#12 そして2年後
この世界に来て3年がたった。
最初の半年ぐらいは水槽に浸かってただけだが、それからの2年半は色々あった。
死にかけたことも何回かあったが概ね楽しい日々だったと思う。
それもこれもテルや屋敷のみんなのお陰だと思う。
しかしテルたちはこのダンジョンに縛られてる。
昔交わした約束(誓約)の為だとは聞いたが、みんな理由は話してくれない。
詳しく聞いたこともあるが、人に伝えられない誓約らしく書くことも無理だった。
テルたちの過去の話もダンジョンに関わることは誓約で話せないらしいが、それ以外は軽く話を聞けた。
詳しくは省くがある事を切っ掛けにダンジョンの管理をすることになったとの事だった。
そしてダンジョンに人をたくさん呼ぶことが出来れば管理者としての使命も誓約も無くなる。
具体的にはダンジョン来訪者が1000人を越えれば完全に自由になるらしい。
しかし俺が来るまではグレイさんとクレアさんが極短時間だけ街に行けるぐらいで、勧誘や集客等は出来なかった。
最初の頃は色々やってみたらしいが満足に集客出来なかった。
そして集客を諦め無為に過ごしていた時に、俺が突然ダンジョンに現れた。
そのあとはこれまでの通りだ。
ちなみにエリーさんを呼びに行けたのは俺という初来訪者が来たことでグレイさんとクレアさんが少し縛りが少なくなったかららしい。
そしてやっとダンジョンに人を呼ぶ準備が出来た。
今は仕上げにダンジョンの調査をしている。
ダンジョンのマップを20階層まで作り、魔物の分布を調べながら狩りをしていく。
20階層まではマップを作ったがそれ以降は魔物の特徴と分布だけ調べてギルドに渡すつもりだ。
正直1階層が広すぎてこれ以上書く気が失せた。
このダンジョン、20階層までは魔物の分布や罠等も分かりやすかった。
例えば10階層までは獣系の魔物が出てくるが、各階層によってきっちり別れている。
罠も初見殺しは無く、罠の痕跡も分かりやすい。
だが21階層を越えると宝箱に猛毒ガスや、槍設置の落とし穴、転移トラップからのモンスターハウスなどえげつないことになってくるし、痕跡も解りづらくなってくる。
さらに階層の大きさもガラッと変わり、時には外を思わせるような草原地帯や森林地帯だけの階層もある。
魔物も種類が増え連携までしてくる。
さらに魔法を使う魔物も増えるし、状態異常、精神異常を引き起こすような魔物まで出てくる。
俺は魔法や状態異常系に耐性があるので問題ないが普通は対策しないと全滅もあり得る。
そして俺は今回最下層まで進んでいく。
俺が倒れていた場所に行き、本当に踏破してみようと思った。
これまで1ヵ月ほどかけて進んでいるが40階層以降は広すぎる。
例えば41階層は広い荒野のようになっていて、中央に火山があった。
その火山の洞窟を進んで行き火口付近に下への階段があった。
階段もやたらと長い、普通に降って20分ほどかかった。
ダンジョンには10階層毎のボス部屋の先に地上への転移魔方陣があるが、40階層の転移魔方陣から今いる50階層に来るまでに20日かかった。
一応使い捨ての転移魔道具はテルに貰って持ってきているが、これは地上への帰還は出来るが戻ってこられないので最終手段だ。
この先に俺がこの世界に来た所がある。
俺が倒れていた場所の手前の大部屋に着くと、大きな黒いドラゴンが待ち構えていた。
コンタクトレンズ型の【慧眼鏡】で調べる。
【慧眼鏡】は様々な物を鑑定出来る魔道具で、この2年で作った一部だ。
生物用じゃないので、魔物や人間に使っても種族くらいしか表示はされない。
ぶっちゃけ採取用だ。
薄いブルーの魔石を加工したレンズで、中央に魔方陣を刻んである。
左目だけにしているのは、両目にすると視界がぼやけるからだ。
そのため俺の左目は元の赤と慧眼鏡の青が合わさって紫色になっている。
使う時に魔力を込めれば魔方陣が浮かんで表示される。
その慧眼鏡で見ると『成竜(黒)』と出た。
ドラゴン初めて見た!
生ドラゴン初めて見た!
体長15mくらいか、カッケーな、西洋風だ、あの翼で飛ぶのか?
そうだ、こいつ喋るかな?
オークキングが喋るんだから、ドラゴンも喋るよな!
「こんにちは~、喋れますか?」
『ガァァァァァ』
いきなりブレスかよ!
とっさに避ける。
追ってくるので、マジックバッグから【フライングシールド】を出す。
俺は盾を装備出来ないので、考えた通りに動く浮かぶ盾を作った。
ブレスを盾で防ぎ、武器を構える。
右手に刀、左手に魔銃を構え、ブレスが終わると同時に弾丸を撃ち込む。
『ガォォォォン』
威力を重視した為、銃声がデカイ。
連射すると巨獣の咆哮のようになる。
そして接近して刀を一閃、二閃、ドラゴンが怯む隙に下から腹を蹴りあげる。
距離があったせいか鱗に銃弾は弾かれていた。
刀は多少斬れたぐらいで致命傷には程遠い。
つーかドラゴンやっぱり硬いな。
なので至近距離から刀傷に弾丸を撃ち込み。
『ガォォォォォン』
『グァァァァ』
刀傷に銃弾がめり込んでいき血が吹き出す。
「良し効いた」
頭が下がってきた所を、左目に刀を突き刺す。
『ギャァァァァァ』
あんまり素材を痛めたく無いのだが、長引くとこちらもどうなるかわからない。
フライングシールドも半分近く融けているしな。
さらに左目に弾丸を撃ち込む。
『グギャァァァ』
ドラゴンは力なく鳴き、動かなくなった。
ドラゴンはかなり大きいので、大雑把に解体していく。
そういえば刀も魔銃もなんとか通用したな。
少しはドラゴンの鱗も斬れたし、弾丸も鱗が無ければなんとかなった。
後は貫通特化の弾丸も考えてみようかな?
刀はもっと硬い鉱石探してみよう。
「これならこれからも、何とかなりそうだな」
ドラゴンの素材をマジックバッグにしまい、奥の部屋へ行く。
最下層、最奥は5m四方の小さな部屋だった。
直径1mほどの巨大な虹色の魔石?が正面にある。
そして壁も床も天井すら全て水晶のような素材で出来ていて、青白く光っている。
俺が倒れていた形跡は無い。
まぁダンジョンは死体や血など吸収するからな。
一応魔石に触って見るも特に何も起きない。
まぁ何も無いよな。
帰ろう。
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「タッチャンお帰りなさい」
テルが出迎えてくれた。
「ただいま、とりあえず奥まで行ってきたよ」
「どうだった?何かあった?」
「特に何も起きないな、あと一番奥でドラゴン出たよ」
「ここドラゴンいるの!」
「何で知らないの!テルはダンジョンの管理人でしょ!」
「だって別に私がダンジョン作った訳じゃ無いもん」
「つーかダンジョンってどうやって出来るの?」
「魔力溜まりに自然発生するって言われてるよ」
「じゃあ何でテルが管理やってるの?」
「簡単に言うと約束したからなの」
「誰と?」
「それは言えない約束なの、ごめんね」
「・・・・人が来れば解放されるんだろ?」
「うん、それは大丈夫」
「じゃあそれでいいよ、明日から街に行ってくる」
「早く帰って来てよ」
「大丈夫、すぐ帰るよ」
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その日の夜久しぶりに夢を見た。
こたつを囲んで鍋を食べてる夢だ。
地球にいた頃の家族での食事の風景だ。
懐かしい記憶が甦ってくる。
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朝起きるとテルが横にいた。
何度言ってもこの娘、ときどきベットに入ってくる。
最近はテルも成長してきて、少し女っぽくなってるから困るし。
その後準備が出来たので森を行く。
俺はいつもの様に女装だ。
青いホットパンツに黒のタイツと革のショートブーツ、革ベルトの左に白塗りの刀、右に薬ポーチ。
白い長袖シャツとフード付きコート(猫耳)、そして革ベルトの後ろには魔銃を二丁ぶら下げている。
伸長も伸びてきて155くらいになってきた。
髪は肩まであるのでポニーテールにしてある。自分で言うのもなんだが見た目は完全に無乳の女の子だ。
テルも成長し、150cm程になって胸が成長してきた。
Bカップくらいかな?
体つきも女の子っぽくなってきて、絶賛美少女中だ。
テルは俺と違って身体があまり丈夫じゃ無いので、俺が服を作った。
白のワンピースに白のタイツ、靴やアクセサリー関係も俺のお手製だ。
服の素材もかなりグレードアップしているので、そう簡単には破れない。
この2年でかなり魔道具作りは上達したと思う。
今日は使わないが乗り物も作ったし、武器も防具もかなりの量作った。
それらは改良に改良を重ねた腕輪型のマジックバッグに入っている。
今歩いてるのは石畳を引いた幅15mほどの道だ。
この道を森に作ったり、色々ダンジョン周りの整備をしたので、その報告をして、ダンジョンに来てもらえないかを聞きに行く。
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走って来たので昼前には【アトラン】に着いた。
この街の事もこの2年でかなりわかってきた。
街の中央と東西南北の4ヶ所、計5ヶ所の区画で別れている。
中央は行政と公共区画、冒険者ギルドなんかは中央にある。
東側が商業区画、南側は住宅街、西側は端的に言えばスラム街で少し小さめだ。
最後に北側が貴族街になっているらしい。
まぁ貴族街は入った事無いから詳しくは分からん。
俺はいつものように街に入りギルドまで行く。
買い取りの受付に並び俺の番が来た。
「タツキさん買い取りですか?」
「はいそうです」
「では奥の倉庫にお願いします」
そのまま奥へ行き、いつもの様に素材を出すが、今日はいつもと魔物の種類が違う。
倉庫がざわめきだした。
ダンジョンの20階層まで魔物だ。
「この魔物はどこにいたんですか?」
「その事で少し話があるんですが、ゴルディアスさんとお話し出来ますか?」
「ギルドマスターですか、確認してきます、少々お待ち下さい」
それから5分後、ゴルディアスさんの部屋に通された。
「久しぶりだな、まずは座ってくれ」
この前とは違いゴルディアスさんは椅子に座っている。
つーか変わってないな、でかい。
「お久しぶりです、今回はお願いがあって来ました」
「見知らぬ魔物の素材の事か?」
「それも関係あります、簡単に言うと、森の奥にダンジョンがあるので、冒険者に来て欲しいんです」
「ダンジョンがあるのか、しかし森の奥か・・・・」
「森にはダンジョンまでの道を作りました、ダンジョンの回りに宿泊できる建物もあります」
「そこまでしてあるのか、・・・・目的はなんだ?」
目的?最初に言ったよな?
「???ダンジョンに人を呼びたいだけですが?」
「そんなことは分かっている、そこまで準備する目的だ」
「??何も無いですよ」
「ダンジョンがあるとわかれば冒険者はこぞって行くだろう、わざわざそこまでする理由を聞いている」
「???ダンジョンまで来れば、夜寝るところや、食事するところ、色々建物が必要でしょ?道がしっかりして無いと素材や物資を運ぶのも大変でしょ?だからです」
「だからそこまでした君への見返りとかそういうのだ!」
「あぁ、何も無いですよ」
「無いのか!」
「だってお金は今の所困って無いし、他に欲しい物なんて無いし、あれば作るしねぇ」
「もし本当ならギルドとしては願ってもない話だ」
「じゃあ・・」
「まあ待て、まずは調査をする、タツキ君の話が本当か確かめないとな」
「じゃあちょっと待って下さい」
マジックバッグから紙の束を出す。
「これが20階層までのマップと魔物の分布です、一応21階層以降の魔物の特徴や分布も付けました、そちらを参考にしてください」
「・・・・・・21階層以降だと?そんなに深いのか?」
「全部で50階層ですよ」
「・・・・よし、まずはタツキ君の持ってきた素材を見てみよう」
「これまた凄いな、こんな量は、いままでも無かったろ」
「ちょっと張り切りました」
「タツキ君はこの後予定はあるか?」
「無いですよ」
「ではダンジョンへの案内を頼んでもいいか?」
「はい、大丈夫です、でもその前に冒険者ギルドに登録してもいいですか?15才になったので」
「いいのか?」
「はい、これからちょっと旅に出るかも知れないんで、あれば便利でしょ」
「良し、誰か登録してやってくれ」
「こちらへどうぞ」
あっ、最初に話した猫の獣人さんだ。
ギルドの登録は紙に書くだけだった。
性別でひと悶着あったぐらいだ。
「それではこのガードに魔力を通して下さい」
『ピトッ』
「はい大丈夫です、本当に男の子なんですね」
「まぁ色々事情がありまして」
「いいんです、人それぞれですから」
何故か優しく微笑まれた、誤解されてるのか
「ねぇ、勘違いしてない?したくてしてるんじゃ無いからね」
「わかってます、わかってます、私はいいと思います、似合ってますからね」
「絶対分かって無いよな!そんな優しい目すんな!」
「いいんです、いいんです、さぁ行きましょう」
「何がいいんだよ!ちょっと・・・・・」
そして技能試験が始まった。




