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春風のヒストリア  作者: モトハル
春風_神官学校編
24/61

玉座

ブリテン聖教会中央聖堂司祭執務室での審問を終えたウォーリスとデルタは、聖堂の外へ出た。


そこに、列を成した騎馬隊が並んでいた。


入学式を明後日に控え、祭壇の最上段に設置する玉座を分校へ運ぶ手筈になっていた。


ブリテン兵士を乗せた先導騎馬が四騎、続く監督者用馬車が一台、その後ろに式典で使用するための玉座を乗せた馬車が一台、そしてなんと馬車の後ろに護衛としてそれぞれが単騎で馬にまたがるブリテン騎士が四名、宮廷魔術師六名、神官魔術師十名もついた。


これはもちろん、人ではなく玉座を守るためにつけられていた。


最も、監督者用馬車にデルタら高位魔術師が三名も乗っていたので本来は護衛など必要ではなかったが、これもいわばウォーリスの計り事だった。


この玉座に傷ひとつでもつければ明日はないぞ、とデルタに無言の圧力をかけていたのだった。


分校まで二時間はかかる馬車の中で、デルタ、ウォーリス、ドイルの三人はブリテン王国の行く末について語り合った。


「全く帝国などと仰々しい。つい十年前までハナナ共和国とかいう気の弱そうな弱小中の弱小であったくせに。だいたいデランなどという男はブリテン王を差し置いて帝王などと名乗りおってけしからん奴だ。あんな者は口先だけの詐欺師だ。新国王さえその気になれば私が先陣を切って撃退してみせましょう」


鼻息荒くそう言うと、ドイルは低いガラガラ声で高らかに笑った。


「デルタ先生は新国王をどのようにご覧に?」


ウォーリスが静かに聞いた。


「まだなんとも。しかし王位継承順を十六人も飛ばしたわけですから並のお方ではないでしょうな」


「デルタ分校長。そんな当たり障りのない意見は分校の生徒でも言えましょう」


ドイルがデルタにつっかかった。


そしてドイルはデルタを校長と言わず、分校の校長、分校長と呼んだ。


「確かに」


と言ってデルタはふふふ、と笑った。


それが癪に触ったらしく、ドイルは分校批判を始めた。


「まったく。分校長がそれでは分校が思いやられる。いっそ閉鎖して本校に併合してはいかがか?」


「それは困ります。分校には貧困者が多く、仕事をしながら学んでいる者もおります。とても本校には通えません」


「そんな者達は無理に学ぶ必要はないでしょう。分をわきまえて生きればよい。なまじ学びの門戸など開くから無駄な夢を見て集まってくるのです。神官学校は国家の中枢を担う人材を育成する機関であって庶民の学びの場でない」


「一理あります。しかし庶民が学ぶ事もまた国にとって重要な事です」


「ウォーリス枢機卿も何か言ってやって方がよろしいのでは?分校長は石頭のようだ」


「口が過ぎますよドイル副校長。そして今年一年、このローブを着ている間は枢機卿ではなく校長です」


とウォーリスが言った。


校長の二人は深い藍色の、副校長は紫色のローブを着ていた。


喧喧諤諤けんけんがくがく、道中話し込んだ三人はやがて分校に着いた。


校門で出迎えたマンソンは、朝方のゴレムの件の気配を微塵も見せずに笑顔で三人を迎えた。


校庭まで馬車で乗り入れて運ばれた玉座は、六本足で組まれたやぐら内部の階段を慎重に登っていき、最上段に設置された六角形の屋根の下の十畳ほどの広さの床面に設置された。


二日後、校舎より頭ふたつ大きく、五階建てほどの高さのこのやぐらに新国王が登る。


ウォーリスはここに仕掛けをした。


新国王が玉座に座れば、王の自重で櫓の骨組みの一つが音もなく折れる。


なぜならその骨組みの木に細工がしてあったからだ。


真偽を同化させる魔獣メラフの唾液が塗ってあったので見た目にはわからない。


折れた骨組みの歪みは全体へ波及し、祭壇は校庭側へ倒れるようにしてあった。


この急拵えの大きな祭壇を全校生徒の目の前で崩壊させ、新国王を殺し、ついでに何名かの教師や生徒を道連れにすれば、入学式責任者のデルタは死罪、そして分校の閉鎖は免れない。


一方ウォーリスは当日の責任者ではなく、エリウス三世をよく思わない王族の庇護を取り付けてあったので不問になる事が決まっていた。

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