第6章 紫の行き
あかねさす・・・ 第6章 紫の行き
次の日約束の時間が来ても私はいかなかった。時間が過ぎたあたりからAKANEからメールが来た。
「どうしたの?こられないの?」
そしてその5分後に
「なにかあったの?来てくれなければ私彼氏にまた殴られる。」
それからまた助けて!のメールが来た。そして最後には
「本当のパパだと思っていたのに裏切ったのね。指切りしたのに・・・」
指切りしたのに・・・の言葉は私の心をえぐった。
指切りげんまんうそついたらハリセンボン飲ます・・・・・
彼女との指切りを思い出した。
「今から行くから!」
そうメールで返しそうになる自分を何度もおさえた。
「本当のパパだと思っていたのに裏切ったのね。指切りしたのに・・・」
また同じメールが来た。それを最後にAKENAから次のメールが来ることはなかった。
スナックのマダム探偵の推理だと次は、警察に行くから。私は17歳だからあなたは。18歳未満にみだらな行為をしたことになる。警察に言うわよ?そういうメールが来るはずだ。と言っていたがそのようなメールが来ることはなかった。
「本当のパパだと思っていたのに裏切ったのね。指切りしたのに・・・」
この言葉が彼女の本心なのかもしれない。私をだましてやろうなんて気持ちはなかったのかもしれない。そう思うと切なかった。それからはもう何も考えずにすごした。こころなしか妻には優しくしている自分だった。それと子どもたちにもすまない気持ちでいっぱいだった。自分にはこんな素直な優しいむすめがいるのに、私をパパとよぶ女の子をもうひとりつくる必要はない。すまない気持ちだった。そして受験勉強に一途にうちこむむすこが頼もしかった。
それから1週間してマダム探偵から携帯に電話が入った。
「ちなみに今日の新聞見た?つかまったわよ、AKANEさんのお父さん・・・」
「お父さん??」
「そう、全部調べたからいつでもいいからいらっしゃい。」
「ありがとう、かまわないなら今日行く。」
私は仕事の帰りにマダムに会いに行った。
「いらっしゃいませ・・・どうぞ奥の方にマダムがお待ちしております。」
私の顔を見るとひとりのホステスが奥に案内をしてくれた。明るいスナックから重々しい探偵事務所に案内される。スナックの奥は探偵事務所になっている。この建物はスナックと探偵事務所が同じ建物なのだ。
「お待ちしていました。」
シックなスーツを着たマダムが待っていた。
「どうぞおかけください。」
昔からの友人だが今日ばかりは申し訳なく小さくなってすわる。
「実はねわが探偵社に2人の人物から同じ事件の依頼があったの。1人はあなたね、もう1人はAKANEの本当のお父さんよ。本来探偵社は依頼者の秘密は他人には漏らさないのが鉄則、だからあなたのことは向こうには漏らしていない。でもあなたにはすべてお話しします。本来はあなたにしゃべってはいけない。それを踏まえて聞いてくださいね。」
わたしはゆっくりうなずいた。
「これはAKANEのお母さんの不倫から始まった話なの。
「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」
AKAEには本当のお父さんこれをAというわね。それと育てのお父さんこれをBと呼ぶことにするわね。今回の私に調査を依頼したのは、AKANEの本当のお父さんAからなの。そして育てのお父さんBは警察に逮捕された。
AKANEのお母さんは最初Aとつきあっていたの。でもAは頭がよくて聡明な人いまでも社会的にそれなりの地位にいるの。Aの奥さんは社長令嬢その令嬢と結婚したいがために、邪魔になったAKANEの母を自分の部下のBに押し付けたの。BはAが嫌いだったけど、AKANEを見ればわかるようにお母さんがきれいな人だったので結婚したのよ。しかし結婚後もお母さんはAとの不倫を繰り返していた。そしてAKANEが生まれたの。AKANEは不倫相手のAの子どもだった。しかしBは自分の子だと何も疑っていなかった。そしてそのお母さんは悲しいことにAKANEが小学生のうちに病気で亡くなってしまったの。」
その時マダムの助手がウーロン茶をもってきた。私はそれを飲みながら話を聞く。
「お母さんがなくなってBはAKANEを父子家庭として育てたのね。彼女はとてもよく勉強した。頭のいい子で県下でもナンバー1の高校に進学したの。それに容姿はあなたも知っての通りお母さんに似て奇麗でしょう?Bにとっては自慢のむすめだったの。Bは自分の学力が低かったからなんでAKANEがこんなに優秀なのか不思議に思ってたけどまさかAの子であるなんて疑いもしなかったの。
しかし気がつくときが来るの。AKANEがけがをして病院に入院したことがあって、その時AKANEの血液型はO型だって知るの・・・Bの血液型はAB型、自分の子でないことがそこでわかってしまった。AB型の親からO型の子供は生まれない。自分の子でないとなるとAKANEはAの子である以外には考えられない。。
彼は上司であるAにむすめの養育費を払えって詰め寄ったわ。しかしAは否定した。それどころか血液型が違うのは別の男じゃないかって言ったらしいの。おまけにおまえのようなバカの子が、優秀な高校に入れたのだからありがたく思ったらどうかって言ったらしいの。
BがAを恨むのは当たり前ね、それと同時にAKANEの母親もうらんだ。そこで復讐を考えたの。2人に復讐する方法はないか・・・って・・・その方法は何の罪もないAKANEを強姦することだった。
自分は仕事をやめて、AKANEには学校をやめさせて売春させたの。18歳になるとキャバクラで働かせた。彼女はすごいのよ、中学の頃は学年でトップを取って有名な高校に入った。それが親にこんな仕打ちを受けたのに、その逆境の中で、水商売でもお店でナンバー1になるの。おそらくお前の母親と親父Aは最低だって吹き込みながら。AKANEは優しかった父親がこんな風になってしまったのは、AというAKANEの本当の親のせいだって吹き込まれていったのよ。
それからBはお酒におぼれギャンブルで借金を抱える。そしてAKANEに働かせる。それを繰り返していたの。25歳になったAKANEは化粧すれば、17歳でも十分通じるとそれを利用して、気の弱そうな男を美人局で18歳未満とみだらな行為をしたと脅すのよ。そうやって莫大なお金を巻き上げた。そんなことを繰り返していたある日のことだった・・・
AKANEはある男性に出会った。飲んだくれで自分の体をもてあそぶ父親にそっくりの男だった。だからその男からお金を巻きあげようと近づいていったのね。そうしたらその男はとても優しかった。そう「パパ~」と呼ぶと優しく自分をつつんでくれた。子どもの頃のお父さんにそっくりだったのよ。だからあなたをお父さんと思っていた。でもお金をもって帰ってこなければBが怒るからしかたなくあなたにお金をせびっていたのよ。
そのうちにBはあなたの存在に気づく。おそらくメールのやりとりを盗み見たのよ。あなたのことをパパ~って呼んでいるメールを見て激怒した。その時のBの心理なんだけどどうだろ?AKANEの優しいパパでいたかったのね。例えばAKANEが誰かを好きになったとしたらこんなには嫉妬しなかったのかもしれないけど、自分以外の男をパパと呼ぶのは許せなかったのね、無茶苦茶な話だけど。
それで彼女を殴ったの。殴られたくなかったらそいつから金をまきあげてこいと命令した。AKANEがあなたに彼氏と言ったのはBのことだったのよ。AKANEはもうどうしようもなかった。悩んだ挙句AKANEは本当の自分のお父さんがAに頼った。Aに連絡を取ってBを警察に訴えようとした。
本当の親Aに育ての親Bを警察に突き出すように訴えたのよ。つまりは親らしいこと何もせずに、自分が苦しんでいるのだから、それくらいしてもいいでしょ?そんな気持ちで自分の本当のお父さんに助けてくれって連絡したの。
それからAは私に彼女を救ってほしいと探偵事務所である私のところに依頼してきたの。
『警察に行かれたらいかがですか?』と私はすすめたのよ。そしたら
『かかわりたくないからあなたに頼んでいる。』と答えたの。調査報告もいらないってお金だけおいていった。この男最低の男ね。
あなたが訪ねてくる前に私ねAから依頼を受けていたから、彼女が25歳だって知っていたの。Aから依頼受けた直後だからあまりの偶然におどろいた、いきなりAKANEという名前が出たのだからね。645年大化の改新を調べるまでもなく。でもあなたにも少しお灸をすえる意味で言わなかった。正直どうやって彼女を探そうか困惑していたところに、AKANEからのメールがあなたに来る。また車のナンバーまでわかっているでしょ。
そこから先はあなたのお金受け渡しの情報を警察に教えれば解決した。でもね・・・どこからこの情報知ったのかって警部に詰め寄られたときは困ったのよ。あなたのことしゃべるわけにいかないしね。Aからの依頼解決は簡単だけど、あなたを絡めないようにことをはこぶのは苦労したのだからね。売春容疑は逃れようがないのよ。」
わ私はマダムに深々と頭を下げた。
「もう絶対に浮気はしません。妻を生涯愛し続けることを誓います。」
「いい?K子だけじゃないわよ。あなたにとってこどもは、かわいい息子さんとお嬢さんあなたの子どもは2人だけよ。AKANEはあなたの子じゃないからね。だめよどんなことがあっても今後かかわっちゃ。」
「そうだよな、でもAKANE1人でこれから大丈夫かな?」
「これは知り合いのこの事件にかかわった警部さんから聞いた話ね・・・彼女はね、こんな風に警察に話したようよ・・・
『私には父が2人います。育ての父に拉致監禁され暴力をふるわれ顔に傷を負いました。
本当の父に助けてもらいました。育ての父は逮捕されて刑務所の中だと思います。どちらの父も私にとっては許せない存在ですが、でももし今こどもの私にもどったらとしたら育ての父についていきます。できることでしたら刑を軽くしてあげてください。
ちなみにAKANEはあなたのことは全く警察には話していないわ。2人の父親以外だれの話もでなかったようよ。あなたの存在はただ10年前の大好きだったお父さんに似ていて、優しいお父さんを思いだすだけの存在なの。あなたを本当のお父さんなんてAKANEにはないのよ。わかった?」
「ちなみにこの新聞見て。」
新聞にはむすめを拉致監禁および傷害容疑で逮捕されたBの写真が載っていた。
「どことなくあなたに似ているでしょ?でもあなたの方が若いし優しい顔をしている。」
私のことをAKANEはお金を巻き上げる対象にしたかったわけではない。しかし本当のお父さんに似ているだけで本当のお父さんと思っているわけではない。
「よくわかった。本当にご迷惑をかけました。」
「どういたしまして・・・お金の方はもう一人の依頼者Aからもらっているからあなたからはいただきません。よかったら隣で少し飲む?」
「飲みたいなあ・・・ホステス用に着替えるのでしょ?だったら紫色の衣装に着替えてよ・・・」
「いいわよ、むらさきのゆきね・・・」
「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」
AKANEに袖を振っていた私を野守が気づいて激怒した。それがAKANEを苦しめる結果になった。私は彼女を助けるどころか苦しめるだけだった。
あかねはひとりで生きていける・・・・