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重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の分布拡大に関する一考察

作者: よろ研

2025年7月、今まで報告がなかった東日本・北日本の神奈川県と秋田県で重症熱性血小板減少症候群(SFTS)患者の発生が報告されました。これまでに県外に旅行等に行って帰宅後発症する事例は報告されていましたが、この事例はその県内で感染したと思われる事例ですので、身近にSFTSウイルスが存在していたことを意味します。では、SFTSは今後、どのような分布拡大をとるのでしょうか。文献等を参考に考察してみました(2025年7月現在の状況です。今後変化していく可能性があります)。



SFTSの概要


SFTSのは名前の通り発熱と重度の血小板減少を伴うマダニ由来の感染症です。感染すると6~14日程度の潜伏期の後、発熱、倦怠感、頭痛等の症状が出現します。また、臨床的にはリンパ節腫脹、消化器症状がみられ、意識障害、腎障害、心筋障害を引き起こすこともあります。血液検査所見では白血球減少、血小板減少、トランスアミナーゼの高値が多くの症例で認められます。軽症であれば自然治癒しますが、重症化すると命にかかわることもあります。基本的には対症療法のみで、治療薬としてはファビピラビル(アビガン)が承認されていますが早期に投与しないと効果が薄いようです。


病原体であるSFTSウイルスは2011年に中国で初めて報告された比較的新しいウイルスです。1本鎖RNAウイルスで、報告当初はリフトバレー熱ウイルスと同じブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類されていましたが、現在ではフェニュイウイルス科バンダウイルス属となっています。


SFTSウイルスは自然界ではマダニ-マダニ間、あるいは動物-マダニ間で維持されていると考えられています。マダニ間では介卵感染により伝達され、動物からマダニへはSFTSウイルスに感染した動物の血液中で増殖したウイルスを吸血することで伝達されます。


SFTSは現在、中国、韓国、日本、台湾、タイ、ベトナム、ミャンマーで報告があります。2009年にドバイで事例があり、確定診断はなされなかったものの疫学的見地から北朝鮮での感染が疑われています。今のところ、東アジアおよび東南アジア以外でのSFTSの報告事例は認められません。


日本国内では、2012年秋に山口県でSFTS患者が初めて報告されました。その後、西日本を中心に患者発生報告があり、2013年3月4日以降2025年4月30日現在の累計患者数は1071例となっています。年齢階級別では高齢の方に多い傾向にありますが、若い年代でも報告はあります。また、SFTSはマダニ媒介性感染症ですのでマダニの活動時期に当たる春~秋に発生数が多い傾向にあります(下図参照・国立感染症研究所HPより引用)。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)



SFTSウイルスの国内分布


SFTSウイルスは分子疫学的に中国型(C1~C5型)と日本型(J1~J3型)に分類されています。日本国内で検出されたSFTSウイルスのほとんどはJ1型に分類されていますが、稀に日本国内の患者からC3~C5型に分類されるウイルスが検出され、中国や韓国の患者からJ3型に分類されるウイルスが検出されたりもしています。

日本国内での初報告は2012年ですが、保存血清を用いた調査により、2005年には抗体陽性者が存在していたことが判明しています。ですので、初報告の前からウイルスは日本国内に存在していたことが伺えます。


SFTSウイルス保有マダニの国内分布状況ですが、各機関の調査により2014年には既に、現在でも患者報告の無い長野県、栃木県、群馬県、岩手県、宮城県、北海道でもSFTSウイルス保有マダニが見つかっており、日本国内ではどこでもSFTSウイルス感染の可能性があることを示唆しています。



SFTS増加の原因(媒介動物であるマダニ増加の原因)


結局明確な答えは見つかっていませんので想像の域を出ませんが、マダニによる感染症ということを考えますと、以下の点が挙げられるかと思います。


・温暖化によるマダニ個体数増加

温暖化により、冬期の最低気温が高くなるため、越冬が容易となり、マダニ個体数が増加している可能性が考えられます。SFTSを媒介するとされているフタトゲチマダニは若虫や成虫が地中10cm程度の深さで越冬するとされており、この深さであれば気温-20℃でも地温は-1℃程度となるようですので、気温が高くなれば冬期の生存率は上がると考えられます。また、同じくSFTS媒介性のキチマダニは動物の体表で越冬するとされていますので、気温が高くなれば、たとえ振り落とされても凍って動けなくなることなくもう一度動物の体表に付着することが可能になると思われます。


・耕作放棄地の増加による野生動物のヒト生活圏内進出

近年、農業従事者の高齢化に伴い耕作放棄地が増加傾向にあります。耕作放棄地においては毎年それなりに放棄される前の作物が育ちますので、野生動物にとってはヒトが来ない「サービスのいいレストラン」となり、確実にその周辺に定着します。結果的に、野生動物とヒトとの距離を縮めてしまい、マダニ等をヒト生活圏内に散布する一要因となると考えられます。


・ウイルス供給者としての野生動物の増加に伴うマダニのウイルス保有率の増加

ある意味当たり前の話なのですが、SFTSウイルスに感染した野生動物が増えれば、その血液を吸ってウイルスを体内に取り込むマダニも増加しますので、ヒトへの感染確率も上がると考えられます。どの動物がウイルス供給者になっているのかは明確ではありませんが、ヒトやネコのように感染後、血液中に多数のウイルスが存在する状態(ウイルス血症)を起こす動物であれば供給者として成立します。

ウイルス血症を起こしてマダニ側にウイルスを供給できる量になっているかは定かではありませんが、日本国内ではシカ、イノシシ、アライグマ等でSFTSウイルス抗体陽性が認められていますので、これら動物には感染が成立すると考えられます。



結局、現在の日本が直面している問題がそのままSFTSの分布拡大の要因となっているような気がします。温暖化、農家の高齢化による耕作放棄地の増加、野生動物の増加とヒト生活圏への侵入等々、簡単には解決できそうにない問題ばかりです。

個別の予防としてはマダニに刺されないことが重要なのですが、温暖化をはじめとした状況が続くようですと、SFTSはじわじわと広がっていくような気がします。

SFTSウイルスの遺伝子型は現在のところ、日本はJ型、中国はC型でわかれていますが、渡り鳥の休息地に当たる韓国の離島ではJ型もC型も認められているという報告がありましたので、数は少ないかもしれませんが渡り鳥によって運ばれることもありそうです。西日本に多いのは温暖であったり野生動物の生息域がヒトに近かったりマダニの生息に適した環境であったりと色々な要因がありそうですが、このまま温暖化が進めば東日本でもマダニの数が増え、SFTSの患者数も増えていく可能性があると思われます。


とにかく、温暖化やら何やらといった大掛かりなものは個人で対処はできませんので、まずはマダニに刺されないように注意していくのが重要かと考えています。



駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。



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