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聖女と金貨

「俺たちのバンドは……むにゃむにゃ」


 気がつくと寝ていた様でソファーの上で目を覚ました。昨日の聖女は夢だったのか?


「お目覚めになりましたか?」

「うわぁっ!」


 驚いて、ソファーから落ちる。ナルタナはやはり夢では無く家に来ていたのだと理解した。


「ごめん……気づいたら寝てたみたいで」

「色々ありましたので多分、疲れていたのですよ」


 俺はスマートフォンで時計を確認する。昼のスタジオまではまだ3時間ある。


「ちょっとシャワー浴びてくる」


 そう言って、俺はシャワーを浴びて服を着替え、ダイニングに戻る。


「そう言えばナルタナはシャワー浴びた?」

「シャワーですか?」

「一応風呂釜も有るし、お湯溜めてもいいけど」


 そう言うとナルタナは驚く。

「部屋で湯浴みができるのですか!」


「湯浴みって。そりゃ、風呂はあるし……そうか、知らなかったのか」

「わたしの世界では町民は浴場に行きますので」


 ああ、なるほど。あらためて異世界の人なのだとカルチャーショックを受ける。


「それなら、好きなだけ"湯浴み"してくれ!」


 そう言って、俺は簡単に風呂の使い方を教えた。もちろんシャンプーなどの使い方も抜かりなく伝える。


 その間に洗濯をしようと、ナルタナの服を持つ。あれ、ナルタナは風呂から出たら何を着るんだ? これは……YOUさんキレそうだしなぁ……。


 ナルタナが風呂から上がると、着替えの事を伝えた。


「あのさ……悪いんだけど、もう一度同じの着てくれないかな?」

「はい、構いませんよ?」


「また、替えの服買いに行こうな……」


 文化の違いなのか、彼女はあまり気にしてはいなかった。シャンプーで更に髪ツヤツヤになってない?

と思ったが、言わなかった。


 支度を終えると、俺たちはコンビニで朝食を買う。俺はおにぎりを買い、ナルタナはイメージ通り普通のパンを選び家に帰る。


「まだ、少し時間があるのだけどどうしようか?」


 そう言うと、彼女は照れながら言う。

「わたし、買取店という所に行きたいのですが……」

「買取店? でも、精霊石は……」

「それはわかってます。持ち物で何か売れないかなと思いまして……」


「なるほど、ちょっと見せてよ」


 彼女はポーチを出し、持ち物を机にならべ始めた。


 精霊石、ペン、小瓶、ロザリオのようなものに、コイン、カードの様な物がでる。


「そのコインは?」

「これはわたしの世界での通貨です……」


「それってもしかして金じゃ無いか?」

「金と言う素材ですが、こちらの物と同じかどうかはわからないですけど……」


「それ、それならもしかしたらそれなりに売れるかも?」

「本当ですか?」


 俺は頷き、持って行こうと誘う。彼女は、疑う様子を見せながらも外に出た。


 駅前の買取店に着くと、俺はナルタナの金貨を鑑定士に出す。


「えっと、これは金ですか?」

「金のコイン3枚鑑定していただきたいのですが……」


 違う可能性もあったのだが、こういう時は言い切る方がいいと思いそう言った。鑑定士はルーペを使いコインをじっくりと見ると、比重計という物を取り出しコインを入れた。


「確かに金ですね……ですが少し純度が悪いので、24金としては難しいです」

「それじゃあ、買取は?」

「22金の相場であれば買い取らせて頂けます」


 俺はナルタナの方を向き顔を合わせてから聞いた。

「それで、幾らになりますか?」

「1枚21.3グラムなので、1枚あたり9万6千円です、22金は約91%ですので……」


 よくわからない説明を始めたのだけど、騙されてはいない様なので手続きを済まる。全部で29万と少しになった。店を出るとナルタナは不思議そうな顔をする。


「ナルタナ! 大金だよ!」

「そうなのですか? あまり反応なさらない様子でしたので安いのかと……」


 29万が、大金なのかは人によるのだろうけど、今の俺には充分過ぎる程多い。当面の生活費を賄える位ではあるだろう。


「そのお金、しばらく奏さんが持っていて下さい」

「なんで?」

「当分は必要な物を奏さんに買って頂く事になりますので……」


 確かに、今のところ彼女が買い物を一人でするのはイメージ出来ない。


「なるほどね! それじゃ、念のため1万だけ持っていてよ」

「はい! いざという時の為ですね!」


 これでナルタナも気負わず過ごす事が出来るだろう、そう思うと金額よりもその事の方が大事だと思った。


 それから俺はナルタナとスタジオに向かう。彼女をみて、更には歌を聞いて2人はどんな反応をするのか楽しみだった。


 少し早くスタジオに着くとスタッフの松田(まつだ)さんに声をかけた。


「松田さん、おはようございます」

「おはようございますー。 あれ? もしかしてその子……」


「うちのボーカル候補です!」

「また、美人なねーちゃん連れてきたな……」

「それでなんですけど……」


「あぁ、いいよオーディションだろ? 決まったら会員登録する感じでいいよ」

「すいません……」


「まぁいつもあるわけじゃ無いし、早く決まってジャンジャン練習入れてくれた方がうちは儲かるからなぁ……」


 松田さんはオーディションという事もあり、融通を利かせ会員料金で対応してくれた。


 しばらくすると、修二が来るのが見える。

「おー奏、先に入っていたのかよ?」

「早く着いたからな!」


 修二はナルタナを二度見する。

「おい、奏。まさか予知夢当たったのかよ?」

「そう!」

「お前、それなら連絡しろよー」


「悪いな修二、昨日寝てしまってて、朝もバタバタしてたからさ……」


 そう言うと、ナルタナはタイミングを見計らっていた様に修二に挨拶をした。


「わたし、ナルタナ・フィオリ・ナ・シスターニャです」

「ほう、ナルタナ・フィオリ・ナ・シスターニャね……俺は修二って何処の国の人?」


 修二は一回で言えるのか……だが、ナルタナの話が長くなりそうなので俺は口を塞ぐ。


「ちょっとその辺りはYOUさん来てからで。多分同じ事あの人も聞いて来るだろうし……」


「りょーかーい! 昨日会った割には仲良さそうだなぁ。奏が気が合うならYOUさんも馴染めるんじゃないか?」


 そのあとスネアを入れた大きな鞄を持ったYOUさんが現れる。彼女を紹介すると予想通りというか、銀髪なのが気に入った様でテンションが上がって俺に囁いた。


「それで、ナルちゃんは歌上手いんだろうな?」

「ヤバいですよ!」

「おしっ! ナイスだ奏、音合わせ楽しみだな!」


 YOUさんは、少し上機嫌に鼻歌を歌いながら受付の松田さんに話しかけに行った。


 俺たちは時間が来ると、ブースに入る。入るのは勿論初めてなのだろう。彼女はキョロキョロを周りを見渡していて、機材やミキサーが気になるのだろうと思った。


 ただ、この時俺はもっとナルタナの事を考えておくべきだった。それぞれのセッティングが終わり、昨日練習した曲のイントロが始まると、彼女は耳を押さえしゃがみ込んでしまった。


 この時ナルタナは、バンドでは歌えなかった。

予約投稿始めました!

出来るだけ毎日朝9時に投稿出来る様にしていきたいとおもいます!

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