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春風のヒストリア  作者: モトハル
春風_神官学校編
33/61

祈りの言葉

風を感じ、奥の勝手口が少し空いている事に気が付き春風はその扉を開け外に出た。


店の外壁に剥き出しの階段があり、上を見上げると二階の屋上から空へ、エリがくゆらせる煙が立ち上っているのが見えた。


春風はふらつきながら階段を上がっていった。


階段を登り切る少し手前で座り込み煙をくゆらせるエリがいた。


春風は無言でエリの横まで歩いていった。


「いい飲みっぷりだったよ。あんたも、センセイも」


エリはあごをしゃくり屋上の端っこを示した。


そこには膝をつき夜空に祈りを捧げるソフィエの姿があった。


「屋上あるかって言うから案内したらさ、ゲイルに祈るってんだよ。もうずいぶんあの格好したままさ。会った事もない人間のためにあんなに祈れるなんて、大した子だね」


すこし沈黙がってから、遠くを見つめるエリが


「綺麗だね、ウルガ山」


と言った。


春風も同じ方を見た。


遠くに見える巨大な山の上の虹が、まるでダンスホールのようにキラキラと光っていた。


「あの人、ほんとは最後になんて言ったか、当ててやろうか?」


春風は少し驚いた顔をして、エリを見て頷いた。


「俺の事は忘れてさっさと次の男見つけろ、でしょ?」


「すごい。なんでわかったんですか?」


エリは両手で階段の手すりを持ち、少しばかり膝を曲げて下を見て


「あの人、仕事に行く前と帰ってきた晩はいつもアタシを抱きに来るんだ。そんで、いっつも言うんだ。


俺が死んだらさっさと忘れて、次の男探せって。お前はいい女だからって」


少し沈黙があった。


「あの、僕らも祈りませんか?ソフィエと一緒に」


と春風が言った。


エリは春風を見てキセルの火を消した。


「看取ってくれたのはアンタなわけだし、そうしようか」


と言って二人は階段を登り屋上に出た。


「ありがとね」


顔の前で両手の指を組んで握り、目を閉じてひざまずいたままのソフィエにエリが声をかけた。


「この子が一緒に祈ろうって言うから来たんだけど、いいかい?」


「はい、もちろんです」


三人は横並びになってウルガ山を向いて跪いた。


「ゲイルさんは神への信仰がおありでしたか?」


「まさか。あの人も私も神に祈った事はないよ」


「では、私の守護神バリスに祈りましょう」


「そりゃあいい。確か乙女の守護神だっけ?あの人、次はあんたみたいな可愛い子に生まれ変われるかもね」


と言ってエリは笑った。


三人がソフィエのように手を組むと、ソフィエが祈りの言葉を述べた。


「慈愛に満ちた神バリスよ。ウルガ山にて果てた全ての生命を、そして、マナとなったゲイル・トゥウォーノの魂を安らかに鎮め、導き給え」


長い沈黙が続く中、エリの嗚咽が聞こえた。


春風が横をみると、エリは涙を流していた。


春風は黙って横にいた。


しばらく泣き続けて泣き止んだエリが顔を上げ、ウルガ山脈の方を見て


「大バカヤロー!ゲイルのクソヤロー!さっさと死んじまえ!お前なんかよりいい男なんて、山ほどいるんだからなーっ!」


と叫んだ。


エリは泣き腫らした顔で笑顔になって春風を見て


「あー、すっきりした。ソフィエ先生と、アンタは名前なんだっけ?」


と言った。


「春風です。天野春風。みんなにはよくハルって呼ばれます」


「ハル、ありがとね」


と言って春風とソフィエの頬にキスをした。


「さあ二人とも。片付けするよ。手伝ってくれる?」


三人は大量の洗い物を片ずけ、春風とソフィエは二人で夜更けに寄宿舎へ歩いた。


途中、犬がマーキングをするかのように春風が至る所で吐きまくり、その度にソフィエが介抱した。


「ソフィエもずいぶん飲んでた気がしたけど、平気なの?」


ゾンビのような顔の春風が聞いた。


「わかりかせんが、吐き気はありません」


「いつも結構飲むの?」


「お酒は神事の時以外全く。ちゃんと飲んだのは初めてかも。でも...」


「でも?」


「でも、お酒って楽しいですね」


と言って、ソフィエはにっこりと笑った。

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