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アズール  作者: ゼウド
第一章 始まりの4月
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1-2 ギルドカフェ・グレンリア

 都市国家ガリファ。

 西の大陸の大陸航路の休息地として、人々が身を寄せ合ったのが始まりとされる王政国家。

 運ばれてくる物資から様々な国の技術を盗み、組み合わせる。そうすることによって現在では高い機械技術と魔導研究機関を有する国として名を馳せていた。


 そんな都市国家ガリファのハイウェイに、高速道路の規制速度スレスレのトップスピードで駆けるバイクがあった。

 リア二輪にフロント一輪の漆黒の三輪自動車トライク。まばらに走る車の合間合間を器用に縫うように奔るそれにはパワーの象徴であるマフラーが存在せず、また駆動音もほとんどしないといってもいいほどに静かなものだった。

 空気中に漂うマナを使うMDDテクノロジーと、魔導の力を借りて発達した機械技術をふんだんに盛り込んだ、数年前に発売されたモデルだ。頭を覆うバンダナを防壁魔法ブロクドで強化してヘルメット代わりにするという、交通規約のグレーゾーンを侵す走者……ソウマはそれを、大切に乗っていた。


 都市国家ガリファは国を治める王の住まう城の元に栄える城下区セントラルを中心とした、北区ノース南区サウス東区イースト西区ウェストの五つの区画が存在する。

 ハイウェイはそれぞれの区画を繋ぐように外周の部分と、セントラルから各区画をぐるりと一周できるように設置された部分で構成されている。

 上空から見ると、丁度円形になっているガリファに三つ葉のクローバーが生えているように見えることで有名だ。


 そう、三つ葉である。


「それにしても、でかい宮殿だよな……」


 その原因は、住宅街であるウェストからでも一望できるサウスの宮殿……魔導院アカデミアにあった。

 前記した魔導研究機関は、サウスの区画を丸ごと使うことで成り立っている。第十まである研究所と、王宮魔導士や騎士を養成する学校が集約され、外部へと情報が漏れないように宮殿で全て覆われているのだ。

 近年では機械技術の発展のため魔導研究の一抹を使えないだろうか、という王の命に応え、その産物としてMDDテクノロジーの基礎ができた。だが、自分たちの領域に異文化である機械文明が入ることを、研究者たちは頑なに拒んだ。


『かつて、多くの同胞の命を戦によって散らした東の機械文明。それとどうして相容れることができようか』


 そんな言葉を楯に、研究者たちは小意地になっている。壁で世界との関係を、外国から来る学徒のみとした彼らの心情など誰にわかるわけでもなかった。

 自分たちと直接関わるわけでもない者の心情を察そうとする者もまた、いるわけでもない。現にソウマは宮殿を何回も見たことはあるが、大きいという感想以外特に感じるものもなかった。

 騎士になることを諦めた少年にとって、アカデミアはその程度の存在だった。


 ★


 ソウマがトライクが止まったのは、セントラルにある、車が数台入れるぐらい入れるかどうかというカフェの駐車場である。

 城下街と名乗っているものの、今や建造物の殆どがビルとなっているセントラルの中で、レンガに木造建築であるそのカフェは嫌に浮いていて、ある意味では存在感があった。

 現在、時刻は十時を過ぎた頃。三時間弱は座りっぱなしだったせいで痛む体で軽く伸びをする。そうやって幾らかほぐした後、ソウマはドアチャイムの独特な音色を聞いて扉をくぐった。


「お、いらっしゃいソウマ。今日もお勤めお疲れさま」


 店内には年季の入った木のテーブルや椅子が並んでいた。奥のカウンターでは、黒髪の青年が頬杖をつきながらこちらに笑みを浮かべている。人懐っこそうな笑みだ。

 ソウマは迷わずにカウンターの青年の前に座った。それを見越したかのように出された適度に冷えた水を飲み干すと、それほど広くない店内を見渡した。

 今日が平日だということもあるのか、ソウマの他には数名の客と、腰巻エプロンをつけた女の子のアルバイトしかいない。


「ジャンさん、ノエルの奴はまだ来てないのか?」


「ノエルちゃんか? あー、そういやまだ来てないな」


「マジか……セントラル住のあいつが、なんでおれより後に来るんだか」


「いや、それはお前がただ単に早起きなだけだと思う……それに、いつものことだろ」


 と、ジャンと呼ばれた青年は笑みを苦笑いをに変えると、いつものでいいよな? とカウンターのポッドに手を伸ばす。

 ややあって出されたブレンドを一口飲むと、ソウマは長い溜息を吐いた。


「あーーー……生き返る……」


「んなおっさんがビール飲むときみたいな台詞吐かないでもいいだろ」


「や、だってすげぇ美味いんだもん、ジャンさんの淹れたコーヒー。おれも家で飲むけど、こんな風にはいかないしな」


「はは、お世辞でも嬉しいな」


「お世辞じゃないって」


 軽く流されたことを若干不服に思いながら、ソウマはカバンから文庫本を取り出した。

 ノエルとはいつもこのカフェで待ち合わせをしている。コーヒーと一緒に談笑を楽しんだ後に仕事を始めていた。

 ソウマにとっては、ノエルを待つこともほぼ日課になっていた。今ではこうやって文庫本を持ち歩き、待ちぼうけを覚悟する始末だ。最近では文庫本、特に冒険譚なんかを読むことが楽しみになっている節もある。


 だが、そんなソウマの楽しみは——


「や、やめてください!」


 甲高い悲鳴で、しばらくお預けをくらうこととなった。


 ★


「んー?なんだ嬢ちゃん、そんなでっかい声だしてよ。俺は酒出してくれっていっただけだぜぇ?」


 悲鳴の先には、如何にもという風貌に、帯刀した片手剣をわざとらしく立てかけた男と、ウェイトレスの女の子がいた。

 酒をウェイトレスに要求し、断られたことで言いがかりをつけている。そんな感じだろうか。よく見れば、ウェイトレスの華奢な腕は掴まれたのか赤い手の痕があった。

 褒められることではないだろう。


「おい。ここは純喫茶だぞ」


 と、ソウマは声をあげた。本来ならジャンが止めに入るべきなのだろうが、ジャンにはひとつの確信があった。

 乱闘になったとき、絶対に勝てないという確信だ。

 男も自分の腕に余程自信があるのか、それとも得物を持たないソウマを舐めているのか、嫌らしい笑みを浮かべた。


「なんだ餓鬼、一貯前に正義の味方気取りか?これが目に入ってねぇのか!?」


 と、立ち上がり立てかけていた鞘から抜刀しかける男。脅しのつもりなのだろうが、それでも店内にはウェイトレスの短い怯えた声が店内を包む。

 一方でソウマは、一切表情を変えなかった。それどころか余裕です、と言わんばかりにため息を吐き、


「入ってるよ、だから……」


 おれが出しゃばったんだよ、と続くのとほぼ同時に。


「がふぅう!?」


 そんな素っ頓狂な声と共に、男は数メートルは離れていた壁に打ち付けられていた。

 男の携えていた幅広な片刃(ファルシオン)は、ソウマの手の中で器用に回っていた。同時に、男の右手には鈍い痛みがはしっている。

 男に接近し、手刀で男の右手首を一撃。その手にファルシオンを収めた後に、空いた左腕で男を吹き飛ばす。


 簡単に言ってしまえば、ソウマのやったことは非常に単純だった。その動作の一々に魔力を込めたことを含めて。


「何度見ても、質のいいもの持ってないよな。山賊って」


「て、てんめぇ、俺が盗賊だってのを知ってやがったのか」


「まあね。山脈入るたびに絡まれるからなぁ……あんたみたいなやつに。

 あ、ちゃんと生かしてるから安心しろよ?」


「ちっ……舐めてんじゃねぇぞクソが!!」


 安い挑発だった。だが、冷静さを失った男には十分だったらしく、それこそ三流の悪役の台詞を吐いて突進してくる。

 距離を詰め、ふりかぶってくる拳。その読みやすい動きに合わせて、潜り込むように右に避ける。

 胴体はがら空きだ。


「おっ……らぁ!!」


 剣の腹を叩き付けられ、悶絶して倒れる男。数秒もせずにうめき声なんだか捨て台詞なのかわからない声を出しながら脱兎のごとく逃げ出していった。

 同時に沸き起こるのは拍手と喝采。

 勝者は賛美されるのが世の常だろうが、一般のカフェで起こる歓声にしては野太く、声量があまりにも大きい。


「いいぞー、ソウマ!今日もお前の活躍で飯が美味い!」 と、サンドイッチを頬張る何でも屋A。


「いやー、ここは何度来ても飽きねぇな、おい!」 と、ジャンにコーヒーのおかわりを頼む何でも屋B。


「なんというか……」 と、なんとも言えない表情でその歓声を受けるソウマ。


「酒場のイメージの強いギルドのイメージを払拭しようとして親父が建てたここ。

 本当、何でこうなったんだ……」 と、わかり易く落ち込む依頼所管理人ギルドマスター、ジャン・グレン。


 ……ギルドカフェ・グレンリアの昼前は、そうやって過ぎていった。

書き貯めとかするのにまだまだ慣れていないので、基本はこのペースか、それ以上の亀更新です。

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