なかがき
『竜王淵の主』、ようやく終了です。が、まだ4巻の途中なので、あとがきならぬなかがきを。
日本昔話に『イワナの怪』というお話がありますが、皆さんはご存知でしょうか? 私の子供心に強烈に刺さって忘れられないお話です。
どんな話かといいますと。
とある村で、村人たちが「根流し」という方法で岩魚をとろうと計画します。それは川に毒を流して、棲んでいる岩魚を殺して根こそぎとるという方法。その前夜、村人たちが前祝いだと酒盛りをしていると、一人の僧侶が現れて、むごい殺生だと根流しをやめるよう懇願します。僧侶の手前、村人たちは根流しはしないと約束。皆で食べていた団子を僧侶にふるまい、僧侶はそれを食べて去っていきました。
しかし翌日、村人たちは根流しを決行。毒に冒されて死んだ岩魚がぷかぷかと浮いてきて、主がいるという淵からは巨大な岩魚が浮かびあがりました。その巨大な岩魚の腹を裂くと、昨夜僧侶が食べた団子が出てきて……その後、村人たちは熱に冒されて死んでしまいました。
と、まあ、ざっとそんな話です。
このお話からヒントを得て、『竜王淵の主』を描きました。最後には死んでしまった巨大な岩魚が、半海と緑水のモデルです。
昔話では、何の救いもなくひたすらかわいそうな岩魚たちですが、死んでしまうにしても何か救い与えたい!という思いから、緑水はこのような臨終となりました。父の後継となった半海の今後はまた改めて描く予定です。
それから、竜王淵というのは実在しています。鞍馬山の地図を見ると鞍馬川の途中に小さく記載されており、何年か前に実際に行ってみました。
しかし鞍馬山の東側を南から北までず〜っと歩いてみましたが、淵らしきものは見当たらず。地図の位置からして、ここか?と思って見たところには、池……というか、水溜まり?くらいのものしかありませんでした。川の水量が少ない時期だったせいもあるかもしれませんが、淵といえる状態ではありませんでした。
ですので、竜王淵という場所の造形は、その名前から発想して創作いたしました。
それにしてもドラマが暗すぎて、ホントすみません……陽炎の思考が暗いのは過酷な過去を経験してきているので仕方ないとしても、やっぱり天翔丸に元気がないと、物語全体が暗くなってしまいますね。しかしこれを乗り越えてもらわないと真の鞍馬天狗にはなれないので、踏ん張りどころです。
4巻は2話構成で、ここまでは起承転結でいうと起と承。ここから転と結、後半戦へと入っていきます。天翔丸と陽炎の心の深層へとさらに深く潜り、陽炎の過去、そして正体へと迫っていきます。
4巻の前半はずぶずぶと沈むような暗い展開でしたが、後半ではちゃんと浮上しますので、ひきつづきおつきあいただけたらと思います。
次の物語のタイトルは、『所信表明』。
天翔丸がどんな所信を表明するのか、どうぞお楽しみに。
2015年1月15日
成田良美