将
今日もただ思いつくばかりに簡単に指を走らせました。
それは俺の職場で1年が過ぎようとしていた
年のことだった。静岡の警察署からの連絡だった
そう、将がおふくろを殺したのだ。
俺は直ぐ様、警察に行き身元確認をさせられた
そして、将とは面会室で久しぶりに顔を合わせた
彼の眼には嘗て光るものがあった
けれど、窓越しの将にはそれがなかった
俺は「元気だった?」と静かに思いつく限りの言葉を
口にした。将は何も言わなかった
沈黙だけか俺達の間に流れた
『時間だ』見張りの警官が言った
彼は瞳に光るものを俺の眼に映して立ち去ろうとして
最後に背中越しで『テメーの顔なんか見たくねーよ』
と吐き捨てて去って行った。
俺はその声に彼が寂しさを堪えているのが分かった
警察の話では将は最初家から20キロ離れた
深夜のコンビニの駐車場の隅で発見されたそうだ
彼は最初は全てを否認したそうだ
けれど、近所の家の住人の証言と現場にあった
痕跡は全て将の物だったそうだ
そして、彼は未だ否認しているらしい
俺はそんな警察の言った言葉を頭の中で
何度もレコードのように回しながら
前に住んでいたアパートを訪ねた
前とはそんなに変わらない部屋が其処には
あった。合鍵を借りに行った際、
大家さんが無愛想な顔で『ご愁傷様』と
言った。そして、あの部屋を如何するか
尋ねられた俺は今月分だけの家賃を払われた事を
大家さんから聞き、今月までは俺が所有することになった
俺は次の朝、警察署で予約した火葬場に行き
灰になった母を全て海に流した
最後にもう一度、将と面会した
彼に母の遺骨を見せたその時だった
彼は怒って暴れだした
警官が止めたその時の彼の顔は
赤くなり怒りの涙か悲しみの涙か分からない
涙を流して『俺じゃねー!』と強く
声を叫んでいた
俺はそんな彼の姿を見て
悲しいのか怒りたいのか分らない感情が
ぎゅっと我慢する拳に現れた
俺は遺骨と共に仕事先に戻った
そして、疲れた体をベットに倒し
子供の時の事を思い出した
続く
番外編です