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春風のヒストリア  作者: モトハル
春風_神官学校編
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入学式 古剣の一撃

その頃春風は、寄宿舎から出て分校生徒の集合場所へ向け、一人で校庭を歩いていた。


見渡す限り本校の制服を着た生徒ばかりで、本校とはいったいどんなマンモス校なのかと思っていると、校庭の一角に人だかりを見た。


人だかりの中を見ようとして飛行魔法で宙に浮いている者すらいた。


一体何事なんだろう。


春風がその人混みを横目に見ながら歩いていると


「アルファンが分校の生徒相手にまたやってるらしいぞ」


「またかよ。性懲りも無くまたバルトに挑んだってか?」


「いや、相手は猫獣人で、魔術クラスらしいぞ」


という会話が聞こえた。


ん?魔術クラスの猫獣人?


春風は気になって足を止め、群衆をかき分けながら人混みの輪の奥へと進んでいった。


その頃アルファンは青白く輝く古剣を上段に構えたまま、メロンににじり寄っていた。


もうあまり後が無いメロンは、渦を描くように少しまた少し斜め後ろへジグザグに下がっていった。


無礼な下民を成敗してやるのだと気負ったアルファンは足を止めた。


もう間合いを詰めるのは十分だ。


アルファンはメロンとシエラを交互に見据え、最後に踏み込む隙を探した。



一方メロンは、勝ち負けではなくどうすれば怪我人が出ないかを考えていた。


アルファンの剣が帯びる魔力は最初とは比べ物にならない。


あんなのが当たれば、怪我で済むはずがない。


メロンは必死で考えたが、この状況を打破できる魔術や格闘術は彼の手の内になかった。


そもそもなぜこんな戦いをしているのかと思い至った時、彼はこの状況を打破できる唯一の方法を思いつた。


もうそれしかないと判断したメロンはそれを実行に移した。


メロンは掲げていた杖を下げ、精霊魔法を解除した。


シエラがシーラになり霧散するとメロンは


「まいった」


と言った。



これでアルファンの溜飲が下がらなければ、蹴るでも殴るでもされよう。


マロンに殴られるのに比べたら大した事じゃないに決まっている。


自ら負けを認め戦いを放棄した事を知ったら戦い好きの姉マロンは怒るかもしれない。


喧嘩を見物する群衆から誹りを受けたり、笑われたりするかもしれない。


思春期の男の子のメロンにとってそれは嬉しい事では決してなかった。


だが、誰かが怪我をしたり、あるいはそれ以上ひどい事になるのはもっと嫌だった。


メロンはそこまで思いを巡らせる事のできる少年だった。


ソフィエはいつも、生徒たちに命の尊さを説く。


メロンは師の教えをそのまま実行したと言ってよかった。


だが争いは止まらなかった。


マロンの言葉は、相手の隙を窺う事だけに集中していたアルファンの耳に届かなかった。


シエラが消えた時、水の精霊が防御から攻撃に転じたのだと思ったアルファンは咄嗟にここしかないと判断し、


「おらあっ!」


という掛け声とともにメロンに走った。


アルファンはメロンの目の前で踏み切って飛び上がると、振り上げた剣をメロンの頭に目がけて思いきり振り下ろした。


負けを認めて勝負を放棄すれば、誰も犠牲にならずに済むと思ったマロンの読みは完全に外れた。


自尊心を犠牲に戦いを終えようとした若い猫獣人の頭上に大量のマナを蓄えた美しくも恐ろしい小剣が正確にメロンの中心線を捉えて振り下ろされた。


群衆をかき分けマロンのすぐ背後まで進んで来ていた春風は、生徒たちが悲鳴を上げながら左右に散らばったおかげですっかり前が見えた。


春風が前を見るとすぐ目の前にへたり込んだメロンがいた。


メロンに声をかけようとした時、振り下ろされるす剣が見えた。


メロンは動く事ができずにただ自分に振り下ろされた凶刃とその剣を振るうアルファンの鬼のような形相を見ていた。


あれ、僕は死ぬのかな、と思い膝から力が抜け崩れ落ちた。


膝を崩してしゃがみ込んだメロンの背後にいた春風の頭に剣が振り下ろされる格好になった。


状況を確認する暇などなく、春風は何も考えていなかった。


春風の両手がメロンの頭上でアルファンの古剣の刃を両手で挟んで止めた。


振り下ろされた何かを反射的に止めようとした、無心の真剣白刃取りだった。


剣に触れた時春風の心臓が再び大きく脈打った。


一瞬のうちに春風の体中の血管やリンパ腺にマナが行き渡った春風の時間感覚が周囲とずれ、春風はまるでスローモーションの世界をみているような感覚に陥った。


いったい何が起きたのかわからないまま春風はゆっくりと動く世界にいた。


速さを失った世界で、本校の生徒が振り下ろした剣を自分が両手で挟んで受け止めたのだと理解した。


だがその後、自分を含む全ての存在が形を失い、形取られた光になった。


周囲にいた生徒たちは弱い光に、目の前にいたメロンと本校の生徒も弱い光になった。


地面も全体的にぼんやりと光っていて、そして、自分が両手に挟む剣が最も強い光を発していた。


剣の光が自分の両手を伝い体の中に流れ込んでくるのが見えた。


再現なく力がみなぎっていき、両手で止めていた剣がずいぶんと軽くなっていった。


とにかく今の状態は危険だと判断した春風が両の手のひらに挟んだ剣をそのまま上へ引っ張ってみるとアルファンの両手から光の塊がすっぽりと抜け、そのまま春風の掌からも離れた。


剣が手から離れた瞬間、時間と世界が元に戻った。


飛び込んできたアルファンの額と春風の額が衝突し、古剣は完全に輝きを失い回転しながら三人の頭上へゆっくりと飛んでいった。


メロンを間に挟み、春風とアルファンは大きかぶさるようにして倒れ込んだ。


春風は激痛にもんどりうち、額を両手で抑えひーひー言いながら地面を転げ回った。


メロンは挟まれたが直接を受けずに済んだので怪我もなく元気だったが、斬られたと思ったのに自分の下に気絶して泡を吹くアルファンがいて、状況が全くわからなかった。


「危ない!」


周囲を囲む誰かの声がした。


回転しながらずいぶんと上空まで飛んだアルファンの剣が上昇をやめ、重力に引かれ落下していた。


刃先はメロンとアルファンに向いていて、このまま落ちれば二人が串刺しになるのは明らかだった。

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