prologue
前々から練っていた設定に肉付けしていこうと思います。
初原稿です。
聖遺録〜紫光の魔剣士~
外は極限の雪世界
降り積もった白の絨毯は足跡を塗り替える。
四、五十ほどで町とも呼べる規模の住処が並ぶ中、随分離れた場所にあるどれよりも大きな建物。
中に入り、見渡せばどこも静かであったが、微かに聞こえる生活音を感じ取り辿っていく。
サラサラと音を立て、作業を行っている何者かが居た。
別に人間と変わらない。ただペンを持って文字を書き連ね、急ぐ時もあれば止まることもある。
大きな煉瓦で囲んだ暖炉が激しく燃える。
この町は伝統的に陽を取り入れる仕組みで高さは一階分、であったが今日も生憎薄暗い天気なのだ。
故に炎の明かりが作業の助けとなっていた。
「…ふむ」
指が7本もある大きな手で器用にペンを回す。
年数が経ち色合いが出てきた椅子はまるでミニチュアのようだ。ぶつぶつと唸る主は大きさの合っていない家具に関心を示してないが。
少しして何か得たのか、次にはまた手が走り出した。
青緑の鱗、異形の大角、深緑の片翼。
3メートルはある巨体で人間が民家に住む家具に落ち着いていた。
紛れもなく人外だ。
最近調達したのか、歴戦の傷の上には片翼が邪魔にならない背が逆三角状になった衣服を羽織っていた。もう片方の翼は根元ごと千切られた跡がある。
少なくとも…彼、に見える異形の者はここの住民らしい。
リラックスした状態で執筆に勤しんでいた。既に3部目に入り無記入の用紙に書き込んでいくようである。
彼の書くタイトルはここからでは見えなかった。
自分の気配がある事にやっと気づく。一息ついた感じである。
大きな背中をぐるりと回しこちらを見やる。
顔周りは禍々しいが、今は最もそれでマシな表情なのだろう。
「お届けものですよクリムさん、鍵開けっぱなしでしたので入りましたが…余程集中してらしたのですか」
両手に握っていた小荷物を一瞬思い出し言葉を紡ぐ。
「ああ…すまないな。全く進まなくてあきれたものさ、3冊目に入っても。さて、印を探してこねば、暫し待たれよ」
ゆらりと椅子から離れ、箪笥に向かう。
天井が高い事で巨体は立ち上がる事が可能だ。といっても、印を仕舞う家具も小さいので直ぐ屈む。
私は気になっていたタイトルを今のうちに見ることにした。
『聖遺録〜紫光の魔剣士〜』と
きっと、それは私達両方にとって英雄の存在である呼び名。その物語だろう。
完成する時を待ち遠しく思うものだ。
何時の間にか微笑んでいた表情を他所に彼らの姿を連想する。
これは、紫光の剣士と呼ばれた人物を基点とした物語。
多くの人間が死んでく世の中。
例え強いものでも殺される絶望の世界。
死は常に隣り合わせながら、希望を打ち砕かれた後で生きる混沌とした時代。
だからこそ命は尊く華も輝く。
いよいよ踏み入れようか…。