キミを見つめる鯉のぼり
むかしむかし、小さな湖のほとりの村に毎年5月になると空に現れる鯉のぼりがありました。
その鯉のぼりは、誰があげたのかもわからず、誰も近づこうとはしませんでした。
というのもその鯉のぼりは、毎年、大きくなっているのです。
最初は、150cmほどの小さなものでした。
けれども年を経るにつれ、それが大人を優に越える大きさになり、家の屋根ほどになり、10年ほどすると遂には100mを越える大きさになりました。
またその年も、風が吹き、空がざわつき、大きくなった鯉のぼりが現れました。
村の子が一人、行方不明になりました。家族が呼んでも返事はなく、家の前には、その子の描いた絵と、空を見上げるための椅子が置かれているだけでした。
その晩、空を見上げた者は、こう言いました。
「あれ…尾びれに、あの子の名前があるぞ…」
しかし翌日になるとそのことは誰も覚えてはいません。
鯉のぼりは、子どもたちの「夢」と「名前」を食べて大きくなっていたのです。
それからというもの、毎年、ひとり、またひとりと村の子どもが消えました。
夢も、名前も、なかったことになるのです。覚えているのは、風になびく巨大な鯉のぼりの、血走った目だけ。
村はやがて地図からも消え、今では誰も覚えていません。
けれども、あなたの町で、5月の空に異様に大きな鯉のぼりを見かけたら、どうか気をつけてください。
その鯉のぼりは、夢を喰う。名前を奪う。そして、忘れさせる。
――そしてあなたも、空に連れていかれるかもしれないのです。




