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僕のシュール・ナンセンス・SF・異世界小説作品集

織田信長の量子力学

作者: Q輔

「比叡山を焼き討ちする。刀を持ち、肉を喰らい、女を抱く、堕落しきった坊主どもを成敗する。仏像はすべて破壊し、女子供に至るまで一人残らず首を撥ねる。先鋒は、光秀、秀吉、貴様らに命ずる」


 我が主君しゅくん、織田信長様は、重大な決断をする際、必ずこの光秀と秀吉の二人だけを広間に呼ぶ。


「恐れながら、おやかた様」


 平伏した秀吉が諫言かんげんをする。


「そのような事をなされば、諸大名をはじめ、民百姓たみひゃくしょうの気持ちは、お館様から離れましょう。損か得かで申せば、これは大損かと」


 事あるごとに私と対立する小男だが、この度ばかりは同じ意見のようだ。


「猿、出過ぎじゃ!」


 信長様が、刀のさやで秀吉の脳天を叩き割る。


「ごもっとも!」


 そう叫んだ秀吉が、頭から大量の血を流し、畳の上で、どこかわざとらしく痙攣をする。


「恐れながら、おやかた様」


 今度は私が諫言かんげんをする。


「比叡山にはあまたの神仏がおわします。焼き討ちなどすれば、天罰は必定」


 すると、信長様は澄んだ瞳で私の顔を覗き込み、心からせぬといった表情で、広間にある仏像を刀の鞘でコツコツと叩き、こう言った。


「光秀、貴様に良い事を教えてやる。みんな神だ仏だと恐れ慄くが、ほらよく見ろ、これはただの木と鉄のかたまりだ」


 ……分からぬ。我が主君の申すことが、私には到底理解出来ぬ。激しい動悸が私を襲う。


「そもそも神仏が万物を造ったというのが大きな間違いだ。俺は、万物とは目に見えない小さな粒の集まりで出来ていると考えている」


 こいつは、何を言っているのだ? 


「俺はその小さな粒を素粒子(そりゅうし)を呼んでいる。万物は、原子で形成されてるが、原子を構成したり、結合したりする超ミクロの粒子が素粒子だ」


 これは幻聴? 魔物の呪文? 


「そんな雨粒のような粒子を1/100億とか1/1000億にしたとき、その量が整数倍であったなら、その中で最も小さい値を『量子』と呼ぶ」


 やめてくれ。このままでは気が触れてしまう。


 秀吉が、信長様の話に深く頷き、これ見よがしに相槌を打ってる。

 悪知恵の回るおべっか使いめ。まさか、理解している訳ではあるまい。


 織田信長。やはりこいつは人ではない。狐狸こりもののけ。未来生物。地獄の鬼。おのれ、鬼め、天に代わって成敗してくれる。


 いや、天の意思など、どうでもよい。こいつを退治せぬ限り、私が私である続けることは不可能。ただそれだけだ。



「まだおったか光秀。しっ、しっ、貴様はもう下がれ。馬鹿にはせぬ話だ」



 殺す。いつか必ず殺す。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 確かに戦国時代に現在の科学の知識を言われたら怖いと感じました。明智光秀が裏切った理由はそれだったのですね。発想が凄いです。 [一言] 読ませて頂き有難うございました。
[一言] これはいいですね~。 時代劇っぽい空気に違和感なく量子力学の要素を落とし込んでいる。 最後の殺意も自然な流れるだったので、全体的に調和が取れていると感じました。
[良い点] この短さで3人の『らしさ』がちゃんと出ているのは凄いですね。 面白かったです。
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