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黒翼のプール開き(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編3)  作者: 月森琴美


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 カラス騒動から3日が過ぎた。

「遠野君、突然呼び出してごめんね」

 茉理は昼休み、屋上に来ていた。

 彼女の横には、あいかわらず白い顔の遠野斎が微笑んでいる。

「今日から登校だったんでしょ。ほんと、わたしのためにごめんなさい」

 夜まで探し回ってくれて、すべての魔力を使い果たし、斎は消えてしまっていた。

 やっと魔力が回復し、今日、登校してこれたのだ。

『後野さんのせいじゃないよ。もとはといえば直樹先輩の薬のせいだしね』

「でもさ、なんであんな薬を?」

『後野さんは知らなかったかな。連絡網のためだよ』

「連絡網?」

 首をかしげる茉理に、斎は微笑み、手を取った。

「遠野君……って、わっ」

 突然瞬間移動され、目の前が一瞬真っ白になる。

 着いた先は体育館の裏だった。

「ここは……」

 斎の指差す方を見て、茉理を目を見開く。

 大きな鉄格子の中に、にわとりよろしくたくさんのカラスが飼われていたのだ。

「なっ、なんでカラスなんか飼育してんの?」

 驚き、のけぞる茉理に、斎は鉄格子の側に歩み寄って説明する。

『この子たちは、みんな魔法で知能を与えられているんだ。この学園の学生全員分カラスがいる』

「つまり、一人につき一匹ってこと?」

『そう。そして学校からの連絡は、すべてカラスが運んでくるんだ』

「はあ」

 そんなまどろっこしいことしなくても電話かメールでまわせばいいのに、と茉理がつぶやくと、斎は笑った。

『電波の届かないところにいる人もいるし、魔法使いなんてあんまり電化製品に頼らないからね』

「そういえば携帯持ってる人ってそんなにいないね」

 普通、持ってたりするけど、とつぶやく茉理に、必要ないからと斎の声が届いた。

『思念会話が成立するなら、余計な機械は不要だろ? 僕達生徒会は互いに通信用の小型PCを持ってるけど、動力は魔力。だからコンセントがなくても電気がなくても、別次元からでも通信可能さ』

「そうなんだ」

『公共の電波に乗せられない内容もたくさんある。僕達のことは一般社会にはほとんど極秘だし、もし知られても、気が狂ったぐらいの認識でしか扱われないしね』

「そうよね。そうかも」

 茉理はふと家にいる祖母を思い出した。

 茉理の祖母はあまりそんな話はしないが、一応魔族の存在をよく知っていたりする。

 自分は魔族ではないが、どうも何か魔族と深い関わりのある一族の子孫だと、祖母は茉理に教えてくれた。

 今、一緒に住んでいるが、祖母は父と母からは完全にぼけ老人扱いをされている。

 そもそもの原因は、どうも祖母が父にわかってもらおうと打ち明けた魔族に関する話を父がまともに取り合わず、少し頭がおかしいとして祖母を扱ったからに他ならない。

(わたしだって、今だに信じられないんだけど)

 茉理は、ガアガア騒ぐ黒い翼を見ながら思った。

 小学校までは普通の生活だったのが、この学園に来てからは非常識なことばかりだ。

 いつか目が覚めて、よくある夢落ちになるんじゃないかと内心では疑っていたりする。

(でも)

 茉理は胸元を手で押さえた。

 首からかかった銀鎖の重みが、彼女にこれは現実だと絶えず教えている。

 そして今、茉理の心を占めるのは――。

 ぎゅっとこぶしを握り、茉理は斎に向き直った。

「あのね、遠野君。実は聞きたいことがあるんだけど」

『何?』

「こないだ特館の特別書庫に入ったよね。あそこって魔術に関する資料ならなんでもあるのかな」

『内容によるけど、何か知りたいことでもあるの?』

 斎の問いに、茉理はうなずいた。

「特定の魔術師のこととかわからないかな。電話帳みたいに魔術師のデータベースみたいなの」

『調べたことないから、よくわからないけど、誰か魔術師を探してるの?』

 斎は不思議そうな顔をする。

「うん。ちょっとね」

 茉理はため息をついた。

「なんとか調べたいんだけど、協力してくれない? お願い」

『どうしてか理由を教えて欲しい。力になれるんだったら僕も手伝いたいし』

 斎の言葉に、茉理は顔を曇らせた。

 どう言ったものか。

 あの出会いをすべて斎に話すべきではないという思いが、茉理の中にはあった。

 彼女――姫乃が囚われていたのは、伊集院本邸だ。

 つまり彼女は、クリスティ一族によって捕らえられているという可能性が高い。

 へたしたら生徒会メンバーが承知の上でのことかもしれなかった。

 そんな彼らに話をしても何の解決にもならないどころか、姫乃の言っていたように始末されかねないだろう。

 でも茉理一人では、どうしようもなかった。

 魔術に関する知識も力もない。

 誰かの力を借りる必要があったが、ただの一般生徒では太刀打ち出来ないかもしれないし、危険だ。

 あれこれ考えて、茉理は斎のことを思いついた。

 彼は、どうも生徒会メンバーの中では少し浮いた存在のような気がする。

 現実、呪いのせいで、こないだまで他のメンバーとは少し距離を置いていたし、姫乃監禁のことも知らない可能性が高かった。

「あのね、こないだカラスになってしまったとき、一人の女の子に会ったの。言葉が話せないし、耳も聞こえない子なんだけど――彼女が<やまと>っていう魔術師に会いたがってて、でもどこにいるかわからなくて探せないでいたの。それで」

『<やまと>っていう名の魔術師を探したいんだね』

 斎は考え込んだ。

『一番確実なのはクリスティの情報網だ。直樹先輩に頼んで調べてもらえばすぐだと思うよ』

(それはまずいわ)

 茉理はあせった。

 ばれたらここで打ち切られ、<やまと>を探すことは出来ないかもしれない。

「あのさ、出来たら他の人には内緒で探したいんだ。駄目かな」

『駄目じゃないけど、どうして?』

 首をかしげる斎に、茉理は勢い込んで言った。

「また変なことしてるって言われて、余計なおせっかいはやめろとか、馬鹿にされたりするのが嫌なのよ。帝先輩とかに知られたら、絶対そう言ってあきれられちゃうし。駄目かな」

『わかった。協力するよ』

 斎はにっこり笑って、片手を差し出す。

『じゃ、今日から魔術に関する勉強は少しお休みにして、その時間、調べることにしよう』

「うわっ、ほんと? 遠野君、ありがとう」

 茉理は満面の笑みを浮かべ、彼の手を握る。

 少女の嬉しそうな笑顔に、斎は胸が一瞬高鳴った。

(良かった。喜んでくれて)

 自分を孤独から救い出してくれた少女。

 いつも明るく話しかけてくれる優しい声。

(僕は、もっと後野さんの力になりたい)

 ようし、がんばるぞーっとガッツポーズを決める茉理を見ながら、斎は強くそう思った。




『茉理、どこだ』

 強い思念が、彼女を呼んだ。

「あ、帝先輩」

『どこだ! 教室に何故いない』

 彼女を呼ぶ声に、茉理は肩をすくめて返事を送る。

『先輩、そんなに心配しなくても、ちゃんといますよ。今、体育館の裏なんです』

 思念を送るや否や、彼女の横の空間がしゅっと揺らいだ。

「帝先輩」

「校舎を探してもどこにもいなかった。俺に黙って、どこかに行くなって言ってあるだろうが」

 本気で怒ってる声に、茉理はつーんとそっぽを向いた。

「わたしがどこに行こうと、先輩にどうこう言われる筋合いはありません。そんなに気にしないでくれませんか」

「斎と一緒か。二人で何してるんだ、こんな人気のないとこで」

 じろりと睨まれ、斎は肩をすくめた。

「まさか、お前、茉理に何か」

「あのねえ、帝先輩、遠野君は、わたしの質問に答えてくれただけです。何そんなに苛立ってるんですか」

「たとえ斎だろうと信用ならん。いいか、俺以外の男と人のいない場所で、二人っきりになるな」

(すっごい独占欲。束縛してくるタイプなのね)

 茉理は思いっきりあきれた。

「遠野君、こないだわたしを探して消えちゃったから、ちょっとお礼を言ってただけです。ついでにどうしてあんな魔法薬を作ることになったのか聞いてみたら、わたしをここに連れてきて、連絡網の説明をしてくれたんです。以上、何か質問ありますか」

 むっとした顔の帝に、茉理はため息をつく。

「それで先輩はわたしに何の用ですか」

「そんな言い方はないだろう。お前は俺の女なんだぞ。会いに来て、何が悪い」

 先ほどより数段機嫌の悪い声を無視し、茉理はさっさと歩き出す。

「おい、どこに行く」

「教室です。もう会ったからいいでしょ。五時間目、始まりますよ」

「おいっ、待てったら」

 体育館の横を通って校舎に向かう茉理を、あわてて帝は追っていった。




「待てというのに」

「待てません」

 二人は妙な追いかけっこをしながら、校舎に進んでいた。

 あと少しで昇降口というところで、茉理の腕は帝に捕まえられる。

「お前な、ちょっと来い」

「離してください」

「急にどうしたんだ」

「何でもないですっ」

 茉理は顔を上気させ、帝の腕を払おうとした。

 さっきからばつが悪くてしょうがない。

 帝の顔を見た瞬間、あの写真を思い出してしまったのだ。

(ひえーっ、顔がまともに見られないよーっ)

 茉理はあらぬ方を向き、帝と目を合わせないように勤める。

「お前……」

 帝はじっと茉理を見て、彼女の顔が真っ赤になっているのに気付いた。

 ふっと笑って、手を離す。

 茉理は自由になったが、何故か動けなくなって、その場に立ち尽くしてしまった。

「もしかしてお前、照れてるのか。素直じゃないな」

「ほっといてくださいっ」

 そんな彼女を見て、帝は可愛い奴、とご機嫌になった。

 チャイムが鳴って、五時間目を知らせる。

「もう、早く行かないと。先生来ちゃいます」

「そうだな」

 にやりと笑うと、帝は少女の髪に優しく触れた。

「あとでまた……な」

 意味深にささやかれ、茉理の頬が一気に赤くなる。

 そんな彼女の反応に、ますます機嫌を良くして、帝は3階に駆け上がっていった。

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