全てを上に吹き飛ばせ
ポルポは空気の球の壁に飛び込んで水の中に出た。
出た途端、ヴィラのメスの発生させた渦に体をひっぱられた。
渦の力はポルポの予想よりはるかに強かった。
巨大な口へ続く渦にひっぱられながら、平泳ぎで水をかきクロールのように両足をばたつかせて下へ下へと水を蹴り、渦の引力にあらがって川底へ進んでいった。
冷たい水が体温を奪っていく。
しかし、ポルポはいけると思った。
ヴィラの口に飲み込まれる前にこの渦を下へ抜け、川底にたどり着ける。
川底まで行けば、そこからヴィラのメスの側面まではすぐそこだ。
なんとしても鱗を一枚はぐ。
腰に下げた短剣を鞘の皮袋から取り出して右手に持った時、右横やや上に金色の魚がいた。
力強く突き出た下顎とギョロりとした目は愛嬌のある顔だった。
その目が、ぐるりと動き、左下にいるポルポを見た。
ヴィラのオスがまだいるかもしれない事をポルポはすっかり忘れていた。
まずい、と思ってポルポは短剣でその魚を攻撃した。
しかし水中で繰り出されたポルポの遅い一撃をするりとかわしたオスは、メスへ捧げるための獲物から少しだけ遠ざかった。
だが反射的に動いた事でオスは渦の中心へ近づき、その大きな力にからめ取られた。
渦の力に巻き込まれたヴィラのオスはあっという間にメスに吸い寄せられ、獲物よりも先に自分が食べられてしまった。
オスが渦に飲まれている間に、ポルポの頭が空気の球に覆われた。
春風がアクアルスの力を使ってポルポの頭を空気で覆ったのだった。
ポルポはちらりと春風のいる球を振り返った。
三人が自分を見ていた。
"ありがとう。ごめん"
ポルポは心の中でつぶやいた。
空気の心配がなくなり、自分を狙ってきたオスもいなくなり、川底まであと少しのところまで来たポルポは、助かった、これでたどり着けると思った。
だが、ポルポの右手から短剣が離れ川底へ落ちた。
ポルポは周囲を照らす金色の光に気がついた。
すぐ上にオスが三匹いて、六つの目はどれもポルポを見ていた。
ヴィラゴトキシンをまともに浴びたポルポの全身から力が抜け、ポルポは川底まであと少しのところで泳げなくなった。
ぐったりと動けなくなったポルポはだんだんと渦の方へ吸い寄せられていく。
「ハル!ポルポがやばい!」
空気の球の中からポルポの様子を見ていたメロンが言うと、
「ボクが助けに行く!」
とマロンが外へ出ようとした。
「だめだよ!泳げないのに!」
メロンはマロンの腰にしがみつき、今にも外へ出ようとするマロンを止めた。
「このまま放っとけないだろ!」
「でも行ったって助けられないよ!」
「そんなの行ってみなきゃわかんないだろ!」
言い争う二人に春風が
「二人とも!落ち着け!」
と怒鳴った。
「落ち着いてる場合か!」
「ポルポが食べられちゃうよ!」
と慌てる二人の言葉を聞きながら春風は考えた。
今、自分は空気の球ごと水の外へ出ようと念じている。
しかし自分の魔法の力はヴィラの吸引力と拮抗している。
地上で見たアクアルスの嵐の破壊力を考えるとそれはおかしな事だった。
嵐は雑木林一帯を破壊し、たくさんの重い物体を上空まで軽々と飛ばしてみせた。
その力が、クジラくらいの大きさだとはいえ、一匹の魚の力と拮抗するだろうか。
"自分の念じ方が足りないのかも"
春風がそう思った時、力無く浮くポルポが渦に捕まった。
ポルポはまるで布切れのように水中で激しく回転しながら一気にヴィラのメスの口へ吸い寄せられた。
「ポルポーっ!」
メロンたちが叫ぶ中、春風は目を見開き、ありったけの声で叫んだ。
「アクアルスーッ!!ありったけの力で川の全てを上に吹き飛ばせっ!!」
春風はほんの一瞬、揺れを感じた。
地面が揺れたのか、水が揺れたのか、空気が揺れたのかはわからない。
ほんの一瞬の揺れとほんの一瞬の静寂があった。
その一瞬は瞬きするよりはるかに短い時間で、春風にしかわからない束の間の出来事だった。
次の瞬間、川の水の流れに異変が起きた。
下流から上流へ渦を巻きながら流れていた水の流れは、川底から湧き上がった上方向への渦に変わった。
春風たちの球を中心に回った水はそのまま勢いを増すと水の竜巻になり上空へと立ち上った。
全ての水が、水の中の木や岩やポルポやヴィラのメスや、春風たち三人すらも、上空に巻き上げられた。




