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第四話【それが例え偽物だったとしても】

「彼女ができたよ」


何気なく呟いた一言に、三人の“彼ら”が即座に反応する。


「おいおいマジか! テンション爆上がりだな!」


「浮かれるな。むしろここからが本番だ」


「…………良かったね」


それぞれの言葉で、三人は僕を祝福してくれた。でも、その祝福の奥には、どこか張りつめたような静けさがあった。


やがて、蓮がぽつりと呟く。


「なぁ……俺たちの存在は、彼女には隠したままにするのか? バレたら、どうする?」


答えられなかった。


彼女はとても優しい。僕の小さなつぶやきも、表情の変化も、すぐに気づいてくれる。けれど、「僕の中には、三人のイマジナリーフレンドがいるんだ」と伝える勇気が、どうしても出なかった。


怖かった。拒絶されるのが――。


だから僕は、彼らの存在を、ずっと胸の奥にしまい続けた。


_______________________


放課後の図書室――。



「ーーでそれに主人公が戸惑いながらも奔走する話なんだ」


僕は読んでみて気に入った小説を彼女に勧めていた。


「私この主人公結構好きかも」


彼女は僕の話を聞いて楽しそうにケラケラと笑っている。


こうした何気ないやり取りでゆっくりと過ぎていく、

彼女との日々は僕の中で特別なものになっていた。


くだらない話で盛り上がった後、ふと時計を見ると

とっくに下校時刻を過ぎていた。


「そろそろ帰らないと」

「そうだね。帰ろっか!」


並んで歩く帰り道、胸の内にひとつの思いが芽生えていた。

――もう、いいんじゃないか。隠さなくても。


彼女なら、きっと受け入れてくれる。そんな希望が、僕の背中をそっと押していた。


ごくりと喉を鳴らす。震える唇。固く握った拳に、精一杯の勇気を込めて。


「僕ずっと隠してた事があるんだ…」


歩きを止めて彼女の方に体を向けた。

今から全部打ち明ける…そう考えただけで心臓がバクバクと音を上げた。


彼女は最初こそ驚いた様な表情でいたが、少しして何かに気が付いたようにクスッと笑った。


「うん、何?」


問いかけてくる彼女の笑顔で少し気分が和らぎ、思ったよりすんなり言葉が出てきた。


「……僕の頭の中には、イマジナリーフレンドがいる。しかも、三人も」


言った瞬間、風がふっと吹き抜けて、彼女の髪がなびいた。

そしてふっと全身から力が抜けて、

目の前が霞んで、彼女の表情を見るのが怖くなった。


だけど、思い切って顔を上げると、彼女は――笑っていた。


「そんなこと、最初から知ってたよ」


「……え?」


「だって私も、“それ”なんだから」


彼女の声が風に乗って、耳に優しく届いた。


そのとき、僕はようやく気づいたんだ。

彼女も、僕の心が生み出した存在だったと――

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