第4話 「魔王軍襲来!?名馬クロ、まさかの交渉役になる」
交易都市ルミナスを後にしたリオンたちは、夕暮れの街道をゆっくりと進んでいた。
空中市場の喧騒が遠ざかり、風の音と草の揺れる音だけが周囲を包む。
「いやあ、いい町だったな。ニンジンの質も非常に高かった」
「結局、そこ?」
「勝利の報酬だからな。あれは実質トロフィーだ」
クロは満足そうに尻尾を揺らしながら歩く。リオンは剣の柄に手を置き、周囲を警戒していた。
「この先は、魔王軍の目撃情報が多い地域だって聞いたよ」
「そろそろ来るかもね。気を引き締めないと」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、茂みの奥から不穏な気配が漂った。
――がさり。
「……来た」
リオンが足を止めた瞬間、草むらから数体の影が飛び出した。
角の生えたゴブリン兵、鎧を着たオーク、そして宙を漂う小型の魔導兵器。
「魔王軍の小隊ね」
「うわ、本当に来た……」
クロは一歩前に出て、鼻息を荒くする。
「ふん、数は少ないな。午年の主役に挑むとは、いい度胸だ」
「クロ、あまり挑発しないで!」
ゴブリン兵の一体が槍を構え、怒鳴り声を上げた。
「侵入者発見! 排除する!」
「排除って言われたよ、どうする?」
「決まっている。まずは話し合いだ」
「え、話し合い!?」
クロは堂々と前に出て、ゴブリンたちに向かって声を張り上げた。
「おい、魔王軍諸君! こちらは通りすがりの名馬とその従者である! 無駄な争いは避けようではないか!」
「誰が従者だ!」
ゴブリンたちは顔を見合わせ、明らかに混乱している。
「……馬が、喋っている?」
「しかも偉そうだぞ……」
その隙に、オーク兵が一歩前に出た。
「馬だろうが何だろうが、侵入者は排除対象だ! 構え!」
「ほら、やっぱり戦闘になるじゃん!」
◇
リオンは剣を抜き、ミルフィは魔力を集中させる。
「クロ、下がって!」
「いや、ここは俺が囮になる」
「囮って、自分で言う!?」
クロはわざと大きく前に踏み出し、派手にいなないた。
「どうした魔王軍! この美しい黒毛が怖いか!」
「うるさい馬だ! やっちまえ!」
ゴブリン兵が突っ込んでくる。クロはぎりぎりでかわすが、足元の小石に蹄を取られ――
「うわっ!?」
「やっぱり!」
見事に前のめりで転倒。
「……今のはフェイントだ」
「苦しすぎる言い訳!」
だが、その“転倒フェイント”のおかげで、ゴブリンの槍は空を切った。
「今だ!」
リオンが一気に距離を詰め、剣の柄でゴブリンの武器を弾き飛ばす。ミルフィは風魔法でオーク兵の体勢を崩した。
「くっ、なかなかやるな……!」
宙に浮かぶ魔導兵器が光を集め、魔力弾を放とうとする。
「まずい、あれ撃たれると面倒よ!」
クロは地面から跳ね起き、兵器の前に躍り出た。
「ならば、俺が止める!」
「どうやって!?」
クロは全力で突進し――兵器の下をすり抜けた。
「……あれ?」
「当たってないよ!」
だが次の瞬間、クロの尻尾が偶然スイッチ部分に絡まり、兵器はくるくる回転しながら地面に墜落した。
「……結果オーライだな」
「完全に偶然でしょ!」
◇
戦況は一気にこちら有利に傾いた。ゴブリンたちは怯え、オーク兵も後退する。
「撤退だ! こいつら、なんかおかしい!」
「馬が一番おかしいぞ!」
魔王軍の小隊は、ばたばたと森の奥へ逃げ去っていった。
「ふう……なんとかなったね」
「うん、大きな怪我もなくてよかった」
クロは胸を張り、得意満面だ。
「見たか、俺の戦術眼と偶発的天才プレイを」
「ほぼ偶然だよね」
「結果がすべてだ」
ミルフィは苦笑しながらクロを見つめた。
「でも、あの魔導兵器を止めたのは本当に助かったわ」
「当然だ。午年の主役は、戦場でも輝く」
◇
少し進んだ場所で、二人と一頭は小休憩を取ることにした。夕焼けが草原を赤く染め、遠くで鳥が鳴いている。
「魔王軍、これから増えそうだね」
「そうね。さっきのは偵察部隊っぽかった」
クロは草をかじりながら、ふと真面目な声になる。
「……だが、あいつらも仕事でやっているだけかもしれんな」
「え、クロ?」
「魔王軍だって、上から命令されて動いているのだろう。俺たちと同じだ」
珍しくしんみりした空気が流れる。
「クロがそんなこと言うなんて、ちょっと意外」
「ふふ、俺も大人……いや、大馬だからな」
――その直後。
クロは石につまずき、また小さくよろけた。
「……今のは感傷的になりすぎたせいだ」
「関係ないと思う!」
二人と一頭は思わず笑ってしまった。
◇
夜が近づき、簡単な野営の準備を始める。
「明日も気をつけて進もう」
「うん。次はどんな騒ぎが待ってるんだろうね」
「どんな相手が来ようと、俺が主役であることに変わりはない」
クロは星空を見上げ、誇らしげにいなないた。
「魔王軍だろうと、ドラゴンだろうと、ニンジンだろうと――すべて俺が制する!」
「ニンジンを並列にしないで!」
笑い声が夜の草原に響く。
ドタバタで、少しだけ勇ましく、それでも相変わらず賑やかな旅は続いていく。
次の道の先には、さらなる事件と、さらなる“名馬伝説”が待っているのだった――。
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