第五話【確かな消えないもの】
彼女――いや、“僕の心が生み出した彼女”は、やわらかく微笑みながら僕の手を握った。
そして何も言わず、ただ静かに、僕の言葉を待ってくれていた。
「ごめん……僕、君のことをずっと誤解してた…!」
夕焼けに染まった帰り道。風は少し冷たくなり始めていて、どこか季節の変わり目を感じさせていた。
風が頬を撫で、伝う涙の感触に気が付いた。
「ううん。嬉しかったよ」
そう言って、彼女は儚げに空を見上げた。
「私はね、君の世界の中でちゃんと生きてた。君に必要とされて、隣にいて、笑って、泣いて……全部、本物だった」
夕陽に照らされたその横顔は、どこまでも温かかった。
まるで、春の終わりに咲く最後の花のように、儚くて、美しくて、そして切なかった。
「……僕は最低だ。」
こんなにも薄情な自分が嫌になる。
財布を拾ってくれた時、初めて外の誰かと関わりたいと思った。
だけどそんな勇気はないからと自分の気持ちに蓋をして、なのに諦めきれない中途半端で身勝手な心がこんな彼女を生み出してしまったんだ。
「ううん、誰にでも弱い心はあるんだよ」
彼女はどこまでも優しく、全てを見透かしている。
けどよくよく考えれば当然の話。
都合のいいように、心が安定するように僕が生み出したんだから。
「そんなこと言うなよ!嫌だったって言えよ!」
汚い言葉で彼女を突き放す。
抑えきれない負の感情が溢れ出して、その醜さが態度に現れた。
なのに彼女はそれすら見透かしているかのように、平然と言葉を投げかけてくる。
「君と過ごせて楽しかった」
唇を噛みしめて必死に堪えようとしているのに、涙が止まらない。
泣き続ける僕に彼女はまた近寄って来て、静かに両腕を広げてそっと抱きしめてくれた。
そう。彼女の存在が、僕を変えてくれた。
彼女の存在が、僕を“外”へと向かわせてくれた。
陽介も蓮も椿も君も、
僕の弱さが生み出した、脆い心を蔽う為の殻だったんだ。
「…もう、逃げないから」
泣きながら決心した僕に、彼女は優しく答えてくれた。
「うん、見ててあげる」