球流れ #02
#02
二十年来の再開だった。
夜だからこそ輝く歌舞伎町入り口のドンキホーテ前。お互い電話を当てたまま手を振り合った。
電話を閉じ、開口。
「ハギー、老けたねー。お互い様かな?」
「お前の方が老けたし、薄いぞ。髪とか。とりあえず髯ぐらいは剃れよ」
忌憚のない幼馴染の会話が幾分か花咲く。
「構える必要がない相手に身だしなみは遠慮しないし、あえて繕わないことが礼儀なの。で、新宿って、あまり来ないから何が何やら分からないんだけど、何処でも良いから、とりあえず話せて呑めるお店に連れてってよ」
萩原は了解とばかりに、指を照らしながら広枝を誘導した。
二人が入った居酒屋は、大手で有名なチェーン店。店内は広く、雰囲気もそれなりとは言え、場所と週末の所為せいか、その場は、1メートル間の会話も掻き消されるほどの騒音で耳が痛いほどだった。
店に入り、席に案内はされたが、お通しや、おしぼりが来る兆しは無い。
「とりあえず生で」
広枝は、通路を歩いていた店員を、やや強引に捕まえ、人差し指と中指。指を二本立てながら、注文をした。
辺りを見渡せば、安いスーツに疲れたネクタイ。それでいて輪息だけが満ち溢れていた。
とりあえずのビールが来る間、萩原は手持ちぶささにタバコに火を着け、広枝はそのタバコへちらちらと一瞥を繰り返しながら、メニューを捲っていた。
長いとは感じなかったが、数十分の後、ビールとおしぼり、申し訳ない程度のお通しが、やっと届いた。
「久しぶりの再開に乾杯」
店内の騒音で声が拾いづらいが、グラスを交わした瞬間に気持ちは伝わり合った。
広枝はビールを運んできた店員のズボンの裾を掴んだまま、それを一気に飲み干した。
「おかわり。オーダーがすごく遅いから、すぐに持ってきて」
広枝は泡髯を付けたまま、笑窪を浮かべ、店員を捲くし立てた。
グラスを傾けながら萩原が質問した。
「ヒーロ、探偵をやってるって聞いたんだが、どんなことをやってるんだ?」
饒舌に広枝が答える。
「色々とやってるから伝えづらいんだけど、分かり易い仕事を言えば、大抵は浮気や小さい犯罪の調査。それも下請け。”相談してください事務所”とか、”浮気調査探偵”とか、倒れそうな電柱の張り紙を見たことない?そこから面倒な案件だけを押し付けられるの。でも、あいつらは無能なんだ。精査して対象を追えば、すぐに根拠や証拠が出てくるのにさ。でも、それが出来ないから頼んでくる割に、ピン跳ねが酷い。とは言え、情報素材を納品しちゃえば、対象が民事するなり、和解するなりは、関わらないし、間接的で恨みを買わないから楽と言えば楽だけど、確実にカルマ(徳)は下がるから、死んだら地獄行きかなー」
ケラケラと空のグラスを左右に振りながら、愚痴を溢こぼす。
「俺の想像だと、ヒーロのことだから、可愛い感じに飼い犬や猫を地道に探してるのかと思ってたよ」
「そういうのも偶にくるけど苦手なんだ。人を捜すのが得意みたい。どっちみち人を一人捜すのと、ペットを一匹探すのでは、金額からして割りに合わないんだけどね」
広枝が返した。
「そうそう、僕の名前で迷惑メールが続いて来たって言ってたけど、その迷惑メールのアドレスって"@friend.lover"じゃなかった?」
「迷惑メールなんて、ぱっと見で、すぐに消しちゃうから、今は残ってないし、覚えてないよ、なんで?」
広枝は両目で自分の額を見上げるように答えた。
「だって自分の名前が頻繁に迷惑メールに使われてたら気になるじゃん」
「そりゃ、そうだな」
二人は笑いながら、ビールを呑み貪った。