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少年軍人日  作者: 真幻 緋蓮
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第二次撃翔進攻戦 前編

どうも真幻緋蓮です。結構時間を空けてしまって申し訳ございません。

今回の話は戦闘がメインとなりそうです。


 燃え盛る火炎の町、崩壊して原形を保っていない建物、幾度も響き渡る大地の震動、道に倒れている町の人々。そして、突然変異した巨大な撃翔げきしょうと呼ばれる鳥の群れ。

「ギュクェェェェェ!!」

 耳を劈くほど響く撃翔の鳴き声。それは元の鳥の声を留めていない。

 それはその撃翔の真下にいる俺に向かって放たれた撃翔の威嚇の鳴き声だ。

 俺を見つけたらしい撃翔は俺に向かって翼を折り畳み、回転しながら急降下。鋼鉄をも砕くほどの嘴で俺を攻撃しようとしているらしい。

 超光速で突っ込んでいる撃翔を俺は俯きながら紙一重で横に躱し、そのすれ違いざまにエメロイドレストで撃翔の翼に片手剣水平技かたてけんすいへいわざ『ホードレス』を叩き込む。

 ザシュッと斬りこまれた翼は撃翔の血液で白から赤色に染まっていき、翼にあった羽はヒラヒラと落ちずにドサッと落ちる。この羽は普通の鳥より何百倍も大きく、それゆえすごく重たいため飛んでいるのが不思議に思えてくる。

 思いのほか『ホードレス』が浅かったのか、斬られた翼は元気に動いて撃翔は再び空に舞う。

「チッ」

 小さく舌打ちをして俺は、懐からスペルカードを取り出して剣を構えて詠唱を始める。

「緑多し森林の符よ。大地を轟かせ裂強となりし力で全てを斬り裂け」

 詠唱中の俺を見計らって撃翔は、再び威嚇の咆哮を叫んだ後にさっきの急降下回転攻撃を仕掛けてくる。羽ばたいている撃翔の目はまるで小型動物を捕食する肉食動物の如く睨んでいる。

 詠唱した言霊は光の粒子となって俺のエメロイドレストに纏わりつく。薄い緑色に輝いていた剣はさらに輝きを増す。

「ギュアァァァァァ!!!」

 輝いているエメロイドレストを見て怒り狂ったらしい撃翔は、翼を折りたたんで急降下回転攻撃を仕掛けてきた。降下速度はさっきよりかなり速い。

 俺はまだ俯きながら撃翔が来るギリギリまで待つ。輝くエメロイドレストを見ながら。

 撃翔が俺に嘴を当てる1秒前くらいになると俺は剣をさっきの『ホードレス』と同じように構えなおしてありったけの声を撃翔に向かって叫ぶ。

「大裂緑斬!!!」

 俯いている顔を上げ、さっきと同じ要領で撃翔を渾身の力で斬りつける。『大裂緑斬』の光の粒子のおかげで剣の鋭さはさっきよりかなり上がり、翼の巨羽が易々と切れ、リーチが長くなり、さっきより深いところまで斬りつけることができる。

 斬り抜く間際に撃翔の紅の鮮血が辺り全体に飛び散り俺の軍服を汚していく。生温かい鮮血は鉄臭いにおいを放つため、気持ち悪くなり吐きそうになってくる。が、それは自慢の根性で耐える。

「おぉぉぉぉぉ!!!」

「グギャァァァァァ!!!」

 雄たけびの如く叫んで『大裂緑斬』を放ち、断末魔の如く叫んだ撃翔は胴体を地面にたたきつけられて倒れて動かなくなった。白く純白な羽はボロボロになり所々赤く染まっている。真っ二つではないが、体を大きく深く斬られた撃翔からは大量の血が溢れている。

「クウァァァァァ!!!」

 まだあたりからは嫌と言うほど撃翔の声が聞こえてくる。倒した撃翔は群れで行動しているはずなので、その群れがここに来ると俺に勝ち目はない。というか、殺されて食べられるのがオチだ。

 俺はそう判断し、倒した撃翔から距離を取ってその群れの撃翔が来るかどうか様子を窺う。

「まさか、こんなことになるとはな」

 倒れた撃翔の近くにあった廃屋に入った俺は、この状況を見て忘れそうになるほど呟いたことを言う。

 無理もないだろうな。今見ている光景は間違いなく本物で、他に見たことがあるというのなら博物館や歴史の資料館などだ。全ての人が待ち望んでいないことが起こっている。


 撃翔進攻戦げきしょうしんこうせん


 100年前にこの島を襲った史上最悪の出来事である。


「以上の事から学生反乱により仙淡せんだん后城が崩落し、94年も続いた仙淡時代が幕を閉じて新たな時代、つまり今の雅燗がかん時代に入ったという訳です」

 予定より早く仕事が終わった俺は、暇潰しもかねてレキナの授業風景を見学していた。

 この軍人本部は学校としても活動を居ており、将来の軍人になるために必要な訓練や授業を行っている。軍人になりたいという子供の数が多く、分けて授業するのもこっち側としては疲れるため、この軍人学校に入るためには受軍じゅぐんという制度を設けている。受軍とはこの学校に入る入試的な制度であるが、入試に加えて訓試くんしという訓練試験がある。入試と訓試の両方が合格できればこの軍人学校で学んで軍人になることができ、自分専用の真武が入学祝として貰える。俺たちもこの受軍を乗り越えて軍人になっているという訳だ。

 因みにレキナは歴史担当である。そのほかにも俺たちにも授業をしてくれと言う依頼が稀にあるが、俺の担当は訓練担当に勝手に決められている。

 レキナの服装はいつもの学者みたいな白衣を着ていなく、教師専用の軍服とネクタイを着用している。

「それで、仙淡后城が崩落する前にある大きな大災害が起こったのですが、それは何だか分かりますか?」

 レキナが生徒たちに問いかけると生徒たちは元気よく手を伸ばして、ハイ、ハイと挙げている。

「はい、それでは………ランレ君」

 前から3段目(この教室は階段教室であり、全10段)の左(机は2人ずつ)にいるランレと呼ばれた男子生徒はその場で立って元気よく答える。

「撃翔進攻戦です」

「その通り、正解です」

 ランレ君はレキナが言い終わると静かに座ってノートを取る準備をしている。そしてレキナの解説が始まる。

「撃翔進攻戦と言うのは仙淡38年の9月16日に起こった巨大な撃翔と呼ばれる鳥の軍勢との戦いです。この戦いは撃翔の種類や生態がいろいろあって対処しずらく、困難を極めた戦いだったそうです。今、みんなが持っている資料集の145ページにも書いてありますが、死亡者は約12万人、行方不明者は約7万人、重軽傷者は約20万から25万人くらいと言う史上最悪の戦いとなってしまいました」

 すると、レキナの解説中に一人の女子生徒が手を挙げた。レキナも不思議そうな顔をしている。

「先生、質問いいですか?」

「何でしょうか、スノノさん」

 スノノと呼ばれた女子生徒は立たずに座った状態で質問を言う。

「このページの一番下に移っている撃翔は何の種類ですか?」

 教室の後ろからでも10段目にいる生徒の資料集は見える。資料集に移っている写真には鮮やかなコバルトブルーの色に彩られている大きな翼と、ハチドリのような長い嘴を持っている。この撃翔は普通の撃翔より一回り小さいように見える。

「いい質問ですね。この写真の撃翔はカワセミと言う鳥の一種です。カワセミは近年この辺りでは見れなくなったので馴染みがないかもしれませんね。でも、南に行けば見ることができるのではないかと思います。で、本題ですが、カワセミはこの長い嘴を使って川にいる小魚をものすごい速さで捕まえる鳥です。撃翔になってもその生態を引き継いでおり、地面にいる人目がけてものすごい速さで飛び、長い嘴で人を捕まえたらしいです。捕まえられた人はどうなっているのかいまだに消息が分かっていません」

 再びさっきの生徒とは違う生徒が手を挙げて質問する。

「先生が知っている撃翔の種類には他に何がありますか?」

「そうですね………。みんなが知っている鳥で言えば、雀、燕、鴉、鳩、鷹、鷲などですね。特に危険なのが鷹や鷲の撃翔はコンクリートをも破壊できる鋭い爪と嘴を持っているところですね。雀や鳩の撃翔はおとなしいと思われがちですが、それは違います。撃翔となった雀や鳩は下手をすると鷹や鷲と同じくらい、もしくはそれ以上に狂暴です。雀や鳩の場合は、人を餌と間違えて嘴で突いたり食べたりすることもあるらしいです。燕の撃翔は雀と比べてかなりおとなしいですが、短時間で子供の撃翔を生んで数を増やすので厄介です。鴉の撃翔は光るものを持っていく生態と、肉食の生態はそのままなので鷹や鷲と同じくらい危険な撃翔です」

 そしてまた生徒からの質問が出る。

「それじゃあ、次のページにあるこの黄色い撃翔は一体何の種類ですか?」

 10段目の生徒が次のページを開いてくれないので俺はその撃翔の姿を見ることができない。この資料集は俺がここで勉強していた時のとほとんど同じであるが、そのページの事が全く覚えてなく思い出そうとしても思い出せない。

「この撃翔は雀ですね」

「「「え?」」」

 同時にこの教室にいる3人の人(誰か分からない)が驚きの声を隠せなかったのかその声が出ていた。まぁ、黄色い雀なんて見たことないからな。

「この写真のように撃翔の中には突然変異する個体もあるんですが、それは珍しくはないんです。雀の撃翔なのに羽が茶色ではなく黄色であったり、生態は鴉なのに形態は燕だったりと撃翔には不思議なところがかなりあるんです」

 またまた質問が出る。レキナの顔を見るともう質問に答えたくはないという疲れのオーラが噴出している。

「先生、こんな大災害が起こっていたのになんで今は撃翔がどこにも見当たらないのですか?」

 この意見に関しては俺も聞きたい事だ。撃翔は普通の鳥の何百倍もの大きさのはずなのにその姿が現代になっても見当たらないのは少しおかしい。100年前の戦争(撃翔進攻戦)で撃翔たちは負けを認めた後、どこかに飛び去って行ったとひい爺さんから聞いたことがある。でも、いたらいたで必ず依頼掲示板には撃翔討伐依頼があってかなり高価な報酬であるんだろうな。

「質問はこれで最後にするとして、今、撃翔がどこにいるのか私たち学者でも分かりません。撃翔対策班はこの島の裏側にあるところにでもいるんじゃないかと考えているらしいです。でも、裏側に行こうとしても約3年かかるので対策班も行きたくはないみたいです。それでは―」

 キーンコーンカーンコーン

 レキナが次の話題を出そうとしたところで授業終了のチャイムが鳴った。このチャイムは実際に軍人本部の屋上にある鐘からなっているらしい。

「おっと、もう終わりですか。では、次までの宿題として撃翔に関することのレポートを書いて来てください。上手に書けている人は加点しますよ。では、ランレ君、お願いしますね」

「はい、起立!」

 ランレ君がこの教室の学級委員的な立場らしい。まぁ、レキナの授業の時に質問を入れるのはすごいことだからな。

「礼! ありがとうございました」

「「「ありがとうございました」」」

 生徒が一斉に礼するとレキナも礼をして教室から去った。俺もこの場にいると周りの生徒から「何で来たの?」や「軍人って大変?」などの質問攻めにあう可能性があるので、礼をしている間に静かに退却する。

 廊下はさほど広くなく、3人並進すると通れなくなるくらいの幅で、長さは約100mくらい。この長い廊下の中央にトイレがあり、教室が4つある。俺がいた陸軍学生室1-2はこの廊下の中央よりちょっと左にある教室だ。教室は階段教室のため後ろの扉は廊下より高い位置にある。軍人学校長の気遣いにより、子供たちが怪我しないようにという事で後ろの扉だけ階段が設けられている。実際、階段を付けなかったせいで飛び降りて足を骨折したことのある生徒がいるらしい。誰がとは言わない。

 金属製の12段の階段を下りて、廊下を歩いているレキナに話しかける。

「よっ、お疲れ」

「お疲れじゃないわよ。何で急に来たの?」

「そりゃあ、まぁ………暇だったから」

 レキナは手元の資料を崩さないように頭を抱えた。

「はぁ。まぁ、授業の見学は自由だし別にいいんだけどね。で、レイス自身が私の所に来るんだから何か用があるんでしょ?」

 流石は心理と歴史家の学者、レキナ・ヒストラーンだな。思っていることを瞬時に見抜いてやがる。

「まぁな。つい先日の大密林調査の時、ヴァストに色々と古代文明の事教えていたらしいじゃんか」

「そうね。私の話し相手がいなかったから聞いてほしいと思ったから聞かせたんだけどね」

 え? ヴァストはレキナに聞きに行ったんじゃなくて聞かされたってことか? 今の発言から察するに。

「その情報が役に立って、楽じゃなかったが調査ができた。ありがとな」

「いいわよ。調べているのは私だけなんだし。で、言いたいことはそれだけ?」

「今はそれだけだな。今後、調査依頼が俺の所に来たらまた頼らせてもらうぜ」

「分かったわ。ただし、次からはタダで情報はあげないからね」

「う、………了解」

 確かレキナの情報って確信性があって非常にお値段が高いんだよなぁ。今の俺の金は20000TMと大密林依頼の時に貰った150000TMの合計170000TMだったはず。それに対してレキナの情報は一つにつき3000TMくらいの値段だったかな?

「あ、それとレイス。これ運ぶの手伝ってくれない?」

「ん? いいけど」

「ありがと。はい」

「うっ!」

 レキナに手渡されたのはさっきレキナが運んでいた資料の数々が入っている鞄だった。重さは15kgくらいあるだろう。最初に持った時に結構肩に来てしまい、今は持ち上げるのにズキズキ来る。てか、ようこんな鞄を手に持っている紙束と一緒に持っていられたな。

「で、こ、これどこまで運べばいいんだ?」

「私の研究室まで。知っているでしょ?」

 レキナの研究室か。えっと………

「ああ。確かこの先にある階段を地下2階まで下りて、その廊下の突当りだったっけ?」

「そう。最近来てないのによく覚えているわね」

「これでも記憶力は結構いい方なんだぜ?」

「ふーん。そう」

 レキナはそういうと俺を見ずに進み始めた。絶対心の中で爆笑してるに違いない。嘘ではないんだけどな。

 廊下の突当りには長い階段と足が不自由な人が使うエレベーターがある。俺はこのエレベーターを使いたいと内心思ったが、生徒の前でこんな姿は見せられない。肩はまだ痛いままだ。

 コツコツと会談に靴音が響き渡る。特に地下に来るとすごい静かなため、音は壁などに反響して余計靴音を立てないようにしようと思ってしまう。

 地下2階の廊下は真っ暗で足元もほとんど見えない。暗い理由は人の視覚の研究や、この暗闇を利用した研究などがここで行われているためである。電気は通っているしスイッチもあるのでポチッと押せばたちまちに明かりがつくのだが、研究の邪魔をすることとなってしまう。ここの研究者曰く「騒がしくしてもいいが、廊下の明かりだけは絶対に点けるな」ということらしい。ちゃっかりと「点けるな」と書いてあるポスターまで張り出されている。

 レキナの研究室前まで来ると、そこはもう完全な暗闇でレキナの研究室がどこかに繋がってそうで怖い。

 ギィィィと立てつけの悪い扉を開けるとレキナの研究室も真っ暗だった。下には何かの資料が転がっており、うかつに歩くことができない状態だ。

 再び立てつけの悪い扉の音が聞こえて閉まると、急に電気が点いた。暗闇に慣れている俺は目がくらんで一瞬何も見えなかった。徐々に明るさに慣れてくるとそこはまるで研究室みたいな部屋があった。実際、研究室なんだが。

 扉以外の壁を全部本棚で埋め尽くされており、本棚にはぎっしりと歴史の資料や文献、授業で使っている教科書まである。そして机の上には巻物が広げて置かれていたり、年代物と見られる焼き物が割れて壊れていたりと歴史に関係するものだけで埋め尽くされていた。

「あ、鞄はそこに置いておいて」

 レキナに言われたとおりに指定された場所に鞄を置く。そして手を上にあげてちょっとしたストレッチをして肩の痛みをほぐす。

「しっかしまぁ、相変わらず汚い研究室だな」

 やば、つい本音が漏れた。

「………」

「す、すまん。い、今のは口が滑ったというかなんというか………」

「別にいいわよ。汚いってことは自覚してるし、片付ける気は全くないし」

 ないのかよ。ま、研究者ならこのくらいの部屋の散らかりは普通であると解釈していいのか?

「あ、そうそうレイス。ちょっとアンタに聞いてほしい話があるのよ」

「話?」

 レキナから話があると言われたのは初めてだ。いつもなら情報をくれと言って話してもらうことがメインだからな。

「うん。レイスは私の妹については知っているわよね」

「ああ、カルナのことだろ? もちろん覚えているさ」

 カルナとはレキナの妹のカルナ・ヒストラーンのことで、今は海外の大陸で歴史の研究をしている人だ。俺も実際何度か会ったことがあり、よくカルナの研究成果を聞いたり飯を食べたりした。カルナに会って最初に思ったのが『すごい似ている』。妹と言われても双子じゃないらしく、偶然双子のような顔つきで生まれてきたらしい。レキナの両親もたまにどっちがどっちか分からなくなってしまう。

「で、カルナに関する話なのか?」

「ん~? 若干違うわ。ま、関係していると言ったらこの紙かしらね?」

 そう言ってレキナは近くにあった机の上にある何の変哲もない一枚の紙を取った。大きさは普通のA4サイズだろう。

「その紙は何だよ?」

「これ? これはあの子から送られてきた撃翔に関する伝聞ね」

「げ、撃翔? 何で今更? 戦争はもう100年前に終わったはずだろ?」

「そうなんだけど、この伝聞には戦争で負けた撃翔についての事が書かれているわ。ま、私が読むよりレイスがその目で読んでみなさい」

 レキナはカルナからの伝聞を俺に渡した。そして俺はその伝聞を一言一句読み洩らさないように隅から隅まで読んだ。その伝聞には天と地を裏返すような驚きの文章が書かれており、俺は読んでいる最中に何とも言えない衝動が襲い掛かってきて堪えるのに必死だった。

「げ、()()()()()()だと!? レキナ! これは本当なのか?」

「知らないわよ、私に言われても。でも、あの子がそう書いているのならそうなのかもしれないわね」

 何でレキナはこんなにも平然でいられるんだ!? こんな話聞いた瞬間に声を上げて焦るものだろうよ。

 撃翔が動き出しているという事は撃翔はまだこの世界にいるってことなんだよな。何で今まで見つけられなかったのかとても不思議に思えてくる。

「レキナ、カルナは今どこにいるんだ? 前聞いた話じゃ今は北東のアドネス大陸に行くって言ってたはずだが」

「それ、何年前の話? 今あの子がいるのはアドネス大陸の南、アガヴェス大陸のガザルエという国にいるわ」

 ガザルエって確かアガヴェス大陸の海側の国だったはず。そこで撃翔を見たというのなら………。

「レイス、ガザルエは撃翔の進攻を受けたことは撃翔進攻戦後、一度もないわよ」

 何で思っていることを見透かされて、その答えを普通に返してくるんだよ。どこに第六感があるんだ?

「なら何で?」

「ガザルエ近くの海上にガザルエ領のガドサザ島があるのは知っているかしら?」

「ああ。とても広い島だが、鋼鉄のような幹を持っている樹によって開拓ができず放棄してしまった島だろ?」

 でも何でそんなところに撃翔がいるんだ? ま、まさか………!

「自分で言って理解したようね。そう、何で撃翔が他の島や大陸にいなくてこの島にいるのか」

「子を産み育てて準備するため………」

 鋼鉄のような幹なら当然枝も鋼鉄のような硬さになっていてよほどのことが無い限り、ぽっきりと枝が折れないはずだ。それに加えて撃翔は普通の鳥とは何倍も大きくて重量もかなりある。撃翔程度の重さなら折れないと思うので、その木の上に巣を作って子を育てているとしたら、前の撃翔進攻戦より撃翔の数が増えるはずだ。そしてさっきのカルナの話を加えると………。

「そう、撃翔たちはこっちに攻撃するほどの戦力がそろったという事になる。後は時間との戦いになるわね」

「レキナ、何でこの島に向かってきているって分かるんだ?」

「手紙きちんと最後まで読んだの? 下から5、6行目くらいを読めば分かるわ」

 そう言われて俺は慌てて手に持っている手紙を読み返す。ずっと持っていたせいか、手汗が紙に染みついて持っていたところだけふにゃっとしている。

「………撃翔たちは島から西北西、つまり真軍想島しんぐんそうとうの方角へ向かって飛び立ったわ………。………何!?」

「つまりそういう事。だからさっき言ったでしょ? 時間との戦いって」

「そのようだな。レキナの推測は?」

 そうするとレキナはさっきこの紙があった机の上を捜索し始め、またこの紙と同じ大きさの紙を手に取った。

「えっと………、私の推測だと早くて2日後、遅くて4日後くらいね」

 そんなに日数が無いのに本部内が撃翔の事を話してない、もしくは軍人の撃翔に関する噂も聞かないのは不自然すぎる。

「この事って上に報告したのか?」

「もちろんしたわよ。でも、誰も受け入れてくれなかった。証拠はあるのかって散々言われたわ」

「この紙を出せばいいじゃないか」

 そう言って俺は持っていた紙をレキナに返す。するとレキナはため息をついて髪の毛をいじりながら話を続けた。

「もちろん出したわよ。でも、悪戯のつもりで送ってきたや、嘘の情報が入っているかもしれないと疑われて受け入れられなかった」

「上も相当厳しいんだな。で、レキナはどうしたいんだ?」

「そりゃあ、何としてでもこのことは伝えて被害をなるべく少なくしたいわ。そのために海軍に依頼したんだし」

「海軍?」

 ここで何で海軍が出てくるのか分からなかったのでオウム返しのように聞き返す。

「うん。海軍にガドサザ島近くの海上を調べてもらおうと思って依頼したわ」

 海軍の依頼は主に2つあり、1つ目はレキナの言った通りに海上の調査任務。2つ目は海賊や海のモンスターなどの捕獲や討伐任務。海軍に依頼を出すのは陸軍に依頼を出すのよりとても厳しく、実際に起こっていることを明白に述べないと依頼として受理されない。レキナが普通に調査してくれと言われても海軍本部はそれを普通は受け入れてくれないだろう。なら、どうやって依頼をしたんだ?

「レイス、思っていることが口から出ているわよ。まぁ、確かに普通に調査してくれっていても無理ってのは分かってる」

「じゃあ………」

「カルナにちょっとだけ協力してもらったわ。何でも最近、ガドサザ島の近くの海上に大量の海賊が出現したらしく、ガザルエだけでは手に負えないらしいからという事で依頼させてもらったってわけ」

 でも、それじゃあただの捕獲任務なんじゃ………。

「ま、私が知りたいのは撃翔が本当にこっちに向かって飛んできているのかってこと。海軍が飛んでいる撃翔を見つけてくれたらそれはもう決定的な証拠となるわけ。捕獲任務はこの調査のついでと言う感じかしら?」

 俺はレキナの心が少しだけ黒く染まってきていることに戦慄し始めた。

「その依頼出したのはいつなんだ?」

「確か2日前くらいだったと思うわ。たぶんそろそろ依頼した海軍が帰ってくる頃じゃないかしら?」

 レキナは俺と時計を交互に見ている。これは早く立ち去らないと嫌な予感がする。

「じ、じゃあ、お、俺はこの辺―」

「レイス、ちょっと海軍からこの依頼について聞いて来てもらえないかしら?」

 ほら来た。こういうのは自分で行けって言うのが正解なんだろうが、俺もこの依頼に関してはどうしても聞いておかなければならない気がするので仕方なく引き受けることにする。本音はここに戻ってくるのがめんどくさいからなんだが。

「………分かったよ。聞いて来てやるけど、その代わり………」

「仕方ないわね。情報料を1回だけ無料にしてあげるわよ」

「OK。交渉成立だな。ちょっくら行ってくるぜ」

「いってらしゃ~い」

 レキナは俺に2秒ほど手を振った後、すぐに研究に没頭し始めた。この状態のレキナは何をしようとしても邪魔扱いされて能力『ヒストリカリィデリート』によって、この部屋や何をやろうとしたかという事を完全抹消される。『記憶を消す能力』と言った方が正しいのか?

 カルナの能力は『ヒストリカリィリメンバー』と言って、レキナとは正反対の能力である。『記憶を思い出させる能力』と言った方がいいかもしれない。

 俺はなるべく部屋の光を廊下に出さないようにしてレキナの研究室を去った。

 そのまま俺は海軍が戻る場所の真水鎮守府しんすいちんじゅふに向かって軍人本部内を歩く。

 この鎮守府は本部から北にある海岸沿いに建っており、海軍が保有している全軍艦を地下へしまって修理できるほどの広さがあり、本部と同じくらいの広さがある。全ての海軍が鎮守府で生活しているため本部には海軍が来ることは滅多になく、海軍がここ(本部)にいること自体珍しい。俺も海軍に所属している友人からこの鎮守府を見させてもらったが、広いの一言しか言えなかった。

「あ、いたいた。おーい、レイスー」

 不意に後ろの方から俺を呼んでいる声がしてたので振り向く。そこには水色の線が入っている陸軍の軍服を着ている少年がいた。頭にはとんがり帽子のような角が2本ついている帽子を被っている。

「ハクヤか。何か用か?」

 ハクヤは俺をずっと探していたのか息がところどころ切れていた。

「ねえ、レイス。今って暇かな?」

「えーっと………。そうだな………」

 暇と言ったらそれは嘘になるのかもしれないが、レキナから小さな依頼を受けていることをハクヤに説明する。

「なぁんだ。結局目的地は同じなんだね」

「え? 何でだ?」

「実は僕も海軍の方に用があってね。久しぶりにレイスと話もしたかったから探して一緒に行こうとしていたんだ」

「そういうことか。なら一緒に行くぞ」

「うん」

 まるで天真爛漫な子供みたいな感じのハクヤだが実力は俺達よりもかなり上だ。ハクヤの能力『レーダーサーチャー』、いわゆる『物を探知する能力』によって、いくら隠れても瞬時に見つかりハクヤの真武『レザラススピア』のレーザー攻撃で攻撃される。能力の範囲はハクヤ自身の力で決められていて最大10kmまで広げることができる。

 またあるスペルカードを発動するとハクヤとは正反対の凶暴さを具えたコクヤが出現する。コクヤと話したことはほとんどないが、簡単に説明するならハクヤの裏の人格と思ってくれればいいだろう。コクヤに変化した瞬間に能力も変わっており『ブラックディザスター』、『人格を裏返す能力』へと変わる。コクヤ自身はあまりこの能力を使わずに敵を殲滅すると宣言しており、実際にこの能力を使ったことは一度もない。ハクヤとコクヤの見分け方はいたって簡単。ハクヤの帽子にある角の間に黒い雷のマークが浮かんでいたらコクヤになっている。今のような何もない時にはハクヤに戻っている。

 最近会った大密林調査の事などをハクヤと一緒に話しているといつの間にか海軍の鎮守府『真海』と呼ばれている真水鎮守府へと着いた。『真海』と呼ばれている理由は真実海軍調査人鎮守府本部の略称だからである。

 玄関には誰もいなく、見張りの海軍すらいない。これはいつもの事なので気にせず中に入って受付を済ませる。

「お名前とご用を言ってください」

「陸軍のレイス・フォールーズです。用はレキナ・ヒストラーンの依頼を受けた海軍から調査の成果を聞くことです」

「同じく陸軍のハクヤ・ミスナカルです。海軍長に新型の電探の事について呼ばれたので来ました」

「分かりました。ではちょっとだけ待ってください」

 そう言うとガラス越しにいる受付係の人が俺たちの方をじっと見つめてくる。受付係の人の目には魔法陣のような模様が浮かび上がっていて瞬きはしていないように見える。見つめているのは俺たちの記憶をこの受付係の人が覗いているからである。記憶なら疑いようがないというのが海軍の信条であるからなのかもしれない。

 やがて受付係の人の目に映っていた魔法陣が消え、受付係の人が結果を口にする。

「お二人の記憶から確かに用について把握しました。どうぞ、お入りください」

 すると受付の横にあった大きなゲートが勢いよく開いて海軍の鎮守府へ入れるようになった。

「レイスさん、ちょっと待ってください。伝え忘れたことがありました」

 ゲートをくぐろうとした俺に受付係の人がガラス窓を開けて言ってきた。

「レキナさんの依頼受けた海軍は今、外の桟橋にいます。中にはいません」

「そうですか。分かりました」

 受付係の人はそれを言うとガラス窓を閉めて再び仕事に戻っていた。

「という事だハクヤ。お前とはここでお別れだな」

「そのようだね。じゃあまたね」

「おう」

 俺は片手をちょっとだけ上にあげてハクヤを見送った。やがてゲートがガタンと閉まるとハクヤの姿は見えなくなってしまった。

 さっきの受付係の人は外の桟橋にいるって言っていたので外に出て桟橋へ向かう。

 この鎮守府は海岸沿いに建っているが、受付は砂浜に近い海岸沿いにあるので桟橋に行くのは1分もかからない。何でこんなに近く立てられたのかは、海軍の少年少女たちの気晴らしのためらしい。

 太陽が雲に隠れて照りつける日差しが少し和らいだ頃、鎮守府の砂浜には5人ほどの海軍の姿があった。

 海軍の制服は陸軍のとほとんど同じだが作りが若干違う。海軍の軍服はマントがついているコート状になっており、色も純白な白色と海の青色がクールっぽさを醸し出している。帽子には旧真海軍の位を示す星マークがついており、サンバイザーみたいなつばもつけてさらにかっこよさが出ている。

 俺は砂浜にいる5人の海軍の中心にいる人物に話しかける。ザッ、ザッと砂を踏む音に気付いた周りにいる海軍も何かを察したらしく道を開けてくれる。

「よう、サバ。今時間いいか?」

「おっ、レイスじゃないか。久しぶりだね」

 サバと俺が呼んだ少年は帽子に付いている銀色の星3つの大佐のマークを出てきた太陽の光に照らしながら、ハクヤのような満面の笑顔で話を返してくる。

「で、何でここにレイスがいるんだい?」

「ちょっとお前に聞きたいことがあるんだ。お前たちはレキナの依頼を受けたのか?」

「うん。と言うよりもレキナさんが依頼ボードの所でこの依頼の紙を張り出していたところを偶然見ちゃったものだから、レキナさんにその場で頼まれちゃってね」

「で、依頼の成果はどんなもんなんだ?」

「とりあえず、海賊の撃退は難なく終わって向こうに引き渡したよ」

 ま、難なく終わらせるような海軍じゃないとレキナは依頼を頼まないか。

「で、レキナさんの本題の事なんだけど、やっぱり撃翔たちはこっちに向かって進んできているみたいなんだ。でも、子供の撃翔も多かったからスピードはそこまでなかったね」

 レキナの推測は正しかったという訳か。でも、この事を上に報告しようとするならサバたちが上に直接言うのも一つの手だが、多分受け入れてくれないだろうな。後、絶対な証拠になるものと言えば………。

「なぁ、サバ。その撃翔の事なんだが、写真か映像はないのか?」

 そう。写真か映像なら上は受け入れてくれるはずだ。特に映像の方なら絶対的な証拠となる可能性が上がる。

「あるよ。レキナさんからビデオカメラを貸してもらったからね。今、そのビデオカメラは僕が持っているよ」

「悪いが、その映像見せてもらってもいいか?」

「いいけど、どうしてなんだい?」

 サバの口元が今にも笑いたそうにしている。そう言えばサバはポーカーフェイスが苦手だった。

「お前、もう勘付いているだろ」

「うん、レキナさんの代わりにレイスが来たんでしょ? それくらい分かるって。えーっと………はいこれ」

 笑いながらサバからもらった物は『研究保存用』と書かれているどこにでも売っているビデオカメラだった。俺はビデオカメラのスイッチを押して映像を再生する。

「………」

 映像は30秒程度しかなかったが、俺はその映像を見て絶句した。

 教科書や資料集に載っている撃翔とは比べ物にならないくらいの撃翔がゆっくりとしたスピードで飛んでいる。映像に映っていた撃翔は少なくとも200羽は優に超えているだろう。それが明日明後日にこの島に来るとしたら甚大な被害を生みかねない。

「な、なぁサバ、この撃翔たちを撮った場所ってどのあたりか分かるか?」

「うーん………。ごめんそれは分からない。『海鐘うみかね』の速度全開だったからね」

 海鐘と言うのはサバの持っている軍艦の名前である。海鈴型2番艦で約40ノットほどの速度が出て、砲撃力はかの国にある戦艦並だと言われている。実際、俺もよく知らない。

「なるはどな。じゃおれはこれで」

「あれ? もう行っちゃうのかい」

「まぁな。早くこれをレキナの奴に届けないといけないし」

「そうだね。じゃまた。今度また海鐘の中案内してあげるよ」

「楽しみにしておくぜ」

 俺はレキナのビデオカメラを落とさないように手に持って、真水鎮守府を後にする。ハクヤと海軍長の話は長引きそうだと思った俺はハクヤを待たずに行った。


 僕は今、海軍長と話をしている。

 海軍長室は陸軍隊長室みたいに散らかってなく、黒いシックな本棚には今までの作戦資料や海軍資料などが隙間なくぎっしり詰まっており、海軍長の机には山ほど書類が積み重なっている。独特な雰囲気を醸し出しているジュークボックスからはしみじみとした曲調の歌が流れており、檜で作られた壁紙からは森の中にいるような檜の匂いが流れてくる。海軍長の後ろにある大きな窓からは海鈴型2番艦、海鐘の主砲とそれの持ち主であるサバ君と話しているレイスが見える。

 本棚と同じ色で同じ素材で作られた机に広がっている書類を慣れた手つきで片付けながら海軍長は話しかけてきた。

「で、君に来てもらった理由は大体察しがついているわよね?」

 今の口調から分かるように海軍長は女だ。その美しい美貌から海軍だけでなく、陸軍や空軍にも海軍長のファンがいる。

 僕は海軍長の言っている言葉の意図を察して言葉を返す。

「はい、僕の能力の範囲内なら」

「そう。一応、もうサバ君とは話をつけてあるから後は君しだい」

「分かりました。それでですが………」

「ん? 何かあるの?」

「確認のつもりですが、もう一度海軍長の口からやることを言っていただけないかと。流石に手紙だけだと………」

「そうね。流石に疑われるのも無理はないか」

 そう言うと海軍長は書類を片付けるのを中断して、僕の方を睨みつけるように見つめて話す。

「ハクヤ君に頼みたいことは目の前に見える海鐘の索敵機能の向上。具体的には君の能力『レーダーサーチャー』の一部を海鐘の電探に埋め込んで撃翔の進攻をいち早く察知すること。そうして、2日後あたりに起こる第二次撃翔進攻戦に備える」

 僕は口に溜まった唾をごくりと飲んだ。再び撃翔が進行してくるのは僕の能力であらかた予想はしていたけど、海軍長の口から撃翔が進行してくると聞かされると身が竦む。しかも早めに察知するという事は僕のこの作業がこの戦いの運命を決めることになりかねない。

「私から話すことはこのくらい。これ以上は上しか知らないことだから私からは話せないわ」

「分かりました。でも、あまり期待はしないでくださいよ」

「いえ、期待しますよ。ハクヤ君の能力は陸軍長から嫌と言うほど聞いてますし」

 やっぱ腐っても陸軍長なんだね。

「………分かりました。では、早速作業に取り掛からせていただきます」

「よろしく頼みますわね」

 僕は海軍長の方を改めて向き、陸軍の敬礼をして海軍長の部屋から退出した。


 サバから受け取ったレキナのビデオカメラを手に、俺はレキナの元へ全力ダッシュして研究室に戻った。地下に入ると暗闇で足元が見えないため階段で何度か転びそうになってしまった。

「おーい、レキナ。持ってきてやったぞ」

 研究室の扉を開け、中にいるレキナに向かって言う。多分また研究に没頭しすぎて俺の声なんか届かないだろうと思ったが、幸いにもレキナは研究の休憩中らしくすぐに返事が飛んできた。

「あら、ご苦労様」

 俺はレキナの元に駆け寄り、手に持っているビデオカメラを落とさないようにレキナに渡す。

「ん、確かにこれは私が依頼の時に渡したカメラね。で、レイス。あなたこの中見たの?」

「ま、まぁな。勝手に見たのは謝るよ」

「別にいいわ。どうせこれを上に見せて上はこれを本部中に流すつもりだと思うし」

 後の後のことまで考えている人ってとてもすごいよな。

 などと思っているとさっき見た撃翔の映像がいつの間にか用意してあったスクリーンに映し出されている。

 改めてもう一回見てみるとすごい軍勢だなと思う。ビデオカメラで見た撃翔の数は200羽くらいだったのがスクリーンで見てみるとさらに数が増えているように見える。さっき、サバが子供の撃翔がいるから動きが遅いと言っていたけど、子供なんか見当たらないくらい全てが完全な成鳥のようだ。鋭く尖った嘴や爪に普通の鳥以上の巨羽、そして何より資料集でしか見たことが無い撃翔が動いていることに再び戦慄した。

 やがて映像が消えるとレキナはカメラと6枚くらいの紙の束を鞄に入れてどこかへ行く準備をする。

「レ、レキナ? どこに行くんだ?」

 レキナは準備しながら俺の問いに答える。

「決まっているでしょ? 上にこのことを報告するためよ。一応、スピーチ用の原稿も書いておいたしね。来てもいいけどレイスは中に入れないわよ」

「その時はドアや壁越しに耳を当てて盗み聞きするだけだ」

「堂々と宣言したわね」

 レキナの準備が終わると俺はレキナの後ろについて行き、軍人本部総司令部会議室の前でレキナを見送る。

 軍人本部総司令部会議室は軍人本部の最高権力を握っているところであり、同時に軍人長の部屋でもある。俺たちが上と言っているのはこの場所の事であり、奴みたいな各軍長単体(奴は例外)の事を言っているのではない。

 総司令部は軍人長、各軍長、政治長、研究長、軍学校長などの組織で作られているが、各軍長はそれぞれの自室で発言したりしているのでここに来ることはほとんどない。尤も、俺みたいなただの軍人が入れるようなところでもない。

 政治長と言うのはこの軍人本部の風紀を取り締まっている政治司令部の長ことである。『軍人にふさわしい軍人にする』というのが政治司令部の信条であり、暴力や暴言、過度な不純異性交遊など、政治司令部の信条に引っかかる軍人は政治司令部のありがたいお言葉と言うのが待っている。

 研究長と言うのはレキナみたいな研究者を束ねている長の事である。研究者が発見したことはすぐに研究長にはなることが規則であり常識なのである。研究長は研究者たちから聞いたことを月に1回の研究報告会議で報告することとなっている。レキナは次の研究長の候補として研究者の中では揚がっているみたいだが俺には関係のないことなので知らない。

 軍学校長と言うのは字の如く、軍人学校の学校長の事である。通常、本部にいる軍人は全員学校を卒業しているため学校長が会議に出ることは不自然だと思うが、学校長曰く、『卒業する生徒が立派な軍人になるようにちょっとでも力になれば』ということなので会議に出ているらしい。

 今日は研究長、政治長、軍学校長全員がこの会議室にいるらしく、レキナは研究長に報告するだけなのに総司令部にも報告ができて一石二鳥だわとここに来る前に言っていた。

 この会議室前には警備兵などいなく、また普通に人が来るようなところでもないので俺は壁に耳を当てて中の様子を聞く。

『………のように、海軍の軍人が撮ってきてくれた映像にはしっかりと撃翔の姿が映っています。しかも私の妹からもらった手紙と比べると時間が一致するのです』

『その映像が作られたものとは思えんかね? 羽の動きや目の鋭さといい、とても細かに作られているみたいだが』

『いえ、まったく思いません。これを撮った海軍の軍人はあまりの光景に驚いてそのことを海軍長に話したそうですから。そして証拠としてこの映像を見せたそうです』

 え? サバ達、あの映像海軍長に見せたのか? まぁ俺もレキナの許可なしに見てしまったけど、海軍長にかぁ。

『ふむ、海軍長。今の発言は誠ですか?』

 上は今海軍長と連絡しているみたいだな。でも、海軍長の声がちょっとだけ聞こえてくるな。

『………です。私は………に………で………をして被害を………としています。また、海軍の………の………により私は………しました』

 ダメだ、重要なところだけがノイズがかかったように全く聞こえてこない。壁越しだから仕方がないか。

『君はどうなんだい、空軍長』

 今度は空軍長と連絡か。

『私もこの話は真実だと思います。先ほど空軍進撃調査隊中佐ロイト・フォールーズから連絡がありまして、航平海こうへいかい浮かぶ無楼島むろうとうの上空にて大群の撃翔が北西に向かって進行中との連絡を受けました』

 空軍長の話だけはしっかりと聞くことができた。もしかしてこの会議室の中にいるのか? しかもなんか俺の()の名前まで出てきたぞ。

『くっ、陸軍長はどう思うのかね?』

 奴まで中にいるのか? レキナが報告に行くことまるで知っていたようだな。

『僕はその時に応じるよ。だけどね………(バチン)』

『お呼びでしょうか』

 あの声はレイガか? もしかして今奴が指を鳴らした時に出てきたのか?

『あれをこの場に出して』

『了解しました』 

『陸軍長、一体何を考えているのですか』

『別に。ただ、レキナ君と同じく僕からも見て欲しいものがあってね』

『見て欲しいものだと?』

 すると会議室のどこからか台車を持ってくるような音が聞こえてきた。

『こ、これは!?』

『現在こっちに向かって進行中の撃翔からちょっとだけ拝借したものだよ』

『これが………撃翔のものだというのか………』

 一体何を見て驚いているのか分からない。くそ、俺も中に入れればな………。

『触ってもいいよ。ただこの会議が終わった後はしっかりと手を洗ってね』

『そ、それでは………。………陸軍長、この赤い液体は何かね? 何か生温かくてねっとりとした………』

『あ、まだあったのか。すいません、それ、拝借した撃翔の血だよ』

『な、何!?』

 おいおい、血があるってことはもしかしてそこにあるのは撃翔の羽か?

 撃翔は羽の中に大量の血管が通っており、普通の鳥のようにひらりと取れるようなものじゃない。

『あ、そう言えばまだ言ってなかったね。それ、子供の羽だよ』 

『何!? この大きさで子供のものだと!?』

『そういうこと。レイガ君、それ、しまってきて』

『了解しました』

 そして再び台車を持っていく音が聞こえてくる。撃翔の子供の羽っていったいどのくらいの大きさなんだ?

『いかがかな、政治長。これで撃翔が来ることを認めないわけないよね?』

『くっ、私は認めんぞ。今の今まで平和だったんだ、急にそれを壊されるなんて認めるものか』

『うぉっほん! 静粛に。では、審議を始める』

 この声は………軍人長だ。

『映像及び報告、実物において撃翔がこの島に向かって進行し、攻撃をしてくるだろうと思う者は挙手を』

 十数秒間の重たい沈黙。

『それでは、撃翔がこの島に向かって進行してくるのに対して攻撃は一切されないと思う者は挙手を』

 そして再び十数秒間の重たい沈黙。

『審議の結果により軍人本部及びこの島全てに撃翔進攻警報を出す。そして実戦投入できる軍人及び教員、関係者を全て集め撃翔との戦闘に参加させる。医療関係の軍人は直ちに医療道具の確認、準備。実践投入できない軍人及び内部の教員、関係者は陸軍が使用する地下訓練施設へと避難。また、非常用の地下シェルターを準備し、町の人々の避難場所として使えるようにせよ!』

『了解!』

 おいおい、何かとても大変なことになりそうだぞ。

『歴史調査研究家レキナ・ヒストラーン、情報提供感謝する』

『あ、ありがとうございます。失礼します』

 やがて扉が開くとレキナが険しそうな顔をして戻ってきた。手に持っている紙はくしゃくしゃになっており、ビデオカメラはレキナの手汗でびっしょりだった。

「よっ、その様子だと成果はあったみたいだな」

「まぁね。ま、レイスの事だから私が何を言いたいか分かるでしょ?」

「ああ、そのつもりだ」

「なら、早く戻って準備した方がいいんじゃない? 私はここでいいから」

「お? そうか。じゃ、俺はこれで。絶対勝ってみせるからな」

 レキナは何も言わずただ手を振って俺を見送り、再び会議室の中に戻っていった。

 そしてその10分後。

『全軍人及び教員、関係者に告ぐ。この数日の間に撃翔の軍勢がこの島に向かって進行、攻撃してくる可能性がある。撃翔との戦闘が可能な軍人及び教員、関係者はそれぞれの真武の確認等をして撃翔との戦闘に備えよ。またそれ以外の軍人及び教員、関係者は陸軍の訓練場である地下訓練場へと攻撃が始まり次第避難せよ。繰り返す。全軍人及び………』

 軍人長直々の言葉で撃翔進攻警報が軍人本部全域に出された。

 今、すべての軍人たちが何事などと騒いでいる頃だろう。

 だが、撃翔の進攻は時間の問題に過ぎない。攻撃が始まればまた100年前のような悲劇が繰り返される可能性がある。俺は何としてでもそうさせないために指輪上になっている俺の真武に今の気持ちを誓う。


 第二次撃翔進攻戦まであと2日。

いかがでしたでしょうか。少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。

時系列としては大密林調査依頼後、激闘魔符合戦前の話になります。

規模としては地VS天みたいな感じですかね。人間の何百倍もある鳥って一体何なんでしょうね? 巨鳥を超えてドラゴンかな?

実は僕って鳥がかなり大好きでポケモンでもひこうタイプが一番大好きなんですよね(関係ないか)。でも実はあまり鳥の生態について知っていなかったり。

前回の後書きで『書きたい話がある』と言っていましたが、その話がこれです。学校で考えていると結構話が浮かんできたりして非常に楽しいんですよね。なら何で時間が開いてるんだというのはやめてください。

何で魔符合戦前なのかと言うと、魔符合戦でいろんなキャラを出したいからなので。ま、撃翔との戦闘で誰がどのキャラなのか理解してくれると嬉しいです。

次の小説ですが、できれば年末までに2つほど投稿ができればいいなと思っています。最低でも1つは投稿したいです。

という事で、読んでくださった皆様に感謝して次の小説でお会いしましょう。

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