第4章 なぐられた
あかねさす・・・ 第4章 なぐられた
それから・・・私のところに信じられないメールが来た。仕事が終わって帰りにスポーツクラブで汗を流そうと着替えているときにもらった。
「ごめん・・もうしばらく会えない・・・今日彼氏に殴られた。顔が切れて歯がかけた・・・ごめんね・・・」
どういう意味だろう?彼氏がいたのか・・・?
「大丈夫?今から会わないか?」
そう返すとまもなく返事が来る。
「いや・・・こんな顔見られたくない。」
私も返信する。
「大丈夫、嫌いになったりしないから・・・」
そのあとの返事は少し間があいた。
「彼氏に拉致されている。」
「拉致?逃げてきたら?逃げてきたら私がAKANEを守ってあげるよ。」
「逃げられない・・・逃げたら殺される。」
「そんな大げさな・・・電話で話ができないの?」
私にはなにが彼女におこったのかわからない。不思議な気分だった。
「私の彼氏やくざなの。別れたいと言ったら殴られた。」
それから彼女は殴られた顔の写真を写メールで送っていた。かなり顔がはれて傷がついている。
その写メを最後にその日の返信はとだえた。
「今どこにいるの?何をしているの?」
次の日私がメールすると彼女から返信が来た。
「会いたい・・・」
「いいよ。どこで会う。」
「彼氏の目を盗んで行くから今日の夜、7:00から8:00の間に、駅前のマクドナルドにいて、それとお金が欲しい。」
「わかった。」
いわれるがままに夜の7:00にマクドナルドで待っていた。
すると20分して眼帯とマスクをした女の子が現れた。「だれ?」目を疑ったが、まぎれもなくAKANEだった。化粧をしていない彼女は普通の女の子でどうみても、キャバクラでナンバー1とは思えない、はなやかさのない暗い感じがした。化粧をしない彼女は老けて見えた。
「ごめん、呼び出しちゃって・・・」
「とにかく話をしようよ。」
「だめ、時間がないの。おねがい必ず返すからお金貸して。」
「わかった。」そう言って2万円渡そうとした。
「お願い、返すから殴られた傷治したいの。10万円貸して。」
そして眼帯とマスクを取って見せて、殴られた後を私に見せる。
「ねえ、傷めだつ?なんか一生残るみたい。」
「いや・・AKANEは、もともと綺麗だから・・・」
もともと綺麗だからなんなんだ・・・自分でいいかけたものの何を言ってあげていいのかわからない。女の子にとって一生傷が残るというのは、そうとうなショックなのだろうから。
「彼氏のところを出る。でも別れ話をしたらまた殴られるから、このまましばらくはここにいる。」
「そこを出ることができるの?」
「約束のお金を返したら。」
「お金?」
「AKANEがお金を払うの?」
か弱い女の子を殴っておいて、なおかつお金を請求する。そうすれば開放してやる。というむちゃくちゃな要求をしてくる。それがそいつのやりかた。女の子を暴力でいたぶって怖がらせておいて、自分からはなれないようにする。それどころかお金まで要求する。普通ならばハイティーンの娘には用意できないお金でも、逆に若さあふれる体を使えば30万くらいのお金は彼女には作れないお金ではないのだ。それを要求してくるのだから最低だ。しかもおまえとは別れない!という。世の中のダニというのは本当に存在するものなのだ。
「警察に行ったらどうかな?これだけの暴力は悪質な犯罪だよ。」
「ううん・・・」
AKANEはおもいきり首を振った。
「どうして?警察に行けば何もかも解決するよ。」」
「警察にはかかわりたくない。」
「どうしてさ?AKANEが、お金払うなんてどう考えてもおかしいだろ?」
「でも、お金払っても開放されるとは限らないじゃない。」
「それは、約束してもらう。」
「そうか、でもお金は・・・」
「あたしがその気になれば、それくらいのお金すぐだから。」
相変わらずかわいい笑顔だが、そのかわいい笑顔のこめかみには傷がついている。
「その気になれば・・・」
「待って・・・その金私が用意する。」
が戸惑うように私の目をしばらく見てそしてにっこり笑った。
「いい、パパに迷惑かけたくない。」
「おれにだけ迷惑をかけてくれ。」
「本当に・・・」
私は彼女に20万円のお金を渡した。
AKANEのキラキラ光るひとみから宝石のような涙がひとしずく落ちる。
20万円を渡すと彼女は走って逃げるように去って行った。
私は気になって追いかけていった。彼女に気づかれないように。走った先には車が待っていた。彼女は車に飛び乗り、そのまま行ってしまった。私が車のナンバーをとっさに記憶したのは言うまでもない。
それから毎日彼女にメールした。しばらく返事はない。1週間たってようやくメール返信が来た。
「もうメールしてこないで。パパのメール全部見られているの。パパからメールくるたびに殴られる。
私のことは忘れて。奥さんを大事にして。さようなら・・・」
それから私はこの信じられない現実と向き合うことができずにトレーニングジムで汗を流していた。もう一度AKANEとであってから今までのことを振り返ってみた。あの屈託のない彼女の笑顔、私だけに向けられたあのやさしい微笑をおもいだしていた。明るさの中にどこかしら陰りがあった。そう幸せそうにふるまっているけど、なにか幸せをつかめずにもがいているようなそんなあせりも感じられた。彼女は普通の女の子じゃない。
スポーツジムにはどしっと重いボクシング用のサンドバックがぶら下がっている。わたしのようなへっぴり腰ではこれをたたく姿はこっけいなだけだと使ったことはなかったが、今日はたたかずに入られなかった。サンドバックをたたきながら彼女をたたいたやつに憎しみをぶつけていた。
こぶしが痛かった、それでもサンドバックをたたいた。自分の手が痛い分AKANEの痛みが和らいでくれるならその痛みを自分がもらってもいい。そんなはずもないのだがたたかずにいられなかった。