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三『商業の街ラニット二』

照り付ける日差しの中、このラニットは人であふれていた。それは月に一度の仕入れの行商人たちが魔物に襲われることなくその旅路を終えたことにある。

どの店に目新しい商品が並べられ、一般の客や商売人たちが売った買ったの話し合いがそこかしこで行われている。

フードの男はその中を器用にすり抜けて行き、聞き耳を立てながら街中を進んでいく。

「その現れた男ってのが―」

「レガリアって言ったらあの―」

「―ホブゴブリンを一太刀だとか」

話題はある一つの事柄に溢れていた。謎のぼろ布男が剣聖を名乗り、魔物を一掃したという。

男はある商人の前に立った。

「いらっしゃい」

声を掛けたのは小さく、しかし活気に満ちた女店主のいる商店だった。

「何が欲しいんだい?」

「この革袋に入るだけの水と果物をいくつか、それと干物を少々、八百五十グレで見繕って欲しい。数はあるだけありがたい」

はいよ、と店主は金を受け取ると、手際よく大きなものから小さなものまで果物を少々と乾燥肉や魚の切り身を袋に詰めた。

水をトクトクと革袋に入れ、それを男に手渡す。

「あんた―」フードに隠れた男を覗く。自然と男は視線を逸らした。「ふむ・・・どっかで見たことあんだよなぁ」

「・・・」

「そうだ!じいさんの家の絵画で―」

言葉の途中で男は人波に姿を消しながら手を振った。

「ありがとう」

「・・・あいよー」

男はスタスタと歩くと、何者かの視線を感じた。人波を掻い潜り、裏通りへと姿を消す。

追手は急ぎ裏通りに着くと、そこには倒れた浮浪者や老人しかいなかった。

あたりを伺い、その先に二股の道を見つける。しゃがみ込み、土に触れる。まだ新しい靴の後が左の道に抜けている。

靴の後を追って急ぎ足を進めるが、足跡はすぐに途絶えていた。

まずい、撒かれた。

追手はすぐ様ひるがえり、右の分かれ道へと走る。

その姿を見届けると、足音も無く男は上から降りた。

追手を撒き、再び歩き出そうとしたその瞬間、男の肩に手が伸びる。しかし触れる間も無く男は鎌を取り出し追手の首元へと向けた。しかし追手はひらりと体を後に下げて避けた。

「おーっとっと、待ってくれ。敵じゃないさ」

男は「だろうな」と鎌を腰に収める。避けることが出来るなら、それは攻撃に転じることが出来たことを示す。

「俺は情報屋のサジ。よろしくな」

拒む手を無理矢理掴み、握手をした。そして、あんたは?とでも言わんばかりに目を向ける。

「・・・レドリック」

「そうかい、レド」ムっと睨むレドの目に構わず笑いながら続ける。「あんた腕が立つだろう?だから仕事を頼みたい」

「情報屋がか?」

「俺は橋渡し。あんたのように素性を明かしたくない依頼人や請負人はごまんといる。だから俺のような橋渡しが依頼を預かり、あんたらに渡す」

個人で行うギルドのようなものか。

レドはサジを見た。小麦色の肌に細いが小回りの利きそうな実践的な筋肉。

値踏みを見透かすようにサジはにやりと笑い、服を捲って中にひそめた銃を見せる。小型の散弾銃だ。

「俺は逃げ専門。だからこそ信頼も厚い」

「・・・ターゲットは」

「あんた人行けるか?それとも魔物専?」

「必要性による。基本的には魔物だ」

「なら―」サジは手配書をいくつか取り出した。そしてレドはそのすべてを取る。

「やるね。得物は?」

「見せたろう?」

「あれは脅しの道具だろ?」

「俺は脅しなどしない。抜けば殺す」

「それって・・・」

「人間には猶予を与えるだけだ」

レドは翻ってその場を去った。

この世界には魔王の軍勢に魔物は属している。しかし、何らかの理由によって軍を追われた者どもがいる。それらは『はぐれ』と呼ばれ、特に知能の劣る獣種に多い。

そういった魔物は倒しても反乱と扱われることは少なく、しかし街に被害を与える例が多い。

基本的にそれを咎められることは無いが、場所によっては魔王軍にその件を政治利用され、手ひどい罰を与えられることもある。

人々は様々な状況を鑑み、必要とされる場合のみ依頼書を出し、表では処理出来ない為に裏の人間にその依頼を受けさせる。

どこの国や街でもそういった話はある。レドが金銭に困らないのもそういった仕事をこれまでこなしてきたからだ。

今回は『ダークドッグ』、『ゴブリン三体』、

『サンドスネーク』、そして―。

「首無しハイオークゾンビ、か」

珍しい個体だ。ハイオークというオークの上位種が何らかの要因で殺され、それがゾンビ化したもの。上位種はゾンビ化しても知能を多少残しているものだが、首無し故に完全に知能を失っている。

「・・・」

発声器官もない為、物言わぬそれはただこん棒を振り回し暴れている。ただしその一撃はハイオーク故に必死だ。

レドは鎌を手に取り、ゆっくりそれに近づく。なんでもないことのように一撃一撃を軽く避ける。

「・・・!」

オークが気配に気づき、渾身の一撃を放った時、レドはそれを躱しながら、回転を利用するように鎌の刃を差し込む。

恐ろしく厚い皮がめくれ上がり、そして自身の回転によって肉体は小さな傷が広がりながらちぎれていった。

ドスン、と音を立てながら二つに分かれた体が崩れ落ちる。

「さて」

レドは近くの岩に腰を下ろし、マッチに火を点ける。そしてマッチをオークの下半身に投げた。

手際よく手配書を取り出し、この場所の座標を書き記す。小型の魔物は有用な素材を持ち運べばそれが証明になる。しかしこのような巨体はそうもいかない。故にこういった場合は座標を示しすのが常套だ。

魔物は魔物を食わず、動物もまた魔物を食わない。

ゾンビ種は自己縫合の能力を持つ。故に移動手段を奪う為に足を燃やすのだ。

あれから二日後、サジは酒場のカウンターで酒を嗜んでいた。すると、横にレドが座る。

「よぉ、早いな。俺の期待の星!どれを完了した?」

ドサリ、カウンターの下に麻袋を落とす。

「全部だ」

手配書をすべて渡した。

「・・・マジ?」

サジは座り込んで袋を見た。確かに小型の素材が入っている。そして手配書には大型の座標まで。

この世界においてこれほどの実力を持つ戦士は必ずどこかしらのお抱えになるのが定石。サジは思いもよらないダイヤの原石に内心喜びに震えていた。

「こ、これが報酬だ」

サジはレドに金額の書かれた小切手を渡した。現代では貨幣のような発行が難しいものは作られておらず、旧時代の硬貨は物質としての価値しか持たず、紙幣は文字通りただの紙でしかない。サジの差し出した小切手はその国の支配者が持つ印鑑の押されたもので、これは魔力が付与されている為、偽装の困難な唯一無二の貨幣となっている。小切手は金銭の交換は意味が無く、行えないが物との交換に有効なもので、それ以外の小規模なやり取りは物々交換が基本だ。

「・・・」

レドは金額を見た。まぁこんなものだろうと紙切れを仕舞い、席を立つ。

こいつはここで手放すのは惜しい。

「お、おいあんた」

声を掛けた時にはレドはすでに店の出口に手を掛けており、そのまま店を出た。

「ま、待ってくれ」

「・・・」

店を出て、レドの服を掴みサジは請うた。

「俺を専属の情報屋にしてくれ。あんたしばらくこの街にいるのか?」

「いや、明日には発つ」

「俺の情報がきっと役に立つ!それは場所を変えてもだ!」

レドは少し頭を掻いた。

「・・・」

「・・・頼む!こんな世界だ!明日をも知れぬこんな世だからこそ、俺にはあんたのような存在が必要だ!」

それでも何も言わぬ彼にサジは目を潤ませた。

「お前」

「・・・っ!」

「強者を探してる。詳しいか?」

「ああ、ああ!もちろんだとも!」

その夜から、二人は連れ合いとなった。


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