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「信じられん」
茉理の話を聞き終わって、帝が驚愕の言葉を発した。
「参ったね。誰かが監禁されているなんて、なんということだ」
天井を仰ぎ、雅人はうめき声を漏らす。
「『秘密の花園』じゃあるまいし、まさかそんなことがあるなんてな」
「秘密の花園?」
「後野さん、読んだことないか。有名な児童向け小説なんだが」
直樹の言葉に、ああ、と茉理はうなずいた。
「知ってます。そういえばあの本の中に、おじさんの家に引き取られてきた主人公が、家の奥に隠されていたおじさんの息子を見つけ出す場面がありましたね」
「なんだ、それは」
「帝。君、本当に知らないの? 読書もしないで、よく学年トップでいられるねえ」
雅人があきれた声を出した。
「ほっとけ」
「まあ今は君の読書不足について話題にしてる場合じゃないしね。それでどうする? 帝」
「……」
彼は黙って考え込んだ。
(人を監禁してるとは。一体何者だ、その女は)
大和の仕業だとすると、只者ではない。
「彼女の特徴をもう少し知りたい。後野さん、くわしく話してくれないか」
直樹の質問に、茉理はうーんと考えながら答えた。
「わたしと同じか、少し歳が上かな。自分でも何歳なのかわからないって言ってました」
「そう」
「それと彼女、魔法を使えます。顔は……怒らないでくださいね、帝先輩によく似てるんです」
「俺に似てるだと?」
帝は驚いて声をあげた。
「黒い髪、黒い瞳――丁度帝先輩が髪を伸ばしてスカートはいたらそっくりって感じかな。雰囲気は違うんですけど」
「おおっ、それじゃあ彼女はかなりの美少女だね。なんてことだ、僕好みのレディに違いない」
雅人の大仰な口調に、帝は思いっきり嫌な顔をする。
「あと姫乃さんが不思議なことを言ってました。『自分は絶対に外に出てはいけない』って」
「外に出てはいけない?」
「そうです。『あの人が困るから』だそうです」
茉理の発言に3人は困惑した。
「あの人? 誰のことだ」
「大和かな」
「どうだろう。最も俺は違うと思うがな」
直樹は暗い顔でつぶやく。
「彼女は口が利けない、耳も聞こえない。世間一般的に言うなら身体障害者という奴になるのか。帝に良く似たそんな少女を、『あの人』のためだと言って大和が監禁しているとなると」
雅人の顔が辛そうに歪んだ。
『まさか……』
彼はちらりと帝の方を盗み見て、直樹にこっそり思念を送る。
『間違いないかもな。これはかなりやっかいだぞ』
帝に知られないように、直樹もそっと思念で返した。
『どうしようか、直樹君』
『どうするも何も帝の判断にまかせよう。いつまでも隠しておけることじゃない』
『そうだね』
二人の意見は合致し、その視線は帝に注がれる。
「どうする? 帝」
「……」
「お前次第だ。おそらくその少女は存在自体がクリスティ一族にとってマイナスになると判断され、大和によって監禁されてしまったんだろう。これを明るみに出すかどうかは、お前の判断にまかせる。大和に聞きただすも良し。何も言わずに真相を俺達の手で探すも良し」
「ちょっと待って」
茉理は、直樹の冷静な言葉にいきり立った。
「クリスティにとってマイナスになるって何? 自分の家のためだったら、誰かを犠牲にして理不尽な目にあわせても良いっていうの?」
「後野さん、落ち着いて」
なだめようとする直樹の前で、ドンッと茉理は卓を叩く。
「冗談じゃないわっ。クリスティってやくざかマフィアみたいな犯罪も厭わない組織なわけ? これを見過ごしてほっとくなんて、わたし、絶対に許さないから。姫乃さんを開放してあげて、お願い」
「……」
「姫乃さん、一人は寂しいって言ってたよ。でも誰も生まれたときからずっといなくて、その<やまと>とかいう変な魔法使いとしか会ったことがなくて、外の世界のこととかも何も知らなくて、一生すべてを『あの人』のためにあきらめて生きていこうとしてるの。こんなのあんまりよ。本当は学校に行って、友達も出来て、一緒におしゃべりしたり、遊びに行ったり出来るはずなのに」
「茉理」
「そうでしょ。一族のために彼女の人生を奪っていいわけ? そんなの絶対に許されない。ひどいよ」
半分泣きながら訴える彼女を、帝はじっと見詰めた。
「よく泣くな、お前は」
「別にっ、本当はわたし、こんなに泣き虫じゃないもん」
「そうか」
ふっと帝は笑って立ち上がった。
指を伸ばして、彼女の目じりにたまった雫を払う。
「もう泣かなくていい。あとは俺達にまかせておけ」
「でも」
「心配するな」
帝は優しく言った。
「お前の友達なんだろう。俺達が必ず助け出してやる」
「そうこなくっちゃ」
「決まりだな」
雅人と直樹も同意する。
帝はうなずくと立ち上がった。
「すぐに行動開始だ。雅人、直樹、行くぞ」
「ちょっと待って。わたしも行く」
あわてて立ち上がった茉理に、帝は顔をしかめる。
「お前はここにいろ。邪魔だ」
「なっ、なんですって」
「邪魔だと言ったんだ。これから俺達は封印結界に挑む。封印されてるものを魔術で無理矢理こじ開けるんだ。当然守護魔獣との戦闘になるだろう。お前をかばって戦ってる余裕はない」
「それはそうだけど」
しゅんとしてしまった茉理を見て、雅人は明るく言った。
「いいじゃない、帝。姫も連れていこうよ」
「お前な」
雅人を帝は鋭い目でねめつける。
「冗談じゃない。こいつをこれ以上危険に晒すのはごめんだ」
「ふふっ、君の気持ちはよくわかるよ。愛する姫を傷つけたくない気持ちもね。でも姫だってここで待つより、親友の所に一刻も早くたどり着きたいはず。違うかい?」
「わたし、一人で待ってるのなんて嫌です。何も出来ないのはわかってますけど」
茉理は一生懸命訴えた。
「足手まといにならないように気をつけるから、一緒に連れてって。お願い」
まだためらっている帝の頭に、すっと雅人の思念が飛ぶ。
『帝、一緒に連れて行こう。そのほうがいい』
『……』
『ここにいる方が、もしかして危ないかもしれない。僕たちが結界に手を出したら、大和が黙ってるわけないだろう。速攻で瞬間移動してくることは間違いない。そしてもし僕達に真相を知らせたのが彼女だとわかったらどうなる? 姫をこのまま君の部屋に休ませといてくれるとは思えないな』
「わかった」
しぶしぶといった顔で、帝は了承した。
「だが俺の後ろから離れるな。それから余計な行動を取るな。それだけは約束しろ」
「はい」
茉理は神妙にうなずく。
「では行くぞ」
帝の号令で、4人は部屋を出て5階に向かった。
(姫乃さん、待ってて)
祈るように両手を組み合わせ、茉理は思念を送る。
(必ずあなたのところに行くから、もう少しだけ我慢してね)




