揺れ動く大密林 終編
バトルシーンは最初だけですが、バトルシーンもうまく書けている自信が無いので大目に見てください。
いやー、何か絵が欲しいですね。絵心無いんで描けませんけどねww
暗闇の中に突入した俺たちは、前も見えない闇で前方に何がいるのか分からない。すると突然、暗闇が浄化されていくかのように消えていき壁などに光が付着する。
振り向くとセンラが親指と立てて笑っていた。突入した瞬間に『照壁風の演舞』を使って壁を明るくしてくれたのだろう。
明るくなった部屋の前方を見るとそこには黒い大きな物体が鎮座していた。一目見ただけではよくわからなかったが、その物体を構成している黒い輝きは間違いなく浄化石だ。高さは10mはあるだろうと予想できるほど大きく、左右には俺たちの拳約50倍くらい大きな手があった。一番上には頭と思しき部分があり、身を竦ませるような赤い目が兜を被って虚空を向いている。もちろんすべて浄化石でできている。鎮座している物体は一切動かずにいたが―
ゴゴゴゴゴゴゴゴ………
急にその物体が鈍く動き始めた。座っていた物体はやがて立ち、左右にあった両手をゆっくりと物体の頭上へと持ってくる。その物体の手にあった浄化石の欠片が1つ地面にコンと音を立てて落ちた瞬間、物体の両手が勢いよく俺たちめがけて振り下ろしてくる。
「みんな、避けろ!」
俺は大声でみんなに指示を出す。
ズウゥゥゥゥン!
指示が間に合ったのか、初めから回避していたのかどうか分からないが、物体が振り下ろした両手の回避に成功した。振り下ろした時の追加で激しい衝撃波が襲い掛かってくる。吹き飛ばされそうな衝撃波を俺は剣を地面に突き立てて飛ばされないようにした。みんなはどのようにしてこの衝撃波を回避したのかは分からないが、確認してみると全員無事だった。そして物体の腕が左右に戻っていくと同時に、凄まじい光景を目の当たりにして絶句する。
さっきまで煉瓦みたいにきれいに並べられていた石の地面が、月のクレーターみたいにきれいに抉り取られ大穴ができていた。石の煉瓦は粉々に砕け、きれいな拳の大穴となっている。もしあの攻撃を喰らったのなら確実に死んでいただろう。
また、明るくなったおかげでこの部屋もよく見える。物体の奥の方には今見たクレーターと比べ物にならないくらいの、深いクレーターができていた。幸い、この物体は今は全然動かないのでそのついでにこの部屋を調べる。
さっき見た深いクレーターと、できたばっかのクレーターを除けば気になる点は1つだけ。明らかに違う色の壁が物体の後ろに佇んでいる。おそらくあれが出口なのだろう。という事は………
「なぁ、ヴァスト。これってもしかしてさっき言っていた守護者というものか?」
俺の創造と同じことをヴァストは質問の答えとして言い切る。
「………そのようだな。多分これが古代文明の守護者だろう」
「でも、これ、どうやって倒すんだ? あのクレーター見ればわかると思うが、まだまだ浄化石の耐久度は5000を優に超しているぞ?」
「………そうだな。今の俺たちの真武じゃ当てにならない気がするんだが」
「おい、みんな! これ見てくれ!」
驚いてみんなを集まらせたのはガクスだった。手には立体投影板が握られていて、すでに映像が出ているみたいだ。
「………何だよ?」
嫌な顔してヴァストがガクスの出した映像を見る。するとヴァストの顔が嫌な顔から驚愕の顔へと一気に変貌する。俺も何度ろうと思いその映像を見ると、ヴァストの顔が驚愕の顔へと変貌した理由が分かった。
その映像は、雫が水に落ちた時にできる波紋を現していた。発信源は相変わらずの密林内、つまり俺たちの場所くらいだろう。今までの波紋とさっきの波紋を比べてみると、今までの間隔とは違ってさっきの波紋の方がより大きな間隔を示していた。つまり―
「その映像ってもしかしてさっきの守護者が地面を叩いた時に出た地震なのか?」
「そう。しかも今までのような一定した震度じゃない。明らかに、俺たちをさっきの一撃で潰そうとした感じの威力だ」
女子2人はまるで理解していないみたいだが、そんなことは問答無用で俺達だけで話を進める。
「それじゃあ………」
「………この守護者はまだ意志を持っている。敵対するものを排除するという使命に従って、だろ?」
「あ、ああ」
「レイス、これは植物じゃないからお前の能力が使えるかどうか分からないが、一応コンタクトを取ってみてくれ。大丈夫、動き出しても俺たちがお前を守るからさ」
「了解だ」
俺は目を閉じて『フォレストコミュニケーション』を発動する。自然の流れが無いせいか、いつものようなスッとした感覚が無い。逆に押し戻される感覚が強く能力を強制的に止めさせられそうだ。押し戻される奔流を自慢の根気で乗り越えると、何やらほかの魂とは違う魂を見つけた。おそらくこれが、この守護者の魂なのだろう。
「あの………」
恐れることなくその魂にコンタクトを取ってみる。
『シズメ………。コノセカイノオワリハモウスグ………』
俺の声に全く気付いておらず、守護者の魂は外の洗脳者と同じ感じで、独り言みたいに言っている。
『ワレノカンソクニクルイハナイ………。サァ、シズムノダ………』
俺はこの守護者が言っていることを推理すると、ある一つの可能性が分かった。一旦能力の発動をやめてみんなにこの事を伝える。
「………レイス、何か分かったのか?」
「あくまで推理だけどさ、この守護者の正体はナバルだ。正確に言えば、この守護者に魂を移したナバルだ」
「………確証は?」
「ないとは言い切れない。さっき、ナバルの魂が『ワレノカンソクニ………』って言っていたんだ。この古代文明で島が沈むことなどを観測できたのはナバルだけだろ? だから、ナバルかなって分かったんだ」
大体こんなもんだろう。簡潔にまとめすぎた気がするが、そこは気にしないでくれ。
「………こればっかりはレイスの判断に頼るしかないな」
「そうだな。なら………」
「ええ、私たちのやることはただ一つ」
「ナバルを倒して地震の影響を無くすこと!」
俺たち全員は再度佇んでいる守護者―ナバルを見つめる。黒光りする浄化石に巨人を思わせるくらいの巨体。今まで俺たちが戦ってきたものよりもはるかに強敵だが、1つの村を救うため負けられない。
そう新たに決意と覚悟を胸に秘めた時、ナバルが動き出した。頭上にある赤い目は俺たちを嘲笑うかのように凝視しているように見える。兜のせいで本当にそうなのかは分からない。腕を振り上げ、さっきみたいに俺たちを潰そうとしてくる。腕が地面に降りてくる瞬間に俺たちはそれを回避して、俺、ガクス、ヴァストの3人は振り下ろしてきた腕を剣で斬りつける。
一点集中で左の手を俺が正面で上からの振り下ろし攻撃、ガクスは右側、ヴァストは左側のそれぞれ逆の方向から、片手剣前方範囲技の『ハフムーンサイド』を繰り出す。女子2人は衝撃波を伏せてやり過ごしている。
ハフムーンサイドという技は、半月の要領で自分の周り180度の範囲を水平に斬り裂く単純な技である。取得はかなり簡単で、仕事の時はこれがあるかないかで戦闘が分かれる。2、3日練習したらすぐに使える技なので、訓練では最初にこの技を教えることが多い。
ギィィィンという金属を引っ掻くような嫌な音が出て、腕には傷一つ付いていない。斬った後も浄化石が黒いせいか肉眼では見えない。
すると今度は攻撃していない右手が後ろへと何かをするように構えている。攻撃している左手がその場を離れた時に、右の手が勢いよく俺たちを薙ぎ払うみたいに攻撃してくる。腕の太さは俺たちの上跳範囲を優に超えているため、ジャンプによる回避行動はできない。
俺の反応が遅れたことを見逃さなかったナバルは、薙ぎ払い攻撃を俺に変更して水平に腕を振る。
「ぐっ!」
両手にある剣2本を交差させて水平薙ぎ払い攻撃を防ぐ。直撃こそ喰らわなかったものの、一撃が重く勢いがあり、俺はそのまま壁まで吹き飛ばされてしまった。浄化石でできていない壁は俺が飛んでくるスピードに耐えれなかったのか、俺を中心にして盛大な音を立てて崩れて瓦礫と化する。
「ぐあっ!」
背中から壁にもろにぶつかった俺は激しい激痛と眩む視界に襲われ唾液を吐きだす。
軍服は多少の衝撃くらいならその分の威力を吸収してくれるのだが、威力が大きいと吸収できず着ている本人へとその衝撃が流れてしまう。
軍服のおかげで背中の骨は何とか折れずに済んだが、結構やられたみたいだ。ストラトブレードも柄の部分に小さなひびが入っているが、エメロイドレストは傷一つ付いていない。
ガクスやヴァストが心配そうな目でこっちを見ているだ、俺は大丈夫だと目で伝えて前線に戻る。
俺が戻った時にさっきの崩れた壁のせいか、天井の拳サイズの岩が1つ、ナバルの赤い目にコンという音を立てて落ちた。
『ヴォォォォォ!!!』
ナバルの叫び声なのかどうか分からないが、岩が当たった瞬間にナバルが赤い目を両手で押さえている。
その時、俺たち全員の頭の中に一つの電閃が突き抜けた。
「なぁ、みんな!」
俺が言わなくても、みんなは首を縦に振って分かっていると言っている。なら、分かっているならこれに全てを賭けてみる。
「カノン! 俺の言いたいこと、分かるよな?」
「もちろん! やれって事でしょ? でもどうやって?」
「任せな! センラ、後の事は頼むぞ」
「了解です」
ナバルが目を押さえているのはそこまで長くないはず。なら、この限られた時間内にやってみせる。
俺は軍服の懐から水紙くらいの大きさの絵が描かれている紙を取り出し、人差し指と中指の間に挟んで言霊を詠唱する。
「森の力を秘めし符よ。神を祀る柱となりてこの場に顕現せよ!『怒り狂う六御柱』!」
言霊を詠唱するとスペルカードから光の粒子が飛び出し、そのまま頭上へと流れて何の音もなく消えていった。一瞬、不発かと不安に思ったが、そんなことはなかった。
ズズズズズズゥゥゥゥゥン!!!
立て続けに6つの巨大な何かが落ちてきた。それはナバルと同じくらいの高さがあり、注連縄で結ばれていて、神社にあるような御柱だった。正六角形が作れそうな均等な位置にこの御柱はそびえ立ち、少しの震動でもピクリと動かず倒れる気配もない。
「センラ、あとは宜しく!」
俺は後の事をセンラに任せて前線の仕事を遂行する。
センラはもう1枚のスペルカードを取り出してカノン目がけて言霊を詠唱する。
「風の力を封じし符よ。今ここに蒼穹へと昇る強風となりて吹き荒れろ!『ゴーオンエアライド』!」
センラが詠唱した言霊は光の粒子となってカノンの足元へと流れ込む。カノンはその光の粒子を見ると手にスペルカードを挟み、目をつぶって言霊を詠唱する。
「狙う力を放つ符よ。我を完全静寂なる沈黙の世界へと誘いたまえ!『索敵機能不可の隠密術』!」
前線に出てナバルが意識を取り戻し、戦っている俺でもこれだけはよく分かる。今、俺たち全員からカノンの気配が消えた。気配が消えただけであって本来はそこにいたり、姿は消せないので目で見ることはできるのだが、そこにいるという感覚がなくなる。普段親しくしていたり、一緒にいる時間が長ければ長いほど気配は薄くなるので、センラにはほとんどといっていいほど効果が無い。
気配を消したカノンはセンラに向かって首を縦に振って合図を待つ。
「さぁ、強く吹き荒れたまえ!」
センラが強く言い切るとさっき下に流れ込んだ光の粒子が、計測できないほどの風速を出し強風が吹き荒れる。その強力な風により、吹き荒れ始めたところにいたカノンが風の力によって浮き上がる。カノンは浮き上がることは慣れているためすぐに上がり、そしてカノンは強風で俺が出した御柱の1つに乗る。カノンが御柱の上に乗った途端に風はぴたりと止んだ。
御柱の上に乗ったカノンは狙撃の構えを取って能力『バレッティングターゲット』を発動し、ナバルの様子を窺う。弾の装填はばっちり、気配もナバルに気付かれることは『索敵機能不可の隠密術』のおかげでほぼない。
俺がやろうとしていることは、カノンのデガラートの弾の一撃でナバルを倒すという事だ。さっきの岩の事で思ったことは、あれだけの小さな岩であんなにも痛がっているという事は目の部分だけ弱いという事になる。幸い、デガラートの威力はそんじょ其処らの岩は容易く砕けるほどの威力を持っている。浄化石の場合はどうなるのか分からないが、目さえ貫くことができれば倒せるだろう。カノンがデガラートでチャンスを待っている間に、俺たちはコイツの目をカノンの方へ開いている状態で向かせなければならない。
岩のせいで今は目を閉じて暴れているが、見えていないため全然当たらない。そのせいで足場は悪くなる一方であり、足元には小さなクレーターと大きなクレーターができている。ナバルの方にも気を取る事は大事だが、足元にも気を取らないといけなくなったのは面倒だ。
暴れているナバルを見て思ったことは、ナバルの攻撃は3つしか存在しない。1つ目は俺たちを見つけた時に放ってきた振り下ろし攻撃、2つ目は手を前方に大きく薙ぎ払う攻撃、3つ目はそれらの攻撃後に起こる凄まじい衝撃波。攻撃事態は単調なのだが、意外と動きが早く攻撃を与える時間が無い。
そんなことを考えているとナバルの赤い目が一瞬俺たちの方に向けて開いたと思ったら、また閉じてしまった。多分、あれは俺たちの場所を確認したのだろう。
確認したせいか、ナバルの攻撃が俺たちを捉えているみたいで、薙ぎ払い攻撃もぎりぎりかわせるくらいになってきた。
「………おい、どうする? このままだと俺らの体力が持たないぞ?」
薙ぎ払い攻撃を俺と一緒のタイミングでかわしたヴァストが不安そうに言ってくる。
「そう言われてもなぁ。何かしらのチャンスがあるのを待つしかないぞ」
「………分かった。もう少し頑張れよ」
そう言ってヴァストは能力の速さでナバルの懐へと潜り、剣を高速で振り回しナバルに攻撃する。
俺も負けてられないと思い、片手剣反撃技『フェーイングスレイド』を発動する。この技は地面に着地する瞬間に足の跳躍力を使って地面を蹴り、前方へと硬直時間なしに跳び、攻撃することができる技である。強い跳躍力と優れた反応性が無いとこの技は取得することができない。難点なのは、この技は前方にしか跳んで攻撃ができないことだ。左右にも跳ぶことはできるがその場合は、より高度なテクニックを必要とするため訓練は厳しくなる。俺は前方にさえ跳べればそれでいい。
跳んだ先はナバルの右足であり、ヴァストが与えていた斬撃やガクスが与えていた攻撃も何一つ傷が見当たらない。今、ナバルの注意はガクスが引きつけているため俺とヴァストは攻撃し放題だ。だが、俺は慢心せずにこの攻撃が終わったらきちんとガクスの援護に向かうつもりだ。
ようやく俺の2刀流の剣技を見せるときが来た。俺は右手にストラトブレードとエメロイドレストを持ち、左手にはフェーイングスレイドの時に取り出した2刀流専用のスペルカードを挟んでいる。俺はそれを高速で詠唱する。
「剣の力を秘めし符よ。魔を滅する2刀の剣となりて我に力を与えたまえ!『セイバーズアトラレーション』!」
俺が言い終わるとスペルカードは光の粒子となって消えていき俺の2つの剣へと光が纏わり付く。スペルカードが消えたことによって俺はもう一回剣を構えなおし、右手にエメロイドレスト、左手にはストラトブレードを持ち直す。
光の粒子を纏った剣たちはまるで踊るように俺を誘導してナバルの右足を攻撃する。自分でもどのように表現すればいいのか分からないが、少なくとも片手剣連続技の『ザメグガリンヴィプス』を両手で放っているようだ。
ザメグガリンヴィプスは片手剣連続技の10連撃技。取得するには骨が折れるほどの訓練が必要であり、そのため、取得できる軍人はほぼいない。この技は最初に剣を右斜め上と左斜め上からバツ印のように斬り(2連)、続いて右から左に上から下へと十字のように斬り(4連)、次からはその逆の右斜め下と左斜め下からバツ印のように斬り(6連)、左から右に下から上へと十字のように斬り(8連)、最後に2回相手の体を斬るように突く(10連)。剣の動きもかなり速くしないとこの技の最後の突く部分は難しい。
やがて剣から光が失われていくと動きが遅くなり、剣の威力も失われていく。両手約20連撃の斬撃を放った後を見ると、10数個だけ浄化石にくっきりと分かる傷跡が付いていた。どっちの剣で付けた傷なのかは分からないが、おそらくエメロイドレストの方だろう。左手にあるストラトブレードを見ると刃がかなり欠けていてメンテしないと折れそうだった。
攻撃後、俺はそこから離れてここまで時間を作ってくれたガクスの援護に向かう。が、走っているガクスの姿は見当たらず、壁にもたれているガクスが見えた。その周りには大きな壁の破片がちらほらと落ちている。どうやら、俺が攻撃している時に薙ぎ払い攻撃を喰らって壁に激突したのだろう。しかも、かなり強力な攻撃だったのか体が言う事を聞かず立てないみたいだ。このままだとガクスはナバルの絶好の的となってしまう。
「センラ! ガクスに治癒技掛けてやってくれ! ちょっとの時間は俺とヴァストで持ちこたえる!」
「了解です!」
横目でセンラがガクスの救援に向かったのを確認すると、俺はもう一度ナバルの方を向いて剣を構える。その横には攻撃をしすぎたせいか、疲労が溜まっているヴァストの姿があった。
「おい、大丈夫か?」
「………あ、ああ問題ない。続けるぞ」
「無理すんなよ」
「………そっちこそ」
そう言うとヴァストは瞬間的に俺の視界から電光のように消え、再び懐で攻撃を仕掛けている。が、さっきよりも動きのキレが悪い。相当疲れている証拠だ。
俺も攻撃を仕掛けようとすると右手から薙ぎ払い攻撃が来るみたいなので、左に回避しようとする。だが、左手からも同じタイミング手薙ぎ払い攻撃が来ていた。これはつまり―
「ちっ、挟み撃ちかよ」
まるで俺を潰すように掌が襲い掛かってくる。後ろにはガクスとセンラがいて、前方にはヴァストが攻撃しているためどちらにも回避することができない。左右からは巨大な浄化石でできた掌。回避するにはただ一つ。
「ハッ!!」
俺は力いっぱい地面を蹴って上空へと跳ぶ。そして、
ドカァァァァァン!!!
両手がぶつかり、凄まじい音が発生する。それを何とかかわせた俺はバチンと拍手みたいな音が出るかと思っていたが、やっぱり石と石とがぶつかり合ってできた大きな音だったと苦笑する。その行動の後にできた衝撃波は今までよりも強く、跳んでいた俺はその勢いに負けてナバルより上へと勢いよく飛ばされてしまった。
「うおっ!」
言葉にできない浮遊感が全身に伝わり、俺はどうにかして空中で態勢を維持する。やがて衝撃波が消えると、今度は自由落下の原理に基づき垂直にナバルの頭にある兜向かって落下する。そして俺はあることを考えてストラトブレードを真武へと戻し、スペルカードを取り出して落下中に詠唱する。
「緑多し森林の符よ。大地を轟かせ裂強となりし力で全てを斬り裂け!『大裂緑斬』!」
詠唱した言霊は光の粒子となってエメロイドレストに纏わる。エメラルド色に輝いていた刃はさらに濃い緑色へと変わり輝きだす。俺は剣を頭上に振りかぶり、落下するスピードを利用して思いっきり剣を振り下ろして兜を真っ二つに斬り裂く。浄化石でできた兜はエメロイドレストの力で易々と緑色のオーラを出しながら斬られていく。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
けたたましい雄たけびを上げながら、その勢いのままナバルの体までも両断する。ズゥゥゥンという音とともに俺は地面に降り立ち、技の威力を証明するような衝撃波が生まれ欠片は虚空を舞い砂埃が立ち込める。体自体はとても大きいため斬れ込みしか入れることができなかったが、それでも俺は十分な成果を成し遂げた。
大裂緑斬のせいで全身硬直が発生し、今の場所から動くことができない。だが、こちは動き叫ぶことはできる。
「今だ! カノン!」
デガラートの銃声が聞こえたのは兜の欠片が地面に落ちた瞬間だった。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
レイスの雄叫びが私の耳の中を突き抜けていく。本当、戦闘に関しちゃ一人前なんだから。
私はデガラートの引き金に指をしっかりとあてていつでも狙撃が可能な状態にする。バレッティングターゲットのおかげで外すことはないのだけど、弾が予想外の動きを見せることがあるので油断してはいけない。
スコープ越しからでもレイスがあのナバルを思いっ切り斬り裂いているのが分かる。しかもあの緑色のオーラは大裂緑斬を発動したっていう証拠でもある。優しい緑色は心を落ち着かせろていうレイスからのサインかもしれない。
私は開いているもう1方の手でスペルカードを取り出して言霊を詠唱する。
「我が銃に宿りし力よ。全てを貫く鉄の弾丸となって飛んでゆけ。『ストレメタルキャノン』!」
スペルカードの光の粒子は私のデガラートに入っている弾に憑りつき、さらに硬度と殺傷能力を底上げしてくれる。
やがてレイスが地面に降り立ち衝撃波が発生すると、ナバルの目を隠していた兜が真っ二つに分かれるが、目は閉じているので狙撃はまだできない。やがて兜の残骸が地面に落ちていくと、ナバルの目が開くのとレイスの叫び声が聞こえてきたのはほぼ同時だった。
「今だ! カノン!」
「了解。よくやった」
ナバルの目が開く瞬間を狙って―
ドン!!
デガラートを叫ばせて弾丸を発射させる。銃の衝撃で支えていた方の手が負傷しそうになるが、そこは自分の力で持ちこたえる。嗅ぎなれた硝煙の臭いとともに超高速で飛んでいく弾丸は、浄化石をものともせずにナバルの目の中心を見事撃ち穿いていく。そして穿いた弾丸はそのまま壁へと突き抜けていく。
ヴォォォォォォォォ!!!
断末魔の如く叫んだナバルの体は徐々に崩れ始め、あの巨体を思わせるような体はなくただの瓦礫と化した。自分の元に降ってきた浄化石を見るとそれは黒い輝きを失っており、ちょっと触れただけで砂のように崩れた。この浄化石にはもうあの耐久度はないのだろう。
すると私の体の下にある柱から光の粒子が虚空へと消え始める。おそらく効果時間が消えてもう柱が消えるのだろう。私はデガラートをしっかりと担いでレイス達のいる場所へと飛び降りた。
ナバルが崩れようやくバトルが終わった。やっぱり最後の手柄を横取りされるのは悔しいが、今回はカノンの力が無いとできなかったからそこは目を瞑ろう。崩れたナバルは巨大な浄化石の砂とともに地面にあったクレーターへと流れ始めた。もうナバルが復活することはなく地震も自然現象の地震しか起こらなくなった。
俺は握っているエメロイドレストを解除して元の指輪に戻す。そして大きく背伸びをして疲れを若干回復する。そして地面に座って終わった感を出しているガクス、無表情で自分の剣を見つめているヴァスト、自分の扇で仰いでいるセンラ、デガラートを担いでこっちに向かってくるカノンを確認すると俺は大声で叫ぶ。
「依頼完了! みんなお疲れ!」
俺がこう言うとみんななぜか苦笑し始める。
「おい、レイス。それは違うぜ?」
「………ああ。報告し、帰るまでが依頼だろ?」
「本当、バカね」
「あ、あはは………」
「そうだったな。じゃ、まずは村へと戻るか」
「「「「了解」」」」
ナバルが崩れたことによって奥の色が違った壁も崩れていて、そこには上へとつながる階段があった。『照壁風の演舞』の効果が向こうまで行ってくれたのか階段も光の粒子で埋め尽くされていた。階段はそこまで急じゃなかったので疲れている俺たちにとっては助かった。コツコツと浄化石でできている階段を靴音響かせながら登っているとふと疑問に思う事が頭の中を横切った。
「なぁ、これってどこに出るんだ?」
「………さぁな。もしかするとあの広場かもしれない。その時は能力頼むぜ」
「やれやれ」
何段くらい上っただろうか。流石に足が少し痛くなってきてのどの渇きを覚えてきた。上を見ると浄化石の階段はまだまだ続いているように見える。出口の光はまだなのだろうか。
「………ん? これは………」
「どうしたんだよ、ヴァスト。まさか階段が崩れてきたと言わないよな?」
ガクスが疲れているせいかちょっと怒り気味の声でヴァストに言う。
「いや、違う。これは………階段に見せかけたただの壁画だ」
「「はぁ!?」」
ガクスと一緒に声を上げる。今いる場所から見れば本当に階段が続いているように見えるが、近づくとその遠近感が無くなって本当に壁画のように思えてくる。触ってみると本当に壁であり、ちょっと前に動いた。
「ど、どうするの? 本当に私たち、出られなくなったんじゃないわよね?」
「………いや、それは違う。かすかにこの壁の向こうから風を感じる。つまり―」
「この壁の向こうに本当の出口があるという訳ですね?」
「………そうだな。レイス、ちょっとそっちを押してくれ」
「オーケー。」
ヴァストの言う通り、俺は指定された場所を思いっ切り押す。それと同様にヴァストも壁を思いっ切り押している。
ゴゴゴゴゴと壁がゆっくり動いて太陽の光が徐々に現になってくる。女子2人は壁が動いていることに驚言え出口だってことを忘れているように見える。
相当の力で壁を動かして人一人通れそうなくらい開けると1人ずつ出口から出ていく。そして出た先が目を疑うような光景だった。
「ありがとう軍人さん。これで俺たち、地震に怯えずに暮らせるよ!」
「ほんとうにありがとうこざいます。わたし、この事は一生忘れません」
「すげぇな、軍人って。俺も大きくなったら立派な軍人になりたいな」
出口は森剌の村に続いていたらしく、村人が俺たちを出口から祝福してくれていた。出口は森剌の村の広場にある噴水の所にあった扉だったらしい。
村人に祝福されながらとりあえず俺は村長の家へと向かおうとするが、そんなことは無意味だった。何故なら村長もこの村人に混ざっていたからだった。
「おお、ありがとうございます。まさかやり遂げてくれるとは思いませんでしたわい」
「い、いえ。これも軍人の仕事ですから」
後ろを見るとガクスとカノンは俺を見てにやにや笑っていて、ヴァストとセンラは村人たちの対応をしていた。
「今日は宴じゃ! 軍人さんも参加して盛大に盛り上がろうではないか!」
「「「おーっ!!!」」」
村人が一斉に村長の声に答えるように大声を上げる。村長の目からは感謝の涙が一粒零れていた。
宴は盛大に行われた。この村で採れた野菜やこの村で育った動物の肉、そして村人の笑顔とともに夜が更けるまで行われた。俺たちは村人の質問攻めにあったりなど若干宴を楽しめなかったが、それでもこのような事は久しぶりだったので心から楽しむことができた。
そして宴も終盤に近付いてきたころ、俺は村の熱気から避けるようにこの村にある展望台と言われる見張り台で夜空の星々を眺めていた。この見張り台からはこの村と密林の一部分だけが一望できて、一目見ただけで俺はこの場所が気に入った。また、この夜空にあうように涼しくも寒い風が吹き抜けていくのもいい。下にはキャンプファイヤーみたいな大きな炎が赤々と村を包み、カノンとセンラはそこで楽しそうに村人たちと踊っているのが分かる。ガクスとヴァストはこの場所からは見つけることができなかった。きっとどこかで楽しくやっていることだろう。
俺は星々を見ながら今回の依頼について考える。
今回の依頼は古代から現代まで続くとてもスケールの大きい調査依頼だった。奴から聞いたときはいろいろ考えたりもしたが、こうやって無事に依頼を完遂するととても気分がいい。人々の笑顔が見れるのが好きだからなのかもしれないが、俺は軍人が好きだ。だからこそ、今の仕事を誇りに思える。って、こんな話ガクスやヴァストには言えないな。
俺は宴場所から拝借した『密林ジュース』というジュースを星を眺めながら飲む。木の樹液のような味とそれに加えてこの村で採れたフルーツの味が絶妙な感じを出している。アルコールは入っていないため酒ではないが、確か酒の密林ジュースもあったような気がする。
俺がこれを飲み干すと不意に後ろから声がかかった。
「ったく、ここにいやがったか。探すの苦労したぜ?」
「………どこか行くのなら何か言ってからにしてくれよな」
「お、お前ら………」
声をかけてきたのはガクスとヴァストだった。2人とも手に何か持っているようだがそこに関しては何も言わない。
「俺に何の用だ?」
「宴の最後のシメはこの連結隊の隊長のお前に任せたいんだとよ。村長が言ってた」
「………村人はお前が来るのを広場で待っているぞ。待たせすぎるのもあれだから早く来いよな」
「あ、ああ。もう少ししたら行くよ」
ガクスのとヴァストは俺が言うと黙って下へと飛び降りた。俺は再び夜空を見ると何を話そうか考える。
そして考えがまとまると俺は広場目がけて勢いよく見張り台から飛び降りた。
その翌日、俺たちは村長の家をありがたく使わせてもらい一夜を過ごした。宴会で俺は何を言ったのか忘れたが、あの宴会は俺たちの中で忘れられないものとなっただろう。
ベッドはふかふかでほんのりと聖香樹の匂いが漂い、ベッドに横になった瞬間に俺は強烈な睡魔に襲われて爆睡した。カノンの話だと『アンタのいびき煩かったわ』と起きた時、おはようじゃなくてこれが飛んできた。
支度をして村長の部屋へと俺だけ行く。大人数で書斎に入ったら何かと失礼だしな。
「おお、軍人さん。もう行ってしまわれるのかね?」
「はい、長居するわけにはいきませんから」
村長は髭を擦りながら笑う。
「ふぉふぉ、そうかい。また依頼出すかもしれんからその時は頼みますぞ。それとこれがこの依頼の報酬じゃ。遠慮なく受け取ってくれ」
村長の手にはとても大きな袋があり、俺はそれを受け取った。袋はかなり重く、持って帰れるかどうかちょっと心配になってきた。
「ありがとうございます、今後とも軍人をよろしくお願いします」
俺は深々と一礼すると書斎からもう一回礼をして立ち去った。村長の娘も入り口前で俺を見送ってくれた。
「ありがとうございました」
村長の娘にそういうと娘は戸惑いながらお礼を言ってきた。
広場にアイツらは俺を待っていた。その周りには村の住人が旗や声援などを上げて俺たちに感謝の気持ちを伝えようとしていた。俺たちは村人に感謝されながらこの村を出た。
流石に帰りまで歩きで帰るのは嫌なのでガクスに内緒で船に乗って帰ることにした。これはガクスが最初に寝てくれたおかげでこの作戦が立てやすかった。
森剌の村から東に約30kmくらい歩いた所に小さな船着き町がある。この町は南水平海町と呼ばれ、軍人本部の北にある北水平海町と定期船で結ばれている町である。南の物資や北の物資を運ぶ重要な役割を担っており、ここが機能しなくなるとこの島がどうなるのか分からない。この町は町といってもさほど大きな町ではなく、漁師たちの休憩所としてよく使われている。漁師たちの酒場と大きな漁港、そして簡易的な宿屋とで成り立っている。ここに勤務する海軍も1人や2人しかいないらしい。
船着き場に付いたガクスは一目散に後ろを向いて全力で逃げようとしたが、ヴァストの光速移動の前には無意味のため簡単に逃亡できなかった。従ってガクスは泣く泣く船に乗り込み、瞬間的に船酔いを発生させ、今はこの船のどこかで休んでいる。どこがとかは言わない。
この船―アドウォース号は軍人本部の海軍が所有している客船で、全4階から成り立っている豪華客船の一種である。全長は400mもあり、最大速度は30ノットを超えるというもはや客船ではないような船である。また、海軍がこの船を海戦に参加せざるを得ない時用のために、海軍の保有しているものとは少し小さいが、32.5cm連装砲40口径を左右に2つずつ、最上部には24mm連装機銃をいくつか搭載しており、客船ではないような船である。ただ、これは念のためという事であるため、使われることはこの先多分ないだろう。
で、なぜ俺たちがこの船に乗っているのかというと、あの奴が海軍に頼んでこれを手配していたらしい。一体何で俺たちが船で帰ろうと思ったことを知っているのか。おかげで1名を除いてまるで旅行しているみたいだ。
俺はこの船の3階にある大きなデッキの先端にいて柵にもたれながら海の向こうの水平線を見ていた。頭上を飛んでいる海鳥が何かを話しながらその向こうへと飛んでいく。
「………よ。ここにいたか」
振り返るとヴァストが軍服のポケットに手を入れてこっちに来ていた。その顔を見ると少し怒っているように見える。多分ガクスの事だと思い、聞いてみる。
「ガクスの様子はどうだ?」
ヴァストは俺と同じく柵にもたれる。
「………大丈夫ではないな。あんなに苦しいならいっそのこと楽にしてあげたいものだぜ」
「そうか」
「………おまけにアイツ、俺の顔面目がけて吐いてきやがったんだぜ? 楽にしてあげるどころか、こっちが楽にしてやりたかったな」
「殺すなよ?」
「………分かってるよ」
それから数十分、俺たちの周りが海風や船の移動音しか聞こえないような感じの沈黙の世界になった。頭上の太陽にもう南中しているらしく、ギラギラと陽光が照りつける。
下の2回のデッキを見てみるとカノンとセンラが海軍の係員の後ろに付いて案内されていた。どうやらこの船の中を見させてもらっているらしい。
そろそろ何か話してこの沈黙を断ち切らないとな………。えっと………
「今回は、ありがとな」
「………え?」
沈黙を断ち切ろうとしたらこんな言葉が出ていた。いや、別にこういうのでもいいんだけど。
「いや、お前の古代文明の情報のおかげで今回の依頼ができたと言っても過言ではないからさ」
「………そ、そうだな。ま、あいつの情報も少しは当てになったけどな」
「確かにな。ま、それも含めて改めてありがとな」
「………いいってことだ」
そして再び気まずい沈黙の世界。ヴァストとは結構一緒に仕事してたりしてたから話すことがほとんどないんだよな。
するとデッキに繋がるドアが急にバタンと開いた。ビビッて振り向くとそこには船酔いがさらに悪化しているガクスの姿があった。てか、ようここまで来れたな。
「はぁっ、………おい、………ヴァスト。………やっと………見つけたぞ、うぇっ」
「………もうボロボロじゃねぇか。で、何で俺を探しに来たんだ?」
「さ、さっき俺の所に来た時、………時間制限の、………水紙置いていっただろ?」
「………それがどうした?」
「はぁっ、………お、おかげで………はぁっ、溺死しかけたぞ」
よく見るとガクスの体全体が水で濡れている。俺の予想だと、ヴァストがガクスの部屋に水紙を置いておいて、ヴァストが出ていった後にその水紙から大量の水が出て部屋全体を水で埋め尽くし、ドアが閉じられていたせいで溺死しかけたという訳だと思う。
「うえっ、………窓開けて、水流せたのは………幸いだったけどな………」
「………何だよ。お前が水に濡れて気持ち良くなって、船酔いが少しでも治まればいいなと思ったのにな」
「それで、………殺す気だったのか。………か、帰ったらお、覚えておけよ………」
そう言うとガクスはその場にバタンと倒れてしまった。どうやら気持ち悪くなって立てなくなったみたいだ。気は失っていないため、目はしっかりと開いているし呼吸もある。
「おい、ヴァスト。ガクスをとりあえず部屋に戻すぞ」
「………仕方ないな。ここでキラキラしたもの吐かれたらこれ貸してくれた海軍にも迷惑かけるしな」
部屋全体をぐっしょり状態にしたお前が言う言葉かよ。
俺とヴァストはガクスに肩を貸してガクスを部屋へと送る。歩いている時もガクスは何度も吐きそうだったが、ヴァストがガクスの腹を殴って気を失わせたので、吐かれることはなく無事に部屋に寝かせることができた。その後はぐっしょり状態の部屋の水を全部、吸紙と言われる液体を吸収する紙を使って水を全部吸い取った。
そのような事をしていると辺りは橙色に染まっており、暁の水平線に太陽が沈もうとしていた。沈みゆく太陽の後ろには俺たちの家と呼べる軍人本部があった。どうやらもう本部に着いたらしい。
その風景をデッキで1人見ていた俺に、この船にいた海軍の人が俺の元に来る。
「大密林調査依頼の連結隊隊長のレイスさんですね?」
「はい」
「本部に着きました。私の後に付いて来てください」
実のところを言って俺は海軍に所属している友人からこの船の構造を教えてもらったので出入り口がどこにあるのか知っている。
「いや、俺一人で大丈夫だ。この船の構造は友人から教えてもらってる」
「そ、そうですか。えっと………あなたの連結隊の仲間はもう出ているはずなので、急いだ方がいいかもしれませんよ?」
「了解。ありがとな」
俺はその海軍の人にお礼と1敬礼をして船から出る。えっと、確かこの通路を右に曲がったところに階段があって、それを下っていけば目の前に出口があったはず。
階段を考えながら下りていくと聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「お、やっと………きたか。………レ、レイス。早く来てくれ………」
「………ったく、またかよ」
「え? 船乗ってないのにこの状態?」
「ガ、ガクスさん。大丈夫ですか?」
船に乗ってないのに吐きそうになるガクスを見て俺は呆れながら船を出る。
「レ、レイス! 大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ。本部に戻ってリョウカにでも治してもらおうぜ」
「………そうだな。おい、行くぞ。歩けこの野郎」
「………お、おい。お、俺………今は病人………何だぞ。うぇっ」
「こ、ここで吐かないでくださいよ」
グロッキー状態のガクスを運びながら軍人本部の北門に着いた。そこで俺はみんなの方に振り返って依頼の終わりを告げる。
「よし、依頼終了だ。お疲れ様。これにて連結隊を解散する。今回はありがとな」
「ああ、………こ、こちらこそ」
「………また誘ってくれよ」
「結構楽しかったわ。ありがとね」
「こちらこそありがとうございました」
そう言って俺は奴にこのことを報告するために軍人本部へ、ヴァストはガクスを医療所の方へ、カノンとセンラはそのまま女子寮へと戻っていった。
見慣れた階段と廊下を通って陸軍隊長室に着く。陸軍隊長室の前にはレイガが門番のように立っていた。
「お帰りなさいませ、レイスさん。隊長が部屋で待ち構えています。どうぞ気を付けてください」
「忠告感謝するぜ」
「隊長、レイスさんがお戻りになりました」
レイガが扉を開けるとレイガは札状の式神となって奴の方へ飛んでいく。隊長室は依然として散らかっており、前来た時よりさらに書類が靴跡ついて散乱している。
「おお、レイス君。お帰り。で、どうだった?」
「どうって言われてもだな………。ま、簡単に話すぜ」
俺は閉じた扉にもたれながら奴に向かって今回の依頼の状況について簡単に説明する。本当の軍隊ならもたれて報告するのは言語道断でダメなはずだが、奴の前では別にこんなことで起こられたりしない。
「で、以上がこの依頼について簡単な内容だ。で、これが………っと、貰った報酬だ。後で俺たちの方へ振り込んでおいてくれよ」
「了解了解」
依頼でもらった報酬(主にTM)は俺達だけで分けることが禁じられており、隊長がそれを分けることができる。つまり、貰った報酬を隊長に渡して、それが俺たちの所に振り込まれるのを待つだけなのだ。俺的には奴がこれをぼったくらないか心配なんだけど、今まで奴はぼったくったことはしていない。
「それと、お前に言いたい事がある。悪いがもしかすると叫ぶかもしれないからな」
「え? ちょっとそれは困るなぁ。で、言いたい事って?」
「お前が俺をこの依頼に選んだ理由ってまさか、俺が父さんと同じ『フォレストコミュニケーション』が使えるからじゃないだろうな?」
「あ、ばれた? いやーレイス君は勘がいいね」
「やっぱそうか。お前の口からそう聞くと意気が消沈したぜ」
「で、言いたい事はそれだけ?」
「ああ、そうだ」
「じゃぁ、こっちからも言いたい事があるから言わせてもらうね」
まためんどくさそうなことが起こるかもしれないな。
「第2回激闘魔符合戦の開催が決定しました!!」
「はぁぁ………」
やっぱりめんどくさいのがあった。
激闘魔符合戦と言うのは軍人本部主催で行われているバトルイベントの一つであり、スペルカードだけで戦うイベントである。その他の事は開催されてから説明しようか。
「およ? レイス君、何で溜め息つくんだい?」
「いや、まぁ………。で、この事は軍人全員知っているんだろうな?」
「君たちみたいに依頼に行っていなかったりする人を除けばほぼ全員知っているよ」
「いつ開催するんだ?」
「実はね。まだ決まってないんだなぁ、これが」
「決まってから言えよ!」
思わずツッコミの如く大きな声で叫んでしまった。
「まぁ、そんなわけだから後の事は任せてよ」
「はいはい」
「さぁ! 今回の魔符合戦も頑張るぞー!」
一人椅子から立って窓の方を向いて両手を上げて奴はこう宣言した。
窓の向こうにはあともう少しで沈む夕日と黒く染まっていく夜空が、雲を使っていい風景を作っていた。その風景を今の俺たちに例えるなら、夕日の方が奴で、夜空の方が俺だろう。
自信満々に宣言して笑っている奴を見て俺は苦笑するしかなかった。
数日後、俺の集融帳板にはしっかりと30000TMが振り込まれていた。
いかがでしたでしょうか? 今回の話で大密林編は終わりになります。次の話は魔符合戦編になると思うはずですが、実は書きたい話があるので、魔符合戦編はその後になりそうです。
読んでいる人は1人くらいはいると思いたいですね。感想など書いて下さると嬉しいな。
という訳で次の話も期待しててください。いい感じに興味が持てるように頑張ります。
次回もよろしくお願いします。