揺れ動く大密林 中編
どうも、真幻 緋蓮です。今回は主に地震についての話ですが、俺も地震について詳しくはないので、おかしい部分がちらほらあると思います。そこは大目に見てください。では、ゆっくりとご覧ください。
朝の日差しが俺の目に降り注ぎ刺激するので、その眩しさで俺の目はパッチリと目が覚めた。寝起き時はまだ眠いという眠たさがなく本当に目がパッチリと開く。
「ん~っと」
ベッドで大きく背伸びをしていつもの支度をする。今日は調査依頼の実行日のため、念入りに支度をする。10分程度で片手に収まるくらいの荷物をまとめ終わり、それを背負って部屋を出る。ガチャッと自分の部屋のドアを開けると全く同じタイミングでガクス、ヴァストと部屋を出た。
「おっ、おはよう」
「おはよう~」
「………おはよう」
ガクスはいつでも明るく、ヴァストは昨日眠れなかったのか少し不機嫌な顔で言う。いつもの事なのでツッコミは入れない。
「一緒に朝飯でも食うか?」
「そうだね。食べようか」
「………ああ、そうだな」
なんとなく気まずい雰囲気が漂っているがさっきと同じくいつもの事なので特に気にすることはない。仕事に向かう人たちの定番の時間のため、食堂はかなり混んでいた。が、俺らの仕事について知れ渡っているのか並んでいた人たちが俺たちの姿を見ると同時に「お先にどうぞ」と言って列を開けてくれた。若干恥ずかしい気持ちを隠しながら受付係の人に、それぞれが食べたいものが書いてある伝票を渡す。
出来上がった料理は食堂の配達係りの人が運んできてくれるので、いつもの席(ほぼここと決まっている)に座り、2人と雑談でもして時間を潰す。
「なぁレイス、もう一度確認するが今回の依頼は密林の地震調査なんだろ?」
雑談は俺から振ろうかなと思ったが、ガクスから話題を持ってきた。
「ん? ああ、そうだけど。何だ? 何か不満でもあるのか?」
「いや、ある訳じゃないけどさ、何かあの地震について引っかかっていることがあるんだよ」
「………どうせいつもの勘だろ」
ヴァストがガクスをからかうように水を飲みながら言う。
「んな訳ないだろ! 昨日暇で大密林の大きさやあの辺りの地震の被害について調べていたんだよ。あの辺りはもう地震に慣れているせいか被害が全くなかった」
「………いいことじゃないか」
「まぁ………そうなんだけどさ、地震の規模は常に一定の震度4くらいなんだよ」
「へぇー、………ん? 常に?」
地震の規模は常に一定になることはあり得ない。プレートの沈み具合や反発力などによって大きさは決まるはずだが。俺もあまり地震に関しての知識はない。
「おかしいと思うだろ? で、一応あの近くのプレートを調べたんだけどまたそれでありえないことが起こった」
「………今度は何だよ」
まるで興味無さそうに明後日の方向を向きながらヴァストが言う。
「あの近くには地震を引き起こすプレートが無いんだよ」
「「は!?」」
予想外すぎるガクスの発言に思わずヴァストと一緒に叫んでしまう。
「プレートが無い? それじゃあ何で地震が起こるんだよ」
「俺に言われてもな………。とりあえず、これを見てくれよ」
するとガクスはポケットから黒いカードを取り出して、ピピピっとボタン操作して何かの立体映像を出した。出してきた立体映像にはこの島の全体図と、その周りには何かの細い線が描かれている。
このカードは立体投影板と言って自分が撮影、録画などしたものをここの上に表示することができる。全てボタン操作できて簡単なのだが、使用回数が5回しかなく、買おうとしても75000TMもするため、すぐに財布が軽くなってしまう。
「………で、これが何だよ?」
「この島の周りにある線がこの近くのプレートだ。よく見てみろ、密林にまたいでいるプレートが無いだろ?」
「………重なっているプレートは密林から大体南へ70km辺りにあるな。となると強い地震が起こると確実に津波が来る以上、あの辺りで地震が起こることはおかしいな」
「だろ? となると起こる理由は………」
「………ああ、何者かによって地震が引き起こされているか、新しいプレートの出現による前兆か、という事だろ?」
「そもそも地震って誰かの手によって引き起こせるものなのか?」
「「………」」
ま、無理もないだろうな。第一引き起こしていたとしてもその人自身も被害にあっている可能性が高いからな。
「はい、おまちどおさま」
ずっと地震について考えていたせいか、朝飯の事なんかすっかり忘れていた。持ってきてくれたおばちゃんにお礼を言ってから食べ始める。
俺は朝はご飯派であり今食べている朝飯は、丼1杯山盛りにのせられたご飯と、食堂自慢の味噌汁と、日替わりおかずの鮭とちくわの天ぷらである。鮭は少し濃い塩味が付いていてご飯との相性も良く、天ぷらは味噌汁に付けて食べるとなおいい。
ヴァストがふと思い出したようにご飯を食べる手を止めて言う。
「………なぁ、さっきから地震の条件とかについて話しているけどさ、そもそも地震の震央ってどこだよ」
「! そう言えばそうだな。ガクス、どうなんだ?」
「ん? っと、そうだね。えーと………俺が調べた情報によると全部密林から出ている?」
「何で自分で調べた情報で自分に疑問詞が付くんだよ」
「悪い。確認したら非常におかしくてさ」
「………どこがどうおかしいんだよ」
「地震の震央は全部密林の中の同じ場所から発生しているんだよ」
「「は!?」」
再びヴァストと口をそろえて言ってしまう。隠れたところで俺たちは繋がっているのかもしれない。
「全部同じ場所? どう考えたって誰かが引き起こしているとしか考えれないんだが」
「………俺も同感だ。しかも随分几帳面な犯人だな。もうその場所でしか引き起こさないみたいだな」
「とりあえず、今までの事から推測すると、新しいプレートの出現は無いとして、この地震は誰かによって引き起こされている。同じ場所から同じ震度で引き起こすことは容易ではないだろう。何らかの機械によって意図的に実行されているんだろうな」
「………機械が人間のように意図的に実行できるもんか?」
「っ、そ、それくらいの表現くらいいいだろ? ま、とりあえず結論としてこの件は何かが加わっているんだろうな」
「………もう結論じゃないな。 俺から一ついいか?」
「? どうしたヴァスト?」
「昨日お前には話しただろ? この島の古代文明について」
「ああ、覚えている」
インパクトやスケールが大きくて忘れようにも忘れる事ができなく、それのせいであまり眠れなかったのは言わないでおこう」
「………地震の震央は特に古代人が文明を築き上げた場所だ」
「? それがどうしたんだよ」
「………あくまで可能性に話だ。万に一つもないだろうが、その古代文明がまだ生きていたとしたら?」
「おい、その可能性って………もしかして………」
「………ああ、古代の発明が地震を引き起こしているんだろうな」
「でも何のために?」
「………それは分からない。古代人の予知による世界滅亡とか? ………それはあり得ないな」
「自分で言って否定するなよ。さて、とにかく細かいことは後にしておいて、そろそろ食べ終わって仕事に行こうか」
「そうだな。結構話してしまったもんな」
「………ああ。そうするか」
集合時間まで残り30分。俺たちは無言で朝飯を食べ終わり、傍に置いてある荷物を持って集合場所の南口へ向かう。軍の寮は海岸に近い北側にあるため、南口までは若干の距離がある。と言っても歩いて5分程度で着く。
ほかに急ぎでもないのだが、もし女子勢がもう待っていると思うと嫌な予感が全身を駆け巡るので、ダッシュして南口へ向かう。南口には昨日見た色の軍服を着ている女子2人の姿があった。
「! あ、やっと来た」
「集合時間28分前に集まってしまいましたね」
「別にきっちり時間通りじゃなくていいのよ。本当、センラはそういうところには細かいわね」
「そういうカノンは適当すぎるのです」
「何ー?」
「何ですか?」
睨みあう2人の話に水を差すようで悪いが、俺らの存在もう忘れられてないか?
「………あ、あのー。俺たちの存在忘れてお前らだけで話すのやめてくれない?」
「そう言えばアンタらやっと来たんだったわね」
ほんの数秒の事を忘れるなんてカノンの脳はどうなっているんだよ。
「で、お前らはいつ来たんだよ」
「えーっとね………」
「約2分30秒前です」
「という事はお前らもさっき来たばっかという事か」
「………下らん話はここで終わってそろそろ仕事行こうぜ? こうして時間を潰すよりは歩いて話した方がいいだろ。俺らも話すことあるしな」
ヴァストの言うことももっともだ。
「そうだな。それじゃ、依頼開始!」
「「「「おーっ!!」」」」
全員の声が響いたところで俺たちは南にある霊樹の大密林へ向かった。
「今出発したか」
レイス君たちが依頼出発の声を上げたところで僕―ヒレンはそう呟いた。
実際の事を言って僕はあの大密林の中に入って調査した学者の隊のメンバーだった。その時くらいかな? 急に大きな地震が起こって周りの木々が僕らの隊を下敷きにした。幸い、僕や式神たちの応急処置により隊員全員の一命はとりとめたが、その時、隊員の声ではない別の声が聞こえてきた。不思議に思って耳を澄ませて聞いてみると、その声は倒れた木々からだった。木々はこう言っていた。
「ココカラタチサレ。ナバルサマノイシヲフミニジルモノヨ………」
調査は取り止めいったん軍人本部へ戻り、僕は歴史学者のレキナに聞いてみた。木々が言っていたナバルというものは、古代文明を築き上げ古代人の総長として崇められていた人らしい。霊樹の大密林の木々はナバルという人が死んだという事に気付かず、今だ尚ナバルという人に与えられた使命を果たしているんだろう。
僕が何故レイス君を指名したかというと………ま、多分レイス君はそれをやってくれるだろうと思ったから。都合よくヴァスト君も連結隊に加わってくれたから2週間くらいで帰ってくるだろうな。
さぁ、頑張ってこい。これは陸軍総隊長としての命令だよ。
「ちっ、これまた面倒だな」
本部を無事に出発して歩き始めたのも約2時間。そこにある岩山を越えていこうとしたら、そこの岩山を根城にしている山賊団に見つかってしまい、交戦している。
見たところ山賊団の規模はおよそ30人程度。武器すら持っていない下っ端もいるようでそいつらを覗くと、15人くらいが武器を持っている。
バン! と銃声音が聞こえると同時にサーベルを持った山賊団が突撃してきた。
流石にこの山賊団を俺たち5人で相手にするのはちょっとばかり無理があるが、それでもやるのが軍人ってものだ。俺はとっさに閃いた作戦を大声で叫ぶ。
「ガクス、ヴァスト! 左右交戦開始! センラ! 交戦補助、又は交戦開始! カノン! 隠密狙撃術用意、準備出来次第、色彩弾を使用し狙撃開始!」
「「「「了解!」」」」
みんなに出した指示はいたって簡単。ガクスとヴァストは俺の左右にいる山賊を倒すこと、センラは俺たちに補助をしながら近くに来た山賊を倒すこと、カノンは隠密狙撃術という狙撃の用意をして、その用意が終わった後に色彩弾という色の弾を使って狙撃する。
山賊相手なら二刀流の剣技をしなくても倒せるだろうと思い、いつも使っているストラトブレードだけで戦う。
俺のもとに集まってきた山賊は5人。俺が指揮官だと思ったらしく左右にも数名がサーベルを構えている。威勢がいい山賊のうちの1人がサーベルを上げながら向かってきた。
おそらく、俺とコイツがつばぜり合いをしているうちに奇襲を畳みかけるつもりなのだろう。悪いがそう簡単にそっちの作戦に引っかかる俺らじゃない。
などと考えていると向かってきた山賊が目の前でサーベルを振り下ろしてきた。地面と垂直に振り下ろされたサーベルを、剣で受け流すように防御する。勢い余って受け流された山賊はその場でこけた。
「うわぁぁ!」
この場は岩山。顔面からこけた山賊はその場で気絶してしまった。服やサーベルを見るとまだ真新しいので最近入ったんだろうと思う。
気絶した仲間の山賊を見て起こった山賊たちが正面、左右から突撃してきた。が、左右は………
「ガクス、ヴァスト。頼んだぞ」
「おうよ」
「………任せな」
多分俺よりも熟練度が高い2人がいる。
ただ、さっきの奴は都合よく気絶してくれたが、剣で斬って殺すというのは少々嫌な気分だ。ここはさっきのようにうまくやって気絶してもらうしかない。
「「うぉぉぉ!!」」
雄たけびを上げながら正面にいた山賊らが俺に向かって攻撃してくる。
1人目は斜め上からサーベルを振り下ろしてきたので剣で受け止め、もう片方の開いている手でみぞおちに強烈なパンチをお見舞いする。
「うおぁっ!」
唾液を吐きだしながらサーベルを落とし倒れこむ。
2人目は地面に対して水平な横振りをしてきたのでスライディングし、相手の背後に回った後、首の後ろを思いっ切りチョップする。
「うあっ!」
みねうち程度の威力なので死んではいないと思うが、チョップした山賊もあっけなく地面に倒れた。
3人目は兄弟らしく(さっき2人目を倒した時に「いくよお兄ちゃん」と聞こえたから)4人目の山賊と一緒に斬撃を放ってきた。
「何!?」
俺が驚いたのはその兄弟は技を繰り出してきたことだ。
通常、技は自分の体が流れるように動けて初めて技と呼ぶ。俺も技は3、4個くらいしかないが、それを取得するためにかなり時間を使ったものだ。商人とかを襲う山賊は普通、絶えず仕事をしているはずなので技と練習する時間はないはずだ。
山賊兄弟が放ってきた技は、剣を振り下ろす時に生まれる真空を放出する技である。軍人本部内で言う片手剣真空斬技、エアエドスローグである。
兄弟連続で、しかも少しタイミングをずらして放ってきた。何気にこの真空は重く1発目は何とか防ぎきれるが、その真空が上に飛んでいくようで腕を上にはじかれ、俺の正面ががら空きになってしまう。そして飛んできた2発目はさっきの真空より重く、俺の体を切り刻む。
「ぐっ!」
幸い、軍服は布だが布ではない生地を使っている。この生地は自然現象のカマイタチですら切れない。何故か鋏では切れるというのが不思議である。
放ってきた真空をまともに受けた俺は、近くにあった岩にぶつかる。服は多少切り傷が入ったが、任務を遂行する分には全然大丈夫だ。俺は予想しているよりタフなのですぐに起き上り、反撃のタイミングを待つ。
すると少し離れた岩山から黄色い煙が見えた。
あの黄色い煙はさっきカノンに言った色彩弾の色である。さまざまな色があるが、合図やここにいるという事を伝えるときには黄色や赤の色彩弾が使われる。
色彩弾が放たれたことはカノンの準備ができたらしい。もう戦い終わって岩陰でくつろいでいるヴァストや、最後の一人と戦闘しているガクス、気絶している山賊を縄で縛りあげているセンラも色彩弾の存在には気付いているだろう。
すると俺の見ている何処ががキラリと一瞬光り、俺の目の前名で迫っていた山賊兄弟のうちの1人が持っていたサーベルが弾き飛んだ。そうして持っていたサーベルが地面に落ちると同時にもう片方のサーベルも弾き飛んだ。
何が起こったか理解していない兄弟はその場でおどおどしている。俺の存在も兄弟からの視界から消えたようで、俺の方には見向きもしない。
「ヴァスト、奥にいる山賊を気絶させてきてくれ」
「………了解」
俺は目の前にいる山賊の背後に回り、2人目と同じように首元をチョップして気絶させる。奥にいたもう1人の山賊もヴァストがいつの間にか気絶させていた。
ようやくガクスも戦い終わったようで俺たちの元へ駆け寄ってくる。センラはまだ山賊たちを縄で縛りあげている。
「よっ、お疲れ」
「ああ」
「………」
お互いにお疲れを言う。
「いやー、まさか山賊に襲われるとはね。俺たち、ついてないんじゃない?」
「まさかな。俺は技を放ってきた山賊が気になるんだが」
「………俺は自分の所に来た山賊を倒した後、アジトにいた山賊も気絶させてきた」
「「い、いつの間に………」」
驚きの声がガクスと重なる。するとせっせと山賊を縄で縛りあげていたセンラと、遠くで狙撃していたカノンも戻ってきた。
「お疲れ」
「お疲れ様でした」
「お疲れさん」
「で、どうよ、私の狙撃。凄かったでしょ?」
「まぁな。実際、あれが無ければ俺、斬られていたかもな」
「その言葉は素直にありがとうございましたとして解釈しておくわ」
カノンが狙撃の時に使っている真武は銃で名前はデガラート・バイノンMk‐Ⅲと言うライフル銃である。この銃は撃翔進攻戦の時に使われていた幻の撃翔兵器と言われていたらしい。通常のライフルより銃口や弾が1cm程度大きくなり、最高秒速は約1700m位だと言われている。俺もどのくらいかはわかっていない。ま、それを使っているカノンですら理解していないんだけどな。
「とりあえず、本部に報告して別動隊にこいつらの回収を頼んでおくよ」
「そう、ならよろしくね」
俺は報告用の立体投影板を慣れた手つきで操作し、自分の声を録音する。
「こちら大密林調査部隊、隊長のレイス・フォールーズです。密林調査に向かう途中、堅岩山脈の3合目あたりにおいて山賊の襲撃を受けましたが、それらを撃退。延べ30人程度の山賊を捕獲してあります。別動隊をこちらへ派遣させ回収してください。以上になります」
カチッとボタン操作を終え、依頼管理人へ録音した報告を送信する。
「よし、報告終わり。さてと密林に向けて歩くか」
ぼさっと呟いてからみんなの元へ向かい、先を急ぐ。
どのくらい歩いただろうか。辺りはもう夜の帳が下りて空には無数の星々が輝いている。
今いるところは何もない草原が広がっているばかりで野宿するには少し危ない。所々に洞窟みたいな穴がある大きな岩があるが、5人が寝泊まりするには小さすぎる。
頭を回転させて良さそうな所を探していると、いつの間にか周りには俺だけになっていた。慌てて皆を探すと案外近くにいて、俺の名前を呼びながら手を振っていた。
「レイスー。どこに行こうとしてんだよー」
「さっさと来なさい。そんなところに突っ立ってないで」
「はいはい」
ガクスとカノンの応対に答えて駆け足で向かう。
今夜野宿する場所はさっきもあった岩の穴の中だが、この岩は一回り周りにある岩と比べると大きい。5人で野宿するにはちょうどいい大きさと高さである。
「お前ら、いつの間にこんなところ見つけたんだよ」
「そろそろ休もうかなっと思ったら、ちょうどいい場所があったからね。一番最初に入ってやったわ」
「………あ、そうですか。ところでさ、この辺りにある岩って何?」
俺が問いかけると、夕食の準備をしていたヴァストが作業しながら答えてくれた。
「………この辺りにある岩は、堅岩山脈にある堅岩火山のマグマが固まってできたものだな。その火山は特徴的で、火口にマグマでも融けない融消岩がある。その融消岩の形が今いる俺らの場所を作り上げているんだ。ま、そのマグマがどうやって無数の岩に分裂したのかは俺も分からん」
「解説ありがとうございました」
ヴァストの説明を聞いて改めてこの岩を見てみると、確かにマグマでできたような岩だ。しかもこの場所は、俺らが来る前に別の人たちが使った跡がある。別の意味でここはキャンプ場のような役割があるのかもしれない。
「あ、そう言えばさ、ガクスから話したいことがあるって。何?」
カノンが思い出したように言う。少なくとも、俺とヴァストはその話については朝に聞いたことなので、聞き納めとしてもう一度聞くことにしよう。
「そう言えばそうだったな。ちょっとばかり長い話になるけどいいかな? この依頼と関係しているから」
「ふーん、そう。どうする? センラ。聞く?」
「興味はかなりあります。ぜひ聞かせてください」
カノンは興味無さそうに、センラは目を光らせて興味があるように聞く。
「えーっと………まず、どこから話そうかな?」
こういう肝心な時に限ってガクスは動揺して使い物にならない。仕方なく助言をあげる。
「何でもいいだろ。………はぁ、えーっと、そもそもそこの2人はこの地震についてどう思っている?」
ガクスの代わりに女子2人に問いかける。横目で見るとガクスは親指を立てていた。
「そうね………。よく分からないわ。地震が頻発して起こるのは自然現象じゃないの?」
「っ。ま、まぁそうだよね。センラはどうかな?」
「カノンの意見には大体が納得できますが、自然現象ならなぜ同じ場所で起きているのでしょうか?」
「そう言えばそうよね。本部がある北側では全くと言っていいほど起きてないし」
ようやく話になってきたなと思う。興味が無いカノンでさえきちんと考えているのは珍しい。
「その話についてまとめたものがこれになるんだ」
下を見ると、ガクスの指が光速で投影板を操作していた。あ、ちなみに盗撮しようとすると投影板が盗撮かどうか判断して本部に通報する仕組みになっている。その後は………想像してくれ。
投影板の立体映像を出すとセンラがとっさに問いかける。
「これは何の記録ですか?」
「これはこれから行く森剌の村で観測した地震の規模、時間などが細かく記録された表とグラフだよ」
グラフなんか朝見せてもらってないぞと言いながら見る。どうやらそのグラフは地震の規模だけ折れ線グラフにしたらしく、朝聞いた一定の規模というのが理解できる。
記録とグラフを見てセンラは驚きの声を上げる。
「これって………もはや自然現象の地震ではないですね。という事はもしかして………」
「多分センラが思っていることで間違いないと思うよ。俺らもそう思っていたから」
「ちょ、ちょっと待ってよ。私だけまだ理解できていないんだけど!? 勝手に話を進ませないでよ」
「あ、ああごめん。こういうことに理解してくれる人がいると嬉しくて」
お前の嬉しさはそんなものでいいのか。
仕方なく理解できてないカノンに俺が一応わかりやすく教える。
「カノン、まずはこの記録をよく見てくれ。気が付いたことがあったら何でもいいから言ってみろ」
「そうね。えっと………、ん? ぜ、全部同じ時間あたりに地震が起きているじゃない!」
「そうだ。同じ時間あたりに地震が立て続けに起こることは、自然現象の中ではまずない。それが理解できたらこのグラフだ。このグラフは、その記録の地震の規模をグラフ化したものだ。さっきと同じく、何か気づいたことがあったら言ってみろ」
俺が教師でカノンが生徒だなと思ってしまうが、こんな教師じゃ何も教えれないだろと思う。
「え? ただほぼ一直線にしか線がない………。ああ! そういうことね。やっと分かったわ」
「そうか。じゃ、ガクス。後は頼んだ」
「了解。理解できたと思うけど、この時点での俺たちの考えは、同じ場所、同じ時間帯で地震を引き送ることは自然現象ではない。残る可能性は、人間の手によって引き起こされているという事だ」
ガクスの推論に俺は心の中で頷く。多分、今料理しているヴァストもそう思っているだろう。
「でも、ちょっと待ってください。確かに私もそう考えましたが、人間の手によって地震が引き起こせるものなのでしょうか? 地震はかなり深い地面で発生していますし、人間がそこまで深い地底に行き、地震を発生させること自体不可能だと思います」
「私も同意見よ。確かに他の考え方があっても良かったんじゃないかしら?」
尤もな反論だと感心する。さて、ガクスはこれをどう返す?
「じゃあ、逆にこっちから質問するけど、君たちの頭の中で地震を発生させるには自然現象とあと何がある?」
「「………」」
「少なくとも、人間の手と言うのが俺の答えかな」
「確かにそうだと思います。うまく反例が見つかりませんでした」
「私も何も言い返せなかったわ」
「………考えるのは後にして先に腹でも膨らませろよ。腹が減っては考えがまとまらないぜ?」
そう言えば腹が減っていること自体忘れていたな。しかもかなりいい匂いが漂ってくる。
熱にも強い簡易的な折り畳みテーブルの上に若干小さい鍋が置かれる。鍋の中には色とりどりの野菜が入っており、しかも活力をつける活力草の肉巻きまである。しかも決め手は煮込んである白い汁である。どうやらヴァストは煮込み野菜シチューを作ったらしい。
「んじゃ、せーの」
「「「「「いただきます」」」」」
スプーンで一口食べると、まろやかなシチューの甘みと溶け込んでいる野菜の味が絶妙で何とも言えないくらいおいしい。野菜も口に入れるとすぐに溶けるほど軟らかく、活力草の肉巻きは弾力があってとてもおいしい。
「………味はどうだ?」
「ああ、すごく美味いな」
「とてもおいしいです。料理、お上手ですね」
「………ま、まあな」
あ、一瞬ヴァストが照れた。今世紀、とても貴重な一瞬だったな。
「なぁ、ヴァスト」
「………ちっ、何だよ」
「このシチューの牛乳ってもしかして………」
「………相変わらずどうでもいいことだけに関しては鋭いな。そうだよ。純乳牛の高級牛乳だ。買い置きしていた分が予想以上に多くてこのシチューに利用しただけだ」
「そ、そうですか」
「「「………」」」
純乳牛の高級牛乳は1リットル5000TMもするほど高級なのに、それを買い置きしていることに驚いた。そもそもヴァストってここまで牛乳好きだったっけ?
ヴァストの料理を1時間くらい堪能したところで、後片付けも終えたヴァストと一緒にさっきの話題について再び考える。
「さっきの話の続きだけど………どこまで話したっけ?」
「あのなぁ、それくらい覚えておけよ。あの地震が自然現象じゃなくて人間の手によって発生しているという結論までいったところだよ」
「そうそう、そうだったな」
ヴァストと顔を見合わせて溜め息をつく。
「で、人間の手によって発生していることから、これを見てほしい」
また光速で投影板を操作して次の映像と出す。この映像はどうやら地震の震央を現している映像のようだ。
「この映像は地震の震央の場所を現しているんだけど、何か分かることはある?」
映像を食い込むようにセンラが真剣に見つめる。
「えっと………、え? 地震が同じ場所から発生しているんですか? これ?」
「センラ!? どういうことよ」
「このバツ印、分かりますよね?」
「う、うん」
もしかして分かりませんでしたとか思ってたんじゃないよな。カノンの奴。
「この映像が立体映像でよかったですけど、バツ印が同じ場所で重なっているんですよ」
「あ、ほ、ほんとだ。え? という事は………?」
何かさりげなくセンラがディスったような気がしたんだけど、それは気のせいだったのだろう。
「そう、そういうこと。つまり、この地震は同じ場所、同じ規模で発生している」
「で、でもちょっと待ってください。確か、地震の発生には地面にあるプレートが必要だって本部で教わりましたけど、プレートがそう何回も沈むものですか?」
「それと、ここは島よ? 確かプレートはこの島にまたがってなかったはずだけど………」
あ、一瞬ガクスがようやくきてくれましたかと言わんばかりのにやけが見えたな。
「そんな質問が来るだろうと思って、これを見てくれ」
再び光速で投影板を操作するガクス。しかも、投影板のボタンを見ずに操作してやがるぞ。相当な練習が無いとあれはできないだろうな。そして3秒も経たない間に次の映像が出てくる。
「この映像はこの島近くのプレートの場所を正確に表した映像だ。赤いところがさっき見てもらった地震の震央の部分」
「なるほど。この島はどこのプレートとも重なっていないんですか。火山活動くらいでないと頻発した地震は起こりませんし」
あ、そう言えば頻発した地震には火山活動が関係しているって言っていたな。この辺りにも火山があるってさっき言っていたけど、そんなに目立った地震は起きてないな。
「えっと、つまり、どこのプレートにも重なってないから自然現象ではないという事?」
「そうだ。というか、このプレート図さえ見てもらえれば自然現象じゃないって事が証明できる」
「なら、その地震の発生原因とはいったい何なのですか?」
「そういう話は俺からじゃなくてヴァストの話になるんだ。ヴァスト、ちょっといい? あとの片づけは俺がやっておくからさ」
洗い物をしていたヴァストの手が止まり、不気味な笑みを見えないように作っている。
「………ああ、そうか。じゃ、残りの物やっておいてくれよ。お前のためだけにずっと残しておいたからな」
そういったヴァストの後ろにある岩でできた簡易な洗い場を見ると、さっき食べたシチューの鍋がまだ洗ってない状態で放置されている。シチューと取るために使っていた器も洗ってないらしいが、スプーンなどはきちんと洗ってあった。
「は!? さっきまで食器洗ってたじゃんか。まさか洗ってなかったのか?」
「………人聞きの悪いことを言うなよ。スプーンとかはきちんと洗ったぜ」
「くそ、大きいものだけ押し付けるつもりだったのか」
「………投げ出すなよ? お前がやっておくんだったよな?」
「そうでした。やりますよ」
「………ありがとな。さてと、話すか」
しぶしぶ洗い物を始めるガクス。ちなみに洗い物や風呂の時に使う水は水紙と呼ばれる紙を使う。何の変哲もない素材はただの紙だが、その紙に書かれている墨がこの水紙の大事なところである。紙には何かしらの呪符と、水の出口とも呼ぶ直径1センチくらいの丸が書かれている。これは念と込めるとその念に応じて丸から水が出てくる仕組みになっている。紙に書かれている呪符のおかげか、これは重力の影響を受けず空中に浮くことができるためわざわざ固定しなくてもよい。実際、何リットルほどの水がこれに封印されているのか分からないが、少なくとも100リットルくらいは入っているだろう。
ジャーという水が出てきた音とともにヴァストが話し始める。
「………さっきの奴ほど俺はあまり上手く話せないが大目に見てくれ。で、とりあえず確認だ。さっきの話から自然現象じゃなく人間の手によって引き起こされていると言っていたが、理解はできたのか?」
センラは自信満々に、カノンは少し不安そうに答えた。
「私はしっかりと理解できました」
「わ、私も一応………」
「………まぁ、いい。俺の話はそこまで難しくはないから頭の片隅にでも置くようにして聞いてくれ」
「はい。分かりました」
そう言ってヴァストはゆっくりと語り始める。
「………歴史の勉強になるかもしれないが、聞いてくれ。この島には古代人が作った古代文明があり、その中心となった森風文化と言う文化があった。その森風文化は堅い木や石を加工して使いやすくする技術の文化なんだ。町の博物館にもこの文化の物が展示されている」
「それなら最近、私見ました。でも、あの石は相当堅そうでしたけど切断できるものなのですか?」
「………さぁな、俺にも分からん。ただ、あの石は浄化石と言ってかなりの耐久度がある。発掘された時の浄化石の耐久度は約5000。長い時間出てこなかったとはいえ、この耐久度は凄まじい。関係者の推測によればこの文化が栄えていたころのこの石の耐久度は約20000らしい」
耐久度と言うのは全てもの物にある堅さと耐久性の事だ。耐久度が大きければ大きいほど物質は堅く、壊れにくい。敵と戦ったりしていると耐久度はどんどんと下がり、やがて壊れてしまう。耐久度は自然回復では回復せず、鍛冶屋などのメンテナンスにより回復する。普通の剣などの武器の耐久度は3000~4000程度であり、俺の使っているストラトブレードの耐久度は3549で、良くもなく不可もない至って普通の剣である。ただ、さっきヴァストが言っていた浄化石の耐久度は異常すぎる。20000と言う数字はほとんどの手段を使っても破壊できないというものだ。唯一できるのなら、浄化石と浄化石でぶつけあったりして割ることだろう。
「ですが、その石の話と地震で何の関係があるのですか?」
「うんうん」
「………おそらく、何の関係もないだろう。センラも見たらしいが、あの石で地震が引き起こせれると思か?」
「確かにそうですね。一見見ただけではただの石でしたし」
「………浄化石の話は一旦置いておいて、ここからはレイス達にも話していないことだから聞いてくれ」
洗い物がいつも間にか終わっていて、若干嫌そうな顔をしながらガクスもヴァストの話に耳を傾ける。その前に、浄化石に話は俺らも聞いていないぞ。
「了解」
「ちっ、分かったよ」
「………その森風文化とはもう一つの文化が存在する。その文化は人魂文化と言いい、儀式によって相手の魂を乗り移らせるらしいが文化と言うよりは人魂術と言うものだろう」
「一体、何のために?」
「………その頃の宗教は魂霊宗が流行っていたらしい。魂霊宗は自分の魂を浄土に送るのではなく、森羅万象全ての物に乗り移れば自分は無限に生きられると言う宗教らしい。その宗教が信じられていた時、儀式をやる人が増え住民が減っていった。つまり、みんな何かに魂をささげたってことになる」
「そうなると、魂が移っているんなら今でも生きているっていう事になるのよね?」
「………乗り移った物がまだあったり生きているのならそうなのかもな」
「気味が悪い話だな」
「それでも、この宗教と地震は関係があるのですか?」
それには俺も同感だ。人間の手によって地震を引き起こしているのなら、何が地震を引き起こしているのか分からないからな。
「………森風文化は物を作る、魂霊宗は物に乗り移る。これで分かるな?」
「! おい、ヴァスト。今日の朝聞いた話とは結論がちょっと違うけどそれって………」
「………察しがいいな、レイス。つまり、作ったものを動かすためだけに儀式を行って動くようにした。しかし、何らかの影響か乗り移った人たちの考えにより暴走し、今回のような地震を引き起こしたという事だ。あくまで俺の推理だけどな」
「もし、その推理があっていたと仮定して、この地震を無くすことはできないのですか?」
「………人ならともかく、今回は物だ。説得は不可能だろう。最終的な手段は戦って破壊するしかない」
「古代文明の物を破壊するのはちょっと抵抗があるぜ?」
確かに。いまだ解明されていない古代文明の物を破壊するなど普通はあってはならない話だ。
「………ま、戦う事となったら軍人長に許可をもらうしかないだろうな。と言う事で俺の話は以上だ」
「ありがとうございました」
「ま、いい暇つぶしにはなったわね」
それぞれの話が全て終わったところで、俺は明日の行動について説明する。
「最後に俺から、明日の事について話す。とりあえず、夜が明けたらここから離れて目的地の森剌の村へ向かう。このペースなら明後日の夜には到着できると思う。ま、今日みたいな山賊とかに襲われたりしなければな。という訳で明日も頑張っていくぞ!」
「「「「了解!」」」」
俺からの通達も終わり、みんなそれぞれ就寝準備をする。流石に女子陣だけは別の場所に移っていき、明日起こしてよねと言われた。
そして俺たちは簡易テーブルを片付けて寝袋を敷いてガクス、ヴァストと一緒に川の字になって寝る。
この岩は天井が少し開いていて、そこから満開の星空が見える。空に見える星々は変わらず輝く光を放っている。
「お先にな。レイス、お休み」
「………同じく」
「ああ、お休み」
ガクスとヴァストが寝ると、途端に俺まで眠たくなってきた。そうして俺は星を見るのをやめてゆっくりを瞼を閉じ、夢の世界へと旅立った。
瞼を閉じる前に見えた星はさっきよりもより一層輝きを放っており、まるでお休みを言っているみたいだった。
呼んでくれてありがとうございます。いかがでしたでしょうか? 面白かった、などでもいいので感想を書いてくれると嬉しいです。悪コメはあまり書かないでください。
今回から、ヴァストが分かりやすいようにと「………」を最初に書きました。これで一応は分かりやすくなったと思います。
中編という事で、次回でこの話は終わるはずです。完結できるよう、そして投稿ペースが早くなるよう頑張ります。