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いにしえの獣  作者: 明日香狂香
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21/49

ハイアット

 オオワシのハイアットは、まだ名前《なまえ》も無《な》く空《から》の『器《うつわ》』だったころ、人間《にんげん》と同《おなじ》じ獲物《えもの》を狙《ねら》って撃《う》たれたことがあった。

「人間《にんげん》め。なんてことしやがる。」

 ハイアットは沼地《ぬま》に落《お》ちて、気《き》を失《うしな》った。


「おお、気付《きづ》いたか。」

 目《め》を開《あ》けたハイアットの前《まえ》に人間《にんげん》の顔《かお》があった。

「このやろう!」

 ハイアットはその顔《かお》に向《む》けてくちばしを立《た》てようとしたが、体《からだ》が動《うご》かなかった。

「無理《むり》はするな。しかし、すまなかったな。流《なが》れ弾《だま》が当《あた》たっちまって。」

 銃弾《じゅうだん》は右《みぎ》の翼《つばさ》を突《つ》きぬけたが、その衝撃《しょうげき》で羽《はね》の骨《ほね》が折《お》れていた。人間《にんげん》のカモ猟《りょう》の中《なか》へ入《はい》ったハイアットは、誤《あやま》って撃《う》たれたところをこの男《おとこ》に助《たす》けられたようだ。男はハットイと周囲《しゅうい》から呼《よ》ばれていた。


 しばらくすると部屋《へや》の中《なか》を飛《と》びまわれるほどに回復《かいふく》した。しかしまだ、自力《じりき》で狩《か》りをできるほど長《なが》くは飛《と》んでいられなかった。彼《かれ》にハイアットという名前《なまえ》をつけて、たまに狩《かり》りにつれていった。男《おとこ》が連《つ》れた黒《くろ》い斑点模様《はんてんもよう》の犬《いぬ》が吠《ほ》えると、水辺《みずべ》のカモ達《たち》が一斉《いっせい》に飛《と》び立《た》った。

「パン!パン!」

 乾《かわ》いた高《たか》い音《おと》が辺《あた》りに響《ひびく》。男《おとこ》が銃《じゅう》を撃《う》ったのだ。飛《と》び立《た》ったカモの群《む》れから一羽《いちわ》が落《お》ちてくる。そこへ犬《いぬ》が走《はし》っていってしきりに鳴《な》く。人間《にんげん》は不思議《ふしぎ》な狩《か》りをするものだと思《おも》った。


 さらに数ヶ月(すうかげつ)が経《た》つと、ハイアットの怪我《けが》はすっかり良《よ》くなっていた。ハイアットはいつでも逃《に》げ出《だ》すことはできたが、人間《にんげん》に興味《きょうみ》を覚《おぼ》えた。草食《そうしょく》かと思《おも》うと肉《にく》もよく食《た》べる。が、生肉《なまにく》は食《た》べない。血《ち》の匂《にお》いのしない、焦《こ》げ臭《くさ》い肉《にく》ばかり食《た》べている。毛皮《けがわ》を毎日脱《まいにちぬ》いだり着《き》たり忙《いそが》しそうだ。一年《いちねん》も一緒《いっしょ》に暮《く》らしたろうか。儀式《ぎしき》の時《とき》が近《ちか》づき、ハイアットは山《やま》へ帰《かえ》った。そして『器《うつわ》』となった。

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