球流れ #05
散々呑んだ挙句、終電の時間はとうに過ぎていた。
広枝は目の前のジントニックを飲み干し、萩原を叩いたが、うつ伏せになったまま明確な返事はなかった。
そのまま萩原を抱えるようにレジへ向かった。「お支払いは?」と聞かれたので、広枝は財布からクレジットカードを取り出し清算を済ませた。
外の夜風に当たった所為か、萩原が若干、意識を取り戻した。
「ハギー、もう帰るよ。新宿から家、近いんでしょ?送ってくから住所教えて」
そう言うと、泥酔した萩原は財布から免許を取り出して見せた。その住所を見て広枝はタクシーを拾い、運転手に行き先を告げた。
あまり距離は走っていないのに、歌舞伎町から離れた途端に、街の灯りは一気に失せ、ようやく夜が訪れたかのようだった。
広枝は止まったタクシーに、同じくクレジットカードで清算を済ませ、軽く会釈し降りた。住所が正しければ目の前のアパートが萩原の家だったため、携帯電話を取り出し、ライトでポストを照らした。表札には萩原と在った。
「ハギー、家に着いたよ。ちょっとだけ起きて」
そう言って萩原の半身を揺さぶると、萩原は薄く意識を取り戻した。
家は一階だったため、そのまま引き摺ずるかのようにドアの前まで連れて行き、玄関の明かりをつけつつ、ドアノブを閉めた。
そのまま、若干意識の残る萩原をベッドまで誘導し横にさせた。
辺りを見渡すと、男の一人暮らしと言った具合か、ゴミ屋敷ではないが、適度に散らかっていた。食べ残しがそのまま残っていたり、使用済みの下着や服は散乱していなかったが、纏められたゴミ袋が捨てられずに溜まっており、だらしない印象を受けた。首を半回転させ、一言だけ呟く。
「まったくー、今度はちゃんと奢ってよねー」
泥酔した萩原を眺めつつ、広枝は萩原の家を後にした。鍵は掛けられなかったが、問題ないだろうと思いつつ、歩きながら携帯で通話を始めた。