揺れ動く大密林 後編
後編と書きましたが、前編、中編、後編、終編の順で投稿します。という訳で今回の話は3回目の話になります。若干難しいですが考えて読んでいただけたら嬉しいです。
翌朝、太陽の日差しとともに起床した俺たちは軽い朝食を済ませて、今日の目的地までの事を短く説明してから目的地へと出発した。
今日の目標は、森剌の村の近くにある霊感の柳森を抜ける事である。
この森は非常に特殊で昼はここを通過することができず、夜だけ通過できるという不思議な森だ。柳森と言うだけあってこの島の唯一の心霊スポットとなっている。何でも、ここが昼に通過できないのは幽霊に認めてもらえないからや、柳森の呪いなど諸説はいろいろあるらしいが原因はわかってない。祠や墓がその近くにあるためだと俺は思っている。しかもこの森は南の方へ行くには必ず通らないといけなく、ほとんどの旅人はここで足止めを食らう。なので、夜の帳が下りたころにはこの森に入り抜けなければならない。
「ねぇ、レイス。本当に霊感の柳森を通る気なの?」
不安げにカノンが言ってくる。女子にとってこの森はなるべく避けて通りたいのだろう。本当の事を言えば俺も通りたくない。子供の頃、悪ふざけで遊びに入って出れなくなり、本物の幽霊に遭遇して気絶したのはちょっとしたトラウマだ。
「ま、まぁな。陸上で南に行くにはそこを通るしかないだろ?」
「それもそうなんだけどね。何で船とかで行かなかったのよ? そっちの方が歩きより早く着くでしょ? それと、そこも通らないし」
俺は親指を非常に乗り物酔いに激しい奴に突きつける。
「理由はコイツに聞いてくれ。俺も船のた方が良かったけどな」
「うっ、………す、すいません」
痛い点を付かれ、ガクスが身を縮め小声で謝る。
「ガクスさんの乗り物酔いはどのくらい持つんですか?」
センラまで参加してきた。こういう話にはあまり参加しなかったはずだが。
「そうだな………。一瞬だな」
「………瞬殺だな」
ヴァストまでガクスを嘲笑うかのように参加してきた。
「い、一瞬ですか………。それって、動いたら酔うみたいな感じですか?」
「………ふっ、そ、そうだな。そのような解釈でいいだろう」
「なっ、おい、ヴァスト! 何で笑うんだよ!」
「………ああ? 紛れもない真実を笑って何か文句でも?」
「………っ」
これにはガクスも応えたようだ。異論を言うどころか言葉を失ったみたいだ。これ以上、ヴァストとガクスの討論が続いたら殺し合いが始まってもおかしくない。俺はいつも通りのように冷静に二人の喧嘩を止める。
「二人とも、喧嘩は後にしておけよ?」
「へーい」
「………仕方ないな」
理解してもらったのでとりあえずは一安心だ。さてと、このまま何も起こらずにこの依頼が終わればいいんだが。
俺の思いがちょっと通じたのか、道中移動している時は盗賊やモンスターなどに襲われなかったので、目的地の霊感の柳森前に予定とは早い時間に着いた。太陽があと1時間程度で沈むであろう角度なので、この場で夜の帳が下りるのを待つ。
不意にがさごそと音がしたので慌てて音のする方へ向くと、ヴァストが自分のバッグをあさっていた。
「何してるんだ?」
質問するとヴァストは「………ちょっと待ってくれ」と言ってバッグをあさる。あさり終わったのかヴァストの手には10個ほどのラップに包まれたおにぎりがあった。
「い、いつの間に用意したんだ? 今までずっと俺たちと一緒にいたはずじゃ………」
「………朝、お前らの朝飯を作っている時に作った。念のためだったがちょうどよかったみたいだな」
直後、俺の腹がグゥーと呻き声をあげる。それに続きガクスの腹も呻き声をあげる。
「………腹が減っては戦はできぬ。柳森を抜けたら夜飯を作ってやるから、それまではこれで我慢しろ」
そう言ってヴァストは1人2つずつおにぎりを渡していく。
「え? 私は別におなかは空いてませんし………」
「………残るともったいないからな。ま、言葉よりも体の方は正直みたいだぜ?」
センラの腹が鳴る。同時にどこかの人の腹も鳴る。
「そ、そのようですね。では、いただきます」
センラにおにぎりを渡した後、ヴァストは自分の分のおにぎりに豪快にかぶりついた。頬あたりに米が付いているのは言わないでおこう。
「………ま、ただの塩おにぎりだけど無いよりはマシだろ?」
ヴァストの言葉通り、具材も海苔も無いシンプルな塩おにぎりだ。ご飯の甘みに僅かな塩の塩辛さがいい味の仕事をしている。これだけでも十分うまいのに、具材や海苔があったらさらにうまいだろうなと想像する。
「………味はどうだ?」
「美味いな。ヴァストのくせに」
「ただのおにぎりなのに何でこんなにおいしいの?」
「とてもおいしいです」
「何かもう一個食べたい気分だな。俺は」
みんなそれぞれに感想を言う。1名は嫉妬が含まれている感想みたいだが。
2個のおにぎりを食べた俺は水紙を使って手を洗う。水が飛び散らないように少し大きめの水紙を固定し、呪符を唱える。
「大地に眠りし流水よ。今ここに静寂なる流れとなりて出でよ」
そう言うと水紙に描かれている墨が黄色く光り、円が描かれている中心から静かに水が流れ出た。上向きに固定してあるので、公園とかにある水飲み場と同じように水が出てくる。
おにぎりを食べた時に付いたネバネバを洗い流し、水を飲む。そう言えばここまで来るのに水一滴も飲んでないな。
洗い流す時に真武まで(俺のは指輪だからな)洗ったが、アクセサリー状の真武はよほどのことが無い限り、顕現できるので一緒に洗ったり風呂に入っても問題はない。
軍服からお気に入りのハンカチを使って手を拭いていると、食べ終わったらしいカノンが俺に向かって言う。
「あ、レイス。水まだ止めないでね。私も洗うから」
「私も洗いたいので、まだ止めないでください」
「レイス、俺も洗うから止めんなよ」
「………悪い。俺もいいか?」
「別にいいけどさ、もうすぐ行くぞ。あと30分程度で夜の帳が下りるだろうし」
そう言うと、みんな順番に俺が出した水を使って洗い始める。ま、どうせ自分で出すのが面倒だったのだろう。
そんなこんなで30分程度の時間が過ぎると、辺りは真っ暗な夜へと変わり星が空を覆い尽くす。天気にも恵まれているらしい。
「そ、それにしても本当に出そうな雰囲気が漂っているわね………」
それもそうだろう。真っ暗な夜に柳の木。幽霊が出ると言われる柳の木(俺も信じてはいないが)は本当に出てくるよと言わんばかりのオーラを出しているように見える。ちょっとした風が吹くと木がカサカサと音を出し始め、それが森全体へと広がっていく。
今思えば、何でこんなところで遊んでいたんだろうと思ってしまう。考えても仕方ないので前に進みこの森を抜けることだけを考える。
「これからこの森に入るけど、はぐれないように注意してくれよ」
「お前こそ気を付けろよ。方向を間違えないようにな」
「分かったよ」
ガクスの言った通りじゃないと思うが、この森は特殊な電磁波が辺り一面を包んでいて方位磁針が全く役に立たない。それどころか柳の木は空まで覆い隠すので星を頼りに進むことすらできない。木に登ってもいいんだが、登って柳の木を折った奴らは不可解な出来事が続いたらしい。その出来事は幽霊の呪いだろうと本部では言われている。
ただ、今向いている方向を間違えたりしなければ出れるはず。縦の長さは50メートルとそんなに長くないのが救いだろう。
そんなことを考えていても仕方ないので、付いて来いと言ってから森の中に入る。
今日の森はちょっと不自然で、いつも発生しない濃霧が辺りを覆っている。そのおかげで2メートル前までまともに見ることができない。柳の木なので葉に触るとカサカサと音が出て、女子2人は俺の軍服の後ろを掴みながら付いて来ている。
最近の頻発した地震のせいか倒れている柳の木も少なくはない。そのおかげで頭上の星が見えるので迷わないのだが。
「ね、ねえレイス。ま、まだこの森を抜けれないのかしら?」
「わ、私も同言です。かなり歩いたとお、思うんですが」
女子2人が不安そうに聞いてくる。こんな場所、物好き以外来る訳がなく女子の中では絶対に行きたくない場所に入っている。
「いや、まだ半分くらいしか歩いていないぞ。もうちょっと頑張れ」
「わ、分かったわ………。早く出たい………」
「は、はい………」
濃い濃霧のおかげで女子2人の顔が見れないのが幸いだ。もし見たら「な、何見てんのよ。早く先進みなさいよ」などと言われビンタされただろう。
「そう言えばさ、お前ってこの森ってトラウマじゃなかったのか? 結構平気そうだけど」
「ま、もう過ぎた事の事を言っても何の進歩も無いからな。まだトラウマだけどだんだん慣れてきたから大丈夫だ」
「そうか。何かあったら言いな」
「ありがとな。だが、そんな心配はもういらないぞ」
「? 何でだ?」
「ほら、この霧があそこでないだろ? つまりもう出口だってことだよ」
「え? もう出口なの? 助かるわ」
そう言ってカノンは一目散に出口へと向かい、センラはその後を追って行った。
「あ、おい、待てよ」
一目散に出口へ向かう女子2人を追いかけていると、ある記憶が俺の脳内から目覚めた。
あれは俺がここで遊んでいた時の事だな。遊んでいたら出口が分からなくなって途方に暮れて泣いていたんだっけ。涙で滲んでよく見えなかったが柳の木が動いて道を作っていたような………。ああ、なるほど、そういう事か。
「どうした? 一人で頷いていたりして」
「いや、何でも。ただ、………何でもないや」
「おかしなレイスだな」
俺が理解したのは………説明するよりも見た方がいいな。
「ねぇ、レイス。ちょっとこれ見てよ」
カノンが指差してみてくれと言っているのは、かなりの樹齢を持つ大きな柳の木だった。枝から広がる葉は暗くても分かるくらいの緑に生い茂っており、地面の根はこの巨木を支えるために四方八方に広がっている。枝や葉に隠れてよく見えないが上を見ると、白いふわふわしたものが浮かんで見える。おそらくはこの巨木を崇めている幽霊の群集だろう。
チラリと横を見ると柳森から抜け出していた。カサカサと葉の音が風もなく聞こえてくる。
「なるほどな………。そういう事か」
本日2回目のこの言葉を口にすると俺はみんなに頼みごとをするように言う。
「なぁ、ちょっとだけ待っていてくれないか?」
するとみんなは無言で頷き、俺を1人にしてくれた。
みんながいなくなったのを確認して俺は柳の巨木を見つめて目を閉じ、自然の声を聞く。いまだに聞こえるカサカサと言う音と一緒に老人のような声が聞こえてきた。
『こんな夜中に誰じゃ? 儂と話すものは』
この声の持ち主は目の前の柳の巨木だ。
「夜深く申し訳ございません。ちょっと聞きたいことがあったので」
『ほう、そしてその聞きたい事とは何ぞや?』
「今から約11年前くらいだったと思いますが、この森に入って行った子供の事を覚えていますか?」
柳の巨木は葉を揺らし(考えているのか思い出しているのか分からない)答える。
『えーっと………、そうじゃ思い出した。確かに子供じゃったな。特徴的なマフラーみたいなのを着けていたからよく覚えているわい。森の途中あたりから出れなくなったのか泣き出しての、かわいそうじゃったから柳の木を操作して入り口まで案内したあげたんじゃ』
やはり、この柳の木は俺を知っている。
『でもその操作が逆に出たようでな、大群とは言えないくらいの幽霊が集まってきてその子供の周りで遊びよったんじゃ。しまったと思って幽霊はすぐに追い払ったんじゃが、その子供は気絶しておっての。だけど自然の儂らにとっては何もすることはできまい。じゃからせめて、その子供の面倒とは言えないが見守っていたわい。懐かしいのう。儂が自分から動いたからのう』
「そうですか」
とても自分だとは言い出せない。いや、もし言い出したとしても理解はしてくれないだろう。
『ん? そういやお主、その時の子供に少し似ているのう。そのマフラーも。もしかしてお主があの時の子供だったりしないかのう』
勘の鋭い柳の巨木は俺を見つめている。と言っても、動かない木なので見ているのかどうかは分からないが、見つめているように感じられた。
「お察しの通り、その時の子供は今の俺です」
『やはりの、儂の直観に狂いはなかったわい。して、こんな薄気味悪い森へと何でまた来たんじゃ?』
自分の森が薄気味悪いのは自覚してんだな………。
「軍人本部の依頼として、この先にある森剌の村まで行こうとしているのでこの森を抜けに来たんです」
『そうじゃったか。さっきも生きのいい若者たちがいたからの、何事かと思ったんじゃ。しかもこんな夜中に。して、その村に何の依頼で行くのじゃ?』
柳の巨木は何にでも相談に乗ってくれる老人のように聞きだしてくる。
「最近頻発して起こる地震についての調査です。この森の柳の木も何本かは地震によって倒れてしまったんですよね?」
『そうなんじゃ。もともとこの辺りの木は強いものが無くての、みんな容易く倒れてしまったんじゃ。儂は幹が太いからかろうじて耐えているが、もうちょっと強い地震が来たら倒れてしまいそうじゃ』
「俺たちも地震を無くすように頑張ります。それで、その地震について何か知っていることはありませんか?」
『そうじゃな、無いと言い切れないんじゃがこの話をお主は理解してくれるかどうか』
「何でもいいので話してください」
そう言うと柳の巨木は葉を揺らしながら静かに語り始めた。
『分かったわい。ちょっと長くなるぞ。あれは今から何千年も前の話じゃ。人々は木や石を切り出したりしてそれを文化として生活しておった。じゃがある日、一人の青年がある宗教を唱え始めてから生活はどんどん悪くなっていった。その青年の名はナバル。この辺りの人々をまとめていたごく普通の青年じゃった。ナバルはその宗教を広めるためにある儀式を実験として行ったり、兵器を製作しておった。ナバルはその宗教をこう言いながらこの島全体に広めた。「人は誰しもがこの命で大地に踏み立つことはできない。この大地を再び踏み立ちたいなら、森羅万象全ての物へと転生せよ」と言っておった』
今の話は昨日ヴァストが話してくれた森風文化の事と、魂霊宗の事だ。魂霊宗の開祖が今、話に入っていたナバルと言う人で間違いないだろう。
「それって、現代だと魂霊宗と言っていることですか?」
『そうじゃ、分かっているなら尚更話が早い。ナバルはそう言って広めながら、この宗教を信じた人々を木や石、雲などへ移らせた。じゃが、ナバルは移らせていく時に、自分が作った兵器へと人々の魂を移らせよった。そしてナバル最後の言葉が、兵器に入った魂が地震を引き起こしているのかもしれん』
「言葉だけで地震を引き起こすことはできないはずじゃ………」
『それができたらナバルはもはや神とでも呼べるほどじゃ。で、ナバル最後の言葉はこうじゃ。「私は天空へと旅立った後、数千年たったら大厄災がこの島を襲うはずだ。そうなったらこの島は死ぬ。そうなる前にこの島を沈めろ」と』
「つまり、この地震は兵器に入った人がこの島を沈めるために起こしている、という事ですか?」
『そうじゃと思う。儂もあの密林には入ったことはなかったからのう。ナバルの使いが来て儀式を受けて今の姿になったからの』
入ったことはなかった………? もしかしてこの柳の巨木は………。
「あの、もしかしてあなたは数千年前の古代人なのですか?」
『そうじゃ。森剌大帝国王大臣スファルデッド・トトラーが、儂の名前じゃ』
「………」
俺は絶句するほかなかった。昨日ヴァストから聞いた魂霊宗は単たる御伽話だと思っていた。だが、今の話を聞いて本当にこの宗教、儀式が存在したんだなと驚くしかない。解明されていない古代文明の扉が開いたような気がした。
『ちょっと喋りすぎてしまったか? そろそろお主の仲間も心配することだろう。早く戻った方がいいと思うわい』
「そうですね、ありがとうございました。では、また縁があれば」
『そうじゃな。頑張れよ、軍人さん』
「はい!」
そう言って目を開けると柳の巨木トトラーの声は聞こえなくなった。枝についている葉がまだ何かを語りかけようとしているみたいに見えた。
どのくらい話したのか分からないが、急いで周りを見るといつの間にかみんなが集まって俺を見ていた。
「おかえり、レイス。何かしらの情報は入手できたみたいだな」
「ああ、後でしっかりと話すよ」
「………なら、飯を食べてからだな。行くぞ」
腹が減っているのか分からないヴァストを足早に追いかけた。樹齢数千年の柳の巨木は別れを告げるように、幽霊たちも何かを言っているように見えた。
俺はヴァストが作ってくれたキノコの串焼きを6本ほど(キノコはこの森で拾ったらしい)食べ終え、トトラーの話をみんなにした。流石にみんな驚いていたが、昨日の魂霊宗の話の事を思い出すと納得したように理解してくれた。
それぞれの話が終わった後で、カノンが呆れたように言い出す。
「レイス。あんたさぁ、もうちょっと声のボリューム落とせない?」
「ど、どういう事だよ。いつもの音量は聞き慣れているだろ?」
「そうなんだけどさ、せめて『能力』発動中は声を出さないでよ。一応心の中で思ったことは向こうには伝わっているんでしょ?」
「そ、そうだけどさ。塚、声出てたのかよ」
「思いっ切り出てたわ。ま、そこまでの大声じゃなかったけどね」
さっきと言っていることが若干矛盾している気がするがそれは置いておいて、そんなに声が出てたなんて穴があったら入りたかった。
さっきカノンが言った『能力』とは、軍人になっている人たちは誰もが持っているものである。能力の発動は自分自身で制御できるのでそんなに難しいものではないが、能力に覚醒するには時間がかかる。どのくらいなのかは分からないが、仕事をしていたら急に覚醒したや、友達と話していたら覚醒したなど様々である。覚醒する能力はランダムで仕事に役立つものもあれば全く役に立たないものまである。一体誰が考えたのか分からないが。俺の場合はこの霊感の柳森のトラウマ後に覚醒した。
因みに俺の能力はさっき発動したように『自然と会話ができる能力』である。この能力は会話する自然の魂とコンタクトを取り、心の中で会話をするという感じだ。ただ、会話する自然の魂が枯れてたり切れてたりすると会話ができない。俺は自分の能力を『フォレストコミュニケーション』と呼んでいる。
ほかのメンバーの能力は………
ガクスは『リズムに乗り斬る能力』。『メロディカットラス』と呼んでいる。
ヴァストは『光速で移動ができる能力』。『ライジングイリュージョン』と呼んでいる。
カノンは『弾丸を必中させる能力』。『バレッティングターゲット』と呼んでいる。
センラは『風を自由に操る能力』。『ウィンドマネージメント』と呼んでいる。
上の能力の覚醒からガクスは剣、カノンは銃を選択せざる事となってしまったが本人たちは嫌味1つ言わない。長いこと使ってきたから慣れたか、愛着が湧いたのだろう。
「わ、分かったよ。これからは気を付けるぜ」
「素直でよろしい」
何で上から目線なのか分からないが何も言わない。
「よし、明日には森剌の村に着きたいんでそろそろ休もうか。ここからなら明日の昼頃には着くだろう」
「そうだな。村の人たちも待っているだろうし」
「………了解だ。さっきの話について考えたいがそれは明日でもいいだろう」
「あともうちょっとね。頑張らないと」
「ここまで来たので仕事は失敗したくありません。私も頑張ります」
中心にある焚火を消したら辺りが完全な闇夜に包まれた。俺は寝袋に入り、トトラーの事などを考えながら眠りについた。
星が煌めく軍人本部の陸軍隊長室で僕―ヒレンは1人窓の外を見ていた。僕がレイス君を今回の任務に選んだのかは、レイス君の能力にある。多分レイス君以外の人がこの任務をやったら生きてここには帰ってこれないだろう。
あの大密林調査の時、レイス君のお父さん―レガス・フォールーズの能力のおかげで脱出できたもんだからね。レガスがいなかったら僕は今この場にはいないはずだ。まさか、親と同じ能力に覚醒するとはね。遺伝子なのか単なる偶然なのかは分からないが。
それとあの時、僕は感じたんだ。この大密林は生きている。何千年もの命の中で指名に従う者たちを。
翌日、俺たちは霊感の柳森を通過し、敵襲も何もなく無事森剌の村へと到着した。
村は本当に地震の被害にあっているのか分からないくらい何も倒壊していなく、ヒビすら1つも見当たらない。この村の家はせいぜい50~60あたりだろう。小さな医療所や小さな八百屋、そしてとても大きな広場でこの村は成り立っている。
住民に聞くと村長の家はほかの家より少し高い場所にあるらしい。俺は村の広場にみんなを置いて、俺だけ村長の家で話をする。
ドアを軽くノックし、自分が何者なのか伝えるとすぐに扉は開いた。出てきたのは俺らと年があまり変わらない女性だった。
「軍人さん、ですよね?お待ちしていました。お爺ちゃんは奥の部屋にいると思います。案内するのでついてきてください」
女性の後を追い、奥の部屋に入るとそこは本が四方にある部屋。いわゆる書斎だ。その書斎机に座って書類に目を通しているのがこの村の村長で間違いないだろう。
「軍人本部より依頼を受けてきましたレイス・フォールーズです」
きっちりとした声で敬礼し、村長の応対を待つ。
「おお、軍人さんですか。遠いところからはるばるありがとう。こんな場所で悪いが座ってくれ」
「ありがとうございます」
そう言い、女性―村長の娘が用意してくれた椅子に座る。村長の娘は「お茶を入れてきますね」と言って書斎から出ていった。村長は一旦書類に目を通すのをやめて俺との話に入る。
「軍人さんはお主だけなのかの?」
「いえ、他に4人います。今は広場で待機していますが」
「そうか、では本題に入ろうかの」
村長は手元にある資料を整理し、その一部分を資料を受け取った。その資料はこの村で起きた地震に関する資料だった。
「コピーじゃけど、しっかり見えるかの?」
「はい、見えます」
「それならいいな。その資料はこの村で起きた地震の被害状況と、発信源の地図じゃ」
渡された資料は2枚だった。どうやら上の紙にぴったりと貼り付いていたらしい。2枚目は確かに地図だった。よく見るとこの地図は大密林の地図だった。
「最初は村全体が壊滅する危機の地震じゃった。地震が発生するとは思わなかったからの。奇跡としか言えないんじゃが、村人は誰一人死ななかった。重軽傷者は大量じゃったが死ななかったのは奇跡じゃった」
村長は感動のあまり同じことを2回も言ったが、それには俺も納得する。大きな地震が起きたのに死者が一人も出ないのは奇跡のほかならない。
「で、学者に調べてもらったんじゃが、発信源は近くにある大密林からじゃった。しかもそこにバツ印が打ってある場所は、かつて古代文明が栄えた中心の場所なんじゃ」
中心という事はここでナバルの儀式が生まれたのだろう。
「この場所は儂らにとってとっても神聖な場所じゃ。ただ、密林は入り組んでて入ったら二度と出られないほどなんじゃ」
ここで俺はこの依頼の本当の目的を知る。
「これが儂からの依頼じゃ。密林の中に入り、地震の発信源を突き止めて鎮圧し、その神聖な場所を守ってほしいのがこの依頼の内容じゃ。改めて、引き受けてもらえんかの?」
答えは一つ。
「もちろん、引き受けます。そのために僕たち軍人がいるんですから」
「ありがとうございます。それではよろしくお願いします」
村長は書籍机から立って深々と一礼をする。俺も村長くらいに深々と一礼する。
「お話がついたようですし、お茶でもどうですか?」
タイミングと見計らっていたのか分からないが、ちょうどいいタイミングで村長の娘がお茶を出してくれたのでありがたく頂戴する。
若干苦味が含まれている緑茶は摘み立てのような感じでおいしかった。
「そう言えば軍人さん。お主ら今日泊まる場所は決めてあるのかの?」
確かに泊る場所など決めていなかった。まぁ、村に着いたらすぐにここに来たわけだから決めてないのも当然だが。どうしような………。
「その様子はもしかして決めていなかったようじゃな」
「は、はい………」
「よろしければ、儂の家の2階を使いなさい」
予想外な言動に一瞬我を忘れる。
「え? い、いいんですか?」
「もちろんじゃ。この家は昔宿屋として繁盛しとったらしく、その名残としてベッドがいくつもあるんじゃ。危険な仕事を押し付けて儂らだけ何もしないのは罰があたりそうじゃからの。遠慮しなくていいので使いなさい」
「あ、ありがとうございます」
緑茶も飲み終わりそろそろ依頼をやりに行こうと思い、村長に一礼してから村長の家を出る。
広場に戻ると人だかりができていた。どうやら俺たち軍人の歓迎らしい。俺を見つけたガクスが早く来いと言わんばかりに手を振る。
「話は終わったようだな。で、どうだった?」
「改めてこの依頼の事について聞いた。これから地震の発信源まで行って調査する」
「おっ、気合入ってるな」
「それともう一つ、休む場所なんだが村長の家の2階を借りられるようになった」
「アンタにしては気が利くわね」
「そりゃどうも。さてと、それじゃ行くか」
「「「「おーっ!」」」」
号令をかけるとみんなはそれに応えて調査に向かった。住民は頑張ってなどの声援と一緒に手を振っていた。
大密林をいざ目の当たりにすると、確かに二度と出られないような雰囲気が広がっている。木の大きさは十何メートルはあるだろう大木に、メジャーで計ったら5メートルはあるだろうと思われる幹、地面から生えている草は2メートルくらいの高さまで生えている。
ここで俺は何でこの依頼に奴は俺を選んだのか理由が分かった気がした。もしそんな理由だったら帰ったら後で1発殴ってやる。顔面にグーで。
「確かにこれは迷うわ。木、でかすぎるだろ」
「………古代民族は一体どうやってここを行き来できたのか」
「これって本当に木? って疑いたくなるわ」
「地震が来ても倒れないのはこんなに大きかったからですか」
センラの言葉は確かにその通りだ。奥には倒れている木もあるだろうが、このくらいの大きさの木ならびくともしないだろう。
「よし、じゃあ、ちょっと待ってくれよ」
「あんまり大きな声出すんじゃないわよ」
「………」
こういう時に反論ができないのは何か痛い。
俺は目を閉じ、『フォレストコミュニケーション』を発動する。木々の奔流が俺の体を通過し押し戻すような感覚に襲われる。やはりこの辺りの木々はナバルによって移動された人々の魂が入っている。押し戻すような感覚は森に入らせないためだったのだろう。
「………大丈夫か?」
ヴァストが心配そうに声をかけてくれる。俺は自分の意識が飛ばないように首で相づちをする。
能力を発動してから30秒程度、近くにあった木の魂の声をかけてみる。
「あのー………」
『ココカラタチサレ………。ナバルサマヲジャマスルモノヨ………』
「!!」
この木の魂は完全にナバルの事を信じているらしく、ナバルが死んだことにも気づいていないみたいだ。
魂を変えて別の木の魂に声をかける。
「すいません………」
『ナバルサマデハナイナ………。コノモリニハイルコトヲキンズル………』
この魂も前の魂と同じみたいだ。
その後も何度か気の魂とコンタクトを取ってみたが、どの魂もすでにナバルに洗脳(?)されているらしく、全然コンタクトが取れない。
俺は一旦能力の発動をやめて、みんなと相談する。
「緊急事態だわ。全然コンタクト取れない。その前に会話すらかみ合わない」
「どうするんだよ。闇雲に密林に入ったら出れるかどうか分からないんだぞ?」
「そうなんだよな」
「この辺りの魂が洗脳されているのなら、他の場所に移動してみるのはどうなんですか?」
「確かにそうなんだが、俺の能力は俺から半径2kmの範囲内の自然の声が聞こえるんだよ。2km先に移動して再びコンタクトを取るのもいいんだが、この能力発動中は俺の体力、主に精神力の消耗が激しいんだよ」
「そ、そうだったんですか………。すみませんでした」
センラが少し落ち込む。というか今更だけど、センラは俺の幼馴染のはずなのに何で敬語なんだろうな。カノンと話している時は若干普通だし。
「い、いや、気にしなくていいよ。歩いて精神を回復すればいいだけだし」
「………話変えるけどさ、村人からこんな話を聞くことができた」
「い、いつの間に………」
「………村人、古代文明の時の子孫らしいが、その人曰く『密林にある木の数分、その時は存在していた人』らしい」
衝撃的すぎる話の変え方だった。確かに半径2kmと言ったら結構な魂とコンタクトを取ることができるが、流石に俺も数までは覚えていない。これは俺の実力とその他諸々が試されるな。
「………まだもう一つ言えるのがナバルを信じていた人は全員ではない。大体95%当たりが信じていたらしいから、残りの5%をレイスには見つけてもらわないといけないわけだ」
「が、頑張ってみるよ。じゃ、俺の物理的体力もちょっと回復したし、ここから2km先まで進んでみるか」
そう言って疲れた体を立たせて調査を開始した。
サクサクと地面に広がる草を踏みつけて進んでいると、林業を営んでいるみたいな開拓地が広がっていた。開拓された後だから以前はどのくらい木々があったのか分からないが、相当な広さがあった。
「………この辺りがさっきの場所から2kmだな。レイス、よろしく頼む」
「了解」
そして俺は再び目を閉じて『フォレストコミュニケーション』を発動する。発動するとすぐに近くにあった木にコンタクトを取ってみる。
「あの………」
『ナバルサマヨリ、コレヨリサキハキンジラレテイル………』
この木も無理だったので隣の木にコンタクトを取る。
「あの………」
『コノモリハシンセイナリ。ケガスコトハナバルサマヲケガスコトトオナジ………』
またダメだったのでちょっと奥の木にしてみる。
「すみません………」
『あ、誰だ?』
ここに来てようやくナバルの洗脳されていない魂を発見することができた。声からしてかなり不機嫌そうだが、一応コンタクトを取ってみる。
「私、真実軍隊調査人本部より派遣してきた、調査隊隊長のレイス・フォールーズです」
『ちっ、また調査か。どいつもこいつもご苦労なこった。で、何の調査なんだ?』
「最近頻発している地震の調査です」
するとその木の魂はその言葉を聞いた途端、俺の肩を掴むような勢いで話してきた。
『なっ、そ、その調査は本当か?』
「え、あ、はい」
『助かるぜ。これでちょっとは気が楽になりそうだな。よし、俺もその調査とやらにちょっとだけ手を貸してやるよ』
「あ、ありがとうございます」
これからどのようにしてこの魂に協力してもらうか考えていたが、そんな心配はなかったようだ。
『で、地震を調べるんだよな? どのようにして調べるんだ?』
「まずは地震の発生しているところまで行って、そこからどのようにして地震が発生しているのか調べます」
『となると、場所の案内は俺がした方がいいみたいだな。よし、じゃあ付いて来い』
魂の行方を見逃すと再び見つけるのは困難になってしまうので、みんなに来てくれとジェスチャーで教え、魂が飛んでいく先を駆け足で追う。
大密林の中は最初の方は明るかったが、奥の方になるに暗くなっている。妙に長い長草を必死で掻き分けて進み、木々から出ている枝をぶつからないように避け、密林を住みかとしているモンスターを蹴散らす。しばらく進んでいるとどっちが北か分からなくなったり、黒い霧みたいなもののせいでみんなの姿が見えなくなるなどの錯覚が起こった。これじゃ、出られないと言われるのも納得いく。
密林の中を駆ける事20分。流石に息が切れて能力も切れそうになるが、そこは気合で乗り切る。
その魂が連れてきてくれた場所は広々とした広場みたいな場所だった。上を密林の葉が隠しているせいで太陽の光はほぼ通ってなく暗い。さらにその広場の中央あたりには、黒光りする謎の岩があった。その岩は高さは約3m、横は約5m、縦は約4m程度の長さみたいだ。遠くで見ているため、岩のようにしか見えない。
俺は切れ切れになっている息を整えて、連れてきてくれた木の魂にお礼を言う。
「あ、ありがとうございます」
『いいってことよ』
「それで、あの岩みたいなのは何ですか?」
『あれはナバルが俺たちを木々に封じ込めるときに使った祭壇だ。ただ、祭壇として使われたことはその時しかない。本当はただの目印だ』
「あの岩がですか?」
『そうだ。で、何の目印かは俺にもよくわからない。ただ、地下にある神殿の目印だと周りのめんどくさい奴らから聞かされた。』
地下に神殿を作る技術があるなんて到底今の技術じゃ無理な話だろう。そう考えると、古代人は超人だったのではないか、逆にどんどんと退化して今の状態になっているのかなどと考えてしまう。
「地下の神殿ってことはナバルはその神殿にいたという事ですね?」
『そうかもな。この辺りから地震は発生していると考えられる。注意して調査しろよ』
「ありがとうございました。最後にお名前だけでも聞いてよろしいですか?」
『俺の名は森剌の村初代村長のグレガ・バハーロトだ。じゃあな』
そう言って木の魂―グレガは去っていき、俺の能力の範囲から外れた。
あの村って古代から続いていたんだな。歴史は相当古いだろう。
「よし、じゃあ、この辺り一帯を調査してくれ。密林に入ると出れなくなるからなるべくこの広場にいてくれ。怪しい物や事を見つけたら俺に相談してくれ」
「「「「了解」」」」
みんなに調査のある程度の内容を伝えると、みんな仕事モードに入り真剣な顔つきになる。そして手分けしてこの広場を調べる。
俺が真っ先に調べたのは中心部分にある大きな黒光りする岩だ。さっきのグレガの情報によれば、この岩は祭壇として使用され、地下にある神殿への入り口となっているらしい。俺はこの岩を触りながら調査を進める。
一通り回って思ったことはこれは普通の岩じゃない。おそらく、ヴァストが言っていた浄化石と言うものなのだろう。確か耐久度がとてつもなく高かったはずだ。なら、ちょっとだけ試してみるか。
「我の元に集いし力よ。その真想に答えて顕現せよ」
顕現の言葉を言うと指にはまっていた2つの指輪が輝きだし、光の粒子となって溶け出していく。その光の粒子は俺の両手の掌に集まり、徐々に剣の形を作っていく。やがて光の粒子が完全に掌に集まると、この広場を照らすくらいの眩さで剣が俺の掌に乗る。右手には俺の愛用の剣『ストラトブレード』、左手には薄緑色に輝くこの世に1つしかない剣『エメロイドレスト』が顕現された。
エメロイドレストはウィルラが作ってくれた武器であり、希少金属の癒緑金を惜しみなく溶かして作られた。剣はエメラルドのように薄緑色に輝いていて、持ち手の部分にサーベルに付いているような護拳が付いている。護拳は小さな緑色の菱形が連なってできている。
とはいっても、俺は2つの剣を使いたかったのではないので、エメロイドレストだけ顕現を解除し、元の指輪に戻す。顕現の解除はとても簡単で、武器を正面に手で十字を斬れば元のアクセサリー状態の真武へと戻る。因みに十字の斬り方は、十字に斬れる事さえできれば元に戻せるらしい(ヒレン情報)。
俺は浄化石から1歩離れて剣を構える。そして深く瞑想して精神を集中させ―。
キィィィィン!!!
居合の如く剣を水平に薙ぎ払う。耳を劈く音はこの密林中に響き渡り、鳥は空へと飛び去り、ガクスたちは俺の方をじっと見つめる。
すぐ近くにいたヴァストが俺の行動に対して怒りを覚えたのか慌てて駆け寄ってくる。
「………レイス、お前何してんだよ。調査依頼とはいえ、物を破壊する行為は違反だぞ?」
「それに関しては謝る。俺の独断で勝手にやってすまん。だけどさ、これ見てみろよ」
「………ん?」
見てみろよって言ったのはさっき俺が剣で薙ぎ払ったところだ。俺のストラトブレードは岩山の岩くらいは全力を出せは斬れるが、浄化石だけは違った。斬れば跡が付くはずなのに傷痕1つ無く黒く輝いている。一方俺の剣は、研磨で刃を最大まで鋭くしているが、その刃がさっき斬っただけで欠けてしまった。一応剣の耐久度はまだまだあるが、1回斬っただけで欠けるとは思わなかった。
「………おいおい、浄化石ってここまで硬いものだったか? いくら俺の『黒断』でも斬ることは不可能だろうな」
「やっぱりな」
「………ま、とりあえず他の場所も調査しようぜ?」
「そうだな」
この岩が本物の浄化石であることは分かったので他の場所へと向かう。
もっと奥の方まで見てみようとした時、俺の前方で調査していたカノンが急に地面に耳を当て始めた。
「おい、カノン。お前、何やってるんだ?」
「ごめん、レイス。ちょっとだけ静かにしてもらっていい?」
「お、おう」
カノンが静かにしてと忠告する時は決まって何かに集中している時だ。これを邪魔する奴はデガラートで心臓ごと抉られているだろう。
カノンが地面に耳を当て集中すること3分、何か見つけたのか分からないが、動きが止まったので一応声をかけてみる。
「なぁ、さっきから何やってるんだ?」
「実はここから風が上に向かって漏れているのよ。つまり、この下には空洞があるに違いないわ」
「地下の神殿の事か!?」
「何言ってるのか分からないけど地下に何かあるのは確かね。ねぇ、レイス」
「ん? 何だ?」
「ちょっとこの地面、デガラートで撃ち抜いていい?」
さっき自分がやったようなことをカノンがやろうとしている。ヴァストの気持ちがよく分かった気がした。
でも、そう簡単に『どうぞ』と言えるはずがない。
「なぁ、みんな。ちょっとこれからカノンがデガラートで地面を撃つみたいだけど、いいか? いいなら手を1回叩いてくれ」
大声でみんなに呼びかける。すぐに―
パン、パン、パン
3つの手拍子が同時に聞こえてきた。従って、みんな撃ってもいいという事になった。
「カノン、今の音聞こえたな?」
「ええ、もちろんよ」
「なるべく派手にやらないでくれよ」
「分かってるわよ。我の元に集いし力よ。その真想に答えて顕現せよ」
顕現の言葉をカノンが唱えると、カノンの右手の人差指にあるネイルが光の粒子となって溶け出していく。そしてカノンの身長以上あるようなライフル銃の形になり、顕現する。
いつみても驚くのがこのデガラートの長さである。身長167cmのカノンを越して178cmくらいある。弾の口径は普通のライフルの弾より若干大きいため、引き金を引くのがやや重い。スコープは自由に倍率調整が可能、サイレンサーも付けることができて暗殺にはぴったりくらいのライフル銃である。
そしてカノンはデガラートをさっきの場所にあてる。カノンは立って引き金を引く準備をしている。その態勢辛くないか?
「レイス、離れてて!」
言われたとおりにその場から離れる。するとカノンの指が動き出し―
ドン!!
地面に向かってデガラートを叫ばせる。鈍い音とともに放たれた弾丸は衝撃波を生み出してカノンを吹き飛ばし、地面を穿いて大きな穴を作る。吹き飛ばされたカノンは地面をゴロゴロと転がり、後ろにあった木に背中をぶつける。
「うあっ!」
カノンが苦痛の声を上げる。駆け寄るといつの間にかセンラがカノンの手を取っていた。転がった拍子にデガラートは顕現を解除されたのかもうその場にはなかった。
「カノンちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫よ。これくらいは慣れてるわ」
「ならよかった」
カノンの事はセンラに任せてもいいだろう。俺はさっきカノンが穿いた穴の様子を確認しに行く。
穴は暗く結構底まであるみたいだ。流石に飛び込もうとする気にはならなかったが、この下に地震の発生源があるとなると行かないわけにはいかない。
「おい、レイス。さっきの銃声って………うわぁ………」
「………こんなところに入り口があったとはな」
ガクスとヴァストも俺の元へと集まっていた。
「そういえば、お前らは何か見つけたのか?」
「いや、めぼしいものは何も。ま、暗いからよくわからないんだけどな」
「………俺も同じだ。ま、ここに人でも集めるためだけに広くしたんだろう」
「そういうもんなのか」
「………で、この穴どうするんだ?」
この穴について何にも考えてなかった。とにかくこの穴がどんなに深いかどうか分からないし、下にはどんな危険があるか分からない。
「そういうことなら私にお任せください」
そう言ってきたのはカノンに手を貸しているセンラだった。カノンは見た感じもう立てそうだが、センラが手を離さないみたいだ。
「センラ、お前大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫です。というか、この中では私が一番の適任だと思います」
「まぁ、確かにな」
センラの能力『ウィンドマネージメント』は自分の周りに風を発生させ浮くことができたり、物を斬り裂くカマイタチを発生させたり、色のついた風を発生させたりといろいろな用途に使える。また、風の軌道などを読むことができちょっとした天気予報くらい出来る。
「じゃ、センラ頼んでいいか?危なくなったらすぐに入っていくからその時は頼むよ」
「分かりました」
するとセンラは腕に着けていた腕輪を外し虚空へ掲げる。
「我の元に集いし力よ。その真相に答えて顕現せよ!」
取り外した腕輪が輝く光となり、センラの掌には墨で描かれた風に舞う木の葉の扇が顕現する。この扇の名前は確か『風来』と言っていたはず。
そしてセンラは穴の中に何の躊躇もなく飛び込んでそのまま暗闇へと消えた。その刹那、一瞬穴の中から何かが光ったと思ったら、その光は壁を侵食して暗闇を消し去った。穴の中からセンラの声が跳ね返ってくる。
「風光を纏いし風よ。希望を照らす光となりて全てを照らせ!『照壁風の演舞』!」
今センラが言ったのは『ソウルカード』もしくは『スペルカード』と言う技の一種である。通常、技は体が覚えるまで練習して取得するものなのだがスペルカード(俺はスペルカードの方で説明する)は違う。体が覚えていなくてもカードに封じてある技が発動するだけなので、初心軍人のほとんどはこれで仕事をしている。だが、いくら発動が簡単だからといって使いすぎるとカード自体が消滅して二度と使えなくなる。発動にも顕現と同じように言霊を唱える必要があるが、カードに封じられている技に近いことを話せば発動する。ま、軍人内にはかっこよく言って発動しようとしている奴も少なくはない。また、自作スペルカードというのもある。自分で動いてカードにそれを封印するだけの簡単な操作なのだが、カードがそれをうまく認識できないことがかなりあるので自作スペルカード完成率は10%にも満たない。それと加えて、スペルカードには制限があり、ある武器を装備していないと使えないや、自分の状況に応じて発動する技がランダムというスペルカードもある。
さっきセンラが使った『照壁風の演舞』は扇専用のスペルカードだったはず。俺は自分のスペルカードは全て暗記してあるが他の人のスペルカードはあまり記憶にない。
そして明るくなった穴の中からセンラの声が再び聞こえてくる。
「下は大丈夫です! 高さは結構ありますけど、私の風で皆さんを受け止めるので安心して降りてきてください!」
まぁ、たぶん大丈夫だろう。センラの言っていることは間違いない。
「じゃ、俺から先に行かせてもらう。カノンは俺の後でいいから降りてきてくれ」
「分かったわ」
カノンが頷くと俺は穴の中へと飛び込んだ。穴の中は若干広く両手両足を伸ばしてもいいくらいの広さがある。重力に従って加速しながら落ちていくこと4秒程度、急に落ちる速度が弱まりふわふわと地面に舞い降りる。これはセンラが作ってくれた上向きの風だ。浮かせるには相当の大風が必要のはずだが、そよそよと吹き抜けていくこの風を見ると何か不思議に思えてくる。
「ありがとな」
「いえ、これが私の仕事ですので」
続いてカノン、ガクス、ヴァストの順に落ちてきて、みんな怪我せずに降りることができた。
「………そう言えば、降りれたのはいいものの、上がるにはどうするんだ? 少なくとも、降りるときに計算した結果は50mくらいだったぞ」
「「「「あ!」」」」
何でだろう、そんなことすっかり忘れていた。もし、ここから出られないとしたら誰かに助けを求めるか、ここで運命を共にするか道はない。ちょっとした沈黙が続いた後、カノンが一つの提案を出す。
「一応出られないことはないわよ」
「え? 出られるの?」
「まぁね。私のデガラートで落ちてきた穴へ向かって縄弾を撃ち込み、それを登って脱出という事だけど」
「………50mは流石に俺達でもきついな」
「と、とりあえず、ここを調査してそのついでに出られるかどうか考えようぜ?」
「分かりました。ひとまず依頼に集中しましょう」
脱出は保留にして依頼の調査を再開する。上の密林は大体調べてめぼしいものが無かったから、こっちに何かあるだろう。地震の原因も地下にあるはずだからその原因も突き止めなければならない。
俺たちが落ちてきたのは結構広い広場みたいな場所だった。高さはさっきヴァストが計測したらしいが50mもあり、縦横20mくらいの正方形の形をしている。本来はここは真っ暗のはずだが、センラが放った「照壁風の演舞」のおかげで地面も光が付いているため調査がしやすい。
手分けして調査するものいいんだがそこまで広くないので一緒に調査をする。まず、近くからでも分かる巨大な壁に描かれている壁画を調べる。
その壁画は様々な絵が描かれていて俺には全く理解できなかったが、その中で一つ目に焼き付いた壁画があった。その壁画とは、大きな巨人が地面を叩いて島を沈めようとしている壁画だった。巨人には人々の魂らしき絵と大きなクレーターみたいな穴、そして島はこの島と形がほぼそっくりな島が海の中に沈んでいく。この壁画は今まさに今の状況を現しているのだろう。
「………驚いたな、この時代にもうこの島の形が分かるなんてな」
「ああ。しかもあの壁画は今の事、つまり未来のことまで描かれている」
「………予知か………。! レイス、ちょっとこれ見てくれ」
驚いたヴァストが指さす先は巨人の壁画の隣の絵、星型が描かれている絵とそれに向かって飛んでいく人の絵だった。
「この壁画がどうしたんだよ?」
「………この星、現在の鈴鐘座にそっくりだと思わないか?」
「うーんっと………この星がアガベスィだとすると………確かに鈴鐘座にそっくりだな」
「………という事は、島の形が分かるだけでなく、天体も分かるようになってたという事か?」
「いや、島の形の事は分かるとして、天体はないと思う。適当に星だけを集めて描いたという事も考えられるしな」
「………まぁ、確かにな。おい、ガクス! ちゃんと証拠写真は保存したよな?」
ガクスはビクッと驚いた後にヴァストの時だけ放つ声で言う。
「ああ、ちゃんと保存したよ。分かりやすいようにな」
「なら、次はあそこの扉を調べようぜ」
俺が指さしたのはひどく朽ち果てている大きな扉だった。横は2mで高さは5mくらいもある。何でこんなに大きく作ったのかは不明だし、この先に何があるのも分からない。そっと触ってみると扉の表面がさらっと砂のように崩れ落ち、押してみるとびくともしなかった。流石にこれ以上やると扉自体が崩れるかもしれないので手を扉から離す。
「この先に何があるんだ?」
「………あくまで俺の予想だが、この先にはここで暮らしていた人々の住居があるだろう」
「そうなのか?」
「………下を見ればわかると思うが、この辺りだけ他の場所よりも削れている。何かしらの出入りが多かったんだろうと俺は予想した」
ヴァストの言う通り、下の床には足跡みたいな後で削られている。
「………この先に住居があるんなら、ここはナバルに祈りをささげたりした聖堂みたいな場所だろうな。あそこにある祭壇みたいな場所を見れば」
この広場―聖堂の中心部分には上でも見た浄化石の祭壇がある。上のよりは若干小さいがそれでも何も言えないような感じだ。
扉の調査を終えて俺たちはこの祭壇の調査をする。するとセンラが俺を呼んで地面を見てくれと言ってきた。
「これは………」
「はい、多分古代文字だと思います。浄化石を見た時、その横にこれと同じようなものがありましたから」
「読めるのか?」
「いえ、私には解読できません。確かカノンちゃんは古代文字解読検定2級持っていたはずです」
「え!?」
「何よ、そんなに驚くこと?」
古代文字解読検定とはその名の通り古代文字をどこまで解読できるかという検定だ。7級から1級まであり、1級近くになると国語の長文が古代文字で出題される。それの前の2級という事だから、ちょっと長い文章の解読だろう。俺は何一つ取れていない。
「まぁ、そりゃ驚くわな」
「何よ、失礼ね。で、解読すればいいのかしら?」
「ああ、頼む」
「仕方ないわね。ちょっと待ってなさい」
待てと言われて10秒程度、もう解読ができたらしい。解読結果を聞きに来たのはガクスとヴァストも俺の後ろにいる。そういえば、さっき見た時は少なくとも50文字くらいはあったような………。
「解読できたわ。書かれていた内容はこうよ。『いしもつしゅごしゃ、てんかいへのみちをふせがん。じゆうのけんり、しゅごしゃたおせしものに、あたえん』と書かれていたわ」
「内容は?」
「最初の『いしもつしゅごしゃ』は、これはそのまま意志を持っている守護者と解釈する。2つ目の『てんかいへのみちをふせがん』は、天界とは地上の事だから、守護者は地上への道を塞いでいるという事になる。3つ目の『じゆうのけんり』は、よく分からなかったわ。私の予想として自由とは、ナバルによって魂を何かに移られなくてもいいという事だと思う。最後の『しゅごしゃたおせしものに、あたえん』は、さっきと同じようにそのまま解釈して、守護者を倒したら自由の権利を与えるという事となる。
どう? ちょっとは分かったかしら?」
「………ああ、ただ一つ質問がある。自由の権利をその守護者と言う奴を倒したら貰えるんだよな? という事はこの地震を引き起こしているのがその守護者とすると、古代の人々は誰1人守護者を倒せなかったという事になるよな」
「まぁ、多分そうなんじゃない? 私に言われても分からないし」
「………そうだったな。すまん。だが………」
「だが?」
「………俺たちが守護者を倒さないとここから出ることができず、地震の発生源を止めることができなくなる」
「避けては通れない戦いという訳か」
「………そういうことになるな」
でも、守護者を倒せれば自信を止めることができるんなら、ある意味一石二鳥なような気がする。
「なぁ、1ついいか?」
ガクスが人差し指を立てながら言う。
「その守護者なんだけど、多分その守護者は浄化石でできているはずだ」
「どういう事だ?」
「さっきの扉を見ればわかるが、普通の石だとあのように朽ち果てて簡単に崩れる。でも浄化石なら耐久度は凄まじかったはずだ。今まで崩れずに動くことは容易だったはずだ。発掘された浄化石の耐久度は5000近くだったよな?」
「え? は、はい。浄化石の説明の所に5000くらいあると書いてありましたから」
「つまり、どういう事だ?」
「外に出るには守護者を倒さないといけないが、戦うときは守護者の硬さには気をつけろという事だ」
今のガクスの言葉でみんなの顔に理解できたような表情が生まれる。
「………簡単にまとめすぎな気がするが言いたいことは分かった」
「俺もだ」
「私も」
「私もです」
センラが言い終わると突然、言葉に表せないような大音量とともに地響きが起こった。その地響きは立っているのが困難でその場に思いっ切り倒れこむ。
「うぉっ!!」
「「キャァァァ!!!」」
女子陣の甲高い悲鳴が響き地面が揺れること数十秒、ようやく地響きが収まり立つことができた。女子2人はさっきの地響きのせいで恐怖を覚えたのか、足がすくんで立てないみたいだ。
俺は紳士的な態度で女子2人に手を貸して立たせる。
「大丈夫か?」
「え、ええ」
「は、はい。だ、大丈夫ですわ」
普段冷静なセンラが言葉を取り乱すことは珍しい。よほど怖かったのだろう。
地響きはものすごく大きかったからこの近くに守護者がいるのだろう。そしてまだ動いているという事は浄化石はまだ朽ち果てていない。
「ヴァスト、守護者の位置は特定できたか?」
ヴァストは地面に耳を当てて振動を感知している。
「………ああ、………この先にいる」
そう言ってヴァストは指さしたのは、祭壇の向こうの壁画が描かれていない壁だった。
「あの向こうか………。カノン、いいか?」
「な、何?」
「デガラートであの壁を破壊してくれ。責任は俺が持つ」
「相変わらずこういうときだけカッコいいんだから………」
「何か言ったか?」
「何も。30秒待ってて」
そして30秒後、カノンはデガラートを顕現して俺たちにこう言う。
「みんな、反対側の壁まで行って。近くにいると巻き込まれるわよ」
「お、おう!」
カノンの言う通りにさっき調べた壁画の所まで走る。カノンもその近くに来て狙撃態勢に入る。
「センラ、あの壁の脆点はどこ?」
「中央部分より5cm右、高さ3mの部分です」
「OK、あそこね。『バレッティングターゲット』発動! 爆発せし弾丸よ。邪魔なるものを吹き飛ばし、それ全てを破壊せよ。『エクスプローディングバレット』!」
カノンは能力を発動して確実にスペルカードで破壊する気だ。しかも『エクスプローディングバレット』はカノンのスペルカードの中でも非常に強力なものだ。
カノンがデガラートの引き金を引くと―
ドッカァァァァン!!
と大きな音を立てて壁が爆発し崩れ落ちる。爆風は凄まじく壁に叩きつけられる勢いだった。俺たちは身を伏せ、爆風を回避して破壊された壁の向こうを調べる。『照壁風の演舞』は向こうの部屋までは届いておらず、真っ暗で何も分からなかった。
「ガクス、ヴァスト。真武の顕現はしとけ!」
「おう!」
「………了解」
ガクスとヴァストに呼びかけると2人は俺と一緒に真武の顕現の言葉を唱えた。
「「「我の元に集いし力よ。その真相に答えて顕現せよ!」」」
3人とも扱う武器は剣なので、指にはめられた指輪が光の粒子となり剣となる。センラは扇を顕現したまま調査していたので顕現の言葉を唱える必要はない。
破壊された壁の前に俺たち5人がそろう。やはり中は暗くてよく分からない。だが、今の俺達には不安という2文字はない。
そして、俺は戦いの開始の合図を言う。
「さぁ、戦闘開始!」
俺たちは自分の真武を握りしめ、破壊された壁の向こうの暗闇へと駆け入った。
いかがでしたでしょうか? 今回も色々な話を入れることができたので良かったです。
今回の話の途中に出てきたスペルカードですが、東方Projectとは関係ないのでパクリとか言わないでください(技名は何かと似ている気がしますが)
次回は本格的な(自分にどこまで書けるか分かりませんが)バトルシーンです。皆様がいい感じで想像できるように書きたいと思います。
それでは次回もよろしくお願いします。