揺れ動く大密林 前編
初めて書いたので誤字、脱字があったら教えてくれると嬉しいです。そしてなるべく批判的な感想を書かないようにしてください。
キャラクターの姿やバトルシーンなどを表現するのは僕にとって難しかったのでそこは大目に見てください。
軍人というのを皆は知っているだろうか。国のために働き、戦い、死んでいく勇敢な戦士たちの事である。今の世界でも軍隊に入りたいと思っている人は少なくないだろう。これはそんな軍隊の話であるが、戦争などがあまり起こっていない少し平和な世界での軍隊話である。
真実軍隊調査人本部、略して軍人本部。全国から軍人を目指す人たちが集まってくる軍隊の本部である。優れたエリートたちが日々、ここで鍛えながら暮らしている。戦争などは起こっていないが、凶暴なモンスターなどがいるため軍人は依頼などを受けて毎日を過ごしてる。便利屋と思われがちであるが実際、そうなのかもしれない。本部には学校、武器防具屋、訓練場などいろいろある。そんな軍人本部に陸軍に所属している一人の少年がいた。今回はその少年にスポットを当てて見てみよう。
ある朝、俺―レイスはこの軍隊組織を束ねている陸軍隊長に呼び出しをされていて、大急ぎで準備に取り掛かっていた。とはいってもただ、紺色に染められていて、左肩から右腰あたりへ向かって1本の緑色の線が入っていて、左胸にポケットが付いており金色のバッジが付けられているネクタイ付のシンプルな軍服を慣れた手つきで着て、真武と呼ばれる武器の一種のアクセサリーを身に着けるだけである。軍人になってかなりの年月が経つため、僅か2分足らずでいつもの軍人姿になる。自分のトレードマークの白いマフラーを首にさっと巻き付け、ぼさぼさになっている髪の毛を整え、顔を洗い、鏡の前に立って最終チェックをする。
「相変わらずだな、俺も」
思わず思ったことを鏡の中の自分に呟いて部屋を出る。廊下は10月頃なのに少し肌寒く感じる。窓から入ってくる風が寝起きの俺の目を覚まさせてくれるようだ。気持ちよく少し寒い風に当たりながら足早に隊長室へ向かう。
軍人寮の1階にある食堂あたりを通ると、朝飯を食べていないせいか急に腹が鳴る。けど、隊長室で話を聞いた後でゆっくりと食べればいいだろうと思い我慢する。そう思っているとどこからか俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「よっ、レイス」
声のする方を向くと黄色の線が入っていて陸軍の軍服を着ている俺の友人―ガクスがそこにいた。さっきまで朝飯を食べていたのか、いつも被っている妙な飾りがついた帽子を被っていない。
「ガクスか。おはよう」
「どうした? 随分急いでいるみたいだけど」
「アイツに呼び出されていてさ、さっさと済ませたいから急いでる」
するとガクスは苦笑しながら俺の肩に手を置き、同情するように言う。
「お前も大変なんだな。ま、何かあったら俺に相談してくれ」
「そうだな。じゃ、俺は急ぐでまた」
「じゃな。俺は一応部屋にいるぞ」
「分かった」
俺はそう言い再び急いで隊長室へ向かう。
陸軍寮から軍人本部までは大体200メートル位あり、そこから2階にある陸軍隊長室までは300メートル位である。広い陸軍専用フィールドを横断し本部に入る。廊下は走らないというお約束の決まりを破り、2階に通じる階段を怪我しないように2段跳ばしで上る。2回に着いたらすぐに隊長室まで全力疾走。直進距離約150メートル先にある大きな扉が隊長室の扉である。中に入る前にまずは呼吸を整える。深呼吸していると後ろから何かの気配を感じ慌てて振り向く。
「!! ………何だ、レイガかよ。脅かすなよな」
レイガと呼ばれた人は白い線が入っている陸軍の軍服を着ており、頭には白と黒の鬼みたいな角が生えている。レイガは陸軍隊長の式神であり、実力も相当だ。
レイガは呼吸を整えている俺を見て表情何一つ変えずに言う。
「すみません。ただ、レイスさんが物凄い勢いで走っていたものですから。本当は私がお呼びに行くつもりだったんですけど、それはもういいですね」
「そうだったのか。悪いな」
「いえ、これも仕事ですから。隊長に呼び出されているんでしたよね。それではどうぞ、入ってください」
レイガが扉を開けるとレイガは札状となり、中にある大きな机にいる人向かって飛んでいく。陸軍隊長室は読者が想像しているよりも狭く、床には重要書類などが靴跡付けて散乱している。
陸軍隊長のヒレンは大の面倒くさがり屋で自分で動こうとはせず、掃除や料理などは全て式神たちに任せている。レイガ曰く、「こんなに酷い人は初めてです。毎日のようににこき使われているのでうんざりです」と部下や式神からの信頼はほぼ無くなっている。だが、作戦の立て方などは完璧で陸軍の司令塔として戦場では活躍している。また、自分の式神を武器変化できるらしく戦闘力もそれなりにある。因みに、軍服に入っている線の色は赤である。奴(これからは陸軍隊長のヒレンについては「奴」という)は戻ってきたレイガの札を見ながら呑気な声で言ってきた。
「レイガが戻ってきたという事は、そこにいるかい? レイス君」
「ああ、いるぞ」
普通、どこの軍隊でも上司に対しては必ず敬語のはずだが奴に対しては違う。もっと具体的な理由はあるのだが話が長くなってしまうので、簡潔に言うと「気に食わない」。
「朝早くからごめんね。ちょっと君に頼みたいことがあってさ」
「………」
奴から頼まれることはろくなことが無い。ずっと前に奴に頼まれた人がいたらしく、依頼は完遂したらしいんだが大怪我して帰ってきたり、戻ってこなかったりと不吉を呼んでいる。
「え、何でそんなに嫌そうな顔するの? 僕が頼むこと自体が嫌?」
「いや、お前自身の存在が嫌」
普通の軍隊なら間違いなく軍隊反逆罪(今考えた罪)として殺されていると思ったりする。
「ひ、酷いなぁ。ま、そんなことは置いといて本題に入るよ」
「さっさとしてくれ。こっちは早く朝飯食べたいんだよ」
「はいはい。えーとね………まず、依頼差出人だけど森剌の村の村長からだね。そもそも、森剌の村って君は知っているかい?」
「………まぁ、一応知っているが。この島の最南端にある霊樹の大密林あたりに木材の生産場所として成り立っている村としか知らないんだが」
「やっぱり、君もそうとしか知らないと思ったよ」
「え? ってことはお前も今の知識しかなかったのか?」
「うん。情けないことに」
いや、お前が情けないのは誰だってわかるだろと内心思いつつ意外だなと驚く。
霊樹の大密林とはこの島の最南端に広がる樹齢100年は越えていそうな森林地帯である。そこには多くの動植物が生態系を張り巡らしており、極稀に新種や希少種が見つかることがある。ただそれ故に、南のほぼ全体がこの大密林のため見つけるには難しく迷いやすい。実際にこの大密林に調査しに行った研究者が餓死体として発見された事例もあり、迷ったら二度と戻れないと言われている。
「で、依頼内容は?」
「おっと、そうだったね。えーと、『ここのところ、この村あたりで地震が起こっています。しかも頻繁に。地震の観測者に調べてもらったら地震は霊樹の大密林から出ているという事が分かったんですが、何が原因で地震が起こっているのか分かりません。霊樹の大密林で起こっていることを調査してもらえませんか?』ということだ」
「地震? そんなこと聞いたこと無いぞ、俺は」
「ま、こっちには届いてないからね。揺れはそこまで大きくないらしいよ」
「それとさ、お前は霊樹の大密林について知っているだろ。俺を殺す気か?」
「嫌だなぁ、君を殺そうとは思ってないよ」
逆に俺はお前を殺したいがな、式神たちの解放にも繋がるし一石二鳥だと心の中で笑顔に思う。
「もう一つ、それの報酬等は?」
「がめついなぁ」
「ほっとけ」
どうでもいい事に関しては鋭い。その鋭さを戦闘でも発揮してくれればいいんだけどな。
「えーと、報酬は150000TMと大密林木材を50個くれるらしいね。任務時間は今週中に村に辿り着いてほしいみたい」
「TM」とはこの世界で言うお金の事である。正式名称は「トゥレイマネー」というらしいが、誰もそのようには言わず「ティーエム」と言っている。
「という事はここから向こうまで行こうとすると」
「ざっと3,4日は歩き続けないといけないことになるね。途中の村や町は全然無いしね。ほぼ野宿だろうよ」
「そうか。あ、もう一つ聞きたいことがあった」
「えーまだあるの?」
文句を言う奴の事はほっておいて話を続ける。
「もし俺がこれを断ったら、他に頼む相手はいるのか?」
「そうだね、誰もいないし僕たちで行くことになるかな」
奴一人に150000TMも取られたくないし、俺たちの地位も下げられてほしくない。揺れ動く心理の中、俺は渋々結論を出した。
「………分かったよ、引き受ける。最近訓練続きだし体を外で動かしてみたいからな」
「おっ、助かるよ。じゃあ、正式に受理されたことを村には伝えておくよ」
「頼む」
「それと、できれば明日の朝には出発してもらいたいんだけどダメかな」
「元からそのつもりだ。連結隊の許可もしておいてくれ」
「そうだね。調査依頼は何かと忙しいし。君を入れて5人でいいかな」
連結隊とは一緒に行動するメンバーのチームの事である。本当はチームが組めたならそれでいいんだけど、数年前にある連結隊が仲間一人の裏切りによって壊滅させられたらしく、それ以降本当に信頼できるかどうかを確認してもらうため許可が必要となった。
「その程度でいいだろう。人数が多すぎても少なすぎてもアレだからな」
「了解。それじゃあ明日は宜しく」
「ああ、お前こそな」
そう言って俺は軍服を翻し奴の部屋を後にする。奴の部屋の扉は、思いっ切り大音量が響くように閉めてやった。
やっと陸軍軍人寮の食堂に辿り付けた俺は食べるものを注文した後、空腹を紛らわすため水を何度も飲みまくった。冷たい水が俺の心を冷静と落ち着かせてくれる。
「そんなに飲んだらろくに食べれなくなるぞ」
ぐったりとしたまま体を起こすと灰色の線が入っていて陸軍軍服を着ている軍人がいた。後ろには4つに引き裂かれている個性的なマフラーを身に着けている。
「ヴァストか。朝っぱらから奴と話しているとスタミナがすぐに無くなるんだよ」
「はは、そうか。レイス、ここいいか?」
「ん」
曖昧な返事でヴァストに席を少し分ける。ヴァストが食べるものはご飯と日替わり味噌汁と焼き魚とたくあんみたいだ。しかもお茶は抹茶という何とも和風らしい朝飯である。パキッと割り箸を割ってきちんと手を合わせて礼をしている。
普段のヴァストはどんな時でも冷静で口数も少ないはずなのだが、こういう姿を見てしまうとどっちが本当のヴァストなのか分からなくなってしまう。
「15番でお待ちの人、できましたよ」
俺が注文した時の番号なのでぐったりとした体を無理やり立たせ、自分の朝飯を取りに行く。立っている時にヴァストが笑いを堪えているのを俺は見逃さなかった。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
食堂のおばちゃんにお礼を言ってから自分の食べるものを受け取り、ヴァストがいるさっき自分のいた場所へ戻る。
「いただきます」
きちんと言ってから割り箸を割り、食べ始める。
俺が注文したのは何処にでもありそうなかけうどんだが、ここのかけうどんは若干硬いのが評判になっている。しかも手ごろな値段でありうどんに乗っている具材は毎日入れ替わる。今日入っている具材はわかめと刻み葱と天かすである。ズズズとうどんと啜り噛むと軟らかいうどんとは違い歯ごたえがある。汁はここオリジナルの醤油味であり、作り方は分からない。
「そう言えばさっきお前奴と話していたって言っていたな。何を話していたんだ?」
「ん? っと、仕事だよ。ま、仕方なく引き受けたけどさ」
「へぇ、お前が奴の仕事を引き受けるなんて珍しいな。何を引き受けたんだ?」
ヴァストが興味津々に聞いてくる。本当にこういうキャラだっけと思わされてしまう。
「霊樹の大密林の地震調査だってよ。お前は霊樹の大密林は知っているだろ」
「まぁな、空軍にいるディストに乗せてもらって見たけどあれはすごいな」
ディストというのはヴァストの弟であり空軍に属している。性格が非常に元気で常識人。空軍の中でもかなり上らしい。
「その中に入って調査しろって依頼なんだよな。迷ったら死ぬぜ?」
「そうだな。連結隊の許可は取ってあるのか?」
「一応は。これ食べ終わったら集めようと思っていたんだが、お前、入るのか?」
「もちろんだ。最近やっている仕事もつまらなくて困っていなんだよ」
またどうせ気が付かないうちに目標を倒しているんだろうと思う。
「そりゃあ助かるぜ。………ガクスも誘おうとしているんだがいいか?」
するとヴァストは「ガクス」という単語から急に険しくなり、声のトーンも一つ下がったような声で言う。
「………ガクスか。アイツが俺の邪魔をしないならと言っておいてくれ。もし邪魔したらその場で殺すと」
「お、おう………」
ヴァストとガクスはお互いライバル心を燃やしており、この二人がすれ違うだけで壁を破壊する喧嘩が巻き起こる。一体、どういうことがあってライバル心が燃え出したのか分からない。
俺が返事するとヴァストはさっきのヴァストになり、魚を食べながら元に戻った声で話す。
「霊樹の大密林と言えば、お前はこんな噂を聞いたことがあるか?」
「噂?」
「この島にいた古代人が作った遺跡の中には金銀財宝が隠されているらしいんだよ」
「そう言えば、そんな噂どっかで聞いたことがあったな」
「だろ? だから霊樹の大密林に行った学者たちはこの大密林を調べると同時に、宝を見つけようと思ったから行ったんじゃないか?」
「でもなぁ、あくまで噂だぜ? 第一、その遺跡があるのかどうか自体怪しいだろ」
「確かにな。でもな、昔の文献をレキナがあさった結果、遺跡について書いてあった文献があったんだよ」
レキナとはこの軍人本部に所属している陸軍の歴史家である。歴史家と言っても現地に赴いて歴史を調査するのではなく、レキナは過去の文献から歴史を見つけるらしい。現地に赴くのは他の歴史家たちである。歴史について語ると、1時間はずっと喋り続けてしまう。
「へぇ、どんな?」
「『過剰なる森林、その中央に黒光りなる黒鉄の岩。不審思ひし入り口探すが見当たらぬ。入り口なしことは金や銀の宝庫と思ひし』とあったらしい」
「そうなるとさ、その文献書いた人も本当かどうか分からないんだよな」
「そうなるんだよな。ま、もう一つそれに関係するらしいものもあるんだが」
「まだあるのか」
ヴァストがここまで長話するのも珍しい。よっぽどレキナとは交流があるんだろうな。
「レイスは知っているだろ? 森風文化について」
「ああ。この島の古代人たちが起こした文化であり、主に岩石や木々を加工したっていう」
「そうだ。岩石を加工できる技術があるのなら、黒光りする岩石を作り出すことができるんじゃないかって」
「それがさっきの文献の『黒光りなる黒鉄の岩』繋がるんだな」
「流石だなレイス。とまぁ、俺が言いたいことはそれだけだ」
「ありがとな。あ、因みに明日出発だから準備しておいてくれよ。10時くらいに南口な」
「了解。隊長さん」
俺たちはいつの間にか朝飯を食べ終えていたらしく、机の上に残っているのは器や皿だけだ。食器を持って食堂の返却口にそれを返す。
「ありがとうございました」
お礼を言ってガクスの部屋がある陸軍寮の2階の突当りへ向かう。ガクスの部屋の扉には「陸軍大佐ガクス」と書かれている。因みに、俺の部屋の扉には「陸軍大佐レイス」と書かれている。
コンコン
軽く扉をノックし、ガクスの返答を待つ。するとすぐにその返答は返ってきた。
「はぁい、誰ですか?」
「レイスだ」
「あ、レイス? じゃぁ入って」
もしこれが別の人でその人が俺の名前を言ったのなら、ガクスは騙されていそうだなと思いそうな返答だ。とか変な事思いつつガチャッと扉を開け中に入る。
寮の間取りはどこの部屋もほぼ同じで家具等も全部同じ位置にある。軍人寮は模様替え、つまり部屋の家具を動かしたりすることが禁じられており、全ての部屋がほぼ同じのように感じる。だけど、町などで買ってきた家具や置物などは置いてもいいらしい。長年ここで暮らしているが俺の部屋も最初の時から全然変わっていない。
「よっ、ガクス」
「まさか本当に来るとはな」
若干驚いた様子でガクスは自分の椅子に座りながら言う。俺は部屋の真ん中にある大きな机の端に座って話をする。
「で、レイス。アイツの話とは何?」
「ガクスは知っているだろ? 霊樹の大密林」
「ん? ああ、ある程度なら」
「そこで起こっている地震の調査らしい」
「調査依頼か。これまた面倒くさいのを引き受けたな」
「仕方ないだろ。俺たちの地位を落とされたくないし」
「………依頼引き受けなかっただけで地位を落とされるわけないだろ」
「だな」
俺たちはお互いに顔を見合わせ小さく笑う。
「それで、調査依頼なら連結隊の許可は出ているんだろ?」
「まぁな、今のところヴァストが入っている」
ガクスもヴァストと同じく嫌な顔をして声のトーンを落とす。
「え、ヴァストも入っているのか。まぁ、あいつならやりかねないな」
「あ、そうそう。ヴァストから伝言を預かっているぞ」
「何? あいつから伝言なんて珍しいな」
「『入るなら俺の邪魔をしないでくれ。もし邪魔したらその場で殺す』だってよ」
「………なら、邪魔さえしなければいいんだろ。入るぜ俺も」
「いいのか? 喧嘩になっても俺は止めないぞ」
「分かってるって」
どうか明日からの仕事中に喧嘩が巻き起こらないようにとガクスに気付かれないように祈る。
「それで、レイス。この依頼っていつから行くんだ?」
「明日の朝10時ころには出発する気だけど。南口に集合して」
「あ、そうなの?」
「そういうことだからきちんと準備はしておいてくれよ」
「用意はしておくけどさ、何日くらい帰ってこれないんだ?」
往復日数は6日はかかるだろうし、調査に何日かかるか分からない。確か一番早く帰ってきた人の結果だと30日、いわゆる1ヶ月かかったらしい。
「俺にも分からん。ただ、2週間は確実に帰ってこられないだろうな」
「大密林まで歩く気か?」
「元よりそのつもりだけど。移動手段、そこまでないだろ。それが嫌なら明日朝一で出港する船にでも乗るか?」
そう提案するとガクスは掌を口に当てて遠慮しがちに言う。
「い、いや、遠慮しとくよ。健康のために歩こうじゃないか」
ガクスは極度の乗り物酔いである。実際に一緒に船に乗ったことがあるのだが、乗った瞬間にグロッキーになってしまいその場で吐かれたのはいい迷惑だ。あ、瞬間ってことはまだ船は動いてもいないからな。
「とまぁ、お前たちの健康状態も考えて計画しているんだ」
「ありがとな。それとさ、連結隊は今のところ3人だろ? 残りはどうするんだ?」
「そうだな………枠は後2つだし、誰もいないな………」
実は本当のことを言えば当てはある。だが、あいつがそう簡単に乗ってくれるわけではないと思った。そいつの名はゼア。陸軍に所属しているがこの軍人本部内で非常に気難しく、冷酷な自己中である。腕はかなりいいんだがその性格さ故、監視の目が厳しく今は牢屋で生活している。
あとは非常に頼みにくい陸軍の女子連中に頼むしかない。ここの軍人本部には軍人女子も少なくはないのだが、性格が全員気の強い女子ばっかりなのは俺の気のせいだろう。その中で頼もうとしている気の強い女子はカノンとセンラという2人だ。
カノンとは昔の知り合いで幼馴染と思ってくれればいい。昔から気が強く、男子に素手で挑んで無傷で勝利を収めてくるほどの実力だ。また、射撃がうまく祭りの射撃では大物ばかり取ってきて荷物持ちをさせられたくらいだ。
センラとはカノンの友達であり、同時に第二の幼馴染である。カノンとは性格が逆でおとなしい。軍人本部に入ってきた頃からカノンの性格を引き継いでしまったらしい。本当は自然を愛する少女なのになぁと思ってしまう。
「仕方がない、女子陣2人に聞いてみるよ。ま、ダメだったら3人で行くことにするか」
「強気だな、レイスも」
再びガクスと顔を見合わせて苦笑する。じゃ、と言ってからガクスの部屋を出る。
陸軍女子寮は俺たちがいる男子寮の反対側にある。女子が男子寮に入ってくることはいいらしいが、男子が女子寮に入ろうとすると厳しすぎる検査が待っている。また、女子寮は24時間体制で不審者が入らないようにと監視している。いわゆる箱入り女子だな。
女子寮の前に来ると周りにいる軍人女子の目が痛い。睨まれたりこそこそ話をしていたりと威嚇されながら意を決して中に入る。
「すいません、ここにいる陸軍のカノンとセンラに用があるんですけど」
受付係の女子寮長のおばさんに用を言う。するとおばさんは周りにいた女子よりも数10倍強い殺気を放ちながら睨みつけてくる。だが、ここで屈しては軍人男子ではないと思い、我慢と覚悟を決して返事を待つ。するとおばさんはガラガラ声で立ち上がり警備の人を連れてくる。
「分かったわ、それじゃ検査するからその場を動くんじゃないよ!」
圧倒的な威圧感で逃げ出したくなる。普通の男子だったら今この場で逃げ出しているだろう。
おばさんが連れてきた警備の人2人は俺の体や軍服を念入りに検査する。もしここで引っかかってしまったら大量の作文用紙に作文を書かされることになる。警備の人が何かをメモし、それをおばさんに渡している。その紙を見たおばさんはさっきと同じような声で睨みながら言う。
「検査の結果、異常はなかったので通ってもよいわ。ただし、無用な真似はしないことね!」
「はい」
若干蹴落とされた声で返事してしまう。するとおばさんはパソコンを見ながら独り言のように呟く。
「あの2人なら今は食堂にいるわよ。さっきそこから食堂へ向かって行く姿を見たからね」
「あ、ありがとうございます」
おばさんが教えてくれたおかげで探さなくて済んだ。下手すると牢屋行きになっていた可能性があるからな。
おばさんが教えてくれた通り、2人は食堂で話をしていた。机には飲み物しか置いていないのでただ話に来ただけだろう。軍服は男子も女子も同じなので説明はカット。紫陽花のような薄紫の線が入っていて三角型の飾りがついている帽子を被っている方がカノンで、色鮮やかな黄緑色の線が入っていてつばが黒い帽子を反対に被っている方がセンラである。
コツコツとわざと足音を立てながら2人の方へ進んでいく。やっぱり周りの女子たちの視線が気になってしょうがない。やがてカノンが俺の存在を気づいたらしく、手招きして俺を呼んでいる。2人の机あたりに近づくといきなり強い口調で叱られた。
「ちょっと、レイス! 何でいきなり来るのよ!」
「い、いや、ちょっと………」
気の強い人ってツンデレの可能性が大きいんだよなと、どうでもいいことを思ってしまう。
「それで、一体何の用? ここまで来るってことは緊急なのかしら?」
「いや、緊急じゃないんだが仕事を持ってきたから一緒にどうかなって」
「それで、どんな仕事なの? レイス」
センラが若干興味を持ったようで聞いてくる。
「内容は、地震調査だとさ。霊樹の大密林の」
「へぇー、アンタもたまにはまともな依頼を持て来るわね」
「あ、これアイツ………ヒレンから頼まれた依頼なんだが」
「「………」」
2人が急に凍り付いたように固まってしまう。それもそうだろう。奴は女子からも嫌われているのだから。
「ぜ、前言撤回よ! やっぱりアンタまともな依頼持って来ないわね!」
「わ、私もそれはどうかと………」
「だよなぁ………」
「で、でも調査依頼なんだから報酬は当然高いんだよね?」
世の中報酬の金で動くんだなぁ。
「? まぁ、確か150000TM貰えるはずだから30000TMは貰えるな。一人当たり」
「え? 連結隊の許可でてるの? なら早く言いなさいよ」
カノンは気が強いのに性格は呆れるほどの天然であり、鈍感である。
「え? お前ら入るの?」
「その前に、誰が入っているのか教えてください」
「えーっと、今入っているのは俺とガクスとヴァストだが」
「メンバーとしてはまともね。だから30000TMなんだ」
「とまぁ、そういう事。で、入るのか?」
メンバーが確認できたのか即答する。
「もちろんよ。ね、センラ」
「うん。最近戦ってないから戦いたい」
「………戦えるかどうか分からんぞ? ま、入ってくれて助かる」
「当然よ。ありがたく思いなさいよね」
「それで、いつ行くんですか?」
「そうそう」
カノンとセンラが少し不安気味に問いかけてくる。
「あ、明日には出発する気なんだが。時間いいか?」
「え、明日なの? 早く銃の手入れしなくちゃ。弾も補充しないといけないし」
「私も。扇をきれいにしておかないと」
2人は立ち上がって急いで部屋へ向かうみたいだ。集合時間を伝えてないので大声で伝える。
「明日の10時ごろに南口に集合な! いいな!」
2人は走りながら振り向いて叫ぶ。
「分かったわ! 10時ね!」
「了解です!」
これで連結隊全員そろったなと思いため息をつく。机の上にはカノンとセンラが飲んだらしきグラスがあり、周りの女子はそれを返して来いと言わんばかりに睨んでくるのでそれを食堂の返却口に戻す。戻した後、女子寮を出ていく。出ていく際に妙な殺気が感じたのは気のせいだろう。
軍人本部一階はさっき駆け抜けていた時とは違い、非常に賑わっている。軍人本部一階には仕事の依頼ができる仕事依頼ボードや、真武のメンテナンスなどを行ってくれる真武取扱所がある。入り口付近には依頼物納品所や連結隊を結成できる連結隊許可所がある。用があるのは真武取扱所と連結隊許可所である。
「すいません、連結隊の許可を受けているレイスですけど」
まず最初に簡単に終わる連結隊許可所へ向かい、受付係の人に話しかける。
「レイスさんですね? ヒレン隊長から話は聞いております。では、こちらの紙に連結隊メンバーの名前を記入してください」
連結隊を結成するには、渡される紙にメンバーの名前を書いて提出すれば結成できる。至って簡単なのだが、メンバーの中に犯罪者がいると審査が厳しくなって結成するのが難しくなってしまう。
紙にレイス・フォールーズ、ガクス・ビートロディ、ヴァスト・ソーデアグ、カノン・キャレンナ、センラ・ウィグサランと本名を記入する。書き終わったら紙とペンを受付係の人に渡す。
「少々お待ちください」
現在、俺たちの履歴が調べられている。メンバーが多ければ多いほどこの作業時間が長くなる。近くにある椅子に座って待とうかと思ったが案外早く終わったみたいだ。
「レイスさんが結成した連結隊を許可します。お気を付けて」
「ありがとうございます」
受付係の人にお礼を言って、近くにある真武取扱所へ向かう。朝の仕事時だからか取扱所の前には人ごみができていた。この人ごみに入るのもいいが嫌な予感しかしないので、誰か見ていないか周りを確認して取扱所の裏口へ回り裏口扉を開け中に入る。中は誰の私物か分からない剣や斧が立てかけてある。立てかけてある武器を見ていると作業着を着た小柄な少女が俺に向かって叫んできた。
「あ、レイスじゃない。ちょうどよかった、ちょっと手伝って!」
「何でだよ、今来たばっかだぜ?」
「そんなことはどうでもいい。人手が足りないのよ。それとも私の言う事が聞けないの?」
「………分かったよ、ウィルラ」
作業着を着た少女はウィルラと言い、ここで働いている。奴が連れてきた子だが、奴曰く「その子は武器鍛冶の風の精霊、そして僕の友達のウィルナの娘だよ。ウィルナから取扱所に置いてほしいって言われたんだ」らしい。実際、ウィルラは鍛冶の腕が高く10秒ほどで1個の真武のメンテを終わらせる。
「で、俺は何をすればいいんだよ」
「素材庫から、鉱黒石と硬緑草、それと炎熱岩を3つずつ持ってきて。大至急!」
「へいへい」
仕方なく言われたとおりに従い素材庫の中に入る。素材庫の中は案外片付いていて素材もさほど散らばっていない。鉱黒石、硬緑草、炎熱岩はほぼ同じところにまとめておいてあったので探す手間が省けた。さっき言われたとおりに3つずつそれを持ってウィルラに渡しに行く。いまだ熱を持っている炎熱岩が火傷しそうに熱い。
「ほらよ、持ってきてやったぜ」
どこに置こうか迷ったので手っ取り早くウィルラの足元の近くに置く。
「ん、ありがと。レイスもメンテなんでしょ? 裏口から入ってきたから」
「まぁな。残りどのくらいで終わる?」
「そうね、ここにある武器で全部だから10分位かしら」
「結構速いな。それじゃ、そこで座って待っているぜ」
裏口の近くに休憩用の椅子があり、俺はそこで座ってメンテが終わるのを待つ。退屈さで眠たくなるが、金槌が響く音と客の声で眠れやしない。
「終わったわよ、レイス」
もうそろそろ眠りに着こうとしていた時にウィルラに起こされた。眠い目を擦って歩く。若干ふらふらするのは気のせいだろう。
「おいおい、危ないぞ。レイス」
ウィルラとは違い男性の声。多少ぼやけている眼で見ると、この取扱所のエプロンを着ていて特徴的な作業帽子を被っている少年だった。
「おっす、ダイヤ」
少年―ダイヤは少しずれた帽子を整えながら接客に疲れた声で言う。
「で、お前がここに来た理由は? わざわざ裏口から入ってくるんだから何かあるんだろ?」
「まぁな、だけどメンテじゃないんだ」
「? メンテじゃないんなら何しに来たんだ? 手伝いに来ただけなら金は出さんぞ」
いくら友人とはいえ手伝ったんだから何かあってもいいだろと思う。ま、そんなこと言えるほど働いていないから無理だけど。
「明日調査依頼に行くんだけど、もう一つ剣を持っていこうかなと思って」
真武取扱所は真武のメンテだけでなく真武の保管もやっている。プライバシー保護のため本人じゃないと預け出しはできない。さらにもっと厳重に保管したければ暗証番号や指紋認証なども行なってくれるらしいんだが、誰もそんなことはしていない。
現に俺も一本だけ剣を預けている。それはウィルラが独断で俺のために作ってくれた希少価値の高い金属でできた剣だ。刃全体がエメラルドのように薄く輝いており、柄は俺の手にフィットしたグリップで振り心地もちょうどいい重さである。俺はその剣を引き出そうと思っている。
「前、ウィルラが作ってくれた剣があったろ? それを今回の依頼で使おうかなと」
「そうなの? 嬉しいわ。じゃ、ちょっと待っていて。すぐに持ってくるから」
ウィルラが真武保管所に向かって姿が見えなくなると俺たちは小声で話し始めた。
「なぁ、レイス。俺思うんだけど、ウィルラってレイスに好意を寄せているよな」
「そうなのか? 俺はいつも普通に話しかけているから分からないんだけど」
「いや、絶対そうだって。あの剣だってウィルラがお前のために5日掛けて作ったんだからな」
「え? あの剣ってそんなに掛かったのか? 大事に使わないとな」
「そうだな。しかもさ、ウィルラが好意を寄せている理由はまだあるぞ」
「まだあるのか?」
「ああ。お前が裏口から入ってきた時ってさ、ウィルラ怒ってないだろ? 普通の人なら怒って追い出しているぜ?」
「それは多分違うと思うな。毎回俺が裏口から入ってくるのに呆れているんだろ?」
「………お前の言う事にも一理あるな」
「だろ?」
「だけど俺はな………っと、ウィルラが戻ってきたみたいだぜ」
かなり早いなと思う。保管所には大量の引き出しがあって1人の物を見つけるには相当の時間が掛かるはず。俺の場所だけ把握しているのか?
などと思っているとウィルラが駆け足で戻ってきた。手にはアクセサリー状態の真武か握られている。因みに剣の真武は腕輪型のアクセサリーである。
「はい、レイス。これで合っているよね?」
「お前が作ったんだろ。合っているに決まっているじゃん」
「はは、そうだね」
ウィルラから受け取った腕輪をすぐに身に着ける。しかもこの腕輪も俺の腕にフィットしている。アクセサリー状態の真武までフィットする技術は並じゃない。
「そういえば、調査依頼ってどこに行くんだ? 近くにある依頼ボードにもそんな依頼はなかったはずだぜ?」
「奴に依頼されたんだよ。難しすぎるからかもしれないけどさ」
「なるほどな。で、どこに調査しに行くんだ?」
「霊樹の大密林だ。頻繁に発生している地震調査のために」
「へぇ、そうか。ま、頑張ってきな」
「おうよ。じゃ、俺はこれで。訓練場にでも行ってくるよ」
ダイヤの眉毛がピクリと動いたのを俺は見逃さなかった。多分もしかすると………
「じゃ、俺も行こうかな。ストレス発散のために」
やっぱりな。
「ウィルラ、一人で大丈夫か?」
「ここは私に任せなさい。別に一人でも頑張れるから」
「そうか。それじゃ、行こうか、レイス」
「そうだな。またなウィルラ」
ウィルラは何も言わず笑顔で見送ってくれた。
訓練場は軍人本部の地下に設けられている。使っているのは陸軍だけで、海軍はすぐそばにある海域50km以内が訓練場であり、空軍は近くにある作離真島と軍人本部の上空が訓練場となっている。地下にある訓練場は軍人本部より広くさまざまな訓練ができるようになっている。精密射撃場や対物訓練場、対人訓練場が今の陸軍の主な訓練場になっている。
訓練場へつながる螺旋階段を下りながらダイヤに声をかけられる。
「なぁ、レイス。何の訓練をするんだ?」
「そうだな………今日はダイヤがいることだし対人訓練場にでもするか」
「そうだな」
いつの間に着替えたのかダイヤは陸軍の軍服姿になっている。ダイヤの軍服に入っている線は白である。
俺たちがこれから訓練する対人訓練場は地下3階にある。陸軍の人数が多いせいか地下3階にある対人訓練場の数は100を超える。1つの訓練場の広さは縦50m、横30mの長方形の形をしている。使用する人たちの許可を取ればこの広さよりもさらに広くして訓練することが可能となる。
そして1つの訓練場には必ず衝撃無体感装置という装置がある。この装置は体を動かすためだけに開発され、訓練中の疲れや痛みを感じないようになっている。これは対戦にも非常に有効であり、痛みなどに耐えなくても戦うことができる。体内にある臓器や血などにも影響はなく戦える。もちろん、切断されても痛みは感じない。訓練が終わり元に戻すと、戦ったりした後の傷はきれいさっぱり消える。切断された部分はすぐに再生するため何か気持ち悪い。
俺とダイヤは近くにあった訓練場の中に入り、入ったすぐそばにある衝撃無体感装置を起動する。ボタン一つでこの訓練場全体が無体感となる。無体感と分かるのは周りの背景が淡い青になったらである。あらかじめ移動に際に立ち位置を決めておいたので、そこで向き合い一礼をする。そして俺は腕輪がある方の腕を上げ、ダイヤはネイルが入った指の方を前に出して2人同時に同じ言葉を唱える。
「「我の元に集いし力よ。その真想に答えて顕現せよ!」」
すると俺の腕輪から強い光が迸り、光の粒子となって流れ出す。その光の粒子は次々に俺の掌に集まり徐々にその姿を現す。やがて光の粒子が完全に集まるとそれは消え、掌にズシリと重い何かになる。それはいつも俺が愛用している白銀のように輝く相棒の剣「ストラトブレード」だ。付けた腕輪は2つなのでもう一つは、別の手の方に顕現している。こっちの剣はウィルラが作ってくれた剣であり、長い間放置状態だったのに刃のエメラルドはいまだその輝きを失っていない。
ダイヤの方は伸ばした手の先には死神を想像させるような巨大な鎌を持っている。漆黒の刃に細かな装飾が彫ってある。ダイヤの鎌は「デッスドサイズ」という。
「始めるか」
「ちょっと待て、お前って双剣使えたのか?」
ま、ダイヤがそう言ってくるのも無理はない。実際は俺はストラトブレードだけを使った片手剣使いだった。だが、ほんの小さなことから双剣を使ってみようと思い市販の剣で双剣の練習をしていた。驚かせようと思ってガクスやヴァスト、ダイヤにも秘密で隠れて練習していたわけだ。ウィルラや奴は薄々気付いていたみたいだったが。だけど市販の剣は軽くてあまり練習にはならなかったが、双剣の細かい動きまでできるようになったのは練習のおかげかもしれない。
「お前らに内緒で練習していたんだよ。ま、この剣を使って実践するのは初めてだがな」
「なるほどな。でも、練習だからって遠慮はしないぜ?」
「その台詞、そのまま返してやるよ」
お互いに剣、鎌を構えて勝負開始。先制攻撃を仕掛けたのは俺で、剣の重さなど関係なく高い跳躍力でガクスの裏へ回る。空中で方向転換し2本の剣でダイヤの頭めがけて振り下ろす。ダイヤは鎌を横に構えて鎌の持ち手で俺の攻撃を防ぎ、弾き飛ばし、ガァァンという金属と金属が響く音を出しながら俺は後ろへ転がっていく。遠くまで転がってしまうと攻撃が悟られやすくなってしまうので、剣を突き立てて無理やり反動の勢いを殺した後、低空姿勢で走り無防備な横腹を斬り裂く。
「っ!」
痛みは感じないとはいえ、斬られた感覚は伝わる。小さな声を出したダイヤは大きく鎌を振りかぶって振り下ろしてくる。鎌が振り下ろされる瞬間に後転してダイヤの攻撃をかわすと、振り下ろされた鎌の後は地面がその範囲だけ砕けている。
「やるな」
「そっちこそ」
一言の言葉を交わし再び攻撃を仕掛ける。根拠もなくダイヤに向かって走り双剣特有の連続攻撃を食らわせようとする。左の剣でダイヤの肩、右の剣で鎌を持っている手を数秒遅れで斬り裂こうとするが、ダイヤは長い鎌の持ち手で俺の攻撃を全て弾き飛ばし、俺が攻撃の反動で動けないところを狙って水平に鎌を薙ぎ払ってくる。鎌の刃のリーチがそこまで無かったおかげで体を両断されず、俺の腹を斬り裂かれた程度で済んだ。
そしてもう一回攻撃を仕掛ける。今度は決まった場所を攻撃するのではなく剣舞と言うような攻撃で絶えず攻撃する。長い鎌の持ち手は一直線しかないのでそこまでの攻撃は防ぎきれず、腕や頬に俺の剣の跡が残る。俺が剣舞に疲れたところを見計らってか、さっきと同じように水平に薙ぎ払ってくる。流石に今度の薙ぎ払いはかわしきれないので、剣を重ねて攻撃を防ぐが、再び大きなガァァンという音を出して俺は後ろに転がってしまう。このまま一方的に攻撃しても意味が無いと思い、1つの手を発動しようと考える。
剣を逆持ち、剣の刃を自分の方に向ける持ち方をして低空姿勢で走る。ダイヤは足元に攻撃してくると思ったらしく、足元に刃を構える。低空姿勢の俺はダイヤに近づくと左の剣で右斜め上に斬り裂き、左の剣が斬り終わると同時に右の剣を左斜め上に斬り裂く。そして俺は右の剣を頭上高く放り投げる。
「なっ!」
この行動はダイヤにとって計算外らしく驚いた表情をする。流石にさっきの攻撃は全て防がれたがここからがこの技の本番である。剣を放り投げダイヤの視線が上に少しだけ注目している隙に、鎌の持ち手を握って攻撃が防がれるのを防ぎ、ダイヤの腹をまだ逆持ちの左の剣で斬り裂く。そしてその速さ、持ち方のまま握っていた手を離し、上空へジャンプすると同時に左の剣を垂直に上へと斬り裂く。ジャンプした上にはさっき放り投げた右の剣がある。俺はそれを刃に当たらないように右手でキャッチし、そのまま自由落下に従って剣を振り下げる。
「くっ!」
「うりゃぁぁ!」
雄叫びとともに剣を振り下ろしたが鎌の長い持ち手によって防がれてしまい、さらに弾き飛ばされてしまう。だが、弾き飛ばされた先はダイヤの背中であり絶好の攻撃チャンスである。
「しまっ!」
剣を重ね着地すると同時にその場で大きく大回転。ダイヤの背中を回転によって斬り裂き弾き飛ばす。
「ぐぁっ!」
ズザザザと転げるダイヤは鎌の刃を突き立て立ち上がる。地面に突き刺さった鎌は抜こうとはせず鎌を持ったままその場で仁王立ちをしている。また絶好の攻撃チャンスだと思いさっきと同じように剣を重ねて突き進む。剣の刃が残り30cmというところでダイヤの鎌に彫ってある模様から赤い光が放っている。ただの威嚇だろうと思い剣を当てることだけを考え突き進むと、ダイヤに剣が当たる直前で鎌の模様がさらに赤く輝いてきた。
「鋭!」
ダイヤがその言葉を口にすると突き刺さった鎌全体が赤く染まり、同時にダイヤに当てようとした剣先にダイヤがいない。慌てて勢いを殺し後ろを向くとダイヤが腕を組んで立っていた。鎌も持っていないのでまた同じ攻撃を繰り出す。
「斬!」
ダイヤがそう言い足を地面にたたきつけると、俺の足元の地面から黒い何か何本も生え出てきて俺の体を貫く。
「ぐあっ!」
痛みは感じないがこの黒い何かはダイヤの鎌の先だ。さっき鎌を抜かずにいたのはこれを狙っていたからなのかもしれない。しかも体全体をこの刃によって貫かれているので身動きができない。こうなってしまった以上、言う事はただ一つだ。
「降参だ。参ったよ」
動くこともままならない俺を見てダイヤは笑いながら鎌を抜く。するとさっきまで突き刺さっていた鎌の先が地面へと潜っていき、俺は引力によって地面にたたきつけられる。体中に穴が開いているせいか思うようにすぐに立てない。何とかしてやっと立ち上がれた俺にダイヤが笑いながら話しかけてくる。
「はは、俺の勝ちだな」
「………そうだな」
「それはそうとさ、お前結構双剣使えるじゃんかよ」
「まぁな、自己流で練習したからな、大体2ヶ月あたり。それはそうとしてさ、無体感戻そうぜ?」
「そうだな。お前はその穴じゃ走れないだろ。戻してきてやるよ」
「ありがとよ」
ダイヤが無体感装置の終了ボタンを押すと、淡い青色が消え元の色に戻る。そして俺たちに会った傷が一瞬で消え、砕けた地面も元に戻っている。
「真想に答えし真武よ。今、我が元へと眠りにつきたまえ」
そういうと両手にあった剣は光の粒子となって俺の腕に纏わり、腕輪へと戻った。装置を戻してきたダイヤもいつの間にかあの鎌は指にあるネイルへと戻っている。
「なぁ、レイス。さっき戦っている時に剣を放り投げただろ? あれって何?」
「ああ、あの技ね。隠れて練習しているうちに技が欲しいなって思ってさ、双剣なんだから奇想天外な動きをした方が面白いだろ?」
「結構練習したんだろうな」
「まぁな、剣を垂直に投げるのは苦労したぜ。技名はまだ決まってないけどそのうち考えるよ」
「俺は考えてもいいけどな、でもネーセンないし」
「お前だけは遠慮しとくぜ。それとお前のあの技は一体何なんだよ」
同じような質問をダイヤにもする。技の質問は練習中にもかなり飛ぶため、うまい理由や根拠が無いと説明しづらい。
「あれは鎌の先を地面に同化させ、遠く離れた場所からでも攻撃できる技だ。ま、鎌から半径7mの範囲までしか出せないんだけどな」
「………一応聞くけど名前は?」
「『アースデッドサイズ』という名前だ。一応ウィルラにもどんなのがいいか聞いたりしたぜ?」
「相談したんなら結構まともなネーセンだな。お前的なら」
「なっ、おい、レイス。少し俺を馬鹿にしただろ?」
「………」
心の中を見透かされたみたいで言葉でない。
「図星か。おい、レイス。もう一回勝負だ。お前を両断しない限り俺の怒りが収まらなくなった」
「へぇー、そうなんだ。なら俺はお前をバラバラにしようかな。もっとも、一回だけじゃ練習とは言えないからな」
「そうこなくてはな! 覚悟しろよ、レイス!」
「同じく!」
「「我の元に集いし力よ。その真想に答えて顕現せよ!」」
結局俺たちは時間を忘れて訓練場が閉まるまで戦いまくった。その戦果は13勝13敗4分けとなった。俺的には調査前日にこんなにも練習ができてよかったと思っている。あの後、ダイヤと俺は訓練場の出口付近で待ち伏せていたウィルラの強襲を受けこっぴどく叱られた。
30分程度の説教を終えた俺は食堂が閉まるぎりぎりの時間で軽い夕食を済ませて、今は陸軍寮の屋上で夜風に当たっていた。涼しくも寒い夜風が軍服を靡かせながら吹き抜けていく。
明日からは過酷な調査依頼が始まる。死んだり戻ってこられないことを改めて感じ、夜空に光る星々を眺めその不安を消し去る。
見覚えのある星座を探していると不意に屋上のドアがガチャッと開いた。少し驚いて振り向くとそこにはガクスが手を少し挙げて笑っていた。
「よっ、眠れないのか?」
「まぁな。明日から調査依頼なのだと落ち着かなくてな。そういうお前は?」
「同じだよ。お前と」
「そうか」
ガクスは俺の傍に寄ってきて一緒に屋上の手すりにもたれかかる。暫く星空を見ているとガクスが静寂を破り小さな声で語りかけてきた。
「なぁ、レイス。お前、この依頼に対してかなりの不安感を持っているだろ?」
「な、何だよ。不安感なんて無いに決まっているじゃん」
突然思っていたことを言われてしまったので慌てて返事をしてしまう。
「嘘だな」
「………」
どうしてみんなは俺の心が読めるのだろうと思った。昔から体や表情に出やすいなと言われたことがあったが、ここまで読み取られると流石に怖くなってくる。
「実際そうなんだ。成り行きで引き受けてみたのはいいんだけど、調査依頼って過酷だったり死亡したり戻ってこれないのかなとどうしても思ってしまうんだ。あと、お前らを守れるのかなという責任感があったりと………」
「なるほどな。お前の気持ちは大体理解できた。確かにそう思ってしまうのも無理はないな。だけどよ………」
「だけど?」
「………お、お前がそこまで歪んでいたらまともな士気がとれないぞ。隊長の士気が無ければ俺たちは動くこともできないんだからな。いざとなったら仲間を守ることに俺は全力を尽くすぜ」
「! そうだな。俺がこんな感じじゃだめだよな」
自分の気持ちに喝を入れるように自分の頬を思いっ切り叩く。バチンといういい音がして同時に俺の頬が痛む。
「そうだよ。それでこそお前だ。スッキリしただろ?」
「ああ。ありがとよ。おかげで目が覚めたぜ」
「それはよかったぜ。じゃ、俺はもう寝るわ。お前も早く寝ろよ? 寝不足の仕事1日目はごめんだぜ?」
「そうだな。あともうちょっとしたら寝るよ。今は気持ちを落ち着かせたい」
「そうか。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
ガクスがいなくなると俺は再び夜空見つめ気持ちを落ち着かせる。そして右の拳を夜空に向かって突きつけ自分にも言い聞かせるように叫ぶ。
「やってやろうじゃないか!!」
気分的にもスッキリしたら急に強烈な睡魔が襲ってきた。そろそろ寝ようかと思いこの場を去る。
夜空に瞬く星々も俺に向かって頑張れと言っていそうなほど、今日は輝いていた。
どうも、新米小説家の真幻緋蓮です。
いかがでしたでしょうか? 少しでも楽しんでもらえたり、興味を持ってくれたらうれしいです。前書きにも書いたように誤字、脱字があったら教えてくれると嬉しいです。
ここに出てくるキャラは以前、「うごくメモ帳」というところで活躍していた自分のオリキャラです。小説を書くとき、新しくキャラを作るか、今ある豊富なキャラを使おうか悩みました。けど、やっぱり自分的には使い慣れているキャラの方がいいと思い、こっちを採用しました。技や設定集もありますし。
そして小説の内容ですが、はっきり言って軍隊の知識はちょっとかじった程度たのでよく分かりません。この小説を書いていくうちに軍隊の知識を少しずつ覚えていこうかなと思います。
とりあえず、初めてなのでこのあたりで終わります。なお、僕はまだ高校生なのでこの小説の続きは時間がある時にしか書くことができず、いつ投稿できるかも分からないので不定期投稿となります。
次の話まで待っていてください。それではまた少年軍人日~揺れ動く大密林 後編でお会いしましょう。