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戦略
カナタは柔らかな母の胸の中で目覚めた。
「おはよう。カナタ。」
母、ユナの声はいつものように優しかった。
「父さんは?ほかの皆は?」
カナタの叫ぶような激しい問いに
「ごめんなさい。皆、死んでしまったわ。」
ユナは悲しげに顔を歪め、横を向いた。
「皆が命がけで私達を逃がしてくれた。でも、人も獣も恨んじゃだめ。恐怖という獣は、憎しみを食べて育つの。ゼノは誰かを守る時ほど人は強くなるとよく教えていた。だから兵士の中で近衛がもっとも強いのだと。ここを出れば、獣に見つかるでしょう。でも、植物のないこの白い空間では人も生きてはいけない。私はこの馬と一緒にできるだけ獣を遠くに連れ出します。時計を置いていきます。丸一日したら神小島へいきなさい。そこに獣の秘密を残したとゲノが言っていました。」
ユナはわが子を思いっきり抱きしめると、近衛師団員の証である懐中時計を渡した。そこには父、ゲノの名が刻まれていた。
「親より先に死ぬなんて、親不孝はしてはなりませんよ。」
と言い残してユナは出口へ向かった。
「その子の名はテヘナです。」
カナタは母の背中に向かって叫んだ。
ユナはテヘナに跨ると、北の山岳地帯へと向かった。
「見つけたぞ!」
王城の瓦礫の下でうなり声がし、七つの『器』を取り込んだ獣が砂塵を巻き上げて飛び立っていった。




