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第5章 乙巳の変

あかねさす・・・ 第5章 乙巳の変


 私には女の友人がいる。小学校のころからの同級生だ。私と違って勉強がよくできた。中学時代は彼女が好きで交際を申し込んだこともあるが、見事にふられた。それからも友達として仲が良く、実は今の妻は彼女の友達で紹介をしてもらった。今ではスナックを経営するがそれはあくまでも裏の顔、表の顔は私立探偵という女性だ。


私は久しぶりに彼女の経営をするスナックを訪れた。BGMが流れて笑顔で迎えてくれる。

「いらっしゃい! 久しぶりね。」

 彼女がが迎えてくれた。相変わらず胸元をあけ豊満な胸が露出している。彼女のそばにいるとやっぱりおちつく。


「こんにちは!K子は元気?」

K子とは私の妻である。

「最近あまり口きいてないなあ・・・」

「なんかあったの?」

「別に何もないよ・・・」

「K子は深刻そうよ・・・この前言っていたけど旦那が浮気しているかもしれないって。」

「えっ?あいつそんなこと言っているの?」

気づいていたのか?と私が動揺していると

「冗談よ、私K子と会ってないもの。なんか動揺していない?」

「おどかさないでくれよ。」

「まさか本当に浮気しているの?」

「うん・・・水割り作ってくれる?」

私は水割りを飲みながらAKANEとのことを包み隠さず話をした。繁華街で声をかけられたこと、お父さんに似ているって言われたこと、万葉集のこと、彼女が17歳だってこと、会うたびにお金を渡していること、そして彼女が拉致されていること、迎えに来た車のナンバーまで。


「それで全部、まだ隠していることない?」

「これで全部だよ。もう隠さず全部話したよ。」

「それで、あなたはどうしてほしいの?」

「拉致されている彼女を助けてあげたい。」


「本気で言っているの?目を覚ましなさい。」

マダムはもう一杯私にお変わりの水割りをつくってそして自分も飲みはじめた。

「いい?なんで17歳の彼女が19歳とうそをついたの?」

「それは、17歳だといろいろと都合が悪いからだろ。キャバクラでも働けないし。」

「いい?あなたのしたことは売春行為よ!わかっている?」

「そりゃあそうだけど・・・」

「一度の過ちだって法に触れていることに変わりないの。」

「すみませんでした。」

「あたしにあやまったってしょうがないでしょ?K子にあやまりなさいよ。」

「すみません。妻には黙っていて。」

「あたりまえでしょ!まずここで誓いなさい。もう二度とAKANEという『こむすめ』には近づかないって・・・」

「わかりました。誓います。でも彼女を助けてあげてほしい。」

「まだ重症ね・・・それじゃあこちらから質問するけど、なぜ17歳の彼女が19歳とうそをついたのかわかる?」

「17歳と最初から言ったら私はホテルにはいかない。」

「そうそれもあるわね、それとあなたをおとしいれるためよ。」

「あなたは、その『こむすめ』と会うたびに彼女の要求するお金を払っているでしょ?だから何もないの。もし拒んだらどうなると思う?」

マダムは、AKANEを被害者と思っていない。私を陥れる加害者扱いしている。


「いい?これからだって、またまとまったお金をあなたに要求してくるはず。もっともっと大金を要求して来るはずよ。そうなった時にあなたは作れないっていうでしょ?」

私はドキドキしながら聞いている。


「その時、警察に行くと言うわ。彼女が19才だったらあなたたちのしたことは売春容疑、警察に言ったら自分も捕まるの。でも17才だったらどうなると思う?青少年健全育成条例違反が成立する。あなたの人生は終わりよ。おそらくその糸を引いているのがいると思う。それが自動車で彼女を迎えに来た男だと思うわ。」


 私はだんだん怖くなってくる。でもどうすることもできない。マダムの言うことを聞くしかないだろう。


「いい?あなたは一生『こむすめ』に振り回されてお金をゆすられ続けるの。たった1回のあやまちだって証拠はいっぱいのこっているでしょ?メールの履歴とか関係がなくたって17歳のむすめとメールを続けていればどちらにしても青少年健全育成条例違反なのよ。あなたは取り返しのつかないことをした。反省しなさい。それをねたに相手はあなたにお金をどんどん請求してくるのよ。いい?あなたよりも2倍も3倍も上手のワルなの?」

そうだ・・・私は彼女からお金しか要求されていない。私は彼女にとって言いかねずるだけなのだ。


 その時私の携帯にメールが来た。AKANEからだった。

「こむすめからでしょ?お金くださいってメールじゃない?」

『お願い・・・あと20万円必要なの・・・つごうできない?』

メールを見ておどろいた。マダムの言う通りになった。もし拒んだら警察に行って18歳未満との淫行を指摘される。私の人生はおしましだ。

「いい?私の言う通りにメールして。今日は仕事で動けないから明日の夕方まで待てと・・・場所を指定して・・・とメールして。」

「わかった。その通りにする。でも・・・」

「もちろん、指定場所に行ってはダメ・・・あとは私が行って彼女の正体をあばいてあなたに報告してあげる。それでいいでしょ?」

「でも・・・私を警察に訴えるっていいだすでしょ?私は18歳未満の女子にみだらな行為をしたということで人生が終わる。もうおしましだ。」

「そうね、4~5年、捕まってなさい。頭冷やすといいわ。」

「・・・・・」

すると マダムはニコニコ笑いながら語り始めた。

「どうぞ、もう一杯水割りをどうぞ。」

「笑うなよ、こんなに苦しんでいるのに。」

「そうね、これくらいで許してあげよう。安心して・・・AKANEは17歳じゃない。間違えなく25歳以上よ・・・」

「本当?なんでわかるの?」

「それはね・・・・・645年大化の改新よ。」

「はあ?」

「彼女、645年は大化の改新って答えたでしょ?」

「そう、645年は大化の改新だろ、私だってなんだかわからないけど昔そう習った。」

「そう、あなたはそう習ったはず、私もそう習った。でも17歳の今の高校生はそう習わない。あなたの息子さん18歳よね、電話して聞いてみなさい。」

えっ?私はなんだかわからないけどその場でむすこに電話をした。今受験勉強をしている息子に電話するのは悪いがそんなことは言っていられない。



「ああ、もしもし・・お父さんだけど、ちょっと聞きたいのだけど西暦645年に起った事件をなんていうか知っている?」

『はあ?何言っているの?』

「いいから、教えてくれよ645年の出来事は?」

『乙巳の変だろ。』

「乙巳の変??大化の改新じゃないのか?」

『それは、2年後に体制を刷新して大化の改新と呼ばれる改革を断行した、中大兄皇子と中臣鎌足がね、のちの天智天皇と藤原鎌足だ。そういえば日本史の先生言っていたけど昔は大化の改新645年って覚えていたらしいよ。それはおとうさんの方がよく知っているだろ?それがなんなの?』

「ありがとう、それだけ聞けばそれでいい。」


私はやっと笑顔に戻った。

「4年に一度文部省で教科書改正があるのよ。いい国(1192)つくろう鎌倉幕府だって、いいはこ(1185)つくろう鎌倉幕府になったのよ。つまり645年が大化の改新と答える人は、どんなに若くても25歳以上ということになるのよ。安心した?」


 そうか、そういえば化粧したAKANEは17歳にも見えるギャルだが、素顔を見た時ずいぶん老けているなあと感じたのを思い出した。あれは彼女がやつれていたのもあるし、マスクや眼帯していたから感じなかったが、よくよく考えればハイティーンには見えない。。


 メールの返事が来た。明日の時間と場所をAKANEが指定してきた。

「『わかった』とだけ返事して。あとは一切メールがきても答えちゃだめ。明日彼女の正体を暴いてくるからあなたは何もしないで。私に任せて。」


「あの?探偵依頼料は?」

「『こむすめ』にお金渡してヒーヒー言ってるいんでしょ?そんなお金があったら、K子のためにつかいなさい。」


    そういえば子どものころから彼女に助けてもらってばかりいるかもしれない。


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