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春風のヒストリア  作者: モトハル
春風_神官学校編
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ごめんみんな

山を登るサイワの鉄砲水に飲まれた四人は水中でもがいた。


決壊した川から地面のひび割れに流れ出た水は冷たく、流れは速かった。


川の支流となった水はたくさんの木、土、岩を飲み込んでなお透明さを保っていた。


水の中でおぼれかけの四人はもがいた。


特にマロンとメロンはひどかった。


ただでさえ泳ぎが得意とは言えない彼らは、上下左右の感覚を掴めないままとにかく浮上しようと手足をばたつかせた。


泳ぎが得意なポルポもどちらに進めば水面から顔を出せるのかわからず、息を止めて首を振り進むべき方向を探した。


そんな中にあって、春風は水中の空中にいた。


自分の周りだけ空気の球があって、春風はその中に浮かんでいた。


相変わらず自分がアクアルスの風に包まれているのだと直感した。


その直径二、三メートルの小さな空気の球の中から周囲を見渡すと、流される木や岩と同様に流されながら水中でもがく三人の友を見つけた。


「アクアルス!三人を空気で包んでくれ!」


春風が言うと、三人は空気の球に包まれた。


「球を合体できるか?」


と春風が言ったが反応がない。


命令じゃないからかも、と思った春風は、アクアルスが言った事を思い出した。


「念じればいい、って言ってたよな...」


春風は四つの空気の球が合体する事を想像した。


すると友達を包んだ三つの球が春風の元へやってきて合体し、球は最初より一回り大きな一つの球になった。


「おお。これは使える」


空気の球で助け出された三人は驚いて春風を見た。


「ハル、これもさっきの魔法?」


メロンが聞いた。


「うん。まあとにかく助かってよかった」


古代魔法をよく知らないメロンは、こんな神聖魔法や精霊魔法があったかなと不思議に思った。


マロンが球から外へ手を出した。


手の先には金色の魚がいた。


「あ、ヴィラのオスだ!」


とポルポが叫んだ。


「自分のは自分で取れよ!これはボクのだぞ!」


大好物の魚を目の前にメロンは手を出し続けてヴィラのオスに触ろうとしたが、魚には届かない。


「今魚なんか取ってる場合じゃないだろ、まったくもう」


ポルポがため息をついた。


春風が球の上を見ると、大量の金色の魚が泳いでいた。


「うわっ。すごいいっぱいいるね」


春風が言うと、三人が上を向いた。


三人が黙った。


不思議に思った春風が


「ん?どした?」


と聞くと、


「ハル!この空気の球で水の外に出れる?!すぐ出た方がいい!」


とメロンが叫んだ。


なんだかわからなかったが、ただならぬ気配を感じた春風は球を浮かすイメージをした。


しかし、球は流れに沿って相変わらず進んだ。


「アクアルス!俺たちをこのまま水の外に...」


と言った時、流れが加速して四人は球の後方に張り付きになった。


「な、なんだ?!」


四人は流れの先を見た。


そこには岩の壁のような何かがあった。


水は壁に吸い込まれている。


それは壁ではなく穴だった。


水は渦をまいてその穴に吸い込まれていて、四人の空気の球もすでに渦の中にあった。


ヴィラのオスは川に入ってきた獲物を囲むと集団で神経毒のヴィラゴトキシンを放ち、獲物を麻痺させて溺れさせる。


そして、ヴィラゴトキシンの匂いを嗅ぎつけたメスがやってくる。


オスよりはるかに巨大なメスは、口からのどまで無数に鋭利な歯が生えていて、その大きな口を開けると口の中を回転させオスごと獲物を吸い込む習性があった。


今まさにヴィラのメスは口を開け、流れてくる水を吸引していた。


巨大なミキサーと化したヴィラのメスは、岩や木とともにヴィラのオスの群れを飲み込んでいった。


「やっぱり!もう来た!ヴィラのメスだ!ハル!早く!」


メロンが叫んだ。


「アクアルス!俺たちを水の外に出せ!」


ヴィラのメスの吸引力と、春風が使うアクアルスの魔力が拮抗した。


四人を乗せた水中の空気の球はヴィラのメスから一定の距離を保ち、停止状態になった。


「お前たちも魔法得意だろ!なんか使ってあいつをやっつけろ!」


マロンがメロンとポルポに檄を飛ばした。


「そんなこと言ったって、あんなデカいのやっつける魔法なんかないよ!」


ヴィラのメスの口の直径は二十メートル近くあった。


もはや魚ではなく、凶悪な鯨の様相の獣魚を前にして半泣きになったメロンがマロンに言い返す中、ポルポはそのヴィラを凝視していた。


さっきは虎蜂の巣が落ちてきた。


今度は目の前にヴィラのメスがいる。


ポルポは今、自分が持つ全ての運を使っている気がした。


そして、それでいいと思った。


なんとかあいつの鱗を一枚手に入れるんだ。


だが、ここからだと文字通り手も足も出ない。


ポルポはさっきマロンが水中へ手を出したのを思い出した。


ここから出ればヴィラのメスのところへ行ける。


問題はどうやって吸い込まれずに鱗を取るかだ。


ポルポは水流をよく見た。


川の水のほとんどはヴィラの口の中へ進んでいる。


しかし、ごく一部ではあるが、沈んだままの木や小岩がある。


川底を進めば奴の側面へ行ける!


今春風たちのいる位置は、ポルポの泳力を考えれば、川底を泳いでヴィラの側面までたどり着ける距離だった。


球から出て吸い込まれずに川底へ行けさえすれば。


「みんな!今からあいつのところに行ってくる!」


そういうとポルポは懐から虎蜂の巣を取り出してメロンに渡した。


「どうしても鱗がいる。もし僕がだめだったら、きっとみんなで解毒剤を作ってほしい!」


「何言ってんだ!」


春風が怒鳴った。


「ごめんみんな。みんなはなんとかあいつから逃げてくれ。僕は行く!さよなら!」


そういうとポルポは空気の球の下に思いっきり頭から飛び込んだ。


ポルポの体は勢いよく球から飛び出し、ポルポは水の中へ出た。

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