラは真面目な顔で答え、そしてほんの少し、笑った。
そのとき、林の中からカサリと音がした。
視線を向けると、小さな耳の長い動物――リーフウサギが、彼女の足元をくんくんと嗅ぎながら現れた。
「……あなたもお昼ですか?」
リリエラはパンの端を千切って差し出した。
ウサギは一瞬警戒しつつも、すぐにぴょこぴょこと跳ねながらそれを口にくわえた。
ふと、草むらの奥で風が揺れ、白い花が咲いているのが見えた。
リリエラはその花に近づき、そっと触れる。
「……主も、こういう花が好きだった気がします」
しかし、思い出そうとしても、またその先が霞んでいる。
彼女はそっと花を摘み、日記帳に挟んだ。
その夜、野宿の火を前に、リリエラはパンを焼いたチーズと一緒に食べながら、焚き火の炎をじっと見つめていた。
「“旅路は記憶を運ぶ”……主がそう言っていました」




