剣武クラス1 大変な予感
バルデラ世界に来て三週間が過ぎ、春風はすっかり神官学校に馴染む事ができた。
学友も教師も春風に優しくしてくれた。
学校と言ってもやる事は魔法の勉強と剣の修行だった。
春風は魔法クラスも剣武クラスも一生懸命に頑張っていた。
魔法は授業以外にも、入学式以来毎朝ソフィエに、毎晩ヨランダンに一対一で魔法の指導を受けていた。
朝晩に教わる魔法は授業ではほとんど触れない古代魔法だった。
ゴレム召喚事件を受け春風の古代魔法に対する素養の高さを理解したデルタは、春風が古代魔法を使いこなせるかもしれないと見込んだ。
デルタは教師たちへ、神聖魔法でも精霊魔法でもなく、古代魔法を教えるように指示した。
古代魔法を使いこなせる魔術師はデルタの師匠であり当代随一の魔術師であるローゼス以外にいなかったので、デルタの指示を聞いた教師たちは当初無茶な話しだと思った。
しかし、朝晩の訓練で春風が容易に古代魔法を操る様を間近で見たソフィエとヨランダンはそれがあながち無茶ではないと気がついた。
春風にとってほとんどカタカナ表記に見える古代魔法の書物を読む事など造作がなかった。
なにより春風の心臓と血管を構成する莫大なマナが、多量のマナを消費する古代魔法の詠唱に絶えうる力を春風に与えた。
正確に古代呪文を読解できる事と尽きることのないマナは、古代魔法を使う上でこれ以上ない圧倒的な素質だった。
一方授業で習う神聖魔法は信仰のない春風には一度も発動させる事ができなかったし、詠唱時に計算を伴う精霊魔法も全くと言っていいほど使えなかった。
ともあれ朝晩の古代魔法の基礎訓練は最初の二日で終了し、それからの五日間での訓練が終わると、魔法書を見ながらであれば、ソフィエとヨランダンが使える古代魔法の全てを使えるようにまでなった。
しかし魔法書に書かれているすべての魔法を自在に使えるわけではなかった。
いつでも瞬時に使えるようになるには呪文を暗記しなければならなかったし、呪文を適切に調整するための言い回しの文言は無数にあったので、八日目から春風はお気に入りの古代魔法の暗記に努めた。
古代魔法が使える事を学友に自慢したい気持ちに駆られた春風だったが、ブリテン王国において古代魔法は魔術師資格がないと使用してはならない決まりだったので、春風がこの難解で強力な魔法を使えるという事は秘密にされた。
そういうわけではがゆくも春風は魔法があまり上手ではない生徒として皆に認識された。
だがその事は異世界から来た春風にとってむしろ良い方向に働いた。
面倒見のよい生徒たちが春風にいろいろと教えてくれるきっかけになったのだった。
そのうち、小柄で少年のような出立ちの女の子ウーノと、春風より一回り大柄でのんびり屋のポルポの二人が春風にずいぶんよくしてくれるようになり、三人は仲良しになった。
ウーノとポルポは魔法も剣もそれなりにこなす、いわば感のいい器用なタイプだったが、どちらも飛び抜けてできるというわけではなかったので、後二年で資格試験に合格できるほどにまで成長できるかまだわからない状況だった。
騎士志望のウーノは自分の剣に悩んでいたし、ポルポに至っては剣と魔法どちらに関する興味も薄れてきていて、学校を続けるかどうかを悩んでいた。
そんな二人が魔法も剣も教えてくれたのだが、春風の腕前はなかなか上達しなかった。
そうして春風は魔法も剣も得意ではない生徒という風に皆に認識されるようになった。
その日、剣武クラスを履修する二十四名の生徒が剣武館に集まっていた。
生徒は皆更衣室で道着に着替えた。
道着は柔道着によく似た作りで違いといえば下衣がニッカポッカ風に丸みをおぼていて足首が窄められている事であった。
道着の色に決まりはなく皆手染めで色々な色に染めてあったし、刺繍を施した道着を着る者もあった。
帯の色が熟練度に応じて変更され、有段者が黒色になる辺りは全くよく似ていた。
剣武館内は石畳だったので、生徒たちは皆厚手の靴下のような足袋のような剣武靴を履いていた。
最後に木製の防具をはめ、重い木刀をさげると、生徒たちは剣武館の中央に集まった。
ちょうどそのタイミングで剣武館の扉が開き、道着に黒帯を巻いた若い男女が入ってきた。
マリアとバルトだった。
「諸君、ごきげんよう。今日はマーレ先生が不在なので我々二人が指導する」
鍛えられた腹筋から出るよく通る声でマリアが言った。
「マロン。師範を手伝ってくれ」
バルトがマロンを呼んだ。
「はてにゃ?」
マロンが生返事をしてマリアの方を振り返った。
「あちゃー。今日は大変だ」
そういうとウーノとポルポは顔を見合わせた。




