校長室会議_敵の正体
医務室に春風とトトを残し、昨晩月落人救出作戦に関わった分校関係者の面々と、来年退官予定の学年主任のマーレ、去年赴任したばかりの新任教師サイファー、事務部を一人で切り盛りするベテラン事務員のメリッサを含む分校教師全員が校長室に集まっていた。
月落人を確保した分校の今後について話し合うために午後一で集まるようにとデルタが指示をしていたのだが、その話の前にデルタは今朝起きた古代召喚魔法の騒動について報告を受けた。
春風が不完全な古代召喚魔法を唱え暴走し極度の呪体になったがなんとか一命を取り留め、今は心身ともに落ち着きを取り戻し医務室のベッドでトトに見守られて安静にしているとソフィエが伝えた。
「そうでしたか。みなさんよくやってくださいました。ありがとうございます」
デルタは皆を労った。
「後で様子を見に行きましょう」
と言ってデルタは本題を話し始めた。
当初、月落人確保に成功すればすぐにブリテン城へ赴いてブリテン王マルローに謁見し、その身柄を国王に直接手渡す手筈になっていた。
しかし、先月急にマルローの健康不良による退位が発表され、同時に新国王にエリウス三世が就く事が発表された。
分校が月落人を確保した場合の手順は追って指示を出す、と宮廷神官府に言われたまま進展がなかった時に春風がやってきた。
新国王戴冠式まではマルローがブリテン国王である事に変わりなく、従って春風を連れてマルローに謁見を願い出るのが通常の正当な手続きであった。
ところが、始まりの泉で見た魔術師は神官の可能性があると言うソフィエの報告を受け、デルタ達は城へ行くのを躊躇わざるを得ない状況になった。
今朝、審問を受けるために呼び出されブリテン聖教中央聖堂へ行き、ウォーリスが月落人を狙う一味である事を確信したとデルタは話した。
昨日はじまりの泉に現れた魔術師たちはブリテン聖教会の神官たちである事はもはや疑いようがなく、先ほど初めてドイルを見たソフィエの見解も一致した。
そして彼らはマロンの靴下で脅してきた事も話した。
一同はマロンがはじまりの泉へ侵入する常習犯だと言う事にも驚いたし、それを見て見ぬふりをして放っておいたデルタにも驚いた。
しかし、月落人を狙う敵集団がブリテン聖教会だと聞くと、マロンが王国令を侵していた件はどうでもいい小事に思えた。
「ほんとかいな?まさかブリテン聖教会が丸ごと敵だってのか?」
ゲンスイがソファにもたれ掛かって驚いて見せると、
「でも、だとしたらなぜ表立って言って来ないのです?」
サイファーが不思議がって聞いたが、最もな質問だった。
国王の直命を受けた王国軍とは別働隊として、国王のためにブリテン聖教会も月落人を探しているというのは周知の事実であった。
月落人保護は王国令であり、いついかなる時に月落人を見つけても国王へ直接連絡しなければならない。
聖教会が国王の勅書を持ってくれば、分校は疑いもせず月落人天野春風を引き渡していた。
「国王の意向を受けずに動いている、という事でしょう」
窓際に腰掛けているマンソンが言った。
ヨランダンは差し入れとして自分が持ってきたカップケーキを食べながら黙って聞いている。
皆のためにてんこ盛り持ってきたのに、もう三分の一を一人で食べてしまっていた。
「国王に敵対してる?ウォーリス枢機卿が?それともブリテン聖教会が?」
ゲンスイがマンソンに聞いた。
「詳しくは何とも。しかしウォーリスとドイルの二人、そして泉に現れた八名の神官魔術師は確実に」
マンソンはソファに座る皆を振り返って答えた。
ソファと少し離れた場所にある自身の椅子に座り、自身の事務机に両手を乗せたデルタが
「ウォーリスはわずか十年で枢機卿になりました。それはある王族の庇護があったからだと言う噂があります」
と言うと一同がデルタを見た。
「王弟ルーエン殿下です」
全員が驚いた顔を見せた。
ゲンスイがデルタを見て
「おいおい、それって...」
と言った。
「はい。ルーエン殿下はエリウス三世の新国王就任がなければ国王になっていたお方です。そのお方が国王の意向に沿わず独自に月落人を手中に収めようとしていると言う事は、そういう事です」
謀反。
長い間次期国王と見做されていたルーエンには擦り寄ってきた多数の人間による広い人脈があった。
それらルーエンを支持する人々は未だエリウス三世を認めておらず、どこの馬の骨ともわからない新国王を直ちに排し、ルーエンを国王に担ごうと目論んでいた。
そのためには力がいる。
月落人の持つ力は人物によって異なるが、必ず何かしらの強い力を持っている事は歴史が証明してきた。
月落人の力は、玉座を奪うために是が非でも必要だった。
「そんな物騒な状況で、わしらが小僧を城へ引き渡して大丈夫なのか?」
「そうねえ。新国王もまだどういう人かわからないし心配だわ」
ヨランダンが珍しく食べる手を止めて口を出した。
「マルロー国王への謁見は不可能でしょうか?祈りの塔に入られると聞きました。あそこならルーエン殿下の影響もないかもしれません」
不安げなゲンスイとヨランダンにマンソンが言った。
祈りの塔はブリテン城の北西三十キロ先、神官学校とウルガ山脈の間付近にあるララ湖の中心島に建てられた巨大な塔で、神への祈りを捧げるための場所だった。
「じゃがどこに間者が潜んでいてもおかしくない状況じゃからのう」
「校長には案があるんでしょ?いつもみたいに」
メリッサがデルタを見て言った。
「それなんですが」
とデルタが切り出した。




