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蘇る聖女

 YOUさんはドラムを止めた。


「その子どうしたんだ?」

「あ……多分音量が大きくて驚いたんだと思う」


「そっか……ちょっと俺、トイレいくわ」


 YOUさんは怒っているのを抑えようとしているのが分かる。


「奏、おまえもトイレいくだろ?」


 そういわれ、修二を見ると奴は目を逸らす。修二もわかっているのだろう。


 恐る恐るYOUさんの後についていくとトイレの前で振り向く。そして俺の胸ぐらを掴んだ。


「どういう事だよ?」

「い、いや……」


 ただでさえ少し怖い雰囲気に迫力が付いている。

「だからどういう事だって聞いてんだよ?」

「彼女は、音量に……」


「そんなこたぁ見りゃわかんだろ? なんでそうなってんのかって言ってんだよ?」

「……」


 胸ぐらを掴む手を離すと、静かに聞いた。

「みた所、マイクの使い方もよくわかってないだろ? お前何をみて連れてきたの?」

「彼女の……」


「勘違いするなよ? 別に彼女は悪くねぇからな。お前俺がカラオケで試しているの知ってるよな?」

「はい……」

「お前が一回でもカラオケ行ってたら彼女も気まずい思いしなくて済んだんじゃないのか?」


 YOUさんのいう通り、俺はアンプ越しで試してはいない。次のスタジオまでに試す事だって出来た。1人にしたくないとか、気持ちが焦っていたとかはいい訳でしか無い。


 ナルタナは異世界人。彼女の事をもっと考えておかないといけなかった。


「もういいよ……」

「YOUさん待ってください……」


「もう、辞める。こんな事しててもいみがねぇ……俺帰るわ」

「頼みます、彼女の歌を……」


「辞めるって言ってんだろ!」


 彼の迫力に、俺は言葉を返せなくなった。入り口を出て行くのをみて立ちすくんだ。今の状況でYOUさんを追いかけてどうにかなるとは思えなかった。


 しばらく立ち尽くして、ブースに戻ると修二がナルタナと話しているのがドアのガラス越しに見える。中に入ると修二は意外にも和気藹々と話している様子だった。


「えっと、修二は何はなしてるの?」

「いやぁ、ナルタナちゃんが初めて爆音聞いてびっくりしたっていうからさ?」

「なるほど……」

「それで……YOUさんは?」


 俺は首を左右に振る。


「ふぅ……多分そうだと思った……」

修二は仕方なさそうな顔をして、続けた。

「でも、説得出来なかったわけだ?」

「うん……」


ナルタナは悟ったのだろう。


「ごめんなさい……」

「俺こそごめん、アンプとかそりゃ初めてだよな?」


 俺がそう言うと、修二がかぶせる様に入ってきた。


「てゆうか当たり前だろ? 聞いたよナルタナちゃんの出身地……」

「そっか、聞いたのか……」


「正直ぶっ飛び過ぎてて笑ったけどな! でさ? ちょっと見てくれよ?」


 そう言うと、修二はギターの音量をあげる。

「要は、トラウマや敏感なわけじゃなくて単純に予想が出来なかっただけなんだよ。だから……」


 歪みを絞り、クリーントーンで弾き始めた。


 すると、ナルタナはマイクを持って歌い始めた。生で聞いていたより迫力のある声がスピーカーから聴こえてくる。


「ほらなぁ、結構すぐに歌える様になったんだけど? しかも超上手いのかよ」

「うん……それは知ってた」


 修二は、そっと俺の肩を叩いて、顎でドアを指した。


「YOU兄さんの事、迎えに行って来いよ?」

「いや、でもYOUさんは帰っちゃったし……」


「え? ああ、多分すぐ外に居るんじゃないか?」

「なんでだよ……」


 修二は、ドラムセットを指差す。

「だって、ドラムの機材置いたままだしさ?」


 セットに目をやると、スネアの上にスティックが置いて有るのが見える。


「わりぃ修二! ちょっと行ってくる」

「YOUさんのスネア10万位するから捨てては行かないとおもうぞー」


 すぐ様俺は入り口に向かって走る。外に出ると、案の定修二が言った様にYOUさんの青い髪が見えた。


 恐る恐る声をかけると、意外にもすんなり返事を返した。


「なんだよ……忘れ物したんだよ」

「あの、もう一度だけ戻ってくれませんか?」

「その話か? まぁ、機材取りに戻んねぇといけねぇし……」


 そう言うと、中にはいりブースに向かう。

もしかしてYOUさんは修二の言う様に、待っていたのだろうか?


「それで……彼女歌えんの?」

「はい、一応……あと、話しておきたい事があります」


 彼女の事を少し話すと、YOUさんは何も言わず、少し俯くき、その表情は笑っている様にも見えた。

スタジオを開けると、全く怒っていた雰囲気をださずに、明るく冗談を飛ばした。


「ごめん、ごめん、うんこがなかなかでなくてさ?」

「YOUさんマジうんこ長いっすよ!」

「修二もなげぇだろ?」


 そう言いながら、彼はスティックを持つ。多分YOUさんはこう見えてナルタナに気を使っているのかもしれないと思う、修二もそれを察しているのだろう。


「あ、YOUさん、一旦ドラム要らないっす!」

「は? なんでだよ?」


「ちょっとギターだけで歌ってもらうんで、聞いてて貰っていいすか?」

「あ、ああ。そゆこと?」


 修二は、そういうと少し企んだ様にギターを弾き始める。ナルタナも合わせて直前の様に歌い始めた。


 彼女の声は力強く、さっきより更に表現力が増した様にかんじる。そう、思った瞬間YOUさんはハイハットだけで曲に入り始めた。


「ちょっとYOUさん……それじゃまた、ナルタナが……」


 心配を他所にナルタナは更に声量を増していく。笑顔で俺をみたその表情はまるで"奏は入らないの?"そう煽っている様にも見えて、自然とベースに手を伸ばした。


 Bメロに入る瞬間、俺のベースの音が入る。気づけば、俺たちの音量は本来の音量まで上がり、バンドサウンドを奏でていた。


 なんだよ、歌えるじゃないか。


 サビに差し掛かるにつれ、ナルタナの声量は更に力強く初めて会った時とは違い青く、薄い光がナルタナを包む。


 人と人が本当の意味でわかり合うなんで出来ないと思う。だけど、きっとこのブース内のメンバーは同じ事を感じていて、この共感を何度も繰り返し、次第に絆に変わって行く。そう思った。


 だけど、3分の曲は短くあっという間に終わりを迎えた。


 演奏の余韻が残る中、YOUさんが何かを叫ぶと、スティックを俺に投げ、背中に当たる。


「痛っ! ちょっとなにするんすか!」

「すげーいいよ!」

「YOUさん、それならスティック投げないで下さいよ……」


「これが投げずにいられるかよ!」

「なんで修二がそれを言うんだよ?」


 すると思いついた様にYOUさんはスマホをミキサーに繋ぎ始めた。


「なぁ、この曲カバーしようぜ?」


 そう言って、かけたのは、"メルト"というボーカロイドの曲だった。


「これって、ボーカロイドでDTMの曲じゃないですか?」

「そう、バンドでやったらナルちゃんの歌かなり生かせるんじゃ無いかと思うわけよ?」


「ちょっと、YOUさん、俺ギターっすよ?」

「は? 修二ならどうにでもできるだろ?」

「ま、まぁ……天才っすから?」

「だろ?」


 俺はナルタナを見て声をかけた。

「どう?」

「わたしは……」

「いっちゃいなよ? ナルタナも、もう俺らのメンバーだよ?」


 そう言うと、彼女は笑顔をみせ、「この曲やりたい!」と言った。


「決まりだな!」

「もう、YOUさん無茶苦茶っすよー」

「出来るって言ったんだからな?」


 ボーカロイドの曲をする事にどんな意図があるのかはよくわからなかったのだけど。こうして、案外すぐに解決して俺たちのバンドにナルタナが加わりバンドとして活動出来る様になった。

ようやく4話まで進みました!

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