六. 決断
「このまま兵糧が尽きるのを待つつもりか、城を出て戦うべきだ、こちらが事を起こしたと知れば、必ずや援軍は馳せ参じるはず、──もはや一刻の猶予もないと、血気盛んな兵士たちが郭将軍へ訴えるのです。
援軍は頼みにならない。
そのうえで、動くなら早い方がいいと考え、決断します。
萬に一つの勝負に、打って出るのでございます。
夜明け前──堀の上から敵の陣営目掛けて火矢を放ちました。
方々から火の手が上がると、昼間以上に敵の動きがよく見えました。
すかさず、陽動部隊による撹乱をおこない、警備の手薄な箇所を突いて、包囲を突破しました。
援軍の到着を待つ間、兵はいつでも出動できるよう調整してありました。
水を得た魚のように、兵士たちはめざましい動きを見せていました。
朝靄の中、郭将軍は馬を走らせます。
敵の追撃をかわしながら、大河に至る緩やかな下りの山道を、二万の軍勢が疾駆します。
途中、山間から顔を覗かせた朝日が、切り立った崖に挟まれた地形を洗いだします。
最北のこの地では、山はまだ枯れ木に覆われていて、身を切るような風のなか、兵士も馬も白い息を吐き出していました。
大河の前には敵の軍勢が居座っています。
こちらが城を出たという一報受けて、新たに一万が加わり、四万の軍勢となっていました。
大河の向こうには味方が待機している、必ず加勢に来る、大軍を前にしても兵士たちには希望がありました。
すでに陽は頭上高く登っております。
吹き流しの旗が立てられ、太鼓が鳴り響きます。
郭将軍は戟をゆったりと頭上で回し、合図をします。
兵は一斉に雄叫びをあげ、一直線に敵陣目掛けて突入していきました。
中央で付近で先方の騎馬隊が衝突しました。
間もなく長槍を手にした歩兵が押し寄せてきます。
繰り出される長槍の束を薙ぎ払い、敵兵を蹴散らして、将軍は騎馬を前進させます。
勇猛果敢な戦いぶりで敵の陣形を乱していきます。
双方が荒波のように混じり合い、熾烈な戦闘を繰り広げております。
濛々と立ち上る土煙が視野を塞ぎ、兵士たちの吠声で方向もわかりません。
すでに一刻ほどは過ぎております。
ドン、ドドォーン。
繰り返し、敵陣から太鼓の音が上がります。
それを合図に、敵兵は引いていきました。
浮き足立つ兵に、分散しないようにと郭将軍は指示をしました。
河の方からゴウッと音を立て、風が入ってまいります。
砂埃が突風に流れていくなか、前方の敵がギリギリと矢を振り絞ぼる様子がみえました。
数千の矢が一斉に射かけられました。
矢は風の力を得て、キラキラと光を放ちながら飛来します。
戟を振って矢を撃ち落としながら、将軍はあることに気づいたのです。
河水は、この時期、正午を過ぎると流れを変える。
河口から海水が流れ込み、波の動きで風向きが変わる、──水嵩が増した河を渡りきるのは、難しい。」