第1話 喚ばれた者
出逢いは偶然か必然か
偶然が重なり結果として生まれたものが必然なら
今日の出来事は始めから全て誰かに操られていたのかもしれない
季節は夏も終わる頃――
前日に降った雨の水滴が太陽に照らされカーテンの隙間からキラキラとその光を容赦なく俺の顔に当ててくる
時計を見るといつもより二時間も早い起床だった。
部活に入っていないから朝練もないし加えて家から学校までは徒歩10分、近いが故にいつもギリギリで登校して廊下を走ることになるのだ。
たまには早起きするかー、と ぐっと天井に向けて腕を伸ばす
ちゃんと閉まっていなかったカーテンから差し込む日の光が眩しい
「おはよー」
制服に着替え何時もは落ちそうになりながらバタバタ走る階段を今日は寝癖も整え少し優雅に降りてみる。
高校に入って少し経つがこんなに余裕のある朝は初めてだ
うん、これは良いかもしれない。
鼻高々とどこか貴族になったような気分で台所からポカンと口を開けてこちらを見る母親に声をかけた
「大和、あんたどうしたのこんな早くに!」
「なんだよ母さん、俺だって早起きする日くらいあるよ」
「何言ってんの!いつも起こしても起きないでしょう!もう行くの?まだ朝ご飯出来ていないわよ」
「いいよ途中コンビニで買うから。じゃあ行って来る」
「そう?本当に珍しいこともあるのねぇ」
行ってらっしゃい、気を付けて行くのよ と声を掛けてくる母親に今日はしっかりと返事をして家を出た
しかし二時間早く出るだけで外の様子は全然違ってくるんだなー。
車もそうだけど圧倒的に人が少ない!
もともと家が学校の近くということもあってか普段は同じ制服を着たやつらを沢山見かけてもっとガヤガヤうるさいのに。
このまま直ぐに着く学校に行くのも面白くない為、俺は早起きの王道 探索 をしながら知っている様で知らない道を進んで行く。
キョロキョロしながら歩いているとポツンと佇む小さい神社を発見した。
この辺りは街灯が少ないから夜に通ることはなくかといって通学路でもないから朝も来ることはない。
祭りが出来るようなものではなくただ本当に小さなお賽銭箱や鳥居があるような小ぢんまりとした神社、と呼べるかもわからない所だ
それでも探索の結果は上々。
何より早起きというのは気分が良い。
それを知れたことだけでも大収穫だ。
今日はこのくらいにしていつも遅刻ギリギリで教室に駆け込んで来る自分を大笑いする友人達をどや顔で迎え入れるために学校に向かうとしよう。
っと、その前に
チャリン パンパンッ
「良いことがありますように!」
ちっぽけだけど何となく神秘的な雰囲気を醸し出しているお賽銭箱に小銭を入れ合掌。
もしかしたらとんでもなく御利益があるかもしれない!
良縁良縁良縁…!
煩悩にまみれているかもしれないがそこは大目にみてほいし。
俺だって健全な男子高校、可愛い女の子のひとりやふたりとお近づきになりたいんだ!
最後にもう一度念入りに頭を下げてこれでよし。
そろそろ時間もいい頃合いだろう、これで遅刻してしまってはつまらない。
祭壇に背を向け歩き出そうとした時、
不意に聞こえたガコン、と言う音
そしてゴロゴロと転がり俺の足にぶつかって止まった丸い何か
なんだこれ、透明なビー玉か、?
拾い上げてよく見るがラムネ瓶などに入っているあのビー玉のように見える
というかこれどこから出てきたんだ?
方向からして賽銭箱の下の方からみたいだけど、ガチャか?ガチャなのか?!最近の神社には若者受けを狙ってガチャ機能が備わっているのか?!
と、まぁひとりで騒いでみたがそんな馬鹿な。
ガチャじゃないにしろここで見つけたのも何かの縁、御守りにでもさせてもらうとしよう。
決して猫ババとかじゃないから!違うから!ちゃんと神様にありがとうございます。頂戴致しますって言ったから!!
もう一度ビー玉を掲げて見ると太陽の光が反射して7色に輝いて虹の様に見えた
な、なんだ!?
綺麗だなんて思ったのもつかの間、その光は有り得ない程輝きを増し
やがて俺は強すぎる7色の光に目を開ける事さえ出来なくなった
大陸インドレニ 東部 「青の国」
とある一室
毛並みの良いソファーに座り向かい合うふたりの前には随分と前に冷めてしまった紅茶が置かれている
使われているカップは一級品だがそれを囲む男達の表情はとても楽しい茶会には見えない
ひとりはきらびやかな青いマントを肩に羽織る白髪混じりの初老。
しかし穏やかに見える男の青い瞳の奥はギラギラと輝き一片の老いも感じられない。
そしてもうひとり
三十代の屈強な騎士団長 ニール は茶色い短髪を掻きむしりながら目の前の優しくも鋭い眼孔に負けじと食らい付く。
「王よお考え直しください!禁術を使うなど…!」
「時は一刻を争う、誰かがやらねばならんのだ。待っていたところで何も変わりやしない」
「ですが! 青の民はどうなさるのです?! 王がいなくなればこの国の加護は消え、あっという間にカラスどもの侵入を許し皆食われてしまいます」
勢いよく立ち上がった際ガタリとテーブルが揺れる
「仰る通り戦況は非常に厳しいものになっています、敵戦力は増す中で決定的な破壊手段を持たない我々は防戦一方」
グッと力を込める拳に爪が食い込む
「ニールお前も分かっているだろう。このまま行けば七つの国のうち一番先に堕ちるのは我が青の国だ。最早、この窮地を救えるのは芸術者しかおらん」
「申し訳ありません!私に、私達に魔力があれば…!!」
「よい、今や魔力を保持しているのはほんの一握り、ましてや色魔法は七国王にしか使えん物になった」
「ですが魔力があれば王より授かり色魔法をその剣に宿しカラス供を消滅させる事ができます、色人や芸術者がいなくとも我々だけでも対処できたというのに!!」
「仕方あるまい。他の国に援軍は望めない、民を守る為ならばどんな禁術にも手を出そう」
「しかし!」
青い瞳が男を貫く
「お前は手筈通り洞窟に行きニホン国の血を引く者を待て。わたしが全てを懸けるのだ、安心しろ失敗はせん」
「そしてこの核を必ず渡すのだ。いいか必ずだ」
厳重な箱の中には色の付いた小さなガラス玉が一つ
「それから喚ばれる者にすまない、と伝えておいてくれんか。ニールよ、頼んだぞ」
「必ず、必ず…!」
芸術者がいればこの国は救われるだろう。
此方の都合に巻き込んでしまうまだ見ぬ者に言い様のない感情が込み上げてくる
「しっかりと守ってやってくれ」
箱の中で青がキラリと輝いた