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主探しの旅行談  作者: あおにぎり
第四章 ネメリア、そして王都へ
18/22

4-3 石がうなるんです

ちょっとタイトルふざけました(今までよりは)

数日の道のりの末、リリエラがたどり着いたのは、

灰色の石壁と風車が連なる山間の街――ヴァルニア。

この街はかつて、古代王国の採石場だったと伝えられ、

整然とした石造りの建物が、静かに谷間に佇んでいた。

風が通るたび、石の壁が低く鳴る。それが「声なき遺跡セレリウム」の名の由来だという。


街の人々は素朴で親切。リリエラが「旅の者」と名乗ると、皆が道を譲り、

「外から来るなんて珍しい」「ここに何か用が?」と少し驚いていた。

「旅の途中でして、少しだけ滞在を」

そう言って、リリエラは小さな宿へ入る。石壁に囲まれた室内は冷たいが清潔で、窓からは街の風車がよく見えた。


ギルドに立ち寄ると、少数ながら依頼が張り出されていた。

その中に、目を引くものがある。

「遺跡内で不定期に鳴る“低い音”の調査」

・報酬:銀貨12枚

・備考:複数の報告あり。魔物の存在は未確認

受付の男が言う。

「石がうなるんですよ。数年前はなかった現象です。

たまに近づく人が“記憶があいまいになる”とか、“時間が飛ぶ”とか言ってまして」

リリエラは少し考え、静かに依頼を受け取った。


翌朝、リリエラは依頼を受けた調査隊の一員として、声なき遺跡へ向かった。

一緒にいたのは、地元の若い石工二人と、案内人の老婆。

遺跡の内部は迷路のように入り組んだ石の回廊。

一定の間隔で風穴が開いていて、そこから絶え間なく“音”が聞こえる。

ゴォォ……ォォォ……

「この音……風か、あるいは……魔力の残響」

突如、回廊の先で石の床がきらめいた。

そこにリリエラが踏み込んだ瞬間――

――世界が、止まった。

辺りが無音になり、視界が“灰白”に染まる。彼女の魔眼が、反応してしまっていた。

「時間……? それとも、記録の断層……」

リリエラは右目を押さえ、呼吸を整える。

魔眼が勝手に開いたわけではなかった。

そこにあったのは、“過去に刻まれた何か”の残滓ざんし

目を凝らすと、ほんの一瞬――

主と自分がここに来たような、あり得ない記憶の映像が頭をよぎった。


探索の終わり、彼女はある小部屋にたどり着いた。

そこにあったのは、石の台座と、風の紋章が刻まれた封書。

その中には、こう記されていた。


「この場所に残された“時の記録”は、閉じた。

もし再びそれが開くとき、過去は問い直される。

そして――“失われた名前”が戻る」

リリエラは、書をしまいながら呟く。

「失われた……名前。

……“主”の真名では、ありませんね」

遺跡の謎は深まるばかりだった。

声なき遺跡の調査を終えた翌日、リリエラは、宿の小窓から朝の空気を吸い込んでいた。

石畳を洗う雨の音がまだ残っていて、空にはうっすらと白い霧が漂っていた。

(この街の風は……記憶を溶かすようですね)

そう思いながら、黒髪をまとめ、メイド服の裾を払う。

今日は、依頼も戦いもない“穏やかな日”。


午前、広場の露店を訪れたリリエラは、見慣れぬ焼き菓子の匂いに誘われた。

「これは、“トゥエル”っていうの。平たくして焼いたパンに、石の塩と山菜を乗せてるの」

店先にいたのは、10歳くらいの少女。石工の娘だという彼女は、店番を任されていた。

「この塩はね、遺跡の泉の下でとれるんだよ」

「それはまた……風味に深みがありそうですね」

リリエラは一枚を買い、少女と並んで小さな椅子に腰掛ける。

「ねぇ、お姉さん。旅してるの? どこから来たの?」

「どこから……そうですね。少し遠く、霧の町から」

「……その髪、風みたいで、かっこいい」

照れたような笑みに、リリエラは優しく目を細める。

「ありがとうございます。あなたも立派なお店番ですね」


昼下がり、通りを歩いていたリリエラは、カンカンと鉄を打つ音に惹かれ、

小さな鍛冶屋の前で足を止めた。

「……そのバックル、摩耗してますよ」

そう声をかけたのは、無口そうな青年。

腕にはすす、目はまっすぐ。

「旅人さん? よければ修理、すぐできます」

「……助かります。大切な物でして」

青年は言葉少なに、金属を丁寧に打ち直す。

リリエラは店内に並ぶ工具や装飾品を静かに眺めながら待った。

「あなたの鍛えた品は……とても、穏やかな“熱”を帯びている」

「……ありがとうございます。そう言われたのは、初めてです」

ほんの短いやり取りだったが、リリエラにとっては、心に火を灯すような出会いだった。


その夜。

リリエラは広場の外れにある古い石塔に登った。

見晴らしの良いその場所からは、街灯が星のように並び、

石の屋根が風に揺れる音が小さく響いていた。

彼女はそっと、腰のポーチから遺跡で拾った書の断章を取り出す。

そして、呟くように言う。

「……“失われた名前”。

この旅は、どこに向かっているのでしょうね。

主は、きっと笑うでしょう……そんなことも忘れたのかと」

けれど今のリリエラの声には、苦味ではなく、

どこか“やさしい哀しみ”と“温かい余白”があった。

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