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春風のヒストリア  作者: モトハル
春風_神官学校編
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剣武クラス4 失恋と影

ウルガ山脈の南にブリテン王国があり、北にロエリア公国があった。


ウーノはロエリア公国の出身だった。


五年前、まだ分校に入学する前のウーノは、自分の住む村の近くの森へ薬草を取りに入った。


その頃、森に山賊が出るという噂があった。


が、足の速さと身のこなしに自信があったウーノはどうという事はないと甘く見た。


無事に薬草を採取し帰ろうとした時、根城を巡回していた山賊たちに見つかり、走って逃げた。


人間の少女にしては素早い逃げ足だった。


逃げ切れると思った。


しかし、狡猾な山賊たちは足の速いウーノを追いかけて取り押さるのではなく罠のある道に追い込んだ。


右足を縄の輪っかに絡め取られたウーノは、逆さまの格好でするすると木の枝にぶら下げられてしまった。


「何するんだ!離せ!」


「生きのいい野うさぎじゃねえか、へへへ」


ウーノはじたばたして精一杯の強がりを見せたが、森の奥深くで捕まってしまった以上もはや逃げられるわけもなかった。


このままでは殺されるか、あるいはそれ以上につらい事になるしかないと恐怖にかられ、幼いウーノは大声で泣きわめいた。


そこに若い一人の青年が通りがかった。


青年は兜をしておらず鎧も革製の軽装だった。


しかし腰に下げた長い剣が青年を剣士の風体たらしめていた。


すらりと長身だが屈強とはとても呼べないほど線の細い青年は、木に吊り下げられて泣き叫ぶウーノを取り囲む山賊たちに


「何をしている」


と言った。


見た目からは想像できない、自信に満ちた低い声だった。


「仕事だ馬鹿野郎」


笑いながらそう言った山賊に青年は


「女の子を泣かせる仕事などない」


と言った。


山賊は十人いた。


皆大柄で戦士崩れのいかにも戦い慣れした面々だった。


山賊たちは各々剣を抜くと、木からぶら下げられたウーノの下に立った青年を取り囲んだ。


青年も剣を抜いた。


装飾こそ質素だったが、美しい波紋を見せる片刃の長剣だった。


「成敗する」


青年の一言を聞いて山賊たちが笑った。


「成敗ときたぜ。たった一人で何ができる。頭イカれてやがるな」


一瞬だった。


逆さまで涙目のウーノにはいったい何が起きたかよく見えなかった。


山賊たちの威嚇する声が聞こえた後、剣を切り交える金属音すら聞こえないまま山賊たちの断末魔だけが聞こえた。


青年は剣を二、三度振り山賊たちの血が振り払った。


剣がうすぼんやり青く光と、まるで呼吸をするかのように光は明滅した。


青年は剣でウーノの足から伸びる縄を切った。


素早い動作で剣を鞘に納めると、枝から落ちてきたウーノをしっかりと抱き止めた。


「大丈夫。もう心配ない」


泣きっ面のウーノは青年に抱きしめられたまま青年の顔を見た。


精悍な顔つきの、青年と呼ぶには幼い素敵な笑顔がそこにあった。


その後すぐ、心配してかけつけた村人たちと合流した。


父親がウーノを抱きしめた時すでに青年の姿はなかった。


その青年がどこかの貴族の子息でブリテン神官学校の生徒バルトだと言う事を突き止めるのに一年かかった。


バルトが自分と同い歳である事を知ると、ウーノは運命を感じた。


出会うべくして出会った自分の王子様だと直感した。


そうしてウーノはバルトに二年遅れて分校に入学した。


バルトと仲良くなりたい一心だった。


騎士になるとかならないとかそんな事は二の次だった。


だが入学してすぐ、バルトの横にいつもいるマリアの存在を知った。

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