表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
主探しの旅行談  作者: あおにぎり
第三章 沢山の町々、大きな依頼
15/22

3-6 エルミナの潜入4

ちょっと文が変なところがあるかも、

月の出ない夜。学園の裏手、鬱蒼とした樹木の奥に隠されるように佇む“旧地下研究棟”。

立ち入り禁止とされ、扉は魔術によって封じられている。セリオスが懐から取り出したのは、古びた鍵型の魔法具。


「これも、僕の中にいた“あれ”が残していった知識のひとつ。普通の魔術じゃ解除できない」


カチャリと鈍い音。そして扉は、まるで自ら開かれるのを待っていたかのように、静かに軋んで開いた。内部はひどく冷たく、空気は何年もの時を閉じ込めたまま。

壁に貼られた記録紙はほとんどが朽ち、棚に残る瓶や装置は灰をかぶっていた。リリエラは一歩ごとに警戒を緩めず、まるで静かな戦場を歩く兵のように空間を測る。

セリオスがふと立ち止まり、壁の一角を指差した。

「ここ、もともと“扉”があったんだ。

研究者たちはこの奥で“あれ”と交信しようとして……最後には失敗した」

扉は石で塞がれ、周囲には複雑な封印式が刻まれている。

だが、その中には、うっすらと誰かの手によって“新しく書き加えられた”線があった。

「……誰かが、ここを再び開けようとしている?」


「うん。僕じゃない。――誰か、別の者が動いてる」

奥の部屋には、まだ使える魔導記録具があった。

セリオスが魔力を注ぎ込むと、記録が浮かび上がった。


「観測対象、代号“第七層体”は精神領域に強い干渉をもたらす。

対応不能と判断し、対象を“門”の内に押し戻す。封印成功。

副作用:観測者の魔力構造が変質。現象が拡大した場合、媒介者が必要」


セリオスは声を出さず、ただそれを見つめる。リリエラの目が、記録の一節に止まった。

「……“媒介者”……?」

「それが、僕だった。今も、完全には切り離せていない。

だから門が動けば、僕の中の“あれ”も目覚める」

沈黙。やがてリリエラは、静かに歩み寄り、彼の目を見て言った。

「では、私が終わらせましょう。今度こそ――完全に」

その声は冷たくも、優しかった。

ただ命を刈り取る刃ではなく、誰かの重荷を共に背負おうとする者の声だった。

そのとき。地下研究棟全体が、低く軋んだ。

石に刻まれた封印陣が、ふっと淡く赤黒く発光しはじめる。


「まずい、門が揺れてる……!」

セリオスが叫ぶ。

リリエラは眼帯の奥が微かに熱を持つのを感じた。

契約の目が反応している。


封印室は、学園の最下層に存在していた。通常の記録には記されておらず、セリオスが持つ「旧時代の鍵」によってのみ入れる場所だった。

通路は石造り。魔力の薄い空気が満ち、まるで世界から切り離された静寂が漂っている。


足音さえ吸い込まれるような空間の奥――

厚い扉の先に、「中央封印室」はあった。

扉が開いた瞬間、

リリエラの胸に鈍い痛みが走った。


――ここを知っている。

この、柱の配置も。床に刻まれたこの古い紋様も。


「……リリエラ?」


セリオスの声が遠く聞こえる。リリエラの瞳が揺れる。

黒の髪が静かに揺れ、彼女は一歩、足を進めた。

中央の祭壇の上。

封印術式が組み込まれた台座に、黒鉄の輪が固定されている。


その輪の中心――

ゆらゆらと、暗く濁った“渦”が揺れていた。

それが、「門」。

この場所に、かつて“封じたもの”が眠っている。


「これは……あのとき、主とともに……?」


かすかに、声が漏れる。遠い記憶のなか。

かつて、彼女はこの場所にいた。

主とともに、ここに立っていた。


そして、確かに――「何か」を戦い、封印した。


だが、記憶はぼやけていて、主の顔も、声も、名前も思い出せない。

ただひとつ、はっきりしていた。

あのとき、この「門の傷」を受けたのはリリエラ自身だった。

そして、その戦いののち、彼女の眼帯は生まれた。


「……ここで私は、“魔眼”を封印した」


セリオスが、台座に刻まれた文字に目を走らせる。

《七番目の門 封印:成功。封術媒介者:L.C./B.》

彼は息を飲む。


「“L.C.”……リリエラ・クローデルのことじゃないか?」


「……かもしれません」

リリエラは声を低く落とす。


「だとすれば、これは……私が“二度目に”出会う門」


だが、安堵の暇はなかった。

次の瞬間、扉の外で爆音と共に叫び声が上がった。


「侵入者だ!魔力暴走――!」


封印室の外に、強い魔力が迸った。

誰かが……“門の干渉を受けた者”が、力を振るっていた。

セリオスが短く叫ぶ。


「まさか、門の力を“自分のものに”しようとしてる――!」


「……止めなければ」


リリエラの声は、冷静で、凍りつくような静けさを持っていた。

彼女は眼帯に手をかける。契約の目は、彼女の魔力を求めて蠢く。

これを使えば、侵入者の“真の名”を知ることができる。だが――代償もある。

封印室の扉が、内側から破られた。


「ッ!?」

爆風と共に吹き飛んだ破片の中から、魔力の影をまとう者が現れる。

かつての研究者――その子孫であり、“門の意志”に干渉された少年。

いや、もはや彼は人の輪郭を保っていなかった。

眼は虚ろで、魔力は黒く滲み、口から漏れる言葉は誰のものでもなかった。


「ひらけ……われをとおして、そこへ……」


セリオスが叫ぶ。

「完全に“門”に飲まれてる!もう、本人の意識は――!」

リリエラは前へと出る。

その目は静かに閉じられ、

手は、眼帯へと伸びる。


「……この目を開けば、相手の“真の名前”を知り、縛ることができる」


「でも、魔力の消耗が――!」


「問題ありません。……それは、あのときも、同じでしたから」

リリエラは、そっと眼帯を外す。

契約の魔眼が、黒い光を放つ。

そして、その目が“暴走者”をとらえた瞬間――

彼の姿に宿った“存在の名前”が、視界に浮かび上がる。

【ナン=ファエル】

かつて門の奥より現れ、名を奪い、命を喰らった、虚無の使い。

「……あなたの名前を知りました」

リリエラの声が、空気を貫く。

「――ならば、その名に命ず。ここより退け。

お前の名は、私の記憶に縫いとどめられ、

この地より外に漏れることは、決してない」

契約の目が輝き、空間がねじれ、

“ナン=ファエル”は悲鳴とともに霧散していく。

闇の中に溶け、門の奥へと引き戻されていくその存在は、

最後にリリエラの名を、かすれた声で呼んだ――


「……リ……リエ……ラ……」


それは、恐怖ではなく、

まるで“救い”にすがる者のような、声だった。

静寂。

すべてが終わったあと、リリエラは、膝をついた。

魔力の消耗は激しく、意識も遠のく。

けれど、そのとき――

心の奥に、声が響いた。

「よく、やったな。リリエラ」

……それは、懐かしい、主の声だった気がした。

振り返っても誰もいない。

けれど、確かにその声は、彼女の胸の奥に残された。

記憶にはまだ靄がかかっている。

けれど、たしかに主は――この門をともに封じ、

ともに戦った、存在だった。

そして、今もきっと、どこかで。

学園では、門の封印が再び強化され、暴走事件は表向き“魔術研究による事故”として処理された。

セリオスは、門との因果を断ち切り、もとの学生としての時間を取り戻しつつある。

そして、リリエラは再び旅に出る。

門は閉じた。

だが、彼女の「主」は、まだ見つかっていない。

その姿も、声も、記憶の奥でかき混ぜられている。

けれど、確かに言える。

“主は生きていた”――かつて、あの門の前でともに戦い、リリエラを守ろうとした存在として。

そして、リリエラはその主の姿を、必ず探し出すと、改めて誓った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ