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隣の先輩  作者: 沢村茜
第十四章 ずっと隣に
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一年前とは違う春

 わたしは玄関を開けると、外に出る。輝く日差しが降り注いでいた。

 今日から高校二年生になる。

 何気なく、先輩の家のドアに目を向ける。

 だが、この時間にドアが開く事はない。


 西原先輩や宮脇先輩から大学のことをメールで教えてもらった。それでもどこか遠い世界のできごとみたいに実感がなかったのかもしれない。ひょんと出てきてわたしをからかったり、頭を撫でてくれたりするんじゃないかと考えてしまいそうになる。

 わたしは軽く息を吐くと、踵を返しエレベーターに乗り込んだ。

 マンションの外に出たとき、携帯が鳴る。

 発信者の名前を確認して、飛びつくように通話ボタンを押していた。


「家出た?」

「今出たところです。何かありましたか?」

「用はなかったけど、声が聞きたくなったから」


 笑みをこぼし、天を仰ぐ。


「わたしもです」


 寂しいと思うこともあるだろう。だが、先輩や周りの人に多くの優しさをもらった。

 だから、寂しくても泣かずにもう少しだけ強くなろうと決めた。

 先輩に今度こそ成長したと言ってもらえるように。

 わたしの憧れた人たちに一歩でも近づけるように。


「宮脇先輩は元気ですか?」

「元気だよ。そろそろ行くからまたな」


 わたしは電話が切れたのを確認して、携帯を鞄の中に入れる。

 名前を呼ばれ振り返ると、森谷君が立っていたのだ。


「おはよう」


 わたしは彼に先輩のことを言っていなかった。


「さっきの電話は先輩から?」


 わたしが頷くと、森谷君は目を細める。


「依田から聞いたよ。西原先輩とつきあうようになったんだってね。本人が言うか言わないか迷っているだろうから、一応知らせておくってさ」

「どうして愛理が?」

「依田は知っていたみたいなんだよね。だから良かったな」

「ありがとう」


 彼は少し照れたように頭をかく。

 世間話をしながら学校まで行く。そして、中庭では二年生のクラスが発表になっていた。その人だかりから少し離れたところでクラスを確認する。


「三組か。安岡、は同じみたいだな」


 すぐに彼が笑みをこぼす。その理由は彼の視線を追うとすぐに分かる。

 わたしの前と後に書かれていた名前を確認したんだろう。

 進路の希望を出したときに分かってはいたが、森谷君だけではなく、愛理や咲とも同じクラスだった。


「おはよう」


 凛とした声が響いていた。そこにはいつものように背筋をピンと伸ばしている少女の姿があった。

 その傍らには長い髪の毛を二つに結っている少女を見つける。


「同じクラスだったよ」


 わたしは二人に対して語りかけた。

 二人は笑顔を浮べている。

 だが、咲の顔から笑顔が消える。わたしが理由を聞く前に、愛理が咲の背中を軽く押す。彼女は前のめりになる。


「どうしたの?」

「自分の口からはっきり言っておいた方がいいと思って。もう真由も知っていると思うし、今更だけど」


 彼女は大きく息を吸い込んだ。

 愛理を見ると、彼女は満足そうに微笑んでいる。 

 彼は妹の誤解をしっかり解いたのだろう。


「本当にごめんね。一人で勘違いをして、真由に黙っていて」


 全てを語り終えた彼女は顔の前で手を合わせた。

 少し潤んだ瞳が彼女の決意の重さを表している気がした。


「いいよ。言ってくれて嬉しい」


 そのときわたしの目の前に桜のひとかけらの花びらが舞うのが見える。

 入学式のときも同じ桜を見た。だが、その先にあるのは、見たこともない同じ学校の生徒の姿だ。

 あのときとは確実に違う時間が流れていることを実感する。桜の花びらが舞い降りる。思わず手を差し伸べ、それを受け止めていた。



次で最終話です。

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