もんすたぁ~はだぁれ☆彡
彼は三歳のとき、両親に売られた。富と地位の対価として、彼は人間の実験材料となった。吸血鬼であるがゆえに、死と蘇生を幾度となく繰り返し、人体実験の極致を味わった。星の数ほどの死、それが彼の日常だった。
身闇の中、鋭い鉄の匂いと乾いた血の残滓が漂う。体が砕かれ、臓器が引き裂かれ、再生と破壊を繰り返す中、人を恨む気持ちは膨れ上がった。しかし、流れる時の中で彼の心が完全に壊れなかったのは、同じ境遇にある多種族の実験体たちがいたからだった。彼らと支え合い、傷を舐め合い、友情と愛情を糧に精神の均衡を保っていた。
脱走を試みたのは三度。しかし、三度目で成功したのは彼だけだった。他の仲間たちはすべて捕まり、彼女の目の前で再び実験材料となった事を彼は知らない…。
自由を得た彼は、吸血鬼の国を統べる伯爵に拾われた。伯爵は彼の異常な執念と狂気を感じ取りながらも、口を出さなかった。彼は死を恐れず、魔術と体術を貪るように会得し続けた。何度絶命し蘇生されても、彼は「まだ死ぬ余裕がある」と、さらに深く魔術の奥義へとのめり込んだ。その狂気に気づいた伯爵の配下たちは、彼の過去に何かがあることを察しつつも、干渉するのは無粋だと口をつぐんだ。
数年後、彼はかつての仲間であり、愛した少女がまだ実験材料として使われているという情報を得た。すぐさま研究施設へ単身潜入する。
彼は施設の奥で、もはや吸血鬼の形をしていない彼女を見つけた。液体の中で漂う彼女は、皮膚も肉もなく、臓器と脳だけが辛うじて繋がっていた。どうして生きているのか、理解できなかった。最初、それが彼女だとすら気づかなかったが、わずかに感じ取った魔力が彼女のものだと理解した。この世界では魔力は指紋のように決して同じものは存在しない。彼は彼女に魔力を通じて語りかけ、彼女が今もなお苦しみ続けていることを知った。
彼は彼女に穏やかな死を与えることを決意した。自らの手で、愛する者を解放するために
しかし、彼の心はそれで完全に壊れた。復讐の炎が、心を焦がしはじめた。
伯爵は以前、彼の記憶を密かに覗いていた。
彼が脱走に失敗した際、人間たちは彼に断れない選択を迫った。
「彼女を手早く殺し蘇生しそれを指示があるまで繰り返せ。さもなくば、脱走に参加した者たちに死以上の苦しみを与える。」
・・・
彼は四日間、それを繰り返した。だが、そんな口約束が守られるはずもないのに。
人間たちは彼の身体を魔法で操り、自由を奪った。唯一動かせるのは眼球だけ。自分の意志とは関係なく、彼は彼女を殴りつけ、弄ばれた。痛みに耐えていた彼女も、ある瞬間、完全に壊れた。
彼は何が起こったのか理解できず、視線を四方八方に動かした。そして、自分の瞳に映る彼女の顔を見たとき、彼の姿は研究の指揮を執っていた人間と化していた。
彼女は混乱し、恐怖し、現実を受け入れられなくなった。
「お前は誰だ?」
彼女の声は震え、彼女の瞳に映る色は絶望に染まった。
彼女の最後目に映ったのは、自分ではなく、憎むべき敵の姿。
その事実を伯爵は知っていた。そして、少年が今もなお死を恐れず、復讐のために魔術と体術を極める理由を、理解していた。
「この怒りが尽きることはないだろうな…無理やりにでも止めれば奴は自死か…」
伯爵は呟いた。
そして、少年はただ一つの目的のために生き続ける。
関与した全ての人間に、己の味わった地獄を刻み込むために…