おまけ<番外編SS 七夕企画>
黒翼のプール開き、お読みくださってありがとうございます。
こちらはおまけのページです。
20年前、第一巻を連載していたときに七夕企画で書いた古いSSです。
おまけとしてこちらに掲載します。
(ヒロインは後野茉理ではなく、第一巻にてヒロインのライバル役だった早川響子です)
7月7日、たなばたの日。
私立クリスティ学園の門の前に、大きな笹飾りが立てられた。
これは生徒会主催の催しの一つで、別に仕掛けがあるわけでもなんでもなく、お願い事を書いて笹の葉に好きに吊るそうというたわいもないイベントである。
全校生徒に短冊が配られ、みんな思い思いに願い事を書き、木に吊るして下校した。
そして夜。
門の前に、小さな人影が浮遊する。
好奇心旺盛なその少女の名は、早川響子。
手には金色の短冊を持ち、彼女は夢見る瞳で笹を見上げる。
「愛しいお兄様の短冊の側に、わたくしの短冊を吊るさないといけませんわ」
少女はそうつぶやくと、一生懸命短冊を探す。
全校生徒分ある短冊は、言うまでもなく数えるのも困難なほど数が多い。
しかし恋する乙女は強し、彼女は1時間ほどで目当ての短冊を見つけ出した。
それは浮遊魔法を使って吊るしたのだろう、ほぼ笹飾りのてっぺん辺りに括りつけられている。
短冊に記された願い事を見て、響子の顔が一瞬曇った。
『僕の失われた記憶が戻りますように』
(お兄様の馬鹿っ)
一瞬瞳を潤ませた響子は、ポケットからサインペンを取り出し、明人の字を塗りつぶしてしまう。
そしてカキカキと勝手に書きかえた。
『僕の可愛い響子と永遠に結ばれますように』
「ふふっ、お兄様ったら本当のお願い事はこちらのくせに、照れちゃってしょうがない人ですわね」
一人で自己満足に浸りつつ、彼女は横に自分の金ピカの短冊を吊るした。
『いつまでも明人お兄様と一緒にいられますように』
「これで二人は永遠の恋におち、未来はバラ色、ハッピーエンドですわ」
にっこりと笑みを浮かべた響子の目に、ある短冊が飛び込んでくる。
『僕の呪いが一日も早くとけますように』(by斎)
(斎様のね。まあ、このお願い事は生涯かなうことはないでしょうよ)
響子は意地悪な笑みを浮かべて、他の生徒会メンバーの短冊もチェックし始めた。
『世界中の僕の熱烈ファンである乙女たちの願い事が、星に届いてかないますように』(by雅人)
(何よ、これ。キザなお願いね)
ふん、と鼻を鳴らし、彼女は横に吊るされたしわくちゃの短冊を見る。
『先輩たちが俺をからかって遊ぶのをやめてくれますように』(by英司)
(なんか切実なお願いだわ。哀れになってしまう)
いつもみんなにこき使われている英司のことを思い、響子は少しだけ同情した。
(でもわたくしがいつか帝様の彼女になったら、当然あなたを僕として使ってあげますけどね、ほほほっ)
帝の短冊を探したが、なかった。
生徒会長はどうやら参加しなかったらしい。
(まあ、そうよね。帝様なら、こんな願い事を星に願って成就させるなんてこと、考えたりなさらないでしょう)
自分の力で、彼はきっとすべてを手に入れようとするだろう。
(ああっ、なんて素敵なの、帝様。この完璧可憐な美少女であるわたくしの側にいていただくのに、これ以上のお方はいませんわ)
ちょっぴり傲慢な想いを抱きつつ、彼女は最後に黒い短冊を手に取った。
それは明るい色で彩られた短冊たちの中で、唯一真っ黒な紙で出来ており、いかにも縁起悪そうなしろものである。
『この短冊を見た者に、火炎炎熱爆破撃が下るように。人の願いを盗みみる悪党には正義の鉄槌を』(by直樹)
(なんですの? このおかしなお願い事)
黒眼鏡をいつも光らせ、まったく表情をみせない長身の先輩を思い描き、響子は首をひねった。
(初等部のときから直樹様って何考えてるかよくわからない方だったけど、でも大抵ろくなことじゃないのよね)
そう考えた響子は、はっと短冊を凝視した。
「火炎炎熱爆破撃? ってまさか、これ!」
気付いて逃げ出そうとするが、手から黒い短冊が離れない。
まるでゴキ〇リホイホイの中敷のような強力な粘着力をみせて、彼女の手のひらに張り付いていた。
「いっやああーっ! 離れないっ。直樹先輩のばかああーっ!」
響子の叫びが響くや否や――。
黒い短冊は起爆札のように一瞬にして大爆発を起こした。
翌日。
登校して来た生徒たちは、校門の前で棒立ちになった。
昨日、自分たちの願い事を書いた短冊をつけた美しい笹飾りは見事に灰と化して、黒こげの姿を門の前に晒していたのだ。
「カミナリでもおちたのか」
「宇宙からレーザー光線でも落ちたの?」
みな、不思議がりながら校舎に入っていく。
「ふむ。成功だな」
黒眼鏡をにぶく光らせた直樹に、雅人は首をかしげて聞いた。
「何がだい、直樹君」
「余計な好奇心は身を滅ぼすのさ。少しは思い知ったろう」
「誰に何の恨みを晴らしたのかはしらないけど、随分機嫌が良さそうだね。それにひきかえ僕の心はさっきから痛みにあえいでしまっているよ。せっかくこのクリスティ一の華麗な貴公子たる僕が企画したイベントがわけのわからない宇宙人の侵略によって、すべて灰と化してしまった。生徒たちの願いを一瞬にして燃やしつくし、宣戦布告してきた不敵な輩と、これから立ち向かう運命にあるなんて――ああ、僕たちの未来は一体どうなる。戦隊を組むなら僕は華麗なるリーダーのレッドを務めさせてもらうからねって、うわわわーっ」
雅人のおしゃべりは、突然やってきた突風により中断された。
はるか彼方、校舎の裏にあるゴミ焼却場の方に、華麗なる貴公子の体はあっという間に飛ばされてしまう。
「朝からテンションの高い奴だ。うっとおしい」
苦虫をかみつぶしたような帝と、少し申し訳なさそうな顔をした英司がいた。
「雅人先輩、すみません。会長命令でしかたなく飛ばしちゃいました。ごめんなさい」
悪く思わないでくださいねーっ、と空に向かって英司は叫ぶ。
「自業自得だ。お前が気にすることはない」
ぽんっと後輩の肩を叩き、直樹はにやりと口元を歪ませた。
「あんな奴はほっといて、行くぞ」
帝の言葉に二人はうなずき、校舎に入っていった。
この日、まったく前日と同じように一日が過ぎた。
ただし、本日登校してこれなかった生徒が約1名。
「あの黒眼鏡ーっ、覚えてなさい。このわたくしをこんな目に合わせてっ」
自宅の寝室で、響子は怒りに怒り、燃え上がっていた。
自慢の綺麗なストレートの髪はちりぢりに縮れ上がり、ひどい状態になっている。
更に顔にはまだ黒い煤の名残があったりして、見るに耐えないご面相だ。
「その澄ました顔からトレードマークの眼鏡をはぎとって、こうしてこうしてこうして――けちょんけちょんにちょんぎって、ひっぱって、わたくしの足元に跪かせて、女王様とお呼びって言ってやるんだからっ。おーほほほっ、覚えてらっしゃい」
威勢だけは良かったが、彼女のこの願いがかなうことは生涯決してなかったという。
<お終い>
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。




