七. 敗戦
「矢を受けて次々に兵士たちは地に伏していきました。
時を追うごとに、屍の山が築かれていくのです。
脚を折られ、倒れ込む馬の巻き添えをくうかたちで、将軍の乗った馬が横倒しとなりました。
将軍は地に投げ落とされたのです。
われ先に、打ち取って手柄を上げるのだと、敵兵が群がります。
将軍は起き上がりながら、嗚嗚、と腹の底から雄叫びを上げました。
敵は気圧され、目を剥いて退きます。
取り囲む敵を前に、将軍は奉天戟を立てて仁王立ちになり、云い放ちます。
『我は郭翔、この首、見事打ち取って、名を挙げよ』
功名にはやる敵兵が、奇声をあげて挑みかかって来ました。
将軍は前に出、戟を横に滑らせて、その首を高々と斬り飛ばして見せました。
あまりの鮮やかさに敵はジリジリと下がります。
怯んだ敵に間髪いれさせず、葦を刈りでもするように、敵を薙ぎ払って道を開いていきます。
一人に意識を向けると、すかさず何処からか攻撃の手がはいり、絶えず二三人を相手に戦っているのです。
体の疲労は激しく、振るい続けている戟の切れが次第に鈍り始めていました。
ここで死ぬわけにはいかない、帰らねばならない、あの方の元へ、その想いが躰を奮い立たせているのです。
体に受けた矢傷が熱を持って疼いております。
ジワジワと流れていく血に、将軍の意識は朦朧と、視界は時折白くなるのでした。
それでも体を前へ、前へと進めます。
少し意識が途切れた間、ドスンと腹に重みがかかりました。
槍の先が腹に突き通り、引き抜かれると、血飛沫が吹き上がりました。
敵兵はもう一撃加えます。
追い打ちをかけるように数本の槍が、将軍の躰を貫くのです。
将軍は歩を進めようとして、ガクリと膝を折り、前のめりに倒れました。
勝ち鬨をあげる敵兵の声が、地鳴りのごとくに荒野を渡っていきます。
熾烈な戦闘のすえに、将軍は遠い異国の地で果てたのでございます。
すでに妃が亡くなっているとは、露も知らぬままでした。」