第3章 野守は見ずや
あかねさす・・・ 第3章 野守は見ずや
「ねえ食事一緒にしない?」そんなメールが来た。
それから数日後AKANEとのデート。待ち合わせ場所に早めに着て、なにをするでもなくブラブラと駅前の古本屋で彼女が来るまで時間をつぶしていた。デートといっても微妙だ。年は2周りも違う。親子の年齢差だ。しかし向こうは私をパパと呼んでいるのだから本当の親子のようになればいいんだ。そう3人目の子どもができたと思えばいい。
「ごめん・・・待った?」
AKANEが笑顔で私に向かって手を上げる。そのあらわれかたがまるで、有名タレントのようにまわりのすべてを自分にひきつけるかのように輝いていた。これだけ大っぴらに手を振られると恥ずかしい。そう・・・野守は見ずや・・・君が袖ふる・・・
その心境だ。
私たちは駅前のファミリーレストランでランチを注文する。不思議なものでいつもは、おなかいっぱいになるまで大盛りライスをたいらげる私も小食になる。どういうのだろうか、彼女を見ているだけですべての欲望が満たされていくとでも言えばいいのか・・・彼女を目の前にしているだけで満足だった。食事をしながら楽しい会話ははずむ。
「パパって、すっごっくいい人だよね。いい人オーラがでている。」
そういって無邪気に笑う。
「いい人・・・それだけ?」
「ずっと、一緒にいたいって思う。」
「本当に?」
「ずっと一緒にいてくれるの?」
ずっと一緒にいてくれる?逆に質問されて逆におどろく私が次の言葉に困っていると
「奥さんと別れてなんて言わない。でもお父さんになってほしい・・・そう、パパとずっと一緒にいたい。」
そうお父さんなら不倫にはならない。
「それじゃあ、指切りしよう。」
「指きり?」
「そう・・・」
AKANEは左手の小指をだして
「指切りをしよう!」という。
「なんで、左手をだすの・・・」
「へん?」
「指切りは、右手でするだろう?」
「そうなの?だから今まで私が指切りした人約束守ってもらえなかったのかな?」
この子は今まで人には言えない苦労して生きてきたのかもしれない。そんなふうに思った。
「ゆびきりげんまん・・うそついたらはりせんぼんのます・・・」
ファミレスで食事をしてそれから私たちは駅前の雑踏の中をあてもなく歩いていた。駅へ向かう道には、改札口を出て家路をたどる人が人目もくれずに足早にかけていく。私たちはゆっくりと歩きながらその姿を見ている。なんだか早く家に帰ることが、あわただしくみえて人が不思議に見えた。
「さっき、このブックオフで時間をつぶしていた。」
わたしはさっきまでそこにいた古本屋を指す。
「入ってみない?私本が好き。」
「さっきまでいたのだけど・・まあいいか・・・」
「図書館とか行くの?」
「私、本好きなんだ。」
高校中退しても勉強する気持ちは持っているという。
「万葉集・・・でしょ・・・壬申の乱・・・このへんの本が面白いかな。」
「万葉集か・・・壬申の乱は息子たちに教えてもらった。」わたしも1冊手に取って買ってみることにした。
「ねえ・・今日もいい?」
色っぽい目で私を誘ってくる。
「お金ほしい・・・」
お金ほしい・・・か・・・私はなにか勘違いをしていた。AKAMEとつながっているためにはお金が必要なのだ。
私は財布にあったお金を渡した。
「やらなくていいの?」
「お父さんとはそんなことしないよね。」
「パパ~やっぱりパパは本当のパパだ。」
本当にうれしそうだった。彼女は頼る人がいないから本当に私を父親がわりに思っているだけで、私に抱かれたいわけではないのだ。お金が欲しいのだ。わかっていてもこうあからさまに喜ばれると寂しい気もする。かっこつけずに行為に至ればよかったとちょっとだけ後悔する。
その日は万葉集を読みながら寝る。
すると妻が横で
「万葉集を読んでいるの?ずいぶんご執心ね。」
「学生時代勉強しなかったこと少し後悔している。むすめが言っていたよね。額田王は幸せとは思えないってあんなふうにしっかりと自分の意見を持っているとはおもわなかった。ついこの間迷子になって「パパ~パパ~」って泣いていたのにね。今頃気づくのもなんだけど勉強って大事だよね。」
「私もそれを感じているの。数学なんて社会に出ても意味ないし数学嫌い!って全く勉強しなかったの。それ今になって後悔しているの。あんなおもしろくないのを息子が面白そうにやっているじゃない。勉強してみたくなっちゃった。ねえ?私が万葉集教えてあげるから、あなたに数学教えてもらおうかしら。」
実は私は理系で国語や社会はからっきしだめだけど数学は得意だった。一方の妻は数学が大の苦手だったらしい。
「それっていいかもね。夫婦で勉強するか。でもさ・・・こどもたちが、大学生になったらおこづかいをただ渡さないで、親の家庭教師のバイトをさせようか?むすこから数学教わって、むすめから万葉集おそわろうよ。ただでおこづかいあげるよりいいじゃない?」
「それってナイスアイデア!息子から微分積分教わるのもいいわね。」
「小学校の頃は、おれが算数教えたのに逆になるとお金払うのか(笑)親って因果なものだね。」
「でも子供に教わるなんて、一番幸せなことだわ。」
AKANEのことを思い出す。うちのこどもたちとAKANEと比べると親からの愛情が全然違う。本当はAKANEの方にもっと愛情を注いであげていいのだ。といっても同じように見てあげられるはずもない。それに私にはそんなことを言う資格はない。一度だけとはいえAKANEを自分の欲望のまま抱いたのだ・・・